44 / 58
第44話 騙された二人
しおりを挟む
アディさんの妹は、クルルちゃんと言うらしい。姉妹というだけあり、二人はよく似ていた。12才のアディさんって雰囲気だ。
大きな目に宝石のような瞳が浮かぶ。
鼻筋の通ったはっきりとした顔立ち。しかし、 アディさんを鋭い刃のような美しさとするならば、クルルちゃんはガラス細工のような美しさだった。
儚げで触れただけで割れてしまいそうな脆さを含んでいる。彼女は顔の半分だけを覗かせ、僕たちを見つめていた。
「えっと、そちらの方は?」
「ああ、彼らは今、私が現在行動を共にしているユライくんだ」
「初めまして。お姉ちゃんから手紙で聞きました。【選抜騎士】のパーティーを追放された方なんですよね」
「こら、そう言うことは言わなくていいんだ」
「はわわ、今のは聞かなかったことにしてください!」
今まで、アディさんは僕の前では常に張った弓みたいに気負っていた。けど、クルルちゃんの前では弦は緩んだみたいだ。
どこにでもいるような、普通の姉妹だ。
「初めまして、僕はユライです」
「私はクルルって申します!」
小さく会釈するクルルさん。
礼儀正しい子だ。
だが、僕の足元には礼儀正しくない魔物が立っていた。
「ほら、ロウも挨拶しなよ」
足元にいるロウを軽く突っつくが、反応はなかった。
試しに腰を掴んで持ち上げてみる。
ブラーン。
だらしなく垂れた手足に、「か、可愛い」とクルルちゃんは目を輝かせた。
「だっこ! だっこしてもいいですか!?」
身体の痛みを忘れたみたいに手を伸ばす。可愛いとはしゃぐクルルちゃんが可愛かった。
「ロウは気性が荒いからな。優しく抱いてやってくれ」
「う、うん。分かったから、は、早くだっこさせて!!」
待ちきれないと身体を動かすクルルちゃんの腕にロウを収める。
「ふわふわー。きもちいいー。いいにおいー!」
すりすりと頬ずりをされたことで、ようやくロウは自分がどうなっているか気付いたようだ。
「はっ!? 考えごとしちまった……って、誰だ!?」
「クルルです。凄い! 本当にフェンリルさんが喋ってる! 可愛いなぁ~!」
フェンリル。
可愛い。
褒められたロウは瞬く間にご機嫌になり、ゴロロと自分から頬ずりをして見せた。ロウ、そんなこともできたんだね。今までやらせて上げれなくて御免。
でも、やっぱり元気はないよな……。
「フェンリルさんを抱いたら凄い元気になった! 今なら私、何でもできる気がする!」
勢いよくベッドから飛び降りると、元気であることをアピールするように、ロウを頭の上に掲げてグルグルと回る。
「こら、無理するな。シーマさんにも挨拶をしたいんだが、彼女はどこにいるか知ってるか?」
「うん。調理場にいるよ!」
「……シーマさん?」
「ああ。私が留守の間、妹の面倒を見てくれている人だ。全ての家事スキルが高くてな。いつもお世話になりっぱなしだ。ちょっと、話をしてくるから――ロウと遊んでてくれるか? ユライくんは私と一緒に挨拶に来てくれ」
「分かりました。ロウ、あんまりクルルちゃんを無理させちゃ駄目だよ!」
「任せとけ。無理は――させないさ」
クルルちゃんと居ることで、ロウも元気を取り戻したから、互いの為にも二人でいるのは良いことだろう。
部屋を出た僕は前を歩くアディさんに声を掛けた。
「良かったです。妹さんは元気そうで」
「いや、そう振舞ってるだけだ。実際は喋ることも辛いくらい苦しいはずだ」
「でも、ロウを抱いてからは凄い元気になって」
「あれはいつものことだ。私に余計な心配をさせまいと、事あるごとに大袈裟に動いてみせるんだ」
「そう……だったんですか」
「ああ。私みたいな卑劣な人間には勿体ない可愛い妹だ」
事情を知る僕からすれば、二人とも互いのことが大好きな風に感じるのだけど、当事者である姉妹は違うようだ。
調理場に向かうと、一人の女性が作業していた。
「シーマさん!」
白衣を着た凛々しい顔の女性。年齢は40代くらい。野菜を切り分ける手は、冒険者の剣裁きにも負けないくらいに早かった。
器用に手を動かしたまま振り向く。
「アディ様……! 遠い所から来て頂きありがとうございます」
