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はじめてのイベント。
【03-10】襲撃
しおりを挟む人形を倒し拓郎が死に戻った後、僕たちは人形の落としたドロップアイテムを拾ってから移動を開始していた。
別にどこかを目指しているわけではない。周囲に見えている動く光の玉に遭遇しないように移動しているだけだ。今の時間は零時過ぎ。辺りは暗く、ほとんどのプレイヤーがランタンのような携帯型の光源を使っているはずだ。それを避けるように移動すればプレイヤーと遭遇することはないだろう。僕たちはチャットで話しながら歩く。
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LORD「状況が不透明な今、最初にするべきことは敵と遭遇しないようにすることだ」
tail「今のところ周囲に気配は感じられないよ」
守君「おれも見つけられないな」
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僕は〔気配察知〕でわかったことを伝えた。今の僕たちの周りには気配が感じられない。勇人も見ることで確認するが見つけられないようだ。
最終日になって変わったことは森から草原にいきなり変わったことだけではないようだ。
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LORD「モンスターがいないということか」
tail「少なくともこの周辺にはね」
守君「本当にいないのかな」
tail「僕たちでは見つけられていないだけの可能性もあるね」
LORD「分からないことが多すぎる」
=======
僕たちは周囲に敵がいないことを確認したため、一旦休憩をすることにした。
零時になってすぐにフィールドが変わったために食事ができていない。
僕たちは補給をしながら人形のドロップアイテムを確認することにした。智也が持っていたドロップアイテムの箱を開ける。中からは注射器が出てきた。
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tail「これって……」
LORD「注射器だな」
守君「注射器だね」
tail「何に使うんだろ」
LORD「分からないことが多すぎる」
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人形を倒したら注射器が出た。意味が分からない。一番ありそうなのはこのイベントの攻略に必要だとか、人形に打ち込むと一撃で倒せるとか。
現状では判断要素が少なすぎるため、三人でしばらく考えてみたが答えは出なかった。三人寄っても分からないことはわからないのだ。
分からないことが分かったためチャット会議の議題はこれからの行動の話し合いに移った。
これも今まで通りだ。できるだけ敵に遭遇しないように行動し、何らかの手がかりを見つけるということで決まった。会議中も周囲に気配は感じない。イベント中は獲得したポイントの確認ができないためわからないが、僕たちは全体的に見れば最下位に近いところにいるだろう。そんな僕たちでも生き残れているということは当然もっと強いプレイヤーは生き残っているだろう。
あくまで僕の予想だが、このイベントの攻略には強さ以外のものが必要になるのではないだろうか。注射器もその一つな気がする。
-------
一時を過ぎ、二時を過ぎた頃、僕たちは未だに何者とも遭遇していなかった。周囲に見える光の玉の数が減っていることから、敵が存在するということから三人の共通認識になっている。
僕たちは先のわからない行軍に肉体的にも精神的にも疲労していた。単純な作業ほど集中力を必要とするものはない。もう少しで三時になろうとしている今、僕たちは何よりも変化を欲していた。
そうな僕たちに、変化が訪れる。
僕は気づきもしなかった。僕の〔気配察知〕には反応がなかったし、智也と勇人の視覚にも映っていなかった。
急に僕を襲う衝撃。右からトラックが襲ってきたかのような衝撃を受けて僕は弾き飛ばされる。幸い、幸い、僕の尻尾たちは僕を守ろうとしてくれていたようだ。僕と衝撃の発生源の間にドーとラーが挟まっていた。二匹の尻尾は半分が潰れ、地面に倒れた僕が起き上がったときにも動き出すことがなかった。
ようやく僕たちは反応する。
「瑠太くん!」
「勇人、防御だ!」
智也が僕に呼びかける勇人を引っ張り、襲撃者の攻撃を防御させる。
勇人は咄嗟に盾で敵の攻撃を受け止め、後ろに後ずさる。このイベント中で初めて見た行動だ。それほど敵の攻撃が強いのだろうか。
