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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【1.前哨戦】 [2]

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 かつて、ウチの高校において絶対的な権力を誇った生徒会組織があった。
 それまでは、在るのか無いのか分からないくらいに存在の薄かった〈生徒会〉という組織そのものを、それは根本からガラリと変えてしまった。
 何をどうやったら、そうなるのか……ヤツらの意図なんて俺には知るよしも無いし、やったことをイチイチ数え上げればキリも無いので省くけど……少なくとも、生徒の誰にも興味を向けられることのなかった生徒会を、生徒の誰からも親しまれるものにまで変えた功績は、確実なものである。
 当時の生徒会役員は現在でも生徒の間では“名君”と畏れられ、引退した現在も尚、現役生徒会組織のバックで校内において絶大な権力を誇っている。


(――絶大な権力を誇っている……ハズの奴らが、かい……!!)


「…入ります。――さァ、張った張った!」
「半!」
「オレは丁だ!」
「さァさァ、半と丁、出揃いました! …よござんすか? …よござんすね?」


 ――ガゴッ……!! 俺は無言のまま、が囲んでいる机ごとサイコロを蹴り上げた。


「ああっ…!!」という三つの声と共に、転がったサイコロの行方を追った三つの視線を。
「テメェら、なあっっ……!!」
 これ以上は無い! というくらいに低い声で呻いて呼びかけ、自分の方に引き戻し。
 すると、即座に視線と共に返ってきたのは……、


「ななななな、なんてことするんだ、平良ーーーっっ!!」
「くっそー、俺の明日からの昼飯代がっっ……!!」
「無粋だぞ平良!! オマエ神聖な賭場とばで何てことしやがる!!」


「――じゃっかーしいッッ!!!」


 そんな、狼狽・嘆き・怒り、その他もろもろのウラミ声を俺は、そのヒトコトで一刀両断に切って捨てる。
「毎度毎度、寄ってタカって集まっては賭場なんぞ広げやがって……!!」
 言った途端、ガタッと部屋の奥から物音が響いてきた。
 ビクッとして反射的にそちらを振り仰ぐと、奥の隅に置かれていたソファからのっそりと誰かが起き上がった姿が、視界に映り……、
「――おう吉原、いいトコに来た。いい加減ソイツら持って帰れ」
 大アクビをしながらコチラに向き直り言ったのは……我が天文部顧問、地学担当の碓氷うすい恭平きょうへいセンセー。
 確かに、ココは地学準備室。――地学担当教諭の根城のような場所でもあることだし、だから碓氷センセーが居たトコロで、別段不思議でも何とも無いハナシなんだけど。
「――センセー……居たなら止めようよ、仮にもセンセイなら生徒の校内の賭博とばく行為は……」
 呆れた声で呟いてみせるも、…まあ、碓氷センセーがこういうヒトなのはいつものことなので、そこらへん、敢えてツッコミは控えておく。
(それよりもコッチだ、コッチ……!!)


 先刻、俺にサイコロごと机を蹴り飛ばされて嘆いていた。――いわゆる、コイツらが例の“元凶”。
 そして“いまだ校内において絶大な権力を誇っている”ハズの、件の生徒会組織の役員であった面々、でもある。


 坂本さかもと直哉なおや。――三年C組在籍、前年度生徒会会長。
 葛城かつらぎ はじめ。――やっぱり三年C組在籍、前年度生徒会副会長。
 田所たどころ将太しょうた。――同じく三年C組在籍、前年度生徒会書記。


 三人が三人とも、揃って身長一九〇㎝級の大柄でガタイの良いタイプであり、そこから付いた呼び名が《生徒会三連山》。
 彼らが属していた頃の全盛期の生徒会は、“難攻不落”と、全校生徒のみならず他校生徒会からまでも一目置かれ、恐れられていたものである。
 既に今年度の生徒会メンバーに役職を引き継ぎ引退した現在も尚、《三連山》の威光は健在であり、現役員の影に隠れて、今度は“生徒会執行部員”としての位置ポジションからその手腕を揮っていると、もっぱらの評判である。


