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Anniversary 1st Season
『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【3.中盤戦】 [2]
しおりを挟むおおおっ…! と客席からどよめきが走る。
そして遅れて投げかけられる、からかうような囃すような口笛や嬌声。
皆が皆、この“指令”の中身を聞いて、これから次に起こるだろう展開を、野次馬根性で期待しているのに違いない。
所詮“他人事”であるならば、これは、この上なく楽しめる“見世物”であることに、相違はないのだから。
その聴衆の“期待”を煽るべく……ゴール中継係が、楽しそうに言葉を継ぐ。
『では、それが正しかったのか、今ここで、証明してもらいましょうねー。…というワケで、どうぞ思いのたけを伝えちゃってクダサイ!!』
途端、待ってましたとばかりに大声で湧き上がる生徒たち。
「―――なんってオソロシイ……!!」
マイクを通して伝えられる『えー今ここでですかあ?』なんてクネクネしながらゴールで繰り広げられる白昼堂々の強制的告白劇を眺めやりながら、冷や汗と共に小さく呟きを洩らした早乙女にも、ここでようやく、その『オソロシサ』が伝わってくれたようだった。――な? エゲツナイだろ?
しかも、更にエゲツナイことに……これは“極秘事項”として公にはされていない話、なのだが……この告白劇が、正真正銘、コイツら三人ほか実行委員会上層部の面々により仕組まれたものだということを、俺は知っている。
ようするに初回レースで一位になった生徒は、一般聴衆の盛り上げ役、…つーか後のレースをやりやすくするための、コイツら“仕掛け人”どもが用意した“サクラ”であるのだ。
突然そんなエゲツナイ“指令”なぞを目の当たりにしたら、まず当の走者が戸惑うに違いない。しかし、そんな初っ端からこんな条件を出されて、しかも難なく“サクラ”によって為されてしまえば……走者の誰もに“この競技ではこれがアタリマエのこと”という認識が刷り込まれてくれることだろう。
何がオソロシイか、って……コイツら“仕掛け人”どもの、これほどまでの用意周到さが、競技やら条件の中身やら以上に、この上なくオソロシイこと極まりない。
したがって、初っ端でコレだったものだから、ここから先も競技は順調に進行し。
そして二位以降も、レースが進むたび次々に……出るわ出るわ。
『アナタのカレシ』『既にカレシ(カノジョ)が居る人』『アナタの友人のカレシ(カノジョ)』、なんてのは序の口、『モトカレ(モトカノ)とキッパリ別れられずにいる人』『モトカレ(モトカノ)とヨリを戻したがっている人』『現在“三角関係”の真っ只中にいる人』『つい最近、告白されてキッパリすげなく相手を振ってしまった人』、だとかいう少々品性を疑われるようなネタも含め、明らかに品性を疑われるような『現在フタマタかけてる人』やら『現在ウワキしてる人』だとか……サスガ、ウラの名を《「秘密を暴くぜドコまでも!」トライアル★》と云うだけのことはある。――秘密、暴かれまくり。
そんなキョーレツな“指令”に隠れてヒッソリ、『いまクラスで最もモテてる人』だの『成績が学年で上位三番以内に入る人』だのという、ごくごく普通で大人しげなものも混じってはいるが……それでも、あんなキョーレツなヤツに比べれば、やっぱり混じっている比率は少ない。
そうこうしているウチに、「島崎先生、一緒に来てくださいっ!」と、目の前で島崎センセーも“借り人”として連れていかれた。
ちなみに、この競技の“指令”の中には、探し人の“条件”だけではなく、“そのものズバリこの人!”と実名を記されたものも混じっている。――それを競技名にちなみ《指名手配書》と呼ぶが、その手配された人物を見事ゴールまで連行できれば、所定の点数だけでなく、《褒賞金》としてプラス百点も与えられる、という、当たったらラッキーなサービス指令。
島崎センセーが連れていかれた理由も、まさにソレである。
モチロン、予め“指名手配”された人物――おもに先生方であるが――に対して、その旨の告知はされている。よって、“連行”しに来た選手が、担任・副担任として自分の受け持っているクラスが所属するチーム以外の生徒ならば、捕まらないように逃げることも許されている。
島崎センセーの場合は“養護教諭”であり、本来ならドコのチームにも属していないワケだから……サービス指令中のサービス指令、という、めちゃくちゃラッキー指令だったに違いない。――てゆーか、そもそも本来なら島崎センセーは、イヤガラセのごとく全ての追っ手から逃げてやるような、唯々諾々と優しく捕まってくれる部類の人間では、間違っても無いハズなのだが……ここ救護テント内で繰り広げられていた俺たちのファイティング模様を見物しているあまり逃げるのを忘れてた、というのが本当のトコロだろう。
