路地裏のアリス

RYOMA

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交渉

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「で! どうだい買う気になったかい!」
蛙のおじさんが話を聞いたのだから買って当然だろう、というぐらいの勢いで言ってきた。
「お……おいくらなんですか」
私は控えめな声で聞いてみる──
「そりゃあ、これだけのもんだからねえ。そんなに安くは売れないなぁ」
おじさんはそう言いながら指を三本立てた。
「金貨3枚でどうだい」
うむ……金貨3枚と言われても、安いかどうかもわからない……まあ、そもそも、そんなの持ってないから買えないけどね。
「すみませんけどお金無いので買えません」
私は無難にそう答えて断る。
断ったのにおじさんは諦める気がないようだ……さらに声を荒げて勢いよく言葉を投げかけてくる。
「何言ってるんだいおねえちゃん。この機会を逃したら二度と手に入らない一品だよ。借金してでも買わないと!」
「本当にお金が無いので買えないんです」
強引なおじさんに、私ははっきりと断る。
「し! かた! が! ない!」
おじさんはそんな私の言葉に対して、意を決したように提案してくる。
「そうだな。お金が無いなら金目の物でもいいよ、姉ちゃん」
金目の物って……そんなこと言われても価値のあるものなんって今は持っていない……それをおじさんに伝えると、不気味にニコニコしながらおじさんが近づいてきた。
「まあまあ、とりあえず見せてごらん」
そう言うと問答無用で、私の鞄の中身を、店前に置いてあった机の上にぶちまける。
「ちょっと……何するんですか!」
さすがに強引なおじさんの行動に、イヌくんもワンワン吠えて威嚇する。
ときたまイヌくんは完全な犬になる。
「おっ! こいつはなんだい?」
そう言いながらおじさんが手に取ったのは、なんの変哲もない自転車用のライトである。通勤に使っている自転車の物で、取り外しのできるタイプなので、自転車に乗っていない時は鞄にしまっていた。
普通に説明してもよかったが、強引なおじさんの行動に、少し腹が立っていたので適当な説明をすることにした。
「それを見つけてしまいましてね、おじさん……それは【太陽の筒】というもので、太陽の欠片が入っていて、光の力を使うことができる優れものです!」
それを聞いて、ポカンとこちらをみている蛙のおじさん……さすがにこんな説明じゃダメかと思っていると意外な反応を示す。
「太陽ってなんだい?」
そういえばこの世界で太陽を見ていない。もしかしたら太陽そのものを知らないのかな……さらにここにくるまでに、まともな光源をみていない……薄いロウソクのような光があるだけなので、もしかして光自体が珍しいのかもしれない……そう思った私は、おじさんに対して、それをネタに攻勢にでることにした。
「おじさん……そんな商売やってて太陽もしらないの? あの伝説の太陽だよ? そりゃーそんじょそこらの一般市民が知っているような話じゃないでしょうけど、これだけの商品を扱っているような商人が太陽を知らないってありえないでしょう」
私が小馬鹿にしたように堂々と話をすると、カエルのおじさんは大きい目をパチパチさせながら。
「あ……あの太陽ね、ほうほう、伝説のあの太陽か……」
さも今思い出したような反応で感心し始めるおじさんが普通にかわいい。
そんなおじさんに止めをさす為に、私はさらに畳みかけた。
「その筒の上に丸いボタンがあるでしょう? それを押してみて」
私に言われた通り、目玉をギョロギョロさせながらボタンをおじさんはボタンを押した。
「ぎゃあ~! なんだ、これは!」
普通にライトが点灯しただけだが、おじさんは強烈な驚きの声をあげる。
「それが太陽の力よ! そしてもう一度ボタンを押してみて!」
驚きで呆然としているのか、私の声にビックリしたように、おじさんはもう一度ボタンを押す。
チカチカと点滅モードで光るライト……単純に光り方が変わっただけなのだが、おじさんは異常な反応を見せる。
「ぐおぉ~~‼ うほぉ~!」
しかし、そんな感じで一頻り騒いだおじさんだが、急にピタリと動かなくなった。
そんなおじさん、一点を見つめてブツブツ言ってると思ったら、私の方をガバッと見ると、引きつった表情でこう提案してきた。
「こ……これとなら、竜眼の鏡……交換してあげてもいいよ……」
絞り出すような声で、何かを悟られないようにと必死なのが読み取れる。
「べ……べつにそんなに欲しくはないけどね。まあ、君がどうしてもって言うのならね、交換してあげるよ」
と、すごい興味津々、物欲しそうな表情でライトを見つめながらおじさんは言う。なんて顔にでるタイプなんだろ……商売向いてないんじゃないんだろうか……そう思いながらも、ここはさきほどの無礼のお返しをしなければいけない、私は非常になり、おじさんとの交渉に挑む─
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