土砂降りの夜のクロシェット

ゆず

文字の大きさ
3 / 7

3. 魔物

しおりを挟む
「いやーすごかったわ。クロとシメオン先輩、注目の的だったもん」
「うん、すごかった。ハイタッチは感動的だったよ」

 実習を終えたその日の夜。
 寮室に戻るなり、レリアとパメラは「まさか成功するとは思わなかった」「シメオン先輩は本物の天才」と、ポンコツ魔法使いの私に無事魔法を使わせたシメオンを口々に褒めだした。
 私がポンコツなあまり、相対的にシメオンの評価がうなぎ登りよ。
 悔しい。でも正しい評価すぎてぐうの音も出ない。
 だけど……。

「……もうやめてよお。とくに、ハイタッチはなかったことにしたい……ファンの皆さんに殺される……」
「ああ、先輩のファンね。実習始まったときは、こりゃクロは実習のあと大変だなーって思ったんだけど」

 やっぱりレリアたちも、あの先輩がたの刺すような視線に気付いていたのだ。怖かったもんね、あれ。

「きっと明日から、教室のドアをあけたら頭上に魔法で生成された氷柱が降り注いできたりするんだ……」

 私がふるふると震えていると、ルームメイトたちはあきれたとばかりに目を細めた。

「なにそれ怖っ。ありえんでしょ」
「クロ、被害妄想たくましすぎ……」

 二人から即座に完全否定されて、私は「ありえなくないもん」と口を尖らせた。
 私だって、なにも妄想だけで言ってるわけじゃないんだよ?

「だって地元では、学校の門の脇にあった石像がゴーレムに置き換えられてて、横通ったら踏み潰されそうになったもん」
「まってそれ、シメオン先輩関係あるの……?」
「関係あってもなくても、石像がゴーレムに置き換わってる学校とか怖すぎるんだけど」
「……えっとね、シメオンファンクラブ会長の、その時のマイブームが『ゴーレム作製』だったらしくて」
「マイブームがゴーレム作製……?」
「そう、マイブームがゴーレム作製」

 オウム返ししてきたパメラに、私も頷きながらそのまま返した。
 実際、会長にとってはゴーレム作りが趣味の一環だったらしいし、他に言いようがない。

「クロの故郷って、普通の町なの……?」
「今度遊びに行っていい? すごい興味ある。絶対ヤバイ町でしょ」
「人の故郷を危険地域扱いしないでよ。ちょっと突出した変わり者がいるだけだから」
「クロとかね」
「はあ? 私はかわいくて賢いだけで、変わり者じゃないから」
「クロとかね」
「……」

 レリアは、半眼でにらみつける私から、わざとらしく目をそらした。
 そしてそのまま窓の外を見た彼女は「わ!」と驚きの声を上げる。

「すっごい雨。昼の実習の時に降らなくてよかった」
「……ほんとだ。土砂降りだね」

 レリアの言うとおり、日が落ちた窓の外は、いつの間にか激しい雨が降り始めていた。
 ――このまま雨が続いたら、このあとの実習で助かるんだけどなあ。

  ***

 私が「雨が続けばいい」なんて考えたせい――ってわけじゃないけど、あの日の夜に降り始めた雨は、止む気配を見せることなくそのまま降り続いた。
 五日目を迎えた今日も相変わらず土砂降りで――この五日間、雨脚あまあしは弱まることすらなかった。
 ここまで来たらもう自然災害だ。
 王都の魔法師団が、川の氾濫や土砂崩れの防止のためにあちこちを駈け回っているらしい。
 私に無意識に天候を操作する特殊能力なんてないはずなので、これはまったくもって私のせいではないのだけど……。
 天候のおかげで実習がわりと好調なことに、なんとなく後ろめたさを感じてしまうわ……。

「この雨が自然現象じゃないって、本当かなあ?」

 夕食をとるために入った寮の食堂で、ちょうどすれ違った人たちがそんな話をしていて、思わず私の耳がピクリと反応した。
 このあまりにも異常な天候に、学園内でもそんな噂がちらほら聞かれるようになってきた。

 ――曰く、雨を操る魔物が王都の近くに現れたのだ、と。
 
 たくさんの学生で賑わう寮の食堂で、私たちはなんとか空いている席を見つけて椅子に座った。
 自宅から毎日通っている学生の一部が、安全のため登下校を避け、寮室を借りて寝泊まりしているから、ここしばらくはいつもよりもさらに混み合ってるの。毎回席を探すのが大変よ。
 ……で、そうやって席を探しているあいだも、あちこちでヒソヒソと魔物の噂が聞こえてきていた。

「あの噂、本当みたい」

 いつもニコニコしているレリアが、珍しく難しい顔でそう言った。
 私とパメラは思わず顔を見合わせる。
 冗談……にしては、レリアの表情は差し迫った空気を醸し出していた。

