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第32話 感謝の食事会
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僕たちが案内されたのは、城の外見と同じく巨大なテーブルが置かれた広間だった。何十人も座れるテーブルを囲うのは二人と1匹。
これ程まで余白が多い円卓を僕は見たことがないみたいだ。空白の方が多い座席は、まるで、風で千切れた雲みたいにスカスカだった。
テーブルの先端。
一際、豪華な椅子に腰を下ろすのは、エミリさん。細く美しい指先で、グラスの持ち手を掴んでいた。
「えー、先日は、迷子になり、魔物に襲われていた私を助けて頂きありがとうございます。また、お礼をこちらからすべき所を、訪ねて頂きありがとうございます。お礼としては、お粗末かも知れませんが、食事を用意したので、大いに食べて盛り上がってください!」
エミリさんは慣れた口調で、淀むことなくスラスラと謝辞を口にする。名高い貴族の一員として、このような場はなんども経験しているのだろう。
聞いてるだけなのに、僕たちの方が緊張してしまう。メイドさん達が背後に付きっ切りだ。仮にナイフやフォークを落としてしまったら、すぐに飛び掛かりそうな雰囲気だ。
こんな状況では食欲もどこかへ消えていく。
だが、そう感じているのは僕だけみたいだ。
ロウは挨拶が終わると同時に、自分の身体よりも大きな肉塊に齧り付いていた。
「うめぇ!! こんな肉、食ったことねぇよ!!」
バクバク。
簡単な討伐クエスト一回分よりは高い肉が、凄い速さで骨になる。もう少し、味わって食べなよ。
こういう時、アディさんが居れば心強いんだけど……。周囲を見渡しても、彼女はテーブルには座っていなかった。
僕は背後に立つメイドさんに質問した。大勢のメイドさんがいる前だからか、さっきみたいに台になったり、だらし兄表情は浮かべていなかった。
「彼女なら、槌臼《つちうす》を倒しに行かれました。私は一人で倒せるのですが、あなたは無理でしょうと教えて上げたら、すぐに飛び出していきましたよ。食事だというのに……本当、不思議な人ですね」
表情を作り上げる筋肉と脳を繋ぐ神経が切れたみたいに無表情だった。
「……メイドさん」
何故、余計なことを口にしたのか。さっきまであんなに言い合っていたのだから、挑発したら乗るに決まっている。
ましてや、槌臼《つちうす》を倒すという内容。本業が冒険者であるアディさんは負けられないとより強く思ったことだろう。
「ちょっと様子を見に行こうかな……」
しかし、これはこの場を抜け出せるチャンスかもしれない。
この堅苦しい空気は僕は苦手だ。まさか、こんな本格的な食事会になるとは、予想もできなかった。僕はその程度の身分の人間だ。
席を立とうとした僕の椅子を、メイドさんが押さえつけた。
「え、えっと……」
「エミリさんを助けていただいたお礼なのです。肝心のあなたに食べて貰わなければ意味がありません」
「で、でも」
「さあさあ、なによりもまず食べましょう。私は人に食事を与えるのも得意なんですよ」
サ、サササ。
パサ。
メイドさんはナイフを掴むと、高速で肉を切り分ける。
この動き――普通の人間が出来るモノじゃない。恐らく魔法を発動したのだろう。なるほど……。槌臼《つちうす》を倒せるというのは、嘘じゃないらしい。
「はい、あーん」
フォークに突き刺した肉を頬にグリグリと押し当てる。最初から食べさせる気がない「あーん」だった。
「自分で食べれますよ」
仕方ない。
一口だけ食べるか。
パクリ。
う、これは!
香ばしい肉の香りと、幾重にもブレンドされたスパイスの複雑に絡みながら、「美味さ」という一つのゴールに駆け抜ける。
単純でいながら奥深い。
料理ってこんな美味しいモノなの!?