「いつもお世話になってるんだ。構わないさ。それで――クルルについての話とはなんだ?」
アディさんに手紙を送ったのはシーマさんだったようだ。
いつもお世話になっている人から、妹について話したいことがあると言われれば、急いで帰りたくなるのも分かる。
アディさんの言葉に作業していた手を止め告げた。
「それが……。お嬢様が手配したお医者様が帰ってこないんです」
「どういうことだ?」
「もしかしたら、お金だけ持って逃げてしまったのかも知れません。ああ、なんで私は彼に先払いをしてしまったのでしょう!!」
バタバタと自分の犯したミスに耐えきれなくなったのか、調理場を歩き回る。動いていなければ責任に潰されてしまうと言わんばかり勢いだ。
「落ち着いてくれ。つまり、私が手配した医者は、お金だけ持って逃げたということだな?」
「は、はい……」
クルルさんについての大変なこと。
それは、治療費が詐欺師によって奪われたということらしい。
「申し訳ありません。私が付いていながら……」
全ては自分の責任だと必死に謝るシーマさんだが、アディさんはそんなことは全く考えていなかった。
「気にするな。腕の良いと評判の医者を探し声を掛けたのは私だ。シーマさんは対応しただけで、悪いことは何もない」
「しかし、あのお金はあなたがパーティーを乗り換えてまで手に入れた――」
「ああ。そんな汚い方法で稼いだ金だ。ならば、より汚い方に流れていくのが運命だ。むしろこうなって良かったのかもしれない。そんなお金で救われても、クルルはきっと喜ばなかったからな」
妹を助けるために、選択した行動をアディさんは悔いているのだろう。アディさんは自分の非を見つめて前を見ている。
僕もそんな風に強い人間になりたいな。
「だから、今度は真っ当に稼ぐさ。妹のためにもな」
早く妹の身体を治したい思いと自分の中の正義を天秤にかける。二つの思いはきっと釣り合ってるんだ。
「ここでの話はこれでお終いだ。今日は客人がいるんだ。シーマさんの手料理は格段に美味い。だから気合を入れて振舞ってくれないか?」
大きな目に宝石のような瞳が浮かぶ。
鼻筋の通ったはっきりとした顔立ち。しかし、 アディさんを鋭い刃のような美しさとするならば、クルルちゃんはガラス細工のような美しさだった。
儚げで触れただけで割れてしまいそうな脆さを含んでいる。彼女は顔の半分だけを覗かせ、僕たちを見つめていた。
「えっと、そちらの方は?」
「ああ、彼らは今、私が現在行動を共にしているユライくんだ」
「初めまして。お姉ちゃんから手紙で聞きました。【選抜騎士】のパーティーを追放された方なんですよね」
「こら、そう言うことは言わなくていいんだ」
「はわわ、今のは聞かなかったことにしてください!」
今まで、アディさんは僕の前では常に張った弓みたいに気負っていた。けど、クルルちゃんの前では弦は緩んだみたいだ。
どこにでもいるような、普通の姉妹だ。
「初めまして、僕はユライです」
「私はクルルって申します!」
小さく会釈するクルルさん。
礼儀正しい子だ。
だが、僕の足元には礼儀正しくない魔物が立っていた。
「ほら、ロウも挨拶しなよ」
足元にいるロウを軽く突っつくが、反応はなかった。
試しに腰を掴んで持ち上げてみる。
ブラーン。
だらしなく垂れた手足に、「か、可愛い」とクルルちゃんは目を輝かせた。
「だっこ! だっこしてもいいですか!?」
身体の痛みを忘れたみたいに手を伸ばす。可愛いとはしゃぐクルルちゃんが可愛かった。
「ロウは気性が荒いからな。優しく抱いてやってくれ」
「う、うん。分かったから、は、早くだっこさせて!!」
待ちきれないと身体を動かすクルルちゃんの腕にロウを収める。
「ふわふわー。きもちいいー。いいにおいー!」
すりすりと頬ずりをされたことで、ようやくロウは自分がどうなっているか気付いたようだ。
「はっ!? 考えごとしちまった……って、誰だ!?」
「クルルです。凄い! 本当にフェンリルさんが喋ってる! 可愛いなぁ~!」
フェンリル。
可愛い。
