手札看破とフェンリルさんで最強へ~魔法はカードだと真理に到達してない世界でデッキ構築!~

白慨 揶揄

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第53話 裏切りの懺悔

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「私の所為で――村が滅んだんだ」

 アディさんは、意を決したように切り出した。だが、彼女の言葉は僕が知っている内容とは大きくかけ離れていた。

「村が……滅んだ!? 一体、アディさんは何を言ってるのですか?」

 僕の驚きの表情に、アディさんもまた驚いているみたいだ。
 二人で顔を見合わせる僕らの表情は、鏡合わせみたいにリンクしていた。

「何って……。【占星の騎士団】が――私が起こした悲劇だ。君はそれをエミリさんから聞いたんじゃないのか?」
「その話は全く聞きませんでした、僕が聞いたのは【占星の騎士団】はスパイによって滅んだということ。アディさんは、そのスパイについて何か隠してたんですよね?」
「隣国のスパイって、ユライ君は何を言っているんだ!?」

 互いに知っていると思っていた情報は、僕たちの表情とは裏腹に、全くかみ合っていなかった。まるで、止め間違えたボタンみたいだ。止まりはするけど、場所が違う。

「と、とにかく、互いの知っていることについて整理しましょう。アディさんは何を伝えたかったのですか? 村が滅んだって一体!?」
「それは……」

 一瞬。アディさんは知り得る情報が違うなら、言わなくてもいいのではと悩んだように見えてが、すぐに誘惑を殺して、云うべきこと続きを口に出した。

「私たちは【選抜騎士】に指名されてすぐ、王の元へ向かったんだ。そこで最終テストと称され、前回大会の【選抜騎士】と戦うことになっていた」
「そうだったんですね……」
「ああ。だが、そこでバニスは負けた」
「負けた!? バニスが!?」

 バニスの魔法枚数5枚。それは冒険者だけでなく、衛兵を含んでもトップクラスの使用回数だ。更には火龍を倒して手に入れた属性を持つ剣も持っていて、剣技の才能もある。
 唯一の欠点は攻撃的な性格ゆえに、周りや相手の動きを見ずに自分のやりたいことを優先する性格であるということ――。
 そこまで考えたことで、僕はどこか納得する。
 そうか。
 バニスは魔物と多く戦うことはあっても、人との実戦経験は乏しいんだ。だから、知恵を巡らす相手には滅法弱い。

「リーダーが負けたことで、私たちは力量を疑われ、リベリオーガの討伐を命じられた。武装したリベリオーガのな」

 オーガは強くなると知性も増していく。
 中には人と同じく刀や弓を使う個体も確認されており、それらは討伐難易度が一段上がると言われている。

「でも、それでも、リベリオーガは中位種。【占星の騎士団】は苦戦しないのではないですか?」
「ああ。私もそう思った。だが現実は違った。私たちは無様に負けたのだ」
「そんな……」
「リベリオーガが武装していたのは、固い甲羅を持つ魔物の亡骸だ。それを盾代わりにしようしていたのだが、バニスは正面から挑み負傷した」

 アディさんの伝達する情景は、長年パーティーとして行動を共にした僕は、詳細に想像することができた。
 バニスはいつも一直線。
 だから、矢を使って相手を陽動したり気を使ってたっけ……。

「負傷した状態では勝てないと判断した私は、彼らに撤退を申し入れた。だが、彼らは私の提案を受けてはくれなかった。意地でも勝つと退かなかった」
「バニスに取って、退くのは敗北と同義ですから……」

 勝てないと思ったら、撤退し準備を整える。
 自分に才能がないことを知っている僕は、退くことに抵抗はないがバニスは違う。
 プライドが真の勝利を曇らせていた。

「だから、私は彼らを置いて撤退した。勿論、パーティーとして最後まで一丸となって戦うべきだったと思っている。しかし!!」

 アディさんは息を吸い、クルルちゃんが暮らす島を眺めた。

「私にはクルルがいる。私が死んだら、クルルの病気は絶対に治せない。だから――一人で撤退したんだ」

 アディさんは、胸の中にしまい込んでいた無数の棘を、一本ずつ抜いては吐き出すみたいにゆっくりと話す。
 パーティーとしての仁義か、妹のための裏切りか。
 元よりお金で雇われたアディさんにとって、選択肢は一つしかなかったのかもしれない。
 平然と選んでしまった答えを、今も尚、悔いているのだ。
 彼女の苦しみは手に取るように分かった。

「でも、どうしてそれが村の崩壊に繋がるんですか? 勝てないと分かれば、流石のバニス達も逃げたはずです」

 どれだけプライドの高い男でも、命は惜しいはずだ。
 命を捨ててまで、勝利を求める男だったら、そもそも撤退も迷わず選択できるはず。

「ああ。恐らくそうだろう。だが、負傷した彼らは恐らくリベリオーガから逃げきれないと悟ったんだ」
「リベリオーガは執念深い習性してますからね」
「ああ。だから彼らは近くにあった村を囮に使ったんだ。村に逃げ込み、暮らす人々を盾として利用した」
「馬鹿な!!」

 冒険者でもない人間を、盾に使うだなんていくら、自分が大事でも思い付くはずがない。
 冒険者としての最低限の尊厳すらも、バニス達は持っていなかったのか?
 人々を守るという――思いを。

「え、待ってください。リベリオーガが暮らす岩山近くにある村って、まさか――!」

 僕の脳裏に村人の笑顔が浮かび上がる。いつも僕を頼ってくれて、野菜や果物を「美味しいから」と分けてくれた優しい人々。
 まさか、彼らが暮らす村が滅んだのか?

