【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじまりまして。

【02-02】初プレイの前に

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 校舎から、すでに慣れてきた、ただ長いだけの歩き終え寮に着いた。
 エントランスを抜け、エレベーターに乗り、自分の部屋に向かう。
 部屋について、扉を開ける。共同スペースは無人だった。おそらく拓郎はAWをプレイしているのだろう。
 
 この寮で、AWをプレイする方法は二つ。
 一つは、自室からの接続。これは、一般のプレイヤーたちと一緒の状態でプレイするということ。普通はこれで構わないのだが、緻密で正確な作業をする生産職、零コンマ数秒を競うトップレベルの前衛戦闘職たちには問題が出る場合がある。より高度なプレイをしようとすればするだけコンマ数秒のラグが気になる、らしい。僕にはまだわからない。そもそも僕の住んでいた場所は普通にプレイしていてもラグが起こっていたのだ。だからこそ、僕はこの学校に来たのだ。
 二つ目の方法は、一階にある寮専用のVRルームで接続すること。こっちを使えばほぼストレスフリーでプレイできるらしい。僕にはまだわからないが。

 拓郎もVRルームでAWをプレイしているのだろう。
 僕は羨ましい気持ちを抑えながらいつものようにシャワーを浴びることを決める。

 シャワーを浴びた僕は、時計を見た。夕食まで時間的にはまだ余裕があるため、AWのことについて調べることにした。
 調べることは一つ。最初になにをするのがいいか。
 自分が知っている情報では、まず『冒険者ギルド』に行き、冒険者登録するのが普通のはずだ。
 僕が知りたいのは、冒険者登録しないことで始まるイベントの情報だ。そんなイベントがない可能性もあるが、調べていく。すると、情報が見つかった。冒険者ギルドに登録せずに訓練場に行くと〔逃走術〕というスキルが手に入るらしい。これは、逃げるためだけのスキルらしく、生産系のプレイヤーの必須スキルらしい。僕には必要ない。
 他にも探してみたが〔逃走術〕以外に見つけることはできなかった。しかし、面白い情報は手に入れた。
 なんでも本来は冒険者登録をした後、訓練場でそれぞれの選んだ職業のスキルを練習するらしい。ただここで訓練場に行かずに『ある場所』に行くと本来とは違うスキルを教えてくれるらしい。いくつかその『ある場所』のうちのどこかで一回教えてもらうと他の場所では教えてもらえなくなるらしい。新しいスキルも最初に聞いた場所に聞きにいかないといけないらしい。さらに、スキルを教えてくれることを匂わせているのに教えてくれない場合があるらしい。
 僕は、この情報は使えると思った。このゲームには冒険者ギルドの他に『生産ギルド』もある。二つ目があるなら三つ目があってもおかしくはないだろう。
 現に調べてみると、『魔術師ギルドが治める都市がどこかにある』とか『町で貴族のNPCが殺される事件が起きたときに衛兵が暗殺者の組織があることを教えてくれた』とかいくつか情報があった。他のギルドがあることは確実だろう。
 問題は僕以外にこのことに気づいていないなんてことはないだろうから、先に調べた人がいるはずなのに、情報がどこにもなかったことだ。
 とりあえず僕は冒険者ギルドに登録せずに町を散策することを決めて時計を見るとすでに七時を過ぎていた。
 僕は、掲示板を見ていた生徒証をしまい、部屋を出た。


-------


 食堂に着いた僕は、今日のメニューを見る。今日は、豚の生姜焼きか白身魚の煮付けらしい。ここのメニューは肉か、魚か、しか選べない。僕はカウンターで肉を注文して一人で空いた席に着く。僕は今まで校舎のVRルームを使っていたから寮で知っている人が少ない。別に一人でも問題はないけど。そんなことを思っていると声をかけてくる存在がいた。
 
 「おい。えーっと。堤だったか?」

 声をかけてきたのはイットク先輩だった。
 僕が肯定の返事をすると、

 「矢沢さんからおまえを気にかけるように言われたんだが心当たりあるか?」
 「矢沢コーチですか?運動訓練で苦戦してて少しアドバイスもらってました」
 「あー。二週間たっても動けなかったって奴か。おまえがそうか?」
 「はい。今日動けるようになりました」
 「それは、おめでとさん。まあ、とりあえず何かあったときは俺に聞け。飯の邪魔して悪かったな」
 「いえ。ありがとうございました」