褒められたロウは瞬く間にご機嫌になり、ゴロロと自分から頬ずりをして見せた。ロウ、そんなこともできたんだね。今までやらせて上げれなくて御免。
でも、やっぱり元気はないよな……。
「フェンリルさんを抱いたら凄い元気になった! 今なら私、何でもできる気がする!」
勢いよくベッドから飛び降りると、元気であることをアピールするように、ロウを頭の上に掲げてグルグルと回る。
「こら、無理するな。シーマさんにも挨拶をしたいんだが、彼女はどこにいるか知ってるか?」
「うん。調理場にいるよ!」
「……シーマさん?」
「ああ。私が留守の間、妹の面倒を見てくれている人だ。全ての家事スキルが高くてな。いつもお世話になりっぱなしだ。ちょっと、話をしてくるから――ロウと遊んでてくれるか? ユライくんは私と一緒に挨拶に来てくれ」
「分かりました。ロウ、あんまりクルルちゃんを無理させちゃ駄目だよ!」
「任せとけ。無理は――させないさ」
クルルちゃんと居ることで、ロウも元気を取り戻したから、互いの為にも二人でいるのは良いことだろう。
部屋を出た僕は前を歩くアディさんに声を掛けた。
「良かったです。妹さんは元気そうで」
「いや、そう振舞ってるだけだ。実際は喋ることも辛いくらい苦しいはずだ」
「でも、ロウを抱いてからは凄い元気になって」
「あれはいつものことだ。私に余計な心配をさせまいと、事あるごとに大袈裟に動いてみせるんだ」
「そう……だったんですか」
「ああ。私みたいな卑劣な人間には勿体ない可愛い妹だ」
事情を知る僕からすれば、二人とも互いのことが大好きな風に感じるのだけど、当事者である姉妹は違うようだ。
調理場に向かうと、一人の女性が作業していた。
「シーマさん!」
白衣を着た凛々しい顔の女性。年齢は40代くらい。野菜を切り分ける手は、冒険者の剣裁きにも負けないくらいに早かった。
器用に手を動かしたまま振り向く。
「アディ様……! 遠い所から来て頂きありがとうございます」
「いつもお世話になってるんだ。構わないさ。それで――クルルについての話とはなんだ?」
アディさんに手紙を送ったのはシーマさんだったようだ。
いつもお世話になっている人から、妹について話したいことがあると言われれば、急いで帰りたくなるのも分かる。
アディさんの言葉に作業していた手を止め告げた。
「それが……。お嬢様が手配したお医者様が帰ってこないんです」
「どういうことだ?」
「もしかしたら、お金だけ持って逃げてしまったのかも知れません。ああ、なんで私は彼に先払いをしてしまったのでしょう!!」
バタバタと自分の犯したミスに耐えきれなくなったのか、調理場を歩き回る。動いていなければ責任に潰されてしまうと言わんばかり勢いだ。
「落ち着いてくれ。つまり、私が手配した医者は、お金だけ持って逃げたということだな?」
「は、はい……」
クルルさんについての大変なこと。
それは、治療費が詐欺師によって奪われたということらしい。
「申し訳ありません。私が付いていながら……」
全ては自分の責任だと必死に謝るシーマさんだが、アディさんはそんなことは全く考えていなかった。
「気にするな。腕の良いと評判の医者を探し声を掛けたのは私だ。シーマさんは対応しただけで、悪いことは何もない」
「しかし、あのお金はあなたがパーティーを乗り換えてまで手に入れた――」
「ああ。そんな汚い方法で稼いだ金だ。ならば、より汚い方に流れていくのが運命だ。むしろこうなって良かったのかもしれない。そんなお金で救われても、クルルはきっと喜ばなかったからな」
妹を助けるために、選択した行動をアディさんは悔いているのだろう。アディさんは自分の非を見つめて前を見ている。
僕もそんな風に強い人間になりたいな。
「だから、今度は真っ当に稼ぐさ。妹のためにもな」
早く妹の身体を治したい思いと自分の中の正義を天秤にかける。二つの思いはきっと釣り合ってるんだ。
「ここでの話はこれでお終いだ。今日は客人がいるんだ。シーマさんの手料理は格段に美味い。だから気合を入れて振舞ってくれないか?」
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる