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第46話 巨大なイカは逆さ
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「さてと。それじゃあ、行きますか」
「ああ」
翌日。
僕たちは朝早くからアディさんの家を出た。戦う魔物が危険だと分かっている以上、アディさんを巻き込むのは気が引ける。
なにより、彼女には妹の傍に少しでもいて上げて欲しかった。
船を漕ぐ手に力を込める。
グッと水を掻く。櫂《オール》を通じて穏やかな波の振動が僕を揺らす。クルルさんを助けるために、上位種の魔物を倒そうとする僕たちを応援してるかのように、船は海面を滑っていく。。
「こっちだ! 意外にクラウケンシュタインは、近くにいるかも知れねぇな!」
ロウが船首に立ち、スンスンと空気の匂いを嗅ぐ。
ロウはフェンリルだ。本気を出せば、匂いの強い魔物であれば、上位種程の魔物ならば、どの当たりにいるのか嗅ぎ分けられるらしい。
クラウケンシュタインは海に住む魔物。
海に囲われた島々が無数に存在するたネメス諸島。人が足を踏み込んでいない島も多くあるため、魔物が隠れるには格好の場になっているようだ。
「へっ。まるで俺達にクルルを助けろって天が命じてるみたいだな! まあ、倒せるかどうかは別だけどよ」
「……こんな時に一言多いよ。前半だけで止めておいてくれたら良いのにさ」
ロウの鼻を頼りに辿り着いたのは、ネメス諸島に位置する島の一つだった。
「く、臭い……!?」
島に上陸するなり、猛烈な腐臭が鼻に付く。
溜まった泥水が何年も放置されて生み出す腐敗と泥の混じった匂い。森の植物たちも匂いに犯されたのか、へにゃりと枝が地面に垂れていた。
「この匂い、間違いねぇ。クラウケンシュタインだ! 行くぞ!」
「うん!」
僕たちは森の中を歩いていく。
「あの中から匂ってるみたいだな?」
ロウが足を止めて指差したのは、島の中心にある泉だった。真っ黒く染まった泉の水は、覗くものを飲み込もうと口を開けているみたいだった。
「ここに上位種の魔物がいるんだね」
「ああ。んじゃ、いっちょ呼び出すとするか!!」
ワオオオオォォン!!
ロウが雄叫びをあげる。クラウケンシュタインがいる小さな島に響くフェンリルの叫び。小鳥や虫たちは慌てて森から羽ばたいていく。
だが、逃げるのは弱き動物たちだけ。
この島の主である魔物は――、
ザバァン!!
泉の中から水流が突き上がるように昇る。
ザァアアア。
泉の濁った水が雨のように降り注ぐ。島全体の腐臭が強くなる中で――クラウケンシュタインは姿を見せた。
「で、でかい!!」
何よりも驚くべきはその大きさだった。
高さは二十メートル。
下から見上げると皮を向いたバナナみたいだ――。確かにクラウケンシュタインはイカのような姿をしていたが、上下がひっくり返っていた。
頭上から伸びる触手がうねうねと空中をうねる。伸びた触手が余計に姿を大きく見せているのか。
10本の触手の中心には、人の形をした物体が生えていた。
「ひ、人がいる!?」
「あれは人じゃねぇ。あいつは喰らった獲物の形を真似して作るんだ。そうすることで、仲間を引き寄せて食らう。簡単に言えば疑似餌みたいなもんだな」
「なるほどね……」
遠目から見れば人に近しい形状をしているが、改めてよく見ると、すぐに人でないのが分かる。動くたびに身体が腐り落ちているからだ。
「因みにクラウケンシュタインの弱点は、あの疑似餌の根元だ。そこを攻撃すれば倒せるはずだ!」
「……簡単に言うけど、あそこまで近付ける気はしないんだけどな」
弱点である中心部の周りには触手がある。
つまり、10本の触手を搔い潜り、攻撃を当てなければならないと言う訳だ。
「ああ。だから、まずは防御力を削るんだ。そのためには触手を破壊してくしかねぇ!」
「分かった。取り敢えずやってみるよ!」
上位種であるクラウケンシュタインは、僕を敵とも認識していないのか、身動きを取らない。触手の根元についた10の目は同じく上位種であるロウだけを見ているようだった。
僕が眼中にないのなら、今のうちに手札看破で魔法を見抜いて置こう。
すっと巨大な魔物の頭上に、使用可能な魔法の枚数が浮かび上がる。
「魔法は……二枚か」
枚数で言えば多くはないが、魔法などなくても強靭な肉体がある。
「一本ずつ、確実に削っていこう」
僕は弓を手に取り弦を引く。【選択領域】は相手の出方や動きを見抜いてから使用したほうが効果的だ。
矢を放とうとした僕を、ロウが止めた。
「待て! 戦いを始める前に、この魔法を【デッキ】にセットしとけ!」
