Anniversary

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Anniversary 1st Season

『星に願いを…。』[4]

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   *



 先輩の腕の中にくるまって、二人で春の夜空を眺めながら……私は願う。
 私たちを見守るように優しくまたたく、満天の星々たちに。


 ――いつまでも……ずっと、ずっと、先輩とこうして二人でいられますように……。


 もし“星の神様”が居るのなら……どうか叶えて、お願い神様。
 私の、ほんのささやかな“願い事”を。
 それさえ叶えてくれるなら、他には何も、いらないから―――。



 
 
   *



「そういえば……どうして先輩、こんな夜中に、一人でこんなトコに来てたの……?」
「ああ、星を見に来た……つーか、逃げてきたついでに、星を見てた」
「『逃げて』……?」
「ああ、先輩らーがコッソリ酒やら持ち込んできてるから……その酒盛りに巻き込まれる前に逃げてきた」
「うっわあ……!!」
 ――やりそう……! 確かにあのオヤジーずなら、やりかねないッ……!!
「つーか、マジでバレたら廃部だよー天文部……!!」
「まあ、なあ……でも大丈夫やろ、身内以外にはバレんよーにやってるし。そういうトコロは器用やからなーあのヒトたちは。おまけに顧問も顧問やし」
「もしかして、一緒に酒盛りしてるとか言う……?」
「いや、それはしてへんけど。でも、あのヒトはシッカリ気付いてるでー?」
「気付いたら止めよーよ、仮にも教師なら……」
「ああ、ムリムリ。言ったトコロでムダに煽ってくれるだけや」
「…それもどうなのよ?」


 そんな、耳に心地いい低い声を聞きながら……ぬくぬくとした先輩の体温を背中に感じているうちに、上下の瞼がトロンと仲良しになってくる。
 もうホントに……こうやって先輩の胸の中にいる居心地ったら、どんな豪奢でフワフワなベッドだって敵わないよ。
(ホントにもう、すっごいキモチイイなあ……)


「まあ、そう言うなや。先輩らーがあそこまで好き勝手に出来るのって、センセがさり気なくカモフラージュしてくれてる、って部分もあるからやし。ああ見えて、ナニゲに気の付くヒトやからなー碓氷サンは」


 苦笑混じりに小声で囁く先輩の低い声も、まるで子守唄のように聴こえてくる。
 言ってることが、「幾ら何でもありえなーい!」って叫んでしまいたくなるようなセリフだったとしても……聞き入ってしまって、反応、できないし……。


「――って、桃花……? どうした……?」


 私の、その余りな無反応さを訝しんだのか、そこで先輩が私を覗き込んだような気配を感じた。
 それが解っても……既にピッタリと仲良しこよしになっていた私の上下の瞼は、ピクリとも動いてくれない。


「まったく……ヒトの気も知らんと……」


 先輩のそんな呟きと深々としたタメ息を聞いたと思ったのを最後に……私の意識は、そこで深い眠りの淵へと、引きずり込まれて、いって―――。



   *



「――桃花! いー加減に起きなさいってば! もう朝だよ!」


 そんな声に目を覚ましてみると、私はベッドの中で、ミカコに見下ろされていた。
「あれ……?」
 横になったまま周囲を見渡してみると……そこは保健室であり。
 カーテンが開け放された大きな窓から、さんさんと朝のの光が差し込んできている。
「あれれー……? いつの間に戻ってきたんだろう私……」
 思わずボヤいた私に向かい、事も無げに、ミカコは言う。
「三樹本先輩が運んできてくれたのよ、ここまで。あとでお礼、言っときなさいね」
「…………」
(――そうだった……私、屋上で寝ちゃったんだった………)
 うわ、やっちゃったよー! と、まだ寝ボケている頭で昨晩のことを徐々に思い出しながら、コッソリ一人で赤面する。――てゆーか、そもそも……何で私ったら、屋上なんかに行ったんだっけ……?
「あ、そうだ! そもそもミカコってば、昨夜ゆうべ、一体ドコに行ってたの!?」
 すっごい心配してたのにー…とボヤいた私に、「それはコッチのセリフ」と、彼女は軽くデコピンを返してくる。
「トイレ行って帰ってきたら、桃花が居ないんだもの。…まあ、どうせ三樹本先輩のトコだろうなーとは、思ってたけど」
「…………」
 おデコを押さえつつ、沈黙するしかない私。――どうやら、先輩の行った通り、“入れ違い説”が正しかったみたいだ。
「でもミカコ……二十分以上もトイレに居たの……?」
 そんな何の他意も無い私のセリフったが、あからさまにミカコが、そこでビクッと、肩を揺らす。
「そ…そうよっ? ちょっとお腹、こわしちゃってて……!! それに私、ちょっと遠いけど、職員用トイレの方に行ってたからっ……!!」
「ふうぅぅぅん……?」
 なんか釈然としないけど……寝起きのアタマの回転の悪さも手伝ってか、「まあ、いいけど…」と、アッサリ考えることを放棄する。そのまま、あふう…と大アクビしながら私は起き上がり、ベッドから床に降り立った。
「そんなことより、お腹すいたー。朝ゴハンって何時からー?」
「…もう、とっくに朝ゴハンの時間だけど」
「げっ!? 何でもっと早くに起こしてくれないのミカコっ……!!」
「起こしたけど起きなかったんでしょーが……」
「………スイマセン」



