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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【5.後半戦】 [3]

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 ナゼに〈体育祭〉という場で筆記試験なんて!? という至極ご尤もな意見は、この競技に於いては無きに等しい。
 コース上に用意された机の上で、よりにもよってバトンを抱えたままで、ただヒタスラにカリカリと問題を解かねばならない。出題される問題は中学生卒業レベルの国語・数学・理科・社会・英語のうち、どれに当たるかはアトランダム。制限時間は五分間。全十問中七問正解で合格。制限時間を過ぎたり、正答が七問に満たなかった場合は、即座にソコで問題変更。また一からやり直しとなる。…ウッカリ間違ったら大幅なタイムロスになりかねないという、そんな悪魔の微笑む関門である。
 とりあえず、ここは中学を卒業してまだ間もない一年生を当てるかと、早乙女を持ってきたワケだったのだが……やっぱり、対する相手が悪かったようだ。
 早乙女に続き、さほど間を置かずに机へと向かったのは、生徒会チーム、葛城。
『こちら第三の関門です筆記試験、このたび出題されましたのは数学の計算問題のようですね!』
 そんな中継の声で、俺は思わずあちゃーと額に手を当て空を仰いでしまった。
(よりにもよって『数学の計算問題』ときたか……!!)
 何を隠そう……あの葛城は、試験のたびに学年順位一~三位を争っているような《三連山》にあって、数学だけは確実に一位を逃すことはない、まさに“数学の鬼”と呼べるべきヤツなのである。おまけに昔の珠算経験がモノを言ってるのか“暗算の鬼”でもあり、計算問題はヤツの最も得意とするトコロなのだ。
 一応これはタイム戦ということもあり、早乙女には予め『出された問題を全部解く必要は無いぞ』という指示は出してある。どうせ七問正解でクリアなのだ。確実に“正解”と自信のある答えを七つ出しさえすれば、それだけでココは事足りる。キッカリ十問正解させて余計な時間を食うことは無い。
 早乙女も理系だし、そこまで成績が悪い方でも無いハズなのだが……それでも所詮は一般人、“数学の鬼”を相手に勝負をするには、まだまだキャリアが足りなかったらしい。
『おーっと、ここで順位が入れ替わりましたね!』
 実況の通り、早乙女が鉛筆を置いた、それよりも一呼吸早く、葛城が七問正解を叩き出すのが早かった。
 アッという間に入れ替わる一位と二位。――その差、おおよそ一馬身。
(――てーコトは、この差を埋めなきゃなんないのは次の走者の俺、ってコトか……?)
 …まあ、そんなイヤな予想はウッスラとあったけどさ。…とはいえ、出来ればこのまま逃げ切りたかったよなー。
「おい武田。――このまま由良かかえて、どっかシケ込みに行ってもいいぞ? 俺が許す!」
「イヤ、許されても。それは俺的にモノスゴク魅力的なお申し出なんですけどねー、でもやったら最後、俺が梨田に殺されますって」
「気にするな。オマエなら殺されても死なん!」
「……死にますってバ殺されたら幾ら何でも」
「ちっ、根性のェヤツだな」
「悪いけど、ここでまた一位と二位を引っくり返されるワケにはいきませんからね! 全力で逃げ切らせてもらいます!」
「ぬかせ、アホ! そう易々と逃げ切らせてたまるかよ!」
 俺と武田がコッソリそんな無駄口トークを交わしている間に、ようやくココまで到達した葛城が、武田の手の中に由良を落とす。
「お先に、先輩!」
 そう言い置いて武田が走り去ったと同時、そこでやっと俺の目の前に早乙女が転がり込んできた。…そして即座にクルリと反転。
 こちらに向けた早乙女の背中から俺は、まるで小さい子供を抱き上げるように、小泉を抱き上げて身体の片側に抱え込んだ。
(――うっわ、軽っ……!!)
 その小泉の重みに、思わず俺はビックリする。――イヤ、やっぱ身長が身長だし、軽いのは解っていたつもりだったんだけど。それでも、想像してたよりもずっと小泉は軽かった。仮にも妹だから由良の重さくらいは知っているけれど、ヘタしたらそれよりも軽いかもしれない。ひょっとしてコイツ、体重四十㎏も無いんじゃないだろうか?
 走り出して前を見れば、相変わらず一位との差は一馬身くらい。
(小泉がコレなら……ひょっとしてココでイケるか……?)