「え……!?」
ギュウン。
ロウの叫びに動きを止めると、お腹の底から力が漲ってくる。これは魔法を手に入れた感覚だ。どうやら、【フェンリルの牙】を与えたみたいに新たに魔法をくれたようだ。
「あんまり楽して魔法を手に入れて欲しくはないんだが、今回ばかりは特別だ」
「わ、分かった!」
ロウの指示通り、ステータス画面を開く。
画面をスライドさせて、現在装備していない予備の魔法を確認する。
□■□■□■□■□■□■□■□■
【強化の矢】
【反射の盾】
【土石波《どせきは》】×2
【斬伸撃《ざんしんげき》」
□■□■□■□■□■□■□■□■
「【斬伸撃】……?」
ロウが与えてくれたのは、武器を伸ばす魔法だった。
武器に切れ味を付与する【斬撃《スラッシュ》】や、無から斬撃を生み出す【斬撃波《ざんげきは》】と違い、武器の刀身を伸ばす魔法。間合いを変えることで不意を付くことが可能なのだが、これは剣を持っていないと意味はない。
そして、僕は弓矢使い。
刀はナイフくらいしか持ってない。あまり意味がない魔法で【デッキ】を一枚埋めるのは躊躇われる。
僕の思考を見抜いたように、【斬伸撃】を渡した理由を教えてくれた。
「そいつはがあれば、魔法進化が使えるようになんだよ」
「魔法進化……!?」
「ああ。【斬撃】【斬撃波】【斬伸撃】を組み合わせれば、斬撃系の魔法進化が発動する。こいつの足をぶった切るには効果的だと思うぜ?」
「そうなんだ……。じゃあ、代わりに何を抜こうかな……?」
クラウケンシュタインは見た目通り水属性だろう。ならば、同じ属性の魔法は効果が薄いのではないか。となると抜くべき魔法は必然的に限られてくる。
「泡弾《フォームショット》を抜こう。となると他にも三枚入れ替えた方がいいかな」
「あと、反射の盾もこいつ相手には効果は薄いから入れない方がいいな」
【強化の矢】
【反射の盾】
【土石波《どせきは》】×2
三種類の魔法から選び、デッキを完成させた。
「出来た!」
□■□■□■□■□■□■□■□■
【強化の矢】×4
【三連火弾《トリプルファイア》】×4
【爆弾《ボム》】×4
【斬撃《スラッシュ》】×4
【斬撃波《ざんげきは》】×2
【斬伸撃《ざんしんげき】
【土石波《どせきは》】×2
【腕力強化《小》】×3
【治癒《小》】×3
【腕力強化《中》】×2
【フェンリルの牙】
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翌日。
僕たちは朝早くからアディさんの家を出た。戦う魔物が危険だと分かっている以上、アディさんを巻き込むのは気が引ける。
なにより、彼女には妹の傍に少しでもいて上げて欲しかった。
船を漕ぐ手に力を込める。
グッと水を掻く。櫂《オール》を通じて穏やかな波の振動が僕を揺らす。クルルさんを助けるために、上位種の魔物を倒そうとする僕たちを応援してるかのように、船は海面を滑っていく。。
「こっちだ! 意外にクラウケンシュタインは、近くにいるかも知れねぇな!」
ロウが船首に立ち、スンスンと空気の匂いを嗅ぐ。
ロウはフェンリルだ。本気を出せば、匂いの強い魔物であれば、上位種程の魔物ならば、どの当たりにいるのか嗅ぎ分けられるらしい。
クラウケンシュタインは海に住む魔物。
海に囲われた島々が無数に存在するたネメス諸島。人が足を踏み込んでいない島も多くあるため、魔物が隠れるには格好の場になっているようだ。
「へっ。まるで俺達にクルルを助けろって天が命じてるみたいだな! まあ、倒せるかどうかは別だけどよ」
「……こんな時に一言多いよ。前半だけで止めておいてくれたら良いのにさ」
ロウの鼻を頼りに辿り着いたのは、ネメス諸島に位置する島の一つだった。
「く、臭い……!?」
島に上陸するなり、猛烈な腐臭が鼻に付く。
溜まった泥水が何年も放置されて生み出す腐敗と泥の混じった匂い。森の植物たちも匂いに犯されたのか、へにゃりと枝が地面に垂れていた。
「この匂い、間違いねぇ。クラウケンシュタインだ! 行くぞ!」
「うん!」
僕たちは森の中を歩いていく。
「あの中から匂ってるみたいだな?」
ロウが足を止めて指差したのは、島の中心にある泉だった。真っ黒く染まった泉の水は、覗くものを飲み込もうと口を開けているみたいだった。
「ここに上位種の魔物がいるんだね」
「ああ。んじゃ、いっちょ呼び出すとするか!!」
ワオオオオォォン!!
ロウが雄叫びをあげる。クラウケンシュタインがいる小さな島に響くフェンリルの叫び。小鳥や虫たちは慌てて森から羽ばたいていく。
だが、逃げるのは弱き動物たちだけ。
この島の主である魔物は――、
ザバァン!!
