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ビジネスパートナーはレア職

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「道具士!? なんだそれ?」
「通称、アイテムマスターと呼ばれているレアジョブです」

朝食を取りながら、シズナの話を聞いていたのだけど、彼女はレンジャーでもシーフでもなかった。道具士というあまり聞いたことないジョブで、能力の詳細は秘密と教えてくれなかった。まあ、特に興味がなかったので、それ以上は詮索せず彼女の奢りである朝食に集中する。

朝食は魚の干物を焼いたものに、ご飯、豆スープ、緑野菜のお浸しと、バランスの取れた献立だ。全体的に美味しいのだが、その中でも魚の干物はヤバイくらいに美味い。凝縮された魚の旨味にほどよい塩加減、完璧な味のバランスに感動すら覚える。

「ふごぅ~ふぅめえなぁ、ごぉれ、ごふっ」
「食べながら喋るのは行儀が悪いですよ」
「らってよ、かんどぉうてきにうめえぇよ」

食べながら喋ったことで飛んだ食べカスがシズナの顔にかかった。彼女は表情一つ変えないでハンカチでそれをぬぐい、一呼吸置いて激高する。

「食べながら喋るなって言ってるでしょうが!!」
「わりいわりい……」
あまりの怒りように素直に謝った。


朝食が食べ終わり、食後の炭豆茶を堪能しながら、さらに彼女の話を聞く。

「炎天のヴァーミリオンは親の仇なんです。奴の卑劣な罠で私の父は殺されました。しかし、炎天は八天獄の一人、この国で一、二を争う犯罪ギルドの幹部になるほどの実力者で、私一人ではまともに戦っては勝ち目はありません、かと言っても最悪の組織を相手に一緒に戦ってくれるものなど見つからず、困っていた時に貴方が恐れることなく炎天の情報を聞き込みする姿を見かけまして……」

「なるほどな、ていうか聞き込み時には八天獄がそんな大きな組織だって知らなかっただけなんだけどな」
「そうなんですか!? 実は無茶苦茶な実力者で、一人で八天獄をぶっ潰すつもりだという話では……」
「いや、そもそも俺は奴らの下っ端が奪ったドラゴンの牙を取り返したいだけだから」
「そうですか……」
シズナはあからさまに残念がっている。そりゃそうだ。強力な助っ人だという認識だっただけに落胆は相当なものだろう。

「まあ、そんなに落ち込むな、場合によってはその炎天のなんたらってのを倒すのも手伝ってやるから」
「場合ってどういう時ですか!」
「たとえばドラゴンの牙をその炎天なんたらが返さないって言った時とかかな」
「えっ、それじゃ、手伝ってくれるんですね!」
「どういう意味だよ、俺は場合によってはって言ってるだろ」
「そんなの絶対に返さないって言うに決まってるじゃないですか」
「そうなのか?」
「ドラゴンの牙は強力なドラゴンの上位種のレアドロップ素材ですよ! そんな貴重な品をそう簡単に返してくれるわけないじゃないですか、間違いなくこじれるはずです!」
「こじれることをそんな嬉しそうに言われてもな……まあ、そん時はそん時だな、しかし、手伝ったとしても戦力になるかはわからんぞ」
「大丈夫です、多少の気をそらす時間だけ作ってもらえれば後は私がなんとか倒します」

まともには勝てないと言っても、不意を突けば勝てる手は持っているようだ。はっきり言って、俺は自分がどれほどの強さなのか知らない。相手は炎天だとか偉そうな呼び名があるくらいだから相当な強さだろう、そうなると俺抜きでも勝てる算段ができているのは朗報ではあった。

ちなみ独立できた現状でも師匠には手も足もでないくらいの力の差はある。もし、その炎天が師匠クラスの相手であれば、俺はまったく戦力にはならないだろう。

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