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3. 魔物
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「いやーすごかったわ。クロとシメオン先輩、注目の的だったもん」
「うん、すごかった。ハイタッチは感動的だったよ」
実習を終えたその日の夜。
寮室に戻るなり、レリアとパメラは「まさか成功するとは思わなかった」「シメオン先輩は本物の天才」と、ポンコツ魔法使いの私に無事魔法を使わせたシメオンを口々に褒めだした。
私がポンコツなあまり、相対的にシメオンの評価がうなぎ登りよ。
悔しい。でも正しい評価すぎてぐうの音も出ない。
だけど……。
「……もうやめてよお。とくに、ハイタッチはなかったことにしたい……ファンの皆さんに殺される……」
「ああ、先輩のファンね。実習始まったときは、こりゃクロは実習のあと大変だなーって思ったんだけど」
やっぱりレリアたちも、あの先輩がたの刺すような視線に気付いていたのだ。怖かったもんね、あれ。
「きっと明日から、教室のドアをあけたら頭上に魔法で生成された氷柱が降り注いできたりするんだ……」
私がふるふると震えていると、ルームメイトたちはあきれたとばかりに目を細めた。
「なにそれ怖っ。ありえんでしょ」
「クロ、被害妄想たくましすぎ……」
二人から即座に完全否定されて、私は「ありえなくないもん」と口を尖らせた。
私だって、なにも妄想だけで言ってるわけじゃないんだよ?
「だって地元では、学校の門の脇にあった石像がゴーレムに置き換えられてて、横通ったら踏み潰されそうになったもん」
「まってそれ、シメオン先輩関係あるの……?」
「関係あってもなくても、石像がゴーレムに置き換わってる学校とか怖すぎるんだけど」
「……えっとね、シメオンファンクラブ会長の、その時のマイブームが『ゴーレム作製』だったらしくて」
「マイブームがゴーレム作製……?」
「そう、マイブームがゴーレム作製」
オウム返ししてきたパメラに、私も頷きながらそのまま返した。
実際、会長にとってはゴーレム作りが趣味の一環だったらしいし、他に言いようがない。
「クロの故郷って、普通の町なの……?」
「今度遊びに行っていい? すごい興味ある。絶対ヤバイ町でしょ」
「人の故郷を危険地域扱いしないでよ。ちょっと突出した変わり者がいるだけだから」
「クロとかね」
「はあ? 私はかわいくて賢いだけで、変わり者じゃないから」
「クロとかね」
「……」
レリアは、半眼でにらみつける私から、わざとらしく目をそらした。
そしてそのまま窓の外を見た彼女は「わ!」と驚きの声を上げる。
「すっごい雨。昼の実習の時に降らなくてよかった」
「……ほんとだ。土砂降りだね」
レリアの言うとおり、日が落ちた窓の外は、いつの間にか激しい雨が降り始めていた。
――このまま雨が続いたら、このあとの実習で助かるんだけどなあ。
***
私が「雨が続けばいい」なんて考えたせい――ってわけじゃないけど、あの日の夜に降り始めた雨は、止む気配を見せることなくそのまま降り続いた。
五日目を迎えた今日も相変わらず土砂降りで――この五日間、雨脚は弱まることすらなかった。
ここまで来たらもう自然災害だ。
王都の魔法師団が、川の氾濫や土砂崩れの防止のためにあちこちを駈け回っているらしい。
私に無意識に天候を操作する特殊能力なんてないはずなので、これはまったくもって私のせいではないのだけど……。
天候のおかげで実習がわりと好調なことに、なんとなく後ろめたさを感じてしまうわ……。
「この雨が自然現象じゃないって、本当かなあ?」
夕食をとるために入った寮の食堂で、ちょうどすれ違った人たちがそんな話をしていて、思わず私の耳がピクリと反応した。
このあまりにも異常な天候に、学園内でもそんな噂がちらほら聞かれるようになってきた。
――曰く、雨を操る魔物が王都の近くに現れたのだ、と。