「自然現象じゃないなら、魔物がいるってこと?」
「……たぶん」
 
 レリアが少しだけ視線をさまよわせる。
 彼女のお兄さん、魔法師団に所属してるの。それで、どうやらお兄さんが魔物の討伐隊に編成されている――っぽい、らしい。
 ぽい、っていうのは、そういう重要な任務は家族にも知らされないから。……ただ、魔法師団はこの研究課程の出身者がほとんどで、なんとなーく情報が伝わってくる。
 レリアのお兄さんの場合、親しい友人が学園の教員助手として在籍していて、その人経由でレリアに伝言があったのだという。
 だいぶ回りくどい伝言だったらしいんだけど、まとめると、「危険な任務に就くことになったので、もし自分に何かあったら、実家のベッド横の鍵付きクローゼットの中にある記録用魔石は全て、中身を見ずに速やかに処分してくれ」――と。

「気持ちはわかるけど、伝言すること、それなの!?」

 レリアはワッと顔を覆った。兄が心配なのもあるようだが、それよりも初対面の教員助手の人からそんなことを伝えられたのが恥ずかしかったらしい。
 ……かける言葉も見つからないわ。
 いっそ、「両親を頼む……」だったら励ますという選択肢だってあったんだけど。……ベッド横、鍵付き、っていうのがもうね。
 ちなみに両親の「り」の字もなかったとかで、さすがに教員助手さんも苦笑いだったらしい。

「ほら、お兄さん、余計な心配かけないようにわざと面白い感じにしたのかも……」

 さすがパメラ、こんな状況からでもお兄さんの名誉挽回を試みている。天使かしら。

「そうだとしたら気遣いが斜め上にズレすぎだよ! 無事に帰ってきたら、記録用魔石をぜーんぶ中身の解説メモつけて居間のテーブルに並べてやるんだから」
「そ、それは、あまりにも……」
「せっかく無事に帰ってきたお兄さんがショック死しちゃうから、やめたげて……」

 ま、まあ、そんなことを言っていても、お兄さんが危険な任務に就いてるなんて心配なはず。……レリアは意気揚々と、兄の帰還前に遠方の実家へ帰って、魔石の中身を確認する算段を立て始めてるけど……。
 心配なはず……うん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

ずっと一緒にいようね

仏白目
恋愛
あるいつもと同じ朝 おれは朝食のパンをかじりながらスマホでニュースの記事に目をとおしてた 「ねえ 生まれ変わっても私と結婚する?」 「ああ もちろんだよ」 「ふふっ 正直に言っていいんだよ?」 「えっ、まぁなぁ 同じ事繰り返すのもなんだし・・   次は別のひとがいいかも  お前もそうだろ? なぁ?」 言いながらスマホの画面から視線を妻に向けると   「・・・・・」 失意の顔をした 妻と目が合った 「え・・・?」 「・・・・  」 *作者ご都合主義の世界観のフィクションです。

【完結】捨てた女が高嶺の花になっていた〜『ジュエリーな君と甘い恋』の真実〜

ジュレヌク
恋愛
スファレライトは、婚約者を捨てた。 自分と結婚させる為に産み落とされた彼女は、全てにおいて彼より優秀だったからだ。 しかし、その後、彼女が、隣国の王太子妃になったと聞き、正に『高嶺の花』となってしまったのだと知る。 しかし、この物語の真相は、もっと別のところにあった。 それを彼が知ることは、一生ないだろう。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

【完結】微笑みを絶やさない王太子殿下の意外な心の声

miniko
恋愛
王太子の婚約者であるアンジェリクは、ある日、彼の乳兄弟から怪しげな魔道具のペンダントを渡される。 若干の疑念を持ちつつも「婚約者との絆が深まる道具だ」と言われて興味が湧いてしまう。 それを持ったまま夜会に出席すると、いつも穏やかに微笑む王太子の意外な心の声が、頭の中に直接聞こえてきて・・・。 ※本作は『氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話』の続編となります。 本作のみでもお楽しみ頂ける仕様となっておりますが、どちらも短いお話ですので、本編の方もお読み頂けると嬉しいです。 ※4話でサクッと完結します。

この度、変態騎士の妻になりました

cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。 そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。 ※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】サポートキャラって勝手に決めないで!

里音
恋愛
私、リリアナ・モントン。伯爵令嬢やってます。で、私はサポートキャラ?らしい。 幼馴染で自称親友でヒロインのアデリーナ・トリカエッティ伯爵令嬢がいうには… この世界はアデリーナの前世での乙女ゲームとやらの世界と同じで、その世界ではアデリーナはヒロイン。彼女の親友の私リリアナはサポートキャラ。そして悪役令嬢にはこの国の第二王子のサリントン王子の婚約者のマリエッタ・マキナイル侯爵令嬢。 攻略対象は第二王子のサリントン・エンペスト、側近候補のマイケル・ラライバス伯爵家三男、親友のジュード・マキナイル侯爵家嫡男、護衛のカイル・パラサリス伯爵家次男。 ハーレムエンドを目指すと言う自称ヒロインに振り回されるリリアナの日常。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 多人数の視点があり、くどく感じるかもしれません。 文字数もばらつきが多いです。

処理中です...