闇がしたたる ~三千世界に怪異は嗤う

日野

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10 生きた怪異のする仕事

第52話

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 定時に向け仕事を終わらせていく。
 明日以降に持ち越せるものはそのままでいい。

 ずっととなりの如月の目線を感じている。
 彼の手元には納期の迫ったものがいくつか積まれ、手伝わせようという気配がある。
 五月の連休前には、と居成と話すのを耳にしていた。連休はすぐ目の前だ。

 そんな気配には、気がつかなければいいのだ。
 定時のベルから心のなかで百を数え、紅緒はパソコンの電源を落とした。

「三嶋さん、お帰りですか?」

 即座に如月の声がかかる。
 気配が実体を持ってしまった。手伝え、とそれは囁いている。
 紅緒はそちらを見ないようにし、机の上をざっと片づける。

「今日は用事があるので、お先に失礼します」

 なにか言いたげな如月の表情を視界のすみにとらえる。
 紅緒は気にせずフロアを出、更衣室に向かった。
 更衣室のある一階にエレベーターが到着するのと同時に、スマホが振動した。

 如月からのメッセージが届いている。

『用事ってなんですか?』

 わざわざそんな内容を送ってくるのだから、けっこう切羽詰まっているのかもしれない。
 応援しよう。
 実際のところ、用事はなかった。

『ないしょです』

 返事を打ち、紅緒は更衣室で着替える。
 その間にもスマホの振動に気がついていたが、紅緒は確認はしなかった。

 紅緒以外にも定時に退勤する女性社員はおり、続々と更衣室に集まっている。
 紅緒は手際よく着替える。
 まだロッカーのすみには、白猫に裂かれたブラウスが放置されていた。

 通勤着になって往来に出ると、まだ空が明るかった。空気は涼しく、もうすこし薄手の上着が欲しくなる。
 それほど通行人のいない道端には、結界石がつくり出すうっすらとした膜があった。
 守られている証だ。ほかの通行人は誰も気にした様子がない。

 膜越しにした道の向こう側に、紅緒は何度も目にしてきた落ち着いた色味のワンピースを見つけていた。

 いる。

 あのワンピースの女が立っている――確か八尺御寮といったはずだ。
 紅緒は歩みをはやめた。
 彼女の視線は紅緒を追っていた。
 駅構内に入った紅緒は、如月に報告しておこうと思い立ちスマホを取り出す。

 画面には如月からメッセージあり、と表示されていた。
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