路地裏のアリス

RYOMA

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お会計とは何事

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私もイヌくんも食べ終わり、幸せな気持ちでお茶をすすりながら一息ついていると、ニワトリおばさんがこちらに近づいてきた。おばさんは、伝票を私に渡し、そのまま奥の椅子に座る。

私は財布を出しながら伝票を確認するが……銀1、銅3……うん? なんか見慣れない金額が書かれている、そもそも金額なのかこれは……
わけがわからないのでニワトリおばさんに質問した。
「すみません、これはいくらお支払いすれば良いですか?」
ニワトリおばさんはトサカを立てて、少し怒ったように私に言ってくる。
「何言ってんだ、そこに書いてるだろ。銀貨1枚と銅貨3枚だよ。金貨じゃお釣りが出ないからね」
やばいぞ、どうやらここでは日本円は使えないみたいだ。私は小声でイヌくんに、銀貨とか銅貨とか持ってないか聞いてみる。
「なんだ、それは、そんなの持ってないぞ」
そりゃ、期待はしてなかったけどさぁ、こんなピンチな時にはちゃんと犬をするよね……

財布を見つめて私は心の中でつぶやく。さて、困ったぞ、どうしようか……
「これじゃ……ダメですよね……」

八方塞がりの私は、恐る恐る一万円札を差し出した。
「なんだいその紙切れは! そんなんじゃダメに決まってるだろ」

うわぁ……ニワトリおばさんすごい怒ってるよ……私は慌てて一万円札を財布に戻す。だけど、おばさんの剣幕に押されて慌てて財布に戻そうとしたので、持っていた財布を落としてしまい、財布から小銭がこぼれ落ちた。

チャリンチャリンと小銭が落ちる音が響き渡り、一瞬場が静まり返る。そこで意外な方向へと話が進んだ。落ちた小銭を見て、おばさんが一言発する。
「あら、お金持ってるじゃないの」
ニワトリおばさんは落ちた小銭を拾いあげると、それをまじまじと見ながらこう言ってきた。
「珍しい紋様だけど、これならいいわよ」
「え?」
そう言うことなら……私は手持ちの小銭から、銀貨(100円玉)1枚と銅貨(10円玉)3枚をおばさんに手渡した。
結局、130円の支払いですんでしまった……鯖の味噌煮定食と親子丼で130円は安い。まあ、そんなことより、ここでは小銭が使えるのか……私はこれからの事を考え、財布の中の小銭を確認する。100円玉3枚、50円玉1枚、十円玉4枚、1円玉1枚……多いのか少ないのかよくわからないけど、これが今の私の全財産である。

私は店を出る前に、おばさんにダメ元でこんなことを聞いてみた──
「この世界から出る方法を教えてくれだって?」
おばさんは何を言っているんだいこの子はといった顔で私を見る。私は、この世界に来た経緯や現状把握していることを説明する──そしてこの世界を出たい思いを熱く伝えた。
そんな私の言葉に、おばさんの本当に困った顔をしている。(ニワトリだけどなんとなく表情は分かる)それを見て私は唐突に思った──
私がもし元の世界で普通に生活している時に、知らない人からこの世界から外に出たいから方法を教えて欲しいとか言われたらどう思うだろう……間違いなく、変な人だと思うし、すごく困るであろう……
今いる町から隣町への道順とかを聞く話というなら、容易に理解できるだろう。それは今いる町も隣町も存在を認識しているから……だけど、今いる世界から、外の世界へ行く方法となると、今いる世界しか認識できていない私には、それを理解する事も想像する事もできないんじゃないだろうか……
妙な現実を突きつけられて、私は変に落ち込んでしまった。肩を落として店を出る私を追ってイヌくんがチョコチョコと付いて来てくれた。
子犬が二本足で歩く愛らしい姿と、無条件で私についてきてくれるその存在に、私の現状が絶望にはまだ程遠い事だと教えてくれる──
うん! 私はまだ大丈夫──心の中でそう強く思った。
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