「因みにだが、村で生き残った人間はいなかったらしい。私がバニス達を置いて逃げなければ……。一緒に逃走すれば良かったんだ」
「そんなことないです……よ」

 勝てない魔物を前に撤退するのは常識。
 戦う相手がいる状況で、逃走を選択するのであれば、余力を残すのは当然のこと。限界まで勝てない相手に挑んだとして、その後、どうやって逃げると言うのか。

 仮に逃走に使う力を、戦いに費やしたのは分かる。
 だが、自分達が生き残るために村人を犠牲にするなんて――話が根本的に違ってくる。

 アディさんは全ての責任を背に受け止めたように、深々と頭を下げた。

「このことを、もっと早く言うべきだった。それなのに、私はユライ君の優しさに甘えて何も言わなかった」
「……」
「いや、それだけじゃない。追放された君を守ることで、罪悪感を減らそうと利用していたんだ。それなのに君は私の妹を救ってくれた。どんだけ礼を述べても、感謝は足りないくらいだ」
「僕はただ――」

 手にした力で、誰かを守りたかった。
 それだけのこと。

「何より私がユライ君を守るだなんて、思い上がりも良い所だ。私よりも全然強い。だから、私はここで別れようと思う。妹のためという戦う理由もなくなったしな」

 戦う理由はないか。
 クルルさんの病気は治ったのだから、これまで一緒に居られなかった分を取り戻すために、姉妹で暮らして欲しい。

「これで――私の話はお終いだ。次はユライ君の番だ。よければ私にもスパイについて教えてくれ」
「……」

 僕はアディさんに伝えようか悩む。
 彼女は優しい性格だ。もし、スパイが【占星の騎士団】を滅ぼしたとしたら、探そうとするのではないか。
 口を閉ざした僕に、何か気付いたのかアディさんが言う。

「ユライ君は優しいから、私に負担を駆けたくないと思ってるのだろう。だが、私だって子供ではない。どうしたいかは、自分で決める。どうか、ユライ君は私みたいな人間にならないでくれ」
「アディさん……」

 アディさんにそこまで言わせたことが恥ずかしかった。

「分かりました……。エミリさん曰く、隣国が【選抜騎士】を崩壊させるためにスパイを送り込んだらしいんです。恐らくそれはメンバーの誰か。僕とアディさんは勿論、バニスも可能性は低いので――」
「オストラかプリスか」
「はい。僕はオストラじゃないかと思っています」

 オストラは常に余裕を残しているイメージだった。前衛でタンクとして戦いながらも、彼が魔法を最後の一枚になるまで、戦っているところを見たことがない。


「私は一緒に活動していた時間が短いから、分からないが……」
「いえ、僕の勘でしかないんですけど……。しかし、そうなると、この一連の流れは最初から仕組まれたモノである可能性出てきましたね」
「ああ……。確かにな」

【占星の騎士団】と【炎の闘士】を崩壊させるために描かれた策略。

「もし、そうだとしたら、開催される【予選大会】でも何か仕掛けてくるかもしれませんね――」

 ――だから、一緒に戦ってくれませんか?
 そう言いたくなったが、辛うじて言葉を飲み込んだ。ここから先を決めるのはアディさんだ。僕がお願いするべきではない。

 戦う理由が無くなったアディさんが、どんな結論を出すのか。僕は余計なことを口走らないように、下唇を噛んで答えを待った。

「そうか。だとしたら、私も一緒に参加させて貰えないか?」
「い、いいんですか!?」
「……勿論だ」

 良かった。
 また一緒に冒険ができる。

「アディさんが一緒なら心強いです。二人一緒なら、スパイを誘き寄せるだけでなく、【選抜騎士】にもなれる気がします」

【選抜騎士】になれば、国中から情報が集まってくる。
 そうすれば、今回みたいな事件を事前に防げたかも知れない。新たな目標を掲げた僕に、アディさんが優しく微笑んだ。

「……やっぱり、ユライ君は強いな。そして――優しい」

 ふっと。
 アディさんが僕の肩に頭を乗せた。

「あ、アディさん?」

 アディさんの髪が僕の首筋を擽る。普段、首筋は何も触れてないからだろうか。アディさんの髪が擽ったい。

「申し訳ないが、少しだけこうさせてはくれないだろうか?」

 アディさんは、安らかに目を閉じていた。きっと、これまでは寝ているときでさえ、自分の行動を責めていたのだろう。
 誰にも話せないことで、一番苦しかったのはアディさんなはずだ。
 かける言葉を見つけられない僕は、寄り添うアディさんの呼吸をただ数えていた。
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