   *



「――あ、センパーイ!!」
 ちょうど地学室から出てきたばかりのみっきー先輩を見つけて声をかけると、そこで彼は、呼んだ私の方を振り返った。
「ああ、桃花。おはよーさん」
 駆け寄ったそのままの勢いで、寝起きからサワヤカ笑顔の先輩の胸に飛び付くと、「いま起きたの?」と、私は笑う。
「私たち、ミカコとセンセイと、もうゴハン済ませちゃったよー?」
「ああ、それはかまへん。ほかの連中は放っといてかまわんて。夜遅くまで騒いでたから、まだツブれてるし」
「――『だろうから放っておけ』って……センセが言ってた……」
「――サスガやな碓氷サン……」
 先輩のカラダ越しに、薄く開いている扉から地学室を覗き込んでみると……その言葉の通り、ツブれてるしかばねが、多量のビール缶と共に、累々と転がって横たわっている。
「オレは、この“後始末”してかなアカンし……桃花は、ミカコちゃんと先に帰ってていいんやで? もともと、朝メシ食べたら現地解散の予定やったしな」
 その言葉で、思わず「なーんだ…」とボヤいてしまった。
「せっかくのいい天気だし、これからミカコとアイスでも食べに行こうって話してて、それで先輩も誘いに来たんだけど……」
「悪い、また今度な?」
「あんな連中、放っておいたら? 後始末くらい、当人たちに任せとけばいいじゃない」
「…天文部が廃部の危機に陥ってもいいんデスか?」
「…よくないデス」
 先輩は、そして私の頭をくしゃくしゃっと撫でると、「そーゆうコトやから」と、困ったように笑う。
「あとでアイスでも差し入れに来てくれや」
「うん、そうするね」
 そして押し出されるようにしてきびすを返しかけたのだったが……「あ、そうだ!」と、そこで思い出して振り返る。
「ごめんね先輩! 昨夜はお手数おかけしました!」
 そこでペコリと一礼、深々と。――そうよ、そもそも謝りに来たんじゃない、私……!!
「ごめんなさい、私が一人で先に眠りこけちゃって……てゆーか、あのまま放っておいてくれても別によかったのに……」
「イヤ、幾ら何でも、あんな寒空に放置しとけんって」
「でも先輩とくっついてたから、あったかかったし。そのままずーっと一晩、一緒に寝てても良かったくらいだよー」
 そこでテヘッと照れ笑ってみせた私に対し……なのに先輩は、あからさまにヒクッと引きつったカオをしてみせてくれた。――何ですかその反応は……。
「桃花……たのむから、くれぐれも誤解を招くよーな言い方は……」
「――はい……?」
「イヤ、もう、いいわ……。――ホラ、早く行かんと、実果子ちゃんが待ちくたびれとるで?」
「え…あ、ハイ……じゃあ、行ってきます……」
「ハイ、行ってらっさい」
 そこまで満面笑顔で手を振って追い立てるよーにしてくれなくても…とは、思ったものの。
 とりあえず、つられたように手を振って、私も笑顔で今度こそ踵を返す。――返しついでに、ニッコリと去り際にこんな言葉を投げてみたり。
「じゃあね、先輩! また二人で星見に行こうね~っ♪」
「…………」


 ――そして、ルンルン気分の私が小走りで廊下の角を曲がった途端……、


「ごごご誤解やーっ!! だから、誓ってオレは何にもしてへんてっ……!!」


 先輩のそんな絶叫…らしきモノが、遠くで聞こえたような気がしたけど……、
 ――とりあえず、この場は聞こえなかったことにしておこうっと………。



   *



 その後、全員分のアイスを手に、再び地学室へと舞い戻ってきた私が見たものは、――言わずもがな。


「――てゆーか……全然、片付いてないじゃなーいッ……!」


 おまけに、カンジンのみっきー先輩まで一緒にツブれて屍になってるって……だから、一体、どういうコトなんでしょうかソレは……?


「…ったく、もう!」
 舌打ちして、額に浮いてきた血管を押さえつつこぶしをわなわなと震わせながら、私は呻く。
 アタリマエでしょう!? ――呆れ返っちゃうわよ、絶句するわよ、めっちゃくちゃ言いたくもなるわよッ……!!
 深呼吸、その場で一つ。
 そうしてから思いっきり、改めて息を吸い込んだ。


「いい加減に起きろーっ!! いま何時だと思ってるのよッ!! つーか、そもそも私は、あんたらの世話やくために入部したんじゃないんだから―――ッッ!!」


 ――もうホントに……だから“星の神様”ッ!!
 どうかナニゴトも無く、今後も先輩とイチャイチャできる日々を下さい! ――って、この部にいる限り、そんなの、絶対にムリそうじゃない……!!
(ホント、そこんとこ頼むわよ神様ーッッ……!!)


 そんなガックリと肩を落として立ち尽くす私の横に……いつの間に来ていたのか、“自称・『神様』”の不良教師が、ニヤニヤとタバコふかしながら面白そうにその様子を見物、して、て……、
「おーおー、相変わらず“世話焼き”だなー小泉?」
「――――!!?」
(つーか、そもそもアンタの監督不行き届きが原因なんじゃないのかッッ……!!?)


「こんの、クソ教師―――ッッ!! その根性、叩き直してやるわ!! そこに直れ―――ッッ!!」


 そして毎度のことながら……そこで私のファイティングスピリットに火が点いてしまったのは、――それこそ、言うまでも無かった。




【終】





→→→ about next story →→→
 桃花と先輩の“出会い”編。
 ちょっぴり番外編テイスト。
 テーマは8月「夏休み」
『夏の記憶 ~Anniversary -Sweet Memories-』
→→→→→→→→→→→→→→
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