路地裏のアリス

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竜眼の鏡の話

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ひかげ亭を出た私とイヌくんは、出てすぐの道を、適当に進んでいた。目的地も何もないし、方向すらわからないので、とりあえず移動していただけなのだが、これが思いもよらず、良い方向へと流れがやってきた──
その道を進んでいると、一人、また一人と人とすれ違いはじめたのだ。だけど、その人達を、人と呼んで良いのかは少し悩む……なぜなら、あまりにもその見た目が個性的で……たとえば、鋭い牙を持っている猪の頭の人や、ちょっと鋭い目のしている完全にネコ科の表情をしている人、それでもまだ動物とかなら人に近いと感じるけど、全身、カマキリ! って感じの人や、大きなセミが服着ているだけってみたいな人など、昆虫系の人なども見かける。

それにしても私と同じような普通の見た目の人をこの世界ではみない……そう思うと少し不安になる……もしかして自分の存在は異質なのではないのか……この世界の人たちからみたら、私こそ変な見た目に見えてるのではないだろうか……そう考えてると、ふっと異様な違和感を感じる……当たり前のように、自分は普通だと思っているが、そもそも普通とはなんだろう……大多数を占めるってことかな? そうなるとやはり、私はこの世界では普通ではないってことになるけど……

そんな異質な雰囲気の通りを、キョロキョロと見渡しながら歩いていると、通りの脇に、露天や出店がチラホラと見かけるようになる。
そんな時、ぼけーっと歩く私とイヌくんに、蛙の顔をした露天のおじさんが声をかけてきた。
「どうだいそこのお客さん! 今日は珍しいもんが入ってるよ」
特に目的のない私たちは、その声に釣られて蛙のおじさんの露天の方を見る。そこには一目では何の用途なのかもわからない商品が乱雑に並べられて陳列していた。
目玉型の金具が縦に無数に並んだ棒状の物、鏡の付いてない手鏡のような物、ちょっと怖い怪物の置物など……もちろん購入する気など無いのだが、私たちは少し露天の商品を見てみることにした。
最初に私が手に取ったのは、鏡の付いてない手鏡のような物であった。それを何気なく眺め見る。イヌくんは、複雑なキューブ状のおもちゃ見たいな置物に興味があるのか、それをいじり始めた。
私の見ている手鏡には、本来、鏡が付いていそうな面に、妙な紋様が刻みこまれている、童話にでてきそうなドラゴンのシルエットに、大きい目が絡み付いているような紋様……そもそも何に使うんだろうと思っていると、蛙の店主が話かけてきた。

「もしかして、それに興味があるのかい嬢ちゃん!」
別に興味はなかったけど、私は流れで店主に質問した。
「これは何に使うものか気になりまして……手鏡じゃないですよね?」
店主は大きなリアクションで自慢げに話始めた。
「お目が高いねー! そいつはお嬢さん【竜眼の鏡】と言ってね、そりゃーもー普通の手鏡なんかとは訳が違う!」
おじさんの話す勢いがすごい……さっきまで置物を見ていたイヌくんも、おじさんの話を興味津々に聞き始めた。

「その昔とある所に、それはもう立派な王子様がおったそうだ。隣国の王様は、その王子様に姫を嫁に出したいと思っとったのじゃが、その王様には姫が二人おってのう、姉は民などに冷たく、優しいお人ではなかったが、それは、それは美人の姫でのう、妹はお世辞にも美人とはいえぬ容姿じゃったが、貧しい者にも親切で、心優しい姫、じゃった。どちらの姫を嫁に出せば良いか迷ったんじゃが、元々優柔不断な王様は決断できなかった……そんな時、城に竜人の末裔と称する行商人が現れた。普段なら、そんなもんに興味を示さない王様じゃったが、その行商人の持ってきた物に目を付けたんじゃ……それがこの【竜眼の鏡】じゃった!」

おじさんの熱弁は続いていたけど、どうしても気になったので質問した。
「そ……それで、結局、その竜眼の鏡ってどういったものなんですか」
おじさんは一呼吸おいて、その竜眼の鏡の説明を始めた。
「竜眼の鏡はなぁ。決断を迷った者に、正しい決断を見せてくれる魔法の鏡じゃったんじゃ」
「正しい決断……それはどういう意味ですか」
「それは、これを持つ者が、複数の選択を迫られた時に、この鏡を見ると正しい決断を示してくれるそうじゃ」
正しい決断……竜人の末裔……正直、かなり胡散臭いと思った。
そんな私の疑わしい眼など御構い無しに、おじさんはさらに話を続ける──
「それでな、話を戻すが、こいつのおかげで王様は正しい決断ができたという話じゃ」
イヌくんは、おじさんの話に興味あるのか無いのかわからない無表情で質問する。
「それで王様は姉と妹、どっち嫁に出すことにしたんだ」
おじさんは微笑みながら少しもったいぶりながらこう言った。
「姉を選んだんだよ。王子様と姉君は仲むつまじく、王様の国と王子様の国は共に繁栄して、幸せに暮らしたそうじゃ」
そうか……と素直に納得したが、あれ……そうすると妹さんはどうなったのだろうとふと気になった。それでおじさんにそれを聞いてみたんだけど──
「お姉さんは幸せに暮らしたとして、妹さんはどうなったんですか?」
おじさんは困った感じで考え込むとこう答えた。
「さぁーそこまでは話は伝わっとらんね──そんなことは重要じゃないだろ、どうしてそんなこと気になるんだい」
伝わってないのか……重要とかそんな問題じゃないんだけど、妹さんも幸せになってないと、そんなの正しい選択なんて言えないと思ったから……
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