たくさんの学生で賑わう寮の食堂で、私たちはなんとか空いている席を見つけて椅子に座った。
自宅から毎日通っている学生の一部が、安全のため登下校を避け、寮室を借りて寝泊まりしているから、ここしばらくはいつもよりもさらに混み合ってるの。毎回席を探すのが大変よ。
……で、そうやって席を探しているあいだも、あちこちでヒソヒソと魔物の噂が聞こえてきていた。
「あの噂、本当みたい」
いつもニコニコしているレリアが、珍しく難しい顔でそう言った。
私とパメラは思わず顔を見合わせる。
冗談……にしては、レリアの表情は差し迫った空気を醸し出していた。
「自然現象じゃないなら、魔物がいるってこと?」
「……たぶん」
レリアが少しだけ視線をさまよわせる。
彼女のお兄さん、魔法師団に所属してるの。それで、どうやらお兄さんが魔物の討伐隊に編成されている――っぽい、らしい。
ぽい、っていうのは、そういう重要な任務は家族にも知らされないから。……ただ、魔法師団はこの研究課程の出身者がほとんどで、なんとなーく情報が伝わってくる。
レリアのお兄さんの場合、親しい友人が学園の教員助手として在籍していて、その人経由でレリアに伝言があったのだという。
だいぶ回りくどい伝言だったらしいんだけど、まとめると、「危険な任務に就くことになったので、もし自分に何かあったら、実家のベッド横の鍵付きクローゼットの中にある記録用魔石は全て、中身を見ずに速やかに処分してくれ」――と。
「気持ちはわかるけど、伝言すること、それなの!?」
レリアはワッと顔を覆った。兄が心配なのもあるようだが、それよりも初対面の教員助手の人からそんなことを伝えられたのが恥ずかしかったらしい。
……かける言葉も見つからないわ。
いっそ、「両親を頼む……」だったら励ますという選択肢だってあったんだけど。……ベッド横、鍵付き、っていうのがもうね。
ちなみに両親の「り」の字もなかったとかで、さすがに教員助手さんも苦笑いだったらしい。
「ほら、お兄さん、余計な心配かけないようにわざと面白い感じにしたのかも……」
さすがパメラ、こんな状況からでもお兄さんの名誉挽回を試みている。天使かしら。
「そうだとしたら気遣いが斜め上にズレすぎだよ! 無事に帰ってきたら、記録用魔石をぜーんぶ中身の解説メモつけて居間のテーブルに並べてやるんだから」
「そ、それは、あまりにも……」
「せっかく無事に帰ってきたお兄さんがショック死しちゃうから、やめたげて……」
ま、まあ、そんなことを言っていても、お兄さんが危険な任務に就いてるなんて心配なはず。……レリアは意気揚々と、兄の帰還前に遠方の実家へ帰って、魔石の中身を確認する算段を立て始めてるけど……。
心配なはず……うん。
「うん、すごかった。ハイタッチは感動的だったよ」
実習を終えたその日の夜。
寮室に戻るなり、レリアとパメラは「まさか成功するとは思わなかった」「シメオン先輩は本物の天才」と、ポンコツ魔法使いの私に無事魔法を使わせたシメオンを口々に褒めだした。
私がポンコツなあまり、相対的にシメオンの評価がうなぎ登りよ。
悔しい。でも正しい評価すぎてぐうの音も出ない。
だけど……。
「……もうやめてよお。とくに、ハイタッチはなかったことにしたい……ファンの皆さんに殺される……」
「ああ、先輩のファンね。実習始まったときは、こりゃクロは実習のあと大変だなーって思ったんだけど」
やっぱりレリアたちも、あの先輩がたの刺すような視線に気付いていたのだ。怖かったもんね、あれ。
「きっと明日から、教室のドアをあけたら頭上に魔法で生成された氷柱が降り注いできたりするんだ……」
私がふるふると震えていると、ルームメイトたちはあきれたとばかりに目を細めた。
「なにそれ怖っ。ありえんでしょ」
「クロ、被害妄想たくましすぎ……」
二人から即座に完全否定されて、私は「ありえなくないもん」と口を尖らせた。
私だって、なにも妄想だけで言ってるわけじゃないんだよ?