 続く《部活動対抗障害物リレー》、第四の関門。――これまたオーソドックスに障害物、今度は“ハードル”。


 やっぱり平均台同様、出来る限り一番低い高さに設定してあるハズなのだが……それにしたって、人間一人抱えたまま跳び越えるには、かなりキツイ高さであるのかもしれない。
 現に、前のレースまでを見ていて、フツーに跳び越えていたヤツなどホトンド居なかったし。せいぜい跨ぎ越すのが精一杯、というアリサマだった。しかもバトンと手を繋いで走っている女子の走者の場合でも、走ってるスピードで一緒に跳び越えるなんて、ほぼ不可能に近かったしな。横並びに並んで一緒に跳び越えようとするには、タイミングが難し過ぎるって。それに何よりも危険だし。
 そんなハードルを、やっぱり目の前では、いくら運んでいるのが軽い由良とはいえ、武田がフラフラとスピードを落として跳び越えているのが見える。やっぱ武田のような標準体格の一般男子高校生には、由良でさえも少々走って運ぶにはキツイのかもしれない。
(――ってことは、ココがチャーンス!?)
「しっかり掴まってろよ小泉! ちょっと激しく動くからな、絶対に落ちるなよ!?」
「へっ……!?」
 小泉の返答を待たずに、俺はそのまま助走をつけ、一つ目のハードルを飛び越えた。
「ぅきゃあっっ……!!」
「だぁから、しっかり掴まってろって言っただろうがっ!!」
 まさか本当に俺がハードルを飛び越えるとは思っていなかったのだろう、即座に悲鳴を上げた小泉が、俺の声で慌てたように首っ玉にしがみついてきた。…それはそれで走り難いんだが、まあここはガマンすることにしよう。
 二つ目、三つ目とハードルをクリアしていくうちに……前を走る武田の背中も、より近くなっていく。
「げっ、先輩速すぎっ……!!」
「ばーっか!! ダテに十八年も由良の兄貴をやってるワケじゃねーっつの!!」
 これくらいの重さなら持ち上げ慣れてる。…ことに加えて、ダテに日々鍛えているワケでは無い。
 あと、こういう時だけはヒトよりも身長があると便利だよな。跳び越すハードルが低いのなんのって。やっぱ足の長さの勝利ってヤツー?
「兄なら、可愛い妹のために手加減して下さいよっ!!」
「バッカヤロウっっ!! 勝負に『可愛い』も『妹』もあるか!! 悔しかったら一般女子高校生かかえて走れるくらいの筋肉を付けてみやがれ!!」
「ちゃんと抱えて走ってるじゃないですか、現に一般女子高校生を!!」
「阿呆!! 由良は“一般女子高生”の規格外だ!!」
 そこですかさず「ひっどーいたいちゃん!!」と武田の背中から振り返って叫ぶ由良のことは……とりあえず無視!
 そのままヤツの背中を刺し、横に並んだトコロで、ヨユーを見せ付けるようにニヤリと笑い、俺は言ってやった。
「一位の座は返してもらうぜ、ロリコン副会長!」
「だから、なんで同い年の相手が好きで『ロリコン』言われなきゃならないんですか!! ぜってー一位は渡しませんっっ!!」
「大丈夫だ、オマエは殺されても死なないって! 安心して一位は任せろ!」
「だから死にますって、殺されたらサスガに!!」
「でも相手は梨田サンだろ!? 殺しまではしないだろうから大丈夫っ!」
「甘いですよ!! 相手が梨田だからこそ殺されるんでしょうがっっ!!」
 そして俺たちは、そんな当の梨田女史が聞いてたら確実にサクッと刺されてしまうような口喧嘩もどきを並んで走ったまま飛ばし合い、そのまま次の走者のバトン受け渡しゾーンへと突っ込んでゆき。
 まさに同着で、それぞれのバトンを次の走者に手渡した。
 ウチの“次の走者”は……アンカー・三樹本。
 抱え上げていた小泉を、俺はそのままヤツの差し出した両手の上に落っことす。
「後は任せたぞ三樹本!」
「了解っ! ――落ちるなよ桃花ももか!」
「は…はいッッ……!!」
 そしてクルリと回れ右。
 走り出したのは、隣の坂本と同時だった。


