主従の逆転関係

蝸牛まいまい

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1章 従者との生活

暗い扉

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「今日から使用人さんの名前は」

「はい」

「ラナン・・・です。」
「・・・」

彼女はラナンキュラスの花の絵を見たあと峻矢の目を見てさらにまた絵に目を向けた。

「嫌・・・なら変えますけど」
「・・・ラナン」

彼女はラナンという言葉を何度か口にしては花の絵と目を交互に見た。
花を見る目は普段の冷淡で冷静な目とは違っていた。きっと黄色い花を映しているからだけではないだろう。

「あ、あの・・・変えましょうか?」
「いえ。ラナンで構いません。」

(よかったのか?・・・まあそういってるんだし・・・いいか)

「ラナンさん」
「はい」
「まずはここの案内してもらってもいいでしょうか?」
「かしこまりました、ではまず峻矢様の書斎からにしましょう。」

家の中は見た目の通りであり、書斎からトイレ、お風呂までも普通サイズではなかった。
一人で住むには大き過ぎるぐらいであった。一人ではないな・・・
確かにこれでは家事も難しい。
ラナンはすらすらと気を付けることなどや使い方などを教える。
峻矢はその可憐な後ろ姿を見つめながら耳を少し傾ける。
背筋が伸び、軸のずれない動きである。
その美しい姿に見とれてしまいそうである。

「峻矢様」
「・・・」
「峻矢様」
「はっはい、すいません。なんでしょうか」
「ここが最後になります。」

ラナンの指す方向を見ると黒い錆びた扉がある。
扉はこの家には不釣り合いなくらいの雰囲気が垂れ込んでいてまるで扉の向こうに魔王でもいるかのようなオーラを放っている。
ラナンを見ると彼女の目は数倍冷たくなっていることに気が付いた。それは空気が冷たいからだろうか。
ここの空気が他の場所とは明らかに違うことがわかる。
一帯の空気が淀んでいくのが分かる。

「あ、悪魔でもいそうですね。」

場を和ませるべく少し微笑んで冗談を口にする。
ラナンは振り返らずに答えた。

「悪魔というよりは生きている人形というべきでしょうか。」

(生きている人形?どういうことだ?)

「人形があるんですか?」
「はい」

ラナンの目は冗談を全く気にせずただ冷酷だった。 
( ラナンも今、冗談を言ってくれたのか?)

「ではこちらに」

ラナンは魔王のような扉をゆっくりと開ける。
扉の向こうには下に続く階段があった。
立ち込める少し鼻につく腐臭、階段の下の闇、寒さを感じる空気、本当に魔王がいるのではないかと疑ってしまうほどである。
悪寒は奥に進むほど強さを増していった。
それにしても父はここで何をしていたのだろうか予想がつかない。
父の考えることだからあまりよりことではないのかもしれない。
ただの荷物置場にしては変である。


階段を2分ほど下りたところにもう一つの扉がある。
次の扉も先ほどと同じような重みと色である。
しかし扉の左下には赤みの入った少し茶色のペンキのようなものが無造作に塗られている。

(血・・・ではないよな・・・)

手に汗を握りながらすぐ後ろのラナンを一瞥する。
彼女は特に変わった様子もなく涼しげに扉を見ていた。
その様子を見て安堵する。
右手を扉の中心に当てる。
もう一度ラナンの様子を見て再度心を落ち着かせる。

(まるでホラーゲームだな)

「まさかな・・・」

幽霊は得意ではない・・・
右手に力を籠める。
扉はゆっくりと不快な音を立てて開く。
濃くなる腐臭、冷たくなる空気。
向こうに宝があるとは考えにくい。


峻矢は身構えてさらに力を込めた。
ホラーゲームよりももっと残酷な状況が待ち込めていることも知らずして。

・・・・・・
・・・
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