【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじめてのイベント。

【03-08】突発イベント

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 「ここは?」

 目を覚ました男は言った。一見無害そうに見えるが演技の可能性もある。僕たちの敵にならないとは言えないのだ。
 智也が代表して応答する。

 「イベントの森ですよ」
 「ああ、俺は死んでなかったのか」
 「はい。そこに倒れてたのを見つけました。もしよろしければ何があったのか教えてもらえますか?」

 智也は男から情報を得ようとする。
 男は考える素振りもせずに話し始めた。

 「たしか俺はモンスターと戦ってた。それで、倒したと思ったところでいきなり後ろから襲われたんだ」

 男が話していくが、僕たちが知りたいのはそこじゃない。

 「では、あなたは背後から攻撃されて意識を失ったと?」
 「そうだ」
 「なるほど。背後から襲ってきた敵についてはなにも知らないと」
 「そうなるな」

 うん。全然わからないみたいだ。
 僕は男の格好をもう一度よく見る。

 男の格好は一般的な戦士と同じように、革の鎧に鉄の剣といったところだ。剣は、折れた両手剣以外に見当たらない。

 男の話が本当ならば、男を襲ったのはプレイヤーだろう。これがモンスターであれば彼は死に戻っているはずだ。そうなると、別の問題が出てくる。
 このイベントにプレイヤーを襲うプレイヤーがいるということだ。その場合、プレイヤーを襲う理由があるということになる。さらに、襲っておいてキルしない理由もあるはずだ。

 困ったことになった。
 僕だけではなくみんなも気づいているのだろう。拓郎なんかはあからさまに眉を顰めている。

 「他になにか覚えてませんか?」

 智也が聞き漏らしがないか探る。

 「ないな」

 男は即答する。

 智也は考える仕草をしながらチャットに書き込んでいた。
 ディスプレイのチャットは一応、思考による操作ができるようになっている。チャットも同様だ。これをうまく使えば相手にバレずに内輪で話し合うことができる。ただ思考での操作は他のことをしながらというのが難しいので何もない時は手動で操作するのが一般的だ。
 僕は思考操作でチャットを見る。

=======

LORD「怪しさしかないんだが」

 ducrow「逆に真実味が増してるな」

 守君「どうする?」

=======

 確かにここまで怪しいと本当なんじゃないかと思ってしまうな。
 まあ、必要のないリスクを負う必要はないだろう。

=======

 tail「このまま別れればいいんじゃない?別に知り合いでもないし」

 LORD「そうだな。敵の可能性を捨てきることはできないからな」

 守君「でも、いいの? 掲示板とかに書かれるかもよ?」

=======

 隼人はこの男が僕たちの悪口をネットに書くことを懸念しているようだ。たしかに、助けておいて見捨てれば逆恨みされるかもしれないが少なくともイベント中は大丈夫だろう。それに普通の感性を持っている人であればそんなことはしない。
 掲示板での悪口なんかは有名になればいくらでも吐かれることになる。僕たちには関係ないだろう。そもそもこの男が日本人でない可能性の方が大きいのだ。

 僕たちは彼をおいて先に進むことに決めた。この男にもそのことを伝えて穏便に済ませることにする。それができなければ無視して進むことを決めた。

 「では、私たちは先に行きますね」

 智也が男に言う。

 「先に? 一緒に行動してくれないのか?」

 案の定、同行を希望してきた。

 「はい。一緒に行動しません。」

 智也は笑顔で言い放つ。

 「なんでだ! 助けてくれたんだろ! 一緒に行動させてくれ!」

 男は必死な様子で怒鳴る。
 やっぱり怪しすぎる。なにか理由あるのかな。

 「申し訳ないが、イベント中に知らない人をパーティに入れるつもりはない」

 智也が突き放そうとするが、男は諦めない。

 「無責任なんじゃないか! 助けてくれ!」

 んー。僕たちのこともわからないのになんでそこまで一緒行動したいのだろう。初対面の相手が自分より弱い可能性をあるだろうに。
 やはりなにか他に目的があると考えていいだろう。一番ありそうなのは僕たちを狩ること。仲間になって僕たちを油断させて裏切るとか。仲間たちに僕たちを襲わせて後ろからはさみ打ちなんかはありそうだ。

 智也は説得ができないと判断して、肩を竦めてから僕たちに確認するかのようや眼差しを送る。
 僕はそれに返すように頷く。拓郎と隼人も同様に頷いた。

 智也が男を無視して歩きだす。僕もそれについて行く。
 いきなり立ち去ろうとした僕たちに驚いたのか、男は早口で言い募る。

 「お、おい! いいのか! 後悔することになるぞ!」
 
 僕たちは無視する。
 
 「クソ! 覚えてろよ! お前たちのことはネットに晒してやる!」

 くだらない脅しだ。選手を目指すようなプレイヤー達やソロプレイヤーには全く意味のない脅しだろう。代表の選手を目指しているならば相手の国民から恨みを買うのは覚悟しているはずだし、ソロには周りの評価なんてそもそも関係ない。
 この男はエンジョイ勢なのかもしれない。楽しく遊ぶためには悪評なんて足かせにしかならないからね。