も、もう一口食べたい……。
しかし、こうしてる間にもアディさんは槌臼《つちうす》と戦っているんだ。僕が助けに行かないと。
迷う僕を見透かしたように、骨の山を築き上げるロウが「ゲプゥ」、胃の空気を吐き出し話始める。
「行かなくてもいいだろ。アディは、「お前を守る」ってほざいてやがったんだ。槌臼《つちうす》の一匹や二匹倒せないで、どうやって守るんだって話だ。違うか?」
「本人はそう言ってたけどさ……」
守るために行動を共にすると言ってくれた。そんな相手だからこそ、僕だって同じように心配なんじゃないか。
ロウは当てにならなそうだから、一人で助けに行こう。ロウのお陰で肉の誘惑を立ち切れた。
「あ、あの。アディさんが魔物と戦ってるみたいなので、僕も戦いに行きたいんですが」
「あ、ちょっと、余計なことを言わないでください」
メイドさんは僕を席から動かさないように椅子を押さえるが、口までは押さえ杖蹴られない。テーブルに座ったまま、僕はエミリさんに意志を伝える。
「あら、そうなんですね。でしたら……ノゾミ。あなたが行ってあげてはどうでしょうか?」
「わ、私がですか!?」
エミリさんの指摘に、メイドさんは明らかに動揺する。自分がアディさんを挑発して、魔物を倒すように仕向けたんだから、自業自得ではあるんだけど。
「……その焦りよう、ひょっとして、あなたが行くように仕向けたんでしょう?」
「そ、それは――。お、お許しください。ちょっと、挑発してみただけなんですぅ」
メイドさんは、僕の背から離れて主の元へ擦り寄る。
そっか。メイドさんはノゾミさんって言うのか……。
「全く、そうやって余計なことばかりするから、私を見逃すんですよ! もっとちゃんと見張ってくださらないと」
「うう……。ごめんなさい!」
なるほど。
エミリさんが逸れたのは、方向音痴だけが原因じゃないようだ。やっぱり、皆、色々あるんだな。
「謝るのはアディさんを連れ戻した後です。頼みましたよ」
「は、はい!!」
余計なことをするメイドさんと、目を離した隙にいなくなる主の絆は固いようだ。
エミリさんの言葉に、ノゾミさんは二つ返事で部屋から出ていった。
「ごめんなさいね。あの子、悪い子じゃないんだけど」
「いえ、僕は別に気にはしてませんが」
「なら、良かったです」
エミリさんは上品な笑みを浮かべて、フォークで林檎を刺す。皮が兎の耳のようにカットされていた。
シャリ。
皮だけ齧るエミリさん。林檎の赤がエミリさんに移ったように表情が明るくなる。
「それにしても、ノゾミさんは一体、何者なんですか? 彼女、動きが明らかに戦闘を経験している人ですよね?」
「はい。本人が語りがらないので詳しくは聞いていませんが、彼女はかつて、隣国の【選抜騎士】に指名されるほどの実力を持っていたらしいですよ」
「え……?」
【選抜騎士】に!?
僕と年齢も変わらなそうなのに……。
そんな凄い人がなんで、メイドなどやってるのだろうか?
「そう言えば、彼女は隣国のやり方が気に入らないとも言っていました。今回の大会でも、隣国は勝つためにスパイを送り込んだ。と、ノゾミは言ってましたっけ」
「ス、スパイ!?」
バニス達は大丈夫だろうか?
彼らはスパイなんて存在に気付けなさそうだもんな。唯一気付けるのはオストラくらいか。知性と強靭な肉体を持つ彼がいれば――なんとかなるよね。
それに今頃、僕とアディさんの代わりを見つけてよろしくやってるさ。
だが、エミリさんの言葉によって、僕の想像は、ガラスで作られた城のように簡単に崩れる。
「はい。噂ではその人によって、【選抜騎士】のパーティーが崩壊したと言われています」
「【選抜騎士】のパーティーが崩壊?」
「はい。まだ、ちゃんと確認は取ってないので信憑性はないんですけど」
「……」
バニス達に何かあったのだろうか?
酷いことはされたけど、【パーティー崩壊】なんて衝撃的な単語を聞けば、やっぱり心配になってしまう。
「ユライさん……どうかしましたか?」
僕がかつて、【選抜騎士】のパーティーに居たことを知らないエミリさんは、小さな顔を小さく傾けた。
「……」
無言になる僕の代わりにロウが伝えてくれた。
「実はこいつ、【選抜騎士】のパーティーに居たんだよ」
「ええ!? どうりで凄いと思いました! でも、だったら、こんなところで食事をしている場合ではないのではないですか?」
大会が開催されるのは例年通りなら3か月後。