「――オマエら一体なにしてるんだ? こんなトコロで集まって」
連行された島崎センセーと入れ替わるようにしてテント内に顔を覗かせたのは、――碓氷センセー。
長身のセンセーは、屈むようにして低いテントの屋根をくぐり、中に入ってくると……向かい合っている俺と坂本を目の当たりにして、怪訝な表情で眉をしかめた。
「…こんな狭いトコロでストリートファイトか?」
よくやるよな空手バカども。と、呆れたように発された呟きで、思わず脱力。
「センセー……状況を見てから言ってよね、そういうことは……」
「知らねェよ、いま来たばかりで状況なんて。――それよりオマエら、三樹本みなかったか? 探してるんだが見当たらなくて……」
「…………」
今度は碓氷センセーか……今日はモテモテじゃん、どうした三樹本。
その場に居た俺たちは皆して、無言で揃ってテント内スミッコの一点を指差し……そちらに何気なく視線を遣ったセンセーが見たものは……相変わらず椅子に縛られては口にガムテープ貼られたままの、件の三樹本の哀れな姿。
「――何のプレイだよ?」
「だから、教師ならもっと教師らしいこと言ってくれよっつのセンセーっ!」
ドコをどう見たら、コレが『何のプレイ』に見えるのか……校内で生徒が不当に拘束されているという事実にはムシですか。そうですか。
「どう見たって……この状況は、『悪人三人組に捕らわれた姫を助けるべくアジトに乗り込んだ勇者二人が逆にトッ捕まって立ち往生している場面』にしか見えないが……」
――まあ、そう言われてみれば当たらずしも遠からず……。
「…って、ともあれ! センセーだって、その“姫”を捜しに来たんなら、コッチに加勢してくれるだろ!?」
そこで縛られたままの三樹本が「うううーっ」とガムテープ越しに何事か呻くも……多分きっと、『“姫”とか言うなや!!』くらいのことを叫びたかっただけだろう。
だが、そんなヤツの呻きだか叫びだかは、アッサリと黙殺され。
「甘いぞ平良! そうやすやすと俺たちが加勢を許すか!!」
「恭平ちゃんと云えども……我らの手から、カンタンに姫を助け出せると思うなよ……?」
――そして、三樹本=姫、定着。
「どうでもいいが……つーか、何でそもそも、こんなトコロでコイツが“姫”よろしく拘束されているワケなんだ……?」
――パァン!!
その碓氷センセーの至極当然な呟きと共に、響き渡るスタートピストルの合図。
確かコレが、この競技の最終レース。
「おい、小泉が走るぞ!?」
その葛城の声に、俺たちの視線が一斉にグラウンドのスタート地点に向いた。
そう、ヤツらにとってカンジンなのは、このレース。――小泉と三樹本を接触させないことが、そもそもの目的なのだから。
天文部におけるコイツらの悪事に通じている碓氷センセーも、ここでようやくコイツらが三樹本を拘束している意図を察したらしく。
ミョーに納得したような表情でトラックを走る小泉を眺めつつ、「ナルホド、そういうことか」と、ニヤリとした笑みを作った。
「でも、アイツの三樹本センサーはスサマジイからな。こんなトコに隠しておくくらいじゃー、イミねえだろ?」
どこに居たって三樹本だけを目指して突っ走ってくる小泉の習性については……天文部の人間なら既に周知の事実である。
しかし、そこはそれ、コイツらが考えていないハズも無く。
「だから見つかっても簡単に連れていかれないよう、こうしてワザワザ縛ってんじゃんか」
…しかも切らなきゃ解けないくらいにキツイ結び目つくりやがってな。
確かに、たとえ小泉がココに三樹本が居ると勘付いたトコロで、これでは制限時間内にゴールまで連れていけないに違いない。
そうこうしている間に、いちばんビリでスタートを切っていた小泉は、いちばん最後に“指令”の書かれた紙を拾い上げ……その場で一瞬、硬直した。――そして……、
『おおーっと、第三コースC黄色チーム選手、一人だけ客席とは逆に走り始めました!』
放送席の実況係が、そこで忠実に実況中継を電波に乗せる。
その言葉通り……小泉は一人だけ、他の走者と違い、生徒の居る応援席や一般客の居る観客席のある方向とは逆へ向けて走っていた。普通、この競技で指定された人物を探すのに、皆が皆、まず客席の方向を目指してゆくのにもかかわらず、だ。
しかも彼女は、明らかにコチラを目指して走ってくる。
つまり、これは……コイツら三人の抱いていた危惧が“現実”となってしまった、ということなのか……?
てゆーか、それ以前に……、
(――三樹本センサーの威力、恐るべし……!!)
