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炎天

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黒猫の情報や、街の聞き込みで炎天のなんららの居場所はわかった。しかし、問題は場所ではない。俺の旅費が底をつきそうになってしまったことだ。

「う……腹減ったな……」

ドラゴンの牙の依頼を受けた村から山二つほど東に移動した場所にある町、ここで手持ちのお金は銅貨三枚と、一泊、宿屋に泊まれるかどうかにまで減っていた。

いまさらだけど、盗賊の財宝に手をつけなかった真面目な自分を呪う。あれがあれば豪遊すらできたのに……。師匠に他人の物を盗んではいけないとずっと刷り込まれてきたのがここにきて仇となった。

「いらっしゃい、あんた冒険者だろ? どうだい、うちの宿屋で一泊していかないか」
宿屋の呼び込みとは珍しい。たぶん無駄だが、一応値段を聞いた。
「一泊銅貨五枚だよ、この辺じゃ一番安くて良い宿で有名だぜ」
「五枚か、足らないな……」
「なんだい、銅貨五枚も持ってないのか? ちっ、しけた冒険者だな、声かけて損しちまったぜ」

去っていく呼び込みを見送りながら、今日は野宿だなと覚悟した。まあ、野宿は仕方ないとして、飯くらいは食おうと、安そうな定食屋に入った。

「銅貨二枚で腹いっぱいくわしてくれ」
明日の朝食代に銅貨一枚は残した。朝食は一日の活力になる。明日はもしかしたら八天獄とやらの一人と戦う可能性があるので、腹減ったので負けましたとかにならないように万全を期す。

「へい、お待ち! 銅貨二枚定食だぜ」
銅貨二枚定食は、分厚い焼肉や魚の丸焼きなどが並べられていて、思ったより豪勢だった。ご飯は山盛りだし、さらにビールまで付いている。酒は師匠に教えられてすでに知っていたのだけど、ビールは苦いので好みではない。どっちかというとウイスキーの水割りがよかったなと思う。

見た目の豪勢さだけではなく、味もなかなかよかった。腹も舌も満足した俺は、今日の野宿の場所を探す為に店を後にした。

しばらく歩き回っていると、妙な気配を感じた。敵意までは感じなかったけど、あきらかに俺を監視しているように感じる。このまま監視されたまま寝床を探すのもしんどいので思い切って声を掛けた。

「俺に何か用があるのか?」

すると諦めたのか物陰から冒険者風の女が現れた。小型のナイフ、軽装鎧、装備から見るとレンジャーか、シーフ辺りだと思われる。

「ステルスアイテムで気配を消していたはずなんだけど……どうしてわかったの?」

「勘だ、なんとなく誰かに見られているように感じた。それより用件はなんだ
? 今日の寝床を探さなきゃいけないから忙しいんだけど」
「ちょっと聞きたいことがあります、お話よいですか」
「嫌だって言ったら付きまとうんだろ? 手短に頼む」
「それでは単刀直入に聞きます、貴方は炎天を探してどうするつもりですか?」
どうやらこの冒険者は俺が昼間に聞き込みをしていたのを聞いていたようだ。

「いや、探し物をその炎天が持っているらしいから取り返しにいくだけだよ」
「取り返しに、なんと命知らずな……炎天は血も涙もない非道な男ですよ。それに八天獄の一人として、超級冒険者並みの実力者という噂、並みの冒険者では手も足も出ないしょう」
「どんな男とか関係ない。そうじゃなければ依頼を達成できないからな」
「ふっ……面白い人ですね、それでは本題に入ります。どうですか、私と組みませんか?」

「組みません」

「え!? 悩みもせずにド直球な即答……この展開なら普通、話くらい聞きませんか!?」
「いや、ただでさえ依頼料はそんなに高くないのに、組んで取り分が減ったらヤダ」
「……──えと……そうですね、私の取り分はいらないですし、なんならこれからの経費、全部私が出してもいいです」
「よし! 組もう! これからはビジネスパートナーだ! よろしく! え~と何さんかな?」
「私はシズナと申します」
「よし、シズナ! さっそく宿屋に行こう!」
「えっ!! いや、あの、いきなりそういうのはちょっと……まだお互いの事知りませんし……」
「何言ってんだ、今日はもう遅いし、炎天のとこいくのは明日でいいだろ? 明日に備えてゆっくり休むのも仕事だ!」
「あっ、では部屋は別々でも……」
「あたりまえだろ、宿代だけ払ってくれればそれでよし!」

なんとも急展開で野宿を回避できた。この調子なら飯代も出してくれそうだし本当にラッキーだな。
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