この時期から、選ばれた冒険者たちは、大会で成果を残すためコンディションの調整や、集中訓練を行ったりする。
バニス達も今頃、かつての大会に参加した先輩達と訓練してることだろう。
だけど、僕には関係ない。
だって、
「追放されましたから」
「そうだったのですね……。大変失礼な発現をしてしまいました」
「ま、ユライ本人が気にしてないから、気にすんな。たが、これでアディが隠してることが分かったな。あいつは、【パーティー崩壊】について、何か知ってるわけだ。ひょっとしたら、あいつ自身がスパイって可能性もあるな」
確かにアディさんは、どうしてパーティーを抜けたのかを話さない。
「でも、僕は彼女がスパイだなんて思えないよ」
一緒に行動をして分かる。
彼女は本気で僕を守ろうとしてくれているんだ。スパイだったら、そんなことをする意味がないではないか。
僕はこの時、ロウに従っていれば良かったんだ。
崩壊が、僕達のパーティーだけじゃなかったなんて――。この時動き出せば、救える命は遭ったのかもしれない。
これ程まで余白が多い円卓を僕は見たことがないみたいだ。空白の方が多い座席は、まるで、風で千切れた雲みたいにスカスカだった。
テーブルの先端。
一際、豪華な椅子に腰を下ろすのは、エミリさん。細く美しい指先で、グラスの持ち手を掴んでいた。
「えー、先日は、迷子になり、魔物に襲われていた私を助けて頂きありがとうございます。また、お礼をこちらからすべき所を、訪ねて頂きありがとうございます。お礼としては、お粗末かも知れませんが、食事を用意したので、大いに食べて盛り上がってください!」
エミリさんは慣れた口調で、淀むことなくスラスラと謝辞を口にする。名高い貴族の一員として、このような場はなんども経験しているのだろう。
聞いてるだけなのに、僕たちの方が緊張してしまう。メイドさん達が背後に付きっ切りだ。仮にナイフやフォークを落としてしまったら、すぐに飛び掛かりそうな雰囲気だ。
こんな状況では食欲もどこかへ消えていく。
だが、そう感じているのは僕だけみたいだ。
ロウは挨拶が終わると同時に、自分の身体よりも大きな肉塊に齧り付いていた。
「うめぇ!! こんな肉、食ったことねぇよ!!」
バクバク。
簡単な討伐クエスト一回分よりは高い肉が、凄い速さで骨になる。もう少し、味わって食べなよ。
こういう時、アディさんが居れば心強いんだけど……。周囲を見渡しても、彼女はテーブルには座っていなかった。
僕は背後に立つメイドさんに質問した。大勢のメイドさんがいる前だからか、さっきみたいに台になったり、だらし兄表情は浮かべていなかった。
「彼女なら、槌臼《つちうす》を倒しに行かれました。私は一人で倒せるのですが、あなたは無理でしょうと教えて上げたら、すぐに飛び出していきましたよ。食事だというのに……本当、不思議な人ですね」
表情を作り上げる筋肉と脳を繋ぐ神経が切れたみたいに無表情だった。
「……メイドさん」
何故、余計なことを口にしたのか。さっきまであんなに言い合っていたのだから、挑発したら乗るに決まっている。
ましてや、槌臼《つちうす》を倒すという内容。本業が冒険者であるアディさんは負けられないとより強く思ったことだろう。
「ちょっと様子を見に行こうかな……」
しかし、これはこの場を抜け出せるチャンスかもしれない。
この堅苦しい空気は僕は苦手だ。まさか、こんな本格的な食事会になるとは、予想もできなかった。僕はその程度の身分の人間だ。
席を立とうとした僕の椅子を、メイドさんが押さえつけた。
「え、えっと……」
「エミリさんを助けていただいたお礼なのです。肝心のあなたに食べて貰わなければ意味がありません」
「で、でも」
「さあさあ、なによりもまず食べましょう。私は人に食事を与えるのも得意なんですよ」
サ、サササ。
パサ。
メイドさんはナイフを掴むと、高速で肉を切り分ける。
この動き――普通の人間が出来るモノじゃない。恐らく魔法を発動したのだろう。なるほど……。槌臼《つちうす》を倒せるというのは、嘘じゃないらしい。
「はい、あーん」
フォークに突き刺した肉を頬にグリグリと押し当てる。最初から食べさせる気がない「あーん」だった。
「自分で食べれますよ」
仕方ない。
一口だけ食べるか。
パクリ。
う、これは!
香ばしい肉の香りと、幾重にもブレンドされたスパイスの複雑に絡みながら、「美味さ」という一つのゴールに駆け抜ける。
単純でいながら奥深い。
料理ってこんな美味しいモノなの!?