これに尽きる。…おそらく、この場に居た人間全員が、こう思っただろうに違いない。
それくらい、小泉の足取りに迷いは無かった。一生懸命、救護テント目指して突っ走ってくる。…遅いなりに。
「やっ…野郎ども、隠せ隠せーっっ……!!」
そんな、すごい気迫を伴っては走ってくる小泉を見、慌てた坂本の合図で三人が、縛られて座っている三樹本の前にバッと立ち塞がるも……しかし、そんな三人の様子などドコ吹く風。
勢い良くテント内に飛び込んできた小泉は、迷うこと無く、真正面から駆け寄っていった。
そして、その腕をガッチリ掴む。
―――碓氷センセーを。
「お願い先生、一緒に来て!!」
「……は!? 俺かよ!?」
そして嵐のように碓氷センセーが連れ去られ……後に残る静けさ。
「――なんだよ、人さわがせな……」
しばらくボーゼンと立ち尽くしていた三人が、やっぱりボーゼンとしていた俺が洩らしたその呟きと共に、やおらフーッと深くタメ息を吐きながら、その場にヘタヘタとヘタり込んで。
と同時にパンパンッと鳴り響いた、制限時間終了を知らせる二発の銃声。
「ああービビッたー……!!」
「マジで“指令”が三樹本かと思ったじゃねーか……」
「アイツが真っ直ぐコッチ向かってきた時は、ヒヤッとしたぜー……」
そうして思い思いの呟きを洩らしつつ、再び安堵のタメ息を吐く。
どうやら小泉の拾った“指令”は、例の《指名手配書》だったようだ。――とんだ取り越し苦労だったよな。
考えてみたら、碓氷センセーも“指名手配犯”に指定されていたハズだ。
この碓氷センセーこそ、イヤガラセとばかりに真っ先に捕まらないよう逃げ出しそうなモノなのだが……1-C副担任でもあることだし、相手が1-Cの小泉でもあるし、ここはC組の点数のためにと大人しく連行されてくれたのだろう。
やれやれ…と俺もタメ息を吐きつつ、ヘタり込んだ葛城の手の中から、抱えられていたままの救急箱を取り上げて、早乙女に渡した。
「これで三樹本が縛られてる理由も無くなったことだし……いい加減、切ってやれ」
そして俺は再び、グラウンドのゴール地点へと視線を投げる。
「…おい、しかも大活躍だぜ小泉」
運動音痴である小泉としてはスバラシイことに、どうやら結果は“一位”だったみたいだ。
見てみろよ? と投げかけた俺の言葉に反応して、ヘタり込んでいた三人も、やっとビニール紐から解放された三樹本も、ハサミを救急箱にしまいながら早乙女も、一斉にゴール地点へと視線を向けて、そして一斉に「おお!?」と声を上げた。
「あの小泉が一位……? 奇跡だ…奇跡としか思えない……!!」
「なにはともあれ、デカしたぞ小泉!!」
「これで点数は三倍だし!! しかも、《WANTED》なら得点百点はカタイ! つまり三百点はGETできるってコトか!?」
「しかも、プラス《バウンティ》百点分!! 上手くいけば、これで一気に順位も変わるぜ!!」
現在のところのC組連合の総合順位は三位。そして二位のA赤組との得点差は僅差の百五十点。また一位であるD青組との得点差は五五〇点。
「桃花が体育祭で活躍するなんて、初めてやん……?」
そんな三樹本の驚いたような呟きに被さるようにして、『さーて、選手の皆さんが揃いましたところで…』と、再びゴール地点からの中継がスピーカーから届いてくる。ようやく査定に入るようだ。
『第一位は、C黄色組、小泉選手ですね。連れてきたお相手は、…なんと地学の碓氷先生! しかも先生は、実行委員上層部より指定されてます“指名手配犯”の中でも、“逃げ出しては捕まえられてくれなさそうな教師ベスト1”に堂々認定されているというツワモノです! ワタクシのもとにも、そのデータが御座います!』
そこで小さく、『やかましい』という不機嫌そうな碓氷センセーの呟きが、ゴール中継係が近い距離で喋っていたからだろう、マイクに拾われて届いてくる。…その声音から察するに、よっぽどその場にいるのが不本意に違いない。
『指令が《WANTED》ならば、こーれーはー点数が期待できそうだー!!』
ちなみに、同じ《指名手配書》でも、点数にバラつきがある。先刻のアナウンスの通り、碓氷センセーのように、そう易々と捕まってくれなさそうな“指名手配犯”には、それ相応の高得点が付けられているのだ。また、“若い”という理由もあるだろう。年寄りの先生に比べればフットワークも軽いからな。それにウチの高校では若い先生が少なすぎるということもある。…よって島崎センセーも然り。さっき捕まって発表された島崎センセーの点数は百五十点だった。
碓氷センセーならば、島崎センセー以上の高得点を弾き出してくれるだろうに違いない。
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