僕は、攻撃を受けた脇腹を手で触る。触ったとたん僕の体に痛みが走る。鈍痛が続く中で、電気が走ったかのような激しい一瞬の痛みに気を失いそうになる。AWでは即死級の痛みや、死に戻りの際の痛みは、大きく緩和されるようになっているが、それ以外はあまり緩和されない。
設定から痛みを軽減させることはできるのだが、AWの大会では禁止されているため、うちの高校でも禁止されている。
僕が痛みに悶えている間に、ドーとラーから湯気のような煙が揚がり、潰れていた半身が再生していく。僕の脇腹も見てみると青くなっている脇腹の色が元の肌色に戻っていく。未だに鈍痛は消えていないが、脇腹に触ったときに発生した痛みは感じなくなっている。
〔再生〕スキルの効果を改めて確認した僕は、襲撃者と戦う勇人たちの方に向かおうとするが、襲撃者の気配が未だにわからないことに気づいた。
僕は熱感知を使用する。熱感知をしている間は他のスキルが使えないがそんなことを言っている状況ではない。僕は姿を消したオンを感知役にして襲撃者を探した。襲撃者は二人いた。勇人に攻撃を仕掛けている人型Aとその後ろで何かを待っている人型Bだ。
僕は考える。ここで人型Bのことを三人に教えれば、人型Bが攻撃に参加してくる可能性がある。
僕は気づいていない振りをすることにした。ここから、人型Bのいる場所まで気づかれずに接近するのは難しいだろう。相手は僕たちが気づくことすらできないほどの格上だ。僕が単独で攻めるよりは、気づいていない振りをしながら警戒する方がいいだろう。
人型Aの動きを見る限り、人形ではないように感じる。どこか人っぽい印象を受ける。人形の動きはもっと綺麗だった気がする。僕は、敵がプレイヤーだと仮定して戦闘に挑む。
といっても、僕にできることは少ない。尻尾で敵の動きを阻害しながら、〔猛毒〕スキルを使うこと。オンを熱感知に使っているので、僕はドーとラーで攻撃を仕掛けつつ、キーとルーで敵の動きの邪魔をする。
人型Aの攻撃が勇人の盾に当たり、甲高い音を立てている。金属がぶつかり合う音に近い。敵は金属製の武器を使っているみたいだ。熱感知でわかる敵の動きを見ると何かを振り下ろしているように見える。剣か斧、又は薙刀のような斬る事に特化した槍といったところだろう。僕は、人型Aが獲物を振り上げたときに軸足を、振り下ろした時は首筋や手首を噛みつかせ、少しでも動きに支障が出るように攻撃していく。
人型Aは僕の攻撃を無視しながら勇人を攻撃する。勇人と僕の後ろにいる智也が魔法を発動させた。
僕の背後から僕の右側を通り火の玉が飛んでいく。火の玉によって周囲は照らされ人型Aの姿形がわかる。顔まではわからなかったが、筋肉隆々の大柄な体にツーハンデッドソードだと思われる両手剣と革の鎧が見えた。
僕たちから人型Aが見えるように相手からも僕たちが見えたようで、一瞬動きが鈍った。その隙を見計らっていたかのように人型Aの体が横から弾かれるように右に吹き飛ばされた。
この時の僕にはわからなかったがこの攻撃は智也が放った魔法だった。火の玉を囮として、視認性の低い風の魔法で攻撃を仕掛けたみたいだ。
僕たちは智也が作った大きな隙を見逃さないように一気に畳みかける。人型Aに一番近い勇人が盾を大きく振りかぶり盾の縁を人型Aに振り下ろす。低い打撃音が僕の耳に届いてから、数秒後に僕の尻尾たちが人型Aの四肢に噛みつき地面に打ち付ける。すかさず勇人が人型Aの頭に大盾の下部にある尖った部分を振り下ろし、止めに智也の魔法が人型Aを襲う。「退けッ!」という智也の声に従い僕たちが人型Aから離れると、風を切る音と共に空から落ちてきた大きな岩が人型Aを押し潰した。
岩の下から光の粒子が散乱していく。死に戻りだろう。
勇人は敵を倒したことで構えを解こうとしているが、僕は静かに告げる。
「もう一人いる」
僕は熱感知で人型Bの動きを見る。未だに動きがない。僕の警戒心に反応して尻尾たちも人型Bに対して威嚇するが僕はやめさせる。僕の動きに智也も何か気付いたようで僕たちの方に駆けてくる。
「どうした?」
智也が小声で聞いてきた。僕は人型Bのことを二人に告げる。少しの相談の末、このまま人型Bから距離を取ることに決めた。
僕たちは三人で固まって歩く。人型Bを確認するのは僕だ。正確にはオンだが。
僕たちの移動に合わせて人型Bも動く。その事を小声で二人に告げる。そのまま移動を続ける。
少し歩き回るが人型Bは離れない。僕たちはどうするか迷いながらも移動を繰り返した。
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