 イットク先輩は話は終わったと僕から離れていった。
 いきなり声をかけられたのは驚いたけどなんとか話すことができた。
 その後も、僕は一人で食べ続け、食べ終わってしまった。拓郎たちはいつもならこの時間に食べてたけど今日は来ないみたいだ。僕は空いた食器の乗ったトレーを片してから自室に戻った。


-------


 自室に着いた僕は共同スペースにある椅子に座って食休みをした後、また掲示板を漁る。
 どのプレイヤーも最初、ヴィーゼの町の噴水前広場に現れる。僕は町を散策するつもりなので町の地図を探して記憶しながら白紙に書き写していく。
 ヴィーゼの町は最初の町なのでいろいろと親切に作られている。道がわかりやすく、敵意を向けてくるNPC《ノンプレイヤーキャラクター》が少ないと聞く。いざとなれば道を聞けばいいが、迷わないに越したことはない。
 僕は地図を描き終えると、次はネットの情報を見つつ、僕が写した公式の地図に書かれていないところを補完する。だいぶ地図が出来上がったところで部屋の扉が開く音がした。
 
 「おお。こっちにいたか。食堂にいなかったけど、もう食べたのか?」
 
 拓郎が心配そうに聞いてきた。
 
 「大丈夫だよ。もう食べたよ。今日の生姜焼きも美味しかったよ」
 「そうか。俺は今日、魚の方を食べたからな。ん?それヴィーゼの地図か?」

 拓郎は、白身魚の煮つけを食べたようだ。

 「そうだよ。明日AWの許可が出そうなんだ」
 「そうなのか!おめでとう!蛇たちの操作もできるようになったんだな」
 「うん。まだできるだけだけどね」

 拓郎は自分のことのように喜んでいた。僕はそれを見て高校最初の友達が拓郎でよかったと思いながら聞いた。

 「明日は、町を散策するつもりなんだ。だから何か知ってたら教えてよ」
 「なるほどな。見せてくれ……うーん、すでにだいぶ書かれているな。あ、一個あった」
 「なに?書き足すからその紙返して」

 僕は紙を返してもらい新たに書き足す準備をした。

 「あー。そこまで重要じゃないんだが、ヴィーゼの町には最初の噴水の広場の他にもう一つ広場があってな。えー、ここだ」

 そう言って地図の一点を指さした拓郎は続けて言った。

 「そこでたまにピエロの恰好をした男が芸をしてるんだよ。その男が何かのイベントのカギじゃないか、っていうのを聞いたことがある」
 「ここだね?ありがと」

 僕は拓郎に聞いたことを書き写しながら礼を言う。

 「どのタイミングでそこにいるかはわからないみたいだから期待するなよ」

 拓郎は僕にそう言って保険を掛ける。
 
 「別にいなくてもいいよ。いたらラッキーぐらいの気持ちでいるよ」

 僕はそう言って完成した地図を生徒証のカメラモードで撮影する。VRデバイスである生徒証に入っているデータであれば、AW内でも見ることができるらしい。だから、こうしておけばAW内でいつでも見ることができるのだ。

 「俺は風呂入ってくるけど、瑠太はもうシャワー浴びたのか?」
 「うん。とっくに」
 「そっか。じゃ、行ってくる」

 そういって拓郎は着替えを持ってから部屋を出ていった。僕は拓郎が戻ってくるまで地図を見て暗記することにした。

 拓郎が戻ってきたあと僕はAWで最初知っているといいことを聞いた。最初はプレイヤーと取引するのではなく、NPCの商人と取引した方がいいとか、キメラ種は何もしていなくても怖がられるから気を付けろだとか。掲示板には載ってないことを教えてくれた。

 その後、十時を過ぎる頃、僕は寝ることにした。少し早いけど明日のために早めに寝ることにする。
 拓郎はまたAWをするそうだ。
 僕は就寝の挨拶をしてから、アラームをかけ、自分のベットに入った。
 
-------


 気持ちのいい朝だ。
 早く寝たおかげか、アラームの鳴る十分前に起きることができた。僕はアラームを消し、部屋を出る。
 拓郎はまだ起きてないようだった。あの後AWをプレイしたなら遅くに寝たはずだ。
 僕は顔を洗い、身支度を整えて今日の予定を確認する。
 今日は、午前から授業を受けて、授業後、角田先生のところに行く。そして、その後はAWだ。
 僕が浮かれながら今日のことをいろいろと考えていると拓郎が起きた来た。

