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1章 従者との生活
使用人との出会い
しおりを挟む大きな屋敷の中、豪華な部屋や家具
見慣れない光景がそこにある。
峻矢にはまだはっきりと理解しかねない状況だった。
峻矢はもともと小さな家で母と2人で暮らしていた。
父は母を捨て、他の女性と暮らしていた。
しかし先日、峻矢の父とその女性、子供は大きな事故で亡くなった。
『今までありがとう母さん、俺も少しは成長するよ。』
死んだ父の後継ぎとして峻矢はここに住むことになったのである。
父のことを全く知らなかった峻矢はこの自身に不釣り合いな家を見て初めて父が大きな資産家であったことを知った。
「今日からここに住むのか・・・」
(母さんも一緒に住めばいいのに)
母は前の小さな家が名残惜しいと言ってここに住む気にはならなかった。
本当のところは峻矢にはわからない。
『一人暮らしもしておくといい』
峻矢の母はそう言って息子の背中を見送った。
(一人暮らしか・・・家事とか少しめんどくさいな。)
「失礼します」
突然、奥の部屋からノックの音がする。
(俺以外にも誰かいるのか!?)
ノックと同時に開かれた扉の向こうには黒と白のフリルを身にまとった美しい女性の姿があった。
(メイド・・・?)
女性は峻矢の目をまっすぐと冷静に見ていた。
その目は何も期待していないかのような眼差しだった。
綺麗な金色の髪、少し吊り上がった大きい猫目、
美しい鼻筋、服の上からでもわかるスタイルのいい長身の体。
しかしその完璧な容姿とは裏腹な冷たい目が異様な雰囲気を出している。
「峻矢様でしょうか?」
「え?・・・は、はいそうですけど」
峻矢の理解できないという動揺した表情とは逆にそのメイド服の女性は始終冷静である。
「ご挨拶をと思い、参りました。」
「え?」
青年の表情を見る女性は少しの間の後に気が付いた。
彼が何も知らされていないことに・・・
「私はここの使用人です。
恵介様に仕えておりました。
今日からは峻矢様に仕えることになります。
家事については私が全てしますので、御用がありましたら呼んでくださって結構です。」
( 聞いてないんだけど・・・)
「え?・・・俺って一人で暮らすわけではないんですか?」
峻矢は未だ複雑になる状況に追いついていない。
「・・・お一人で暮らしたいんですか?」
(いやはっきり言って家事をしてくれるんならお願いしたい。
この人綺麗だし・・・)
「いえ、そういうわけではないんですけど・・・
使用人さんはここで働いているんですか?」
「はい、恵介様に拾っていただき、生涯ここで暮らし使用人として働くことを条件として契約しました。」
「・・・生涯?」
使用人の女性は海外で峻矢の父恵介に拾われ使用人として働いていた。
彼女は衣食住の全てと偶にある休みを条件に一生この家に住むことになっている。
彼女が必要なくなることは彼女の住むところを失うことに等しかった。
「はい、生涯です。もし峻矢様がご迷惑であればすぐに出ていきますが・・・」
「あ、いやお願いしようかな」
「はい、これからよろしくお願いします。」
(じゃあこれからは家事はしなくていいのか。)
(と、とりあえず・・・まずはこの家のことを知らないと)
使用人は先ほどから峻矢のことを冷静な目で凝視している。
その冷静な目で凝視され何か自分が悪いことをしているかのような気分になる。
彼女の涼しいというより寒い態度は自身の緊張して体温の上がったものとの温度差で体がコップのように割れそうな気さへしてくる。
「あの・・・」
「はい」
「使用人さんの名前は・・・」
「はいツールと言います」
「ツール?」
彼女の名前は美しい女性のそれとは違っていた。
「はい、恵介様からいただいた名前です。」
父は名前を付けるセンスがなかったみたいである。
流石に女性にツールなんてつける男はいるのは至極不思議な話である。
そのために何か理由があるのではないのかという懐疑心すら感じるほどであった。
「ちなみに名前の理由を聞いても・・・」
「はい、日本語で『道具』という意味です。」
「え・・・」
恵介の父はさすがと言っていいのか最悪の人間だったみたいだ。
センスも最悪、性格も最悪。
峻矢の母親を捨てたのも納得できた。
それゆえに今までに不思議に思っていたことが一つ解けた。
心に抱いた気持ちは父に対する怒りより安堵に近かった。
母はきっと未練などないだろうからだ。
(流石に道具の意味を持つ名前はひどい。)
「あの・・・使用人さん」
「はい」
手の中の汗を握りつぶしある決心をする。
「よかったら、主人も変わったことだし・・・
名前を変えませんか?」
「え・・・」
使用人さんは始終冷静だった目を少し大きくし固まった。
極寒だった彼女の周りは何か温かいものが舞い降りたようだった。
しかしすかさず冷静な目に戻る。
「嫌だったら無理にとは言いませんけど・・・」
「・・・構いません」
と許可を取ったのはいいものの名前が思いつかない。
(何にしようか・・・)
ふと辺りを見ると黄色い花の絵画が掛けてあった。
その花は花が大きく愛らしさと美しさをかなえ備えている。
薔薇のようではあったが黄色いし形も少し違う。
「この絵の花ってなんていうんですか?」
「これですか?
これはラナンキュラスと言います。
恵介様がお知り合いからいただいたものです。」
(ラナンキュラスか・・・)
「今日から使用人さんの名前は」
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