 僕たちはそのままその場を立ち去った。
 男が途中まで付いてこようとしていたが、途中で諦めたようだ。いつの間にかいなくなっていた。



-------



 「撒けたようだな」
 
 拓郎が言った。
 
 「みたいだね」
 
 勇人も同意する。
 僕の〔気配察知〕にも反応はない。だが、警戒はしておいた方がいいだろう。
 
 「気配は感じないけど一応警戒しておいた方がいいと思う」
 「そうだな。私たちの今の行動も計算の内であると思って行動しよう」
 
 智也が補足した。
 ないとは思うが、あの男の役割が僕たちの情報を得ることの可能性がないわけではない。
 
 僕たちは、警戒を強めながら先に進む。
 既に慣れた連携でモンスターを倒していく。僕たちの行軍は作業《・・》に変わっていき順調《・・》にポイントを稼いでいた。このイベントのモンスターは経験値を持っていないようなのでレベルは上がっていないが戦闘の経験は溜まっていく。僕の尻尾の操作の制度も心なしか上がっている気がする。
 僕たちは戦闘を繰り返すたびに経験と戦果を得て、その代償に、荷物の重量が増えていく。
 
 日が暮れ始め、そろそろ野営の準備を始めないといけない時間になってきた。不思議なことにこの森の中は恐ろしいほど変化がない。一日以上、歩き続けているにも関わらず、景色に大きな変化が見当たらない。拠点も適当な木に登ればそれでいいだろう。
 
 しかし、僕が見つけた気配へみんなを案内している時、それは起こった。
 
 「なんだ?」
 
 拓郎の口を付いて出た言葉に誰も反応しない。
 僕を含め四人全員が疑問を頭に浮かべていた。
 僕は目の前に浮かぶ見慣れたディスプレイに掛かれた内容に目を通す。
 
 「まずいな」
 
 智也が漏らす。
 掛かれた内容は端的に言えば、『イベント内容の変更のお知らせ』で、『寮長達の予想が当たった』だ。
 
 「あの木にしよう」
 
 智也の声を合図に僕たちは早めに木に登り拠点づくりをすることにした。
 僕たちは無言で木に登り、無言で活動スペースを確保する。丸見えにならない程度に邪魔な枝を排除し、一息ついてからチャットで会議を始めた。
 
=======

LORD「全員読んだな?」

 ducrow「ああ」

 tail「読んだよ」
 
 守君「おれも」
 
LORD「プレイヤーキルでもポイントが入ることは予想していたがこう来るとはな」

 ducrow「キルされたプレイヤーのポイント全取りとはな」

=======
 
 お知らせの内容は、『最終日にプレイヤーをキルした場合、アイテムのドロップはない代わりにそのプレイヤーの持っていたポイントを倒したものがすべて取ることができるようになる』というものだった。
 この情報からわかるのは二つ。
 一つ目は、文字通りの意味。
 二つ目は、今日までであればポイント全損を免れるということ。
 
 僕の予想では、せいぜいレベルに応じたポイント程度のだと思っていた。そのため、正直なところ、プレイヤーキルを積極的に行うプレイヤーは少ないと思っていた。プレイヤーよりはモンスターの方が楽に早く狩ることができるというのが根拠だ。
 だが、このお知らせを読む限り、僕の予想は完全に裏切られたのだろう。
 このお知らせは、プレイヤーキルを助長しているといっても過言ではない。イベント後に問題になってもおかしくないだろう。
 AWは国連主導のプロジェクトなため、人道や常識に反した内容のものが少なくなっている。プレイヤーキルも一時は問題になったが、競技として戦闘があることやプレイヤー個人が自主的に行うもので運営が推奨したことでもないため次第に沈静化していった問題だ。
 今回のイベントも、プレイヤーキルの延長線上にあるようにも思えるが、このイベントは『ハンティングイベント』なのだ。プレイヤーハントを助長させるイベントというものは問題になる可能性を多分に孕んでいる。
 
 最終日は、積極的にプレイヤーを狩るプレイヤーが増えることは確定していると思っていいだろう。ポイント全取りがあるということは、取られた側はポイント全損ということになる。イベントトップを狙うための起死回生の言ってとしてはこれ以上のルールはないだろう。
 
 僕たちは最終日の行動について話し合った。僕たち以外のグループと一緒に行動するという案も出たし、モンスターにキルされて二日目の段階でイベントをリタイアするという案も出た。人が多ければ襲い辛いし、二日目にモンスターにキルされればポイントを失うこともない。
 僕たちは三十分ほど話し合い、イベントをこれまで通り続行することを決めた。この結論に至った理由はいくつかあるが、一番の理由は経験を得ることができるからである。
 この森というフィールドでのプレイヤーによる戦闘は、VRオリンピックの『攻城戦』の練習になるということだ。僕も別に選手を目指しているわけではないが経験しておいた方がいいと思ったので反対しなかった。そもそも僕はこのイベントでトップを目指しているわけではないのだ。イベントの結果に期待をしていない。
 
 僕たちは最終日の方針を決めた後、早めに睡眠を取ることにした。現実では十四時ぐらいだろうか。イベント開始からまだ六時間ほどしかたっていないので肉体的な睡眠は必要としていない。このまま最終日を乗り切ることもできないわけでない。しかし、最終日になにが起きるかわからない。精神的な疲労も回復しておいた方がいいということになったのだ。
 
 ゲーム時間で十六時前、零時まで六時間はある。まだ明るく周囲を見渡すことができるため危険もあるがすぐに睡眠をとることになった。お知らせにある最終日というのが零時から始まると仮定しての判断だ。昨日とは逆に、僕と智也が先に睡眠を取る。僕は軽く食事をとってから外套に包まった。全然眠気はなかったが、目を閉じているうちに意識は睡魔に飲み込まれていた。
 
 
 
 
 
 
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