 起きた拓郎と食堂に行く。
 今日の朝ごはんは、白米とたまごに漬物に味噌汁だった。たまごかけご飯だ。食べている間に智也と勇人と少しだけ話した。二人はそれぞれルームメイトと食べていた。二人とも僕が運動訓練を終了したことを伝えたらとても喜んでくれた。僕も嬉しかった。 
 朝ご飯を食べ終わり、自室に戻った僕たちは、着替えを済ませ、校舎に向かった。


-------


 寮から校舎までの道は慣れたといってもいいかもしれない。まだ疲れはするが、最初の頃よりはマシになっている気がする。
 校舎に入り、実験組の教室に向かう。
 二日目の頃からだが、何か視線を感じる気がする。それもよくない視線だ。僕はいつものように無視して教室に向かった。

 教室に着いてから拓郎と話をする。

 「なんか視線感じない?」
 「ここに来る時のか?」
 「うん。それ」
 「感じたぞ。おそらくだが効率組の連中だろうな」
 「そうなの?」
 「ああ、効率組の中には俺らを目の敵にしている奴もいるって聞くしな」

 「なんの話をしているんだ?」

 今教室に入ってきた智也が声をかけてきた。

 「廊下で感じる視線についてだよ」

 僕が答える。

 「あれか。私も感じたが効率組のだろうな」
 「やっぱり」

 智也も拓郎と同じ意見のようだ。
 
 「俺も感じたが、実験組と効率組は仲が悪いのか?」
 
 そういったのは智也と一緒にいた智也のルームメイトの坪田《ツボタ》浩之《ヒロユキ》君。

 「ああ。寮長たちから効率組と何かあったらすぐ伝えるように言われている」

 智也は一年代表としていろいろと聞いているようだ。

 「まあ、気にしないで放っておけばいいじゃないか?」

 そう言って締める拓郎。
 その後も先生が来るまでで四人で話をしていた。


-------


 今チャイムが鳴って、今日の授業が終わった。
 終わりのホームルームをやって解散だ。

 角田先生が入ってきた。

 「全員いるな。今日の連絡事項は一つ。昨日堤が運動訓練を終えた。これで、全員AWがプレイできるようになったわけだが、今後、おまえたちはどこかで壁にぶつかるだろう。遅れて始めるんだからな。上位陣に加わるためには普通にやっていては無理だろう。そのためにおまえたちにはこの学校にある施設を使ってもらう。今まであまり説明していなかったが、これについては各自施設の使用が必要になった時に俺か南澤先生に言え。各自対応する。使い方によっては危険なものもあるからな。施設を使いたいときは俺たちに行ってくれ」

 この学校にはたくさんの施設があるが現状、僕には必要がないように感じてしまう。マルチタスクの訓練も続けているが、別に施設を使わなくても問題ないように感じる。だけど、必要になるのかもしれない。そう思わせるぐらい先生の顔は真剣だった。

 「よし。じゃあ、これで解散だ!ちゃんとAWプレイしろよ!堤は残れ」

 解散になった。
 時間が掛かりそうな僕は拓郎にと別れ、先生の方へ行く。

 「来たな」

 先生は僕を見て、言った。

 「おまえにはAW内での諸注意を言う。他の奴から聞いたかもしれないがちゃんと聞け」

 諸注意の内容は、一般的にオンラインゲームをするときに注意することと同じだった。
 ただ一つだけ違うのがあった。それは、

 「これが最後だ。AW内では、うちの生徒であることを言いふらしてはいけない。後々バレてしまうのは仕方ないが、うちの生徒を毛嫌いしているような奴もいる。特に最初のうちはPK《プレイヤーキル》の獲物にされる可能性がある。気を付けてくれ。これで終わりだ」

 そういって先生は僕の肩を叩いた。

 「よく頑張ったな、堤。これからAW内ではいろいろなことが起こるだろう。それでも、一人で悩まず、俺でも南澤先生でも友達でも誰かに相談しろよ。じゃあ、まずは楽しんで来い」

 そう言って、僕を解放してくれた。


-------


 僕は、寮への道を歩きながら考える。
 この学校に来てよかった。
 いい友達もできたし、先生もいい人たちだ。ついでにコーチや先輩も。
 これから、僕のAWが始まる。この学校に来た一番の目的だ。
 僕はこれからのことを考えて、また新たに決意する。

 「僕はAWを好きにプレイする!そして、だれよりもAWを楽しむんだ!」

 僕の決意の叫びは、陽が落ちるのを待つ空へと消えていった。


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