 そして何の因果かコイツらは……俺と同じクラスで、同じく共に天文部員でもあり、――おまけに昔ながらの友人でも、あったりする。


 もともと俺たち四人は、俺が小学生の時から今でも通っている空手道場で、知り合った仲間だった。
 ゆえに気心が知れているということもあるが、マジメに本心から、空手以外でコイツらに勝てたタメシが一度も無い。…別段、弱みを握られているとかいうワケでも無いのだけれども。
 ただ純粋に、俺が敵わない人間のうちの三人、というだけのことだ。
 俺みたいに近くに居すぎると、三人とも生徒会の人間のクセして何かとゆーと校内でバクチを打つわタバコは吸うわ酒は飲むわで、なんでこんなにスチャラカ人間なのだろうかと思わず嘆きたくなるくらいイロイロな素行不良の面が見えてしまって、あまりにも人間として、高校生として、ダメダメのような気がヒシヒシとしてくるものなのだが……にもかかわらず、ヤツらの先生たちの覚えは、メチャメチャ良い。
 唯一の例外は碓氷センセーくらいなもので、後の先生連中のホトンドは皆、奴らの外面にコロッと騙されている。
 それも三人が三人とも揃って要領が良く、己の素行の悪さのカケラすら、全くもって覚らせないようにしているから……というのが一つ。
 また、先生連中が生徒を計るバロメーターの最たるもの、――成績。
 この点に於いても奴らに抜かりは無く、校内で各種テストが行われるたび、張り出される上位順位表のトップ3を、常にコイツら三人で独占しているような有様だ。
 おまけに三人とも、“もと生徒会役員”という肩書きまで持っている。それも、“名”と冠を付けてまで呼ばれていた生徒会組織だ。
 ――そりゃー、先生なら誰でもダマされるだろう絶対。


 普段は、この〈地学準備室〉とは〈地学室〉を挟んで反対側の並びに在る〈天文部部室〉で溜まっているコイツらが、今日に限ってナゼわざわざ地学準備室に溜まっていたのかは、俺の知ったこっちゃないが……ともあれ、ドアを引き開けた途端、出会い頭に目の前に“元凶”を見つけてしまって、ココで会ったが百年目、とばかりに、親のカタキでも討つが如くに積もり積もったウップンを晴らすべく、思わず机を蹴り上げてしまったワケだったのである。
 机を蹴り上げたその足を、今度は奴らの真ん中にドンッと下ろすや否や。
「ヒトに面倒ばっかり押し付けやがって、当のテメェらはノンキにバクチかぁ……?」
 我ながら借金の返済を迫るヤクザのようだ…などと思いつつ、そこで凄みを効かせたニヤリとした笑みで奴らを見渡し、ワンクッション入れて。
「ざけんな、テメェら!! それでも生徒の上に立つ生徒会の役人かコルァ!!」
 そして間髪いれずに怒鳴り倒した。
「ちょっ…ちょっと平良、もうちょっと静かに……!」
 怒鳴った途端……笑っちゃうくらいに珍しく慌てふためきだした目の前の面々。
 普段なら、俺が何を怒鳴ろうと喚こうと、平気でヘラリとした笑みと共に流して往なしてくれやがるヤツらが……今日に限って、何かが変だ。
 だからと言って、俺の噴き出した怒りの全てが収まるワケも無く。
「ああ!? このに及んで責任逃れかぁ!? ふざけんな、コノヤロウ!!」
「ちちち違っ……!!」
「何が違うっつーんだ、このアホども!!」
「違わない…違いません!! 平良に面倒ゴト押し付けたのは俺たちですッッ……!!」
「認めるから……だから平良、もうちょっとボリューム下げてっっ……!!」
「…………?」
 ようやく俺も、今日のコイツらは“何か変?”と思い始め、咄嗟に口を噤んでみた、――その途端。


 ――ガラッッ……!!