 それにしても……それが幾ら“小泉を地面に落とさないような受け渡し方法”を追究した結果、であったとしても。
 奇しくも小泉を、所謂“お姫サマ抱っこ”で運んでいる三樹本って……それが三樹本だからこそ、なんだかやっぱり、そこに作為的なモノを感じてしまって……微笑ましいハズであるのに、あまりにも微笑ましく笑えないこと、この上もないのだが―――。


『さーて、三位以降を大きく引き離してます、サスガ優勝候補である生徒会、そして天文部チーム! 一位二位横並びで独占し、そのまま最終関門へと突入ですっっ!!』


《部活動対抗障害物リレー》、第五にして最終関門は。――その名もズバリ、“ウルトラクイズ”!


 …まあ所謂、フツーにクイズ問題が係の口から出題される、というだけのモノでしかない。よって、それに答えることが、この関門での“クリア”となる。
 しかし、そのクイズの出題というのが、これまたクセモノであったりして。
 普通に“正解が一つしか無い問題”を次々に、正解が出るごとに走者の数だけ別の出題が繰り返される方法もあれば。――つまりこの場合は、一問の出題ごとにクリアできる走者は一人しか出ない、ということだな。最も早く答えられない限り、これも大幅なタイムロスとなる出題形式だ。
 対して、走者の数だけ…ようするに五つ以上の正解がある問題――例えば『料理に使われる“サシスセソ”のうち、一つを答えなさい』、といったような、複数の正解を一つずつ、早い者順に答えた者から抜けてゆく形式のものもあり。
 …やっぱり、当たってみるまで何が出るかは分からない。ひたすらにアトランダム方式。
 ここに三樹本を持ってきたのは、生徒会チームのアンカーは武田がくると考えていたこともあるが、ただ単に、ウチ部で最もクイズに耐え得る余計なムダ知識を人並み以上にゴッソリ持っているのが、この三樹本か碓氷センセーか、というだけだったまでのことだ。
 ここで坂本が出てくるとは―― 一応その可能性も捨ててはいなかったものの――全くもって考えてもみなかった手前、やっぱ、人並み以上のガタイを持つ俺とセンセーとで“平均台”と“ハードル”には対応しないと、ぶっちゃけ一般男子高校生の標準体格である他の二人ではクリアも危なっかしいかもなーと考えた結果、よって必然的に、アンカーには三樹本を置くことが決定してしまったよーなワケだったけれど。
 ――どー考えても、相手が坂本である以上、三樹本じゃー荷が重かろう。
 なにせ坂本は、アイツこそ“雑学の鬼”だからだ。…イヤ、“薀蓄うんちく王”と言い換えても過言ではないかもしれない。それくらい、ムダ知識の宝庫。加えて、非常にムラっ気が大きいため“常に”とはいかないが、以前、ウチの高校の創立以来初めて、全国一斉模試で総合一位を叩き出したという実績まで持っていたりもする。
 よーするに、その知識量とアタマの回転の良さはハンパじゃない、ってコトだ。
 真っ当な問題を出されたとして、そんな坂本よりも早く三樹本が正答を返せる可能性なんて、ほぼ無きに等しいというもの。
(…とはいえ、勝負なんてのは最後までやってみないと分からないモンだしなっ!)
 そこに俺は一縷の望みを掛けてみる。…つーか、もはやそれしか出来ないっての。


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