も、もう一口食べたい……。
しかし、こうしてる間にもアディさんは槌臼《つちうす》と戦っているんだ。僕が助けに行かないと。
迷う僕を見透かしたように、骨の山を築き上げるロウが「ゲプゥ」、胃の空気を吐き出し話始める。
「行かなくてもいいだろ。アディは、「お前を守る」ってほざいてやがったんだ。槌臼《つちうす》の一匹や二匹倒せないで、どうやって守るんだって話だ。違うか?」
「本人はそう言ってたけどさ……」
守るために行動を共にすると言ってくれた。そんな相手だからこそ、僕だって同じように心配なんじゃないか。
ロウは当てにならなそうだから、一人で助けに行こう。ロウのお陰で肉の誘惑を立ち切れた。
「あ、あの。アディさんが魔物と戦ってるみたいなので、僕も戦いに行きたいんですが」
「あ、ちょっと、余計なことを言わないでください」
メイドさんは僕を席から動かさないように椅子を押さえるが、口までは押さえ杖蹴られない。テーブルに座ったまま、僕はエミリさんに意志を伝える。
「あら、そうなんですね。でしたら……ノゾミ。あなたが行ってあげてはどうでしょうか?」
「わ、私がですか!?」
エミリさんの指摘に、メイドさんは明らかに動揺する。自分がアディさんを挑発して、魔物を倒すように仕向けたんだから、自業自得ではあるんだけど。
「……その焦りよう、ひょっとして、あなたが行くように仕向けたんでしょう?」
「そ、それは――。お、お許しください。ちょっと、挑発してみただけなんですぅ」
メイドさんは、僕の背から離れて主の元へ擦り寄る。
そっか。メイドさんはノゾミさんって言うのか……。
「全く、そうやって余計なことばかりするから、私を見逃すんですよ! もっとちゃんと見張ってくださらないと」
「うう……。ごめんなさい!」
なるほど。
エミリさんが逸れたのは、方向音痴だけが原因じゃないようだ。やっぱり、皆、色々あるんだな。
「謝るのはアディさんを連れ戻した後です。頼みましたよ」
「は、はい!!」
余計なことをするメイドさんと、目を離した隙にいなくなる主の絆は固いようだ。
エミリさんの言葉に、ノゾミさんは二つ返事で部屋から出ていった。
「ごめんなさいね。あの子、悪い子じゃないんだけど」
「いえ、僕は別に気にはしてませんが」
「なら、良かったです」
エミリさんは上品な笑みを浮かべて、フォークで林檎を刺す。皮が兎の耳のようにカットされていた。
シャリ。
皮だけ齧るエミリさん。林檎の赤がエミリさんに移ったように表情が明るくなる。
「それにしても、ノゾミさんは一体、何者なんですか? 彼女、動きが明らかに戦闘を経験している人ですよね?」
「はい。本人が語りがらないので詳しくは聞いていませんが、彼女はかつて、隣国の【選抜騎士】に指名されるほどの実力を持っていたらしいですよ」
「え……?」
【選抜騎士】に!?
僕と年齢も変わらなそうなのに……。
そんな凄い人がなんで、メイドなどやってるのだろうか?
「そう言えば、彼女は隣国のやり方が気に入らないとも言っていました。今回の大会でも、隣国は勝つためにスパイを送り込んだ。と、ノゾミは言ってましたっけ」
「ス、スパイ!?」
バニス達は大丈夫だろうか?
彼らはスパイなんて存在に気付けなさそうだもんな。唯一気付けるのはオストラくらいか。知性と強靭な肉体を持つ彼がいれば――なんとかなるよね。
それに今頃、僕とアディさんの代わりを見つけてよろしくやってるさ。
だが、エミリさんの言葉によって、僕の想像は、ガラスで作られた城のように簡単に崩れる。
「はい。噂ではその人によって、【選抜騎士】のパーティーが崩壊したと言われています」
「【選抜騎士】のパーティーが崩壊?」
「はい。まだ、ちゃんと確認は取ってないので信憑性はないんですけど」
「……」
バニス達に何かあったのだろうか?
酷いことはされたけど、【パーティー崩壊】なんて衝撃的な単語を聞けば、やっぱり心配になってしまう。
「ユライさん……どうかしましたか?」
僕がかつて、【選抜騎士】のパーティーに居たことを知らないエミリさんは、小さな顔を小さく傾けた。
「……」
無言になる僕の代わりにロウが伝えてくれた。
「実はこいつ、【選抜騎士】のパーティーに居たんだよ」
「ええ!? どうりで凄いと思いました! でも、だったら、こんなところで食事をしている場合ではないのではないですか?」
大会が開催されるのは例年通りなら3か月後。
この時期から、選ばれた冒険者たちは、大会で成果を残すためコンディションの調整や、集中訓練を行ったりする。
バニス達も今頃、かつての大会に参加した先輩達と訓練してることだろう。
だけど、僕には関係ない。
だって、
「追放されましたから」
「そうだったのですね……。大変失礼な発現をしてしまいました」
「ま、ユライ本人が気にしてないから、気にすんな。たが、これでアディが隠してることが分かったな。あいつは、【パーティー崩壊】について、何か知ってるわけだ。ひょっとしたら、あいつ自身がスパイって可能性もあるな」
確かにアディさんは、どうしてパーティーを抜けたのかを話さない。
「でも、僕は彼女がスパイだなんて思えないよ」
一緒に行動をして分かる。
彼女は本気で僕を守ろうとしてくれているんだ。スパイだったら、そんなことをする意味がないではないか。
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