 ふいに勢い良く地学準備室の出入口のドアが引き開けられたと思ったら……、


「――見ぃつぅけぇたぁわぁよぉおおおおお~~~ッッ!!」


 そこに、ものすごい形相で息を弾ませ立っていたのは、俺らよりも一学年下…現在二年生の、現役生徒会役員でもある会計の梨田なしだ女史。
 彼女はコイツらアホ三人が生徒会役員だった昨年から、その下で会計を務めていた人でもあり。
 今も昔も、生徒会を影で操っているのは彼女だと言われるホドの実力者。…および権力者。
「毎度毎度いつのまにか逃亡しくさりやがってーッッ……!!」
 荒い息の下で吐き出された、そんな彼女の低い声に、一同ビクリと凍り付く。――マジで怖いし、そのハクリョク。
 そのままツカツカとコチラへ歩み寄ってきた彼女は、おもむろに、何の前触れも無く、げし、がし、ごいん、と、何の遠慮も躊躇いも無く、仮にも上級生である坂本、葛城、田所を、それぞれ一発ずつ、順番に殴り倒した。
「うごっ…!」「ぐおッ…!」「あがッ…!」と、それぞれにアタマを抱えて呻く三人の前で仁王立ちになり。
 そして叫ぶ。


「とっとと生徒会室に戻りなさい、この三バカども!! 仕事はまだまだ山積みなのよ!! いー加減、ちゃきちゃきマジメに働きやがれ!!」


 ――ぶっちゃけ彼女は、ヤツら三人が唯一アタマの上がらない人間、でも、あったりする。
 …まあ、どこの世界に於いても、結局はサイフの紐を握ってる人間が最も強いというのが真相、ってだけのことかもしれないが。


 そして……哀れにも三人は、梨田女史に蹴り出されるようにして、転がるように地学準備室を出ていった。
 きっと奴ら、あの彼女から逃れるために、今日に限ってワザワザ地学準備室で溜まっていたのだろう。…ナルホド。
 とはいえ、奴ら三人が生徒会の仕事から逃亡しては、その都度、梨田女史に連れ戻されている姿は……また、奴らを探して彼女が全校を走り回る姿も……ちょーお馴染みの光景となっているため、〈自業自得〉と思いこそすれ、何の同情すら湧いてもこないが。
(つーか、俺の“ここで会ったが百年目”的この怒りは、一体ドコへ持っていったらいいものか……)
 ひょっとしたらイチバン可哀想なのは俺かもしれない…と、不完全燃焼で爆発したままの怒りを持て余し、フウと切なくタメ息を吐いてみた途端。


「――やーっと静かになってくれたか……」


 そんな声と共に、部屋の奥からギシッとソファが軋む音がして。
「…ったく、入れ替わり立ち代わり駆け込んできては騒ぎやがって。ココは駆け込み寺じゃねえんだって、アイツらによく言っとけよ吉原」
「…………」
 案の定、振り返った先には、再びソファに寝そべってタバコに火を点けようとライターをカチカチやってる顧問の姿。
「センセイ……心の底からシミジミと、『この教師にしてあの生徒あり』って、思ってみてもいいデスカ……?」
「オマエの地学の点数に影響が出てもいいなら、好きに思え」
「…憲法で保障されているハズの『言論・思想の自由』はドコへ?」
「そんなもん、とっくに憲法改正のアオリを食ってドブの中だ」
「…………」
 そんな不穏なことをシラッと言っては、フーッと深々と火の点いたタバコの煙を吸って吐き出す、センセーの仕草を眺めやりつつ。
 俺は再びタメ息ひとつ。――めっちゃくちゃ深々と。
 …まあ、こんなコト言うこのヒトが、実は言ってるホド極道なヒトじゃない、ってことは、ちゃんと分かっていることだけどもね。…そもそも、ここまで口の悪い教師も珍しいよな本当に。
「くつろいでるトコ悪いけどね、センセー。俺は別に、ココに怒鳴り込みに来たワケじゃないんだよね」
「は……?」
「センセー探しに来てみたらアイツらが居たもんで……つい、積年のウラミつらみが爆発してしまってさー……」
 そこでようやく訝しげにコッチを振り返ってくれた碓氷センセーを眺めやり、俺はニッコリと笑ってみせた。


「体育祭のことで、センセーに頼みがあって。――ちょっくら部室まで来てもらえませんか?」



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