泉の中から水流が突き上がるように昇る。
ザァアアア。
泉の濁った水が雨のように降り注ぐ。島全体の腐臭が強くなる中で――クラウケンシュタインは姿を見せた。
「で、でかい!!」
何よりも驚くべきはその大きさだった。
高さは二十メートル。
下から見上げると皮を向いたバナナみたいだ――。確かにクラウケンシュタインはイカのような姿をしていたが、上下がひっくり返っていた。
頭上から伸びる触手がうねうねと空中をうねる。伸びた触手が余計に姿を大きく見せているのか。
10本の触手の中心には、人の形をした物体が生えていた。
「ひ、人がいる!?」
「あれは人じゃねぇ。あいつは喰らった獲物の形を真似して作るんだ。そうすることで、仲間を引き寄せて食らう。簡単に言えば疑似餌みたいなもんだな」
「なるほどね……」
遠目から見れば人に近しい形状をしているが、改めてよく見ると、すぐに人でないのが分かる。動くたびに身体が腐り落ちているからだ。
「因みにクラウケンシュタインの弱点は、あの疑似餌の根元だ。そこを攻撃すれば倒せるはずだ!」
「……簡単に言うけど、あそこまで近付ける気はしないんだけどな」
弱点である中心部の周りには触手がある。
つまり、10本の触手を搔い潜り、攻撃を当てなければならないと言う訳だ。
「ああ。だから、まずは防御力を削るんだ。そのためには触手を破壊してくしかねぇ!」
「分かった。取り敢えずやってみるよ!」
上位種であるクラウケンシュタインは、僕を敵とも認識していないのか、身動きを取らない。触手の根元についた10の目は同じく上位種であるロウだけを見ているようだった。
僕が眼中にないのなら、今のうちに手札看破で魔法を見抜いて置こう。
すっと巨大な魔物の頭上に、使用可能な魔法の枚数が浮かび上がる。
「魔法は……二枚か」
枚数で言えば多くはないが、魔法などなくても強靭な肉体がある。
「一本ずつ、確実に削っていこう」
僕は弓を手に取り弦を引く。【選択領域】は相手の出方や動きを見抜いてから使用したほうが効果的だ。
矢を放とうとした僕を、ロウが止めた。
「待て! 戦いを始める前に、この魔法を【デッキ】にセットしとけ!」
「え……!?」
ギュウン。
ロウの叫びに動きを止めると、お腹の底から力が漲ってくる。これは魔法を手に入れた感覚だ。どうやら、【フェンリルの牙】を与えたみたいに新たに魔法をくれたようだ。
「あんまり楽して魔法を手に入れて欲しくはないんだが、今回ばかりは特別だ」
「わ、分かった!」
ロウの指示通り、ステータス画面を開く。
画面をスライドさせて、現在装備していない予備の魔法を確認する。
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【強化の矢】
【反射の盾】
【土石波《どせきは》】×2
【斬伸撃《ざんしんげき》」
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「【斬伸撃】……?」
ロウが与えてくれたのは、武器を伸ばす魔法だった。
武器に切れ味を付与する【斬撃《スラッシュ》】や、無から斬撃を生み出す【斬撃波《ざんげきは》】と違い、武器の刀身を伸ばす魔法。間合いを変えることで不意を付くことが可能なのだが、これは剣を持っていないと意味はない。
そして、僕は弓矢使い。
刀はナイフくらいしか持ってない。あまり意味がない魔法で【デッキ】を一枚埋めるのは躊躇われる。
僕の思考を見抜いたように、【斬伸撃】を渡した理由を教えてくれた。
「そいつはがあれば、魔法進化が使えるようになんだよ」
「魔法進化……!?」
「ああ。【斬撃】【斬撃波】【斬伸撃】を組み合わせれば、斬撃系の魔法進化が発動する。こいつの足をぶった切るには効果的だと思うぜ?」
「そうなんだ……。じゃあ、代わりに何を抜こうかな……?」
クラウケンシュタインは見た目通り水属性だろう。ならば、同じ属性の魔法は効果が薄いのではないか。となると抜くべき魔法は必然的に限られてくる。
「泡弾《フォームショット》を抜こう。となると他にも三枚入れ替えた方がいいかな」
「あと、反射の盾もこいつ相手には効果は薄いから入れない方がいいな」
【強化の矢】
【反射の盾】
【土石波《どせきは》】×2
三種類の魔法から選び、デッキを完成させた。
「出来た!」
□■□■□■□■□■□■□■□■
【強化の矢】×4
【三連火弾《トリプルファイア》】×4
【爆弾《ボム》】×4
【斬撃《スラッシュ》】×4
【斬撃波《ざんげきは》】×2
【斬伸撃《ざんしんげき】
【土石波《どせきは》】×2
【腕力強化《小》】×3
【治癒《小》】×3
【腕力強化《中》】×2
【フェンリルの牙】
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