「だって地元では、学校の門の脇にあった石像がゴーレムに置き換えられてて、横通ったら踏み潰されそうになったもん」
「まってそれ、シメオン先輩関係あるの……?」
「関係あってもなくても、石像がゴーレムに置き換わってる学校とか怖すぎるんだけど」
「……えっとね、シメオンファンクラブ会長の、その時のマイブームが『ゴーレム作製』だったらしくて」
「マイブームがゴーレム作製……?」
「そう、マイブームがゴーレム作製」
オウム返ししてきたパメラに、私も頷きながらそのまま返した。
実際、会長にとってはゴーレム作りが趣味の一環だったらしいし、他に言いようがない。
「クロの故郷って、普通の町なの……?」
「今度遊びに行っていい? すごい興味ある。絶対ヤバイ町でしょ」
「人の故郷を危険地域扱いしないでよ。ちょっと突出した変わり者がいるだけだから」
「クロとかね」
「はあ? 私はかわいくて賢いだけで、変わり者じゃないから」
「クロとかね」
「……」
レリアは、半眼でにらみつける私から、わざとらしく目をそらした。
そしてそのまま窓の外を見た彼女は「わ!」と驚きの声を上げる。
「すっごい雨。昼の実習の時に降らなくてよかった」
「……ほんとだ。土砂降りだね」
レリアの言うとおり、日が落ちた窓の外は、いつの間にか激しい雨が降り始めていた。
――このまま雨が続いたら、このあとの実習で助かるんだけどなあ。
***
私が「雨が続けばいい」なんて考えたせい――ってわけじゃないけど、あの日の夜に降り始めた雨は、止む気配を見せることなくそのまま降り続いた。
五日目を迎えた今日も相変わらず土砂降りで――この五日間、雨脚は弱まることすらなかった。
ここまで来たらもう自然災害だ。
王都の魔法師団が、川の氾濫や土砂崩れの防止のためにあちこちを駈け回っているらしい。
私に無意識に天候を操作する特殊能力なんてないはずなので、これはまったくもって私のせいではないのだけど……。
天候のおかげで実習がわりと好調なことに、なんとなく後ろめたさを感じてしまうわ……。
「この雨が自然現象じゃないって、本当かなあ?」
夕食をとるために入った寮の食堂で、ちょうどすれ違った人たちがそんな話をしていて、思わず私の耳がピクリと反応した。
このあまりにも異常な天候に、学園内でもそんな噂がちらほら聞かれるようになってきた。
――曰く、雨を操る魔物が王都の近くに現れたのだ、と。
たくさんの学生で賑わう寮の食堂で、私たちはなんとか空いている席を見つけて椅子に座った。
自宅から毎日通っている学生の一部が、安全のため登下校を避け、寮室を借りて寝泊まりしているから、ここしばらくはいつもよりもさらに混み合ってるの。毎回席を探すのが大変よ。
……で、そうやって席を探しているあいだも、あちこちでヒソヒソと魔物の噂が聞こえてきていた。
「あの噂、本当みたい」
いつもニコニコしているレリアが、珍しく難しい顔でそう言った。
私とパメラは思わず顔を見合わせる。
冗談……にしては、レリアの表情は差し迫った空気を醸し出していた。
「自然現象じゃないなら、魔物がいるってこと?」
「……たぶん」
レリアが少しだけ視線をさまよわせる。
彼女のお兄さん、魔法師団に所属してるの。それで、どうやらお兄さんが魔物の討伐隊に編成されている――っぽい、らしい。
ぽい、っていうのは、そういう重要な任務は家族にも知らされないから。……ただ、魔法師団はこの研究課程の出身者がほとんどで、なんとなーく情報が伝わってくる。
レリアのお兄さんの場合、親しい友人が学園の教員助手として在籍していて、その人経由でレリアに伝言があったのだという。
だいぶ回りくどい伝言だったらしいんだけど、まとめると、「危険な任務に就くことになったので、もし自分に何かあったら、実家のベッド横の鍵付きクローゼットの中にある記録用魔石は全て、中身を見ずに速やかに処分してくれ」――と。
「気持ちはわかるけど、伝言すること、それなの!?」
レリアはワッと顔を覆った。兄が心配なのもあるようだが、それよりも初対面の教員助手の人からそんなことを伝えられたのが恥ずかしかったらしい。
……かける言葉も見つからないわ。
いっそ、「両親を頼む……」だったら励ますという選択肢だってあったんだけど。……ベッド横、鍵付き、っていうのがもうね。
ちなみに両親の「り」の字もなかったとかで、さすがに教員助手さんも苦笑いだったらしい。
「ほら、お兄さん、余計な心配かけないようにわざと面白い感じにしたのかも……」
さすがパメラ、こんな状況からでもお兄さんの名誉挽回を試みている。天使かしら。
「そうだとしたら気遣いが斜め上にズレすぎだよ! 無事に帰ってきたら、記録用魔石をぜーんぶ中身の解説メモつけて居間のテーブルに並べてやるんだから」
「そ、それは、あまりにも……」
「せっかく無事に帰ってきたお兄さんがショック死しちゃうから、やめたげて……」
ま、まあ、そんなことを言っていても、お兄さんが危険な任務に就いてるなんて心配なはず。……レリアは意気揚々と、兄の帰還前に遠方の実家へ帰って、魔石の中身を確認する算段を立て始めてるけど……。
心配なはず……うん。
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