【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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慣れてきた日常

【04-01】日常

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 ゴールデンウィークも終わり、もうじき毎朝傘を挿して学校に通う時期が来る。
 クラス内には鬱屈とした雰囲気が漂っている。クラス自体が五月病を発生させているかのような雰囲気である。理由は簡明白である。もうすぐ中間テストの季節だ。
 最近では、寮に持って帰らなくていい教科書を持って帰る人が増えているみたいだ。高校入学後の初めてのテストにみんな緊張とやる気を見せている。僕もその中の一人といってもいいかもしれない。
 
 この高校では、勉強はできていれば何も言われないが、できなければ補習という地獄が待っている。今回の中間テストでも赤点を取れば地獄の補習合宿に呼ばれることになる。
 赤点を取ったものには、再テストで合格をもらうまでの間、AWのプレイが禁止され、寮に戻ることもできなくなる。生徒が生活する寮とは別の外来用の寮で勉強漬けの合宿をすることになるのだ。この合宿を受けた人は、全員期末テストで成績を上げてくるというほど勉強させられる。先輩達の中にはこの合宿を受けたいがために赤点を取るものすらいるらしい。
 合宿に行かずとも、先生達にお願いすればいつでも勉強を見てくれるが、それよりも合宿という勉強尽くしの環境の中で一気に勉強したいという人が多いらしい。夏休みには参加自由の夏期講習があるのでそれでいいという人ももちろんいる。ただ、まとめて勉強する方が得意な人が多いということだろう。この学校に入学している時点で高い集中力を持っているのだ。その集中力を生かして勉強するという意味では、赤点を取るのも一つの手なのかもしれない。僕はやらないけど。
 
 先輩たちには自分から赤点を取る人もいるみたいだけど、僕たち実験組にはそんな人はいないみたいだ。休み時間になれば、授業を終えた先生に質問が殺到しているし、席を立たずに只管勉強を続けている人もいる。
 僕がクラスの雰囲気につられるように勉強を始めたのが昨日。こう言っちゃなんだけど、僕はわからないところがない。授業が始まってから分からないところがあればその都度、先生に教えてもらっていたのだ。そのおかげだろう。僕は授業で習った事を復習すること以外にあまりやることがない。
 僕の前に座る拓郎は今も机に齧りついている。自室の共同スペースでも「分からない」と連呼しているので僕が教えて上げることが多々ある。拓郎に勉強を教えるのも復習になるので僕としては迷惑ではないが、拓郎は申し訳なさそうにしている。
 
 中間が迫っているため、VRルームの稼働率も減少していると智也が言っていた。やはり頭のどこかで「勉強せねば」と考えてしまうのだろう。僕も夕食後にAWをプレイしない日が出始めている。僕は勉強が分かるので、勉強自体も楽しく感じているのだ。それに、ようやく訪れた高校生的なイベントだ。AWの事ばかりだった四月とは違った新鮮味を感じているのも否めない。僕はそんな感覚に酔いながらもここ一週間近く勉強をしていた。
 今は、授業中だが既に予習済みだ。先生に当てられても余裕な顔で答えられるぐらいには予習している。僕は、意識を授業から半分ほど外しながら、授業を消化していった。
 
 
 
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 昼休み、食堂で友達の智也たちと五人で話しながら昼食を食べていた。僕と拓郎、勇人に智也、最後に坪田君だ。今日のメニューはモッツアレラチーズとトマトのパスタにサラダとスープだ。サラダの寮が多くて苦戦している最中だ。栄養バランスを考えると仕方ないのだが、多すぎる。
 
 「クラス中でテストムードだが、みんな大丈夫か? なんかあったら相談にのるぞ。勉強とかもな」
 
 最近、智也はこの質問をすることが多い。学年代表としてクラスメイトを支えるようとしているのだと思う。効率組との件や学校に馴染んでくる時期と色々と重なっているからだろう。
 
 「僕は大丈夫だよ」
 「おれも大丈夫かな」
 
 僕と勇人はいつものように返した。勇人も僕と同じように普段から予習、復習をしっかりやるタイプなようだ。
 
 「俺も望月に教えてもらってるから大丈夫だな」
 
 坪田君は智也と同室だから一緒に勉強しているのだろう。
 
 「拓郎?」
 
 まるで話が聞こえてないかのように昼食をバクバク食べている拓郎に、智也が呼びかけるが拓郎は顔を逸らす。
 
 「瑠太。拓郎はどうなんだ?」
 「得意な科目は大丈夫なんじゃないかな?」
 「得意な科目は?」
 
 僕の返答に勇人が首を傾げるがすぐに納得したような顔になる。
 
 「拓郎くん、興味ないこと覚えようとしないもんね」
 「覚えられないわけじゃない。ただ、脳が拒否するんだ」
 
 勇人に言い返しながらも、自分の脳に責任転嫁する拓郎に智也が冷ややかな視線を浴びせる。
 
 「っうう」
 
 拓郎は智也の目を見ないように視線を宙に泳がす。
 
 「瑠太。拓郎を頼むぞ」
 「任せて。出来る限りのことはしてみるつもりだから。頑張ってみるよ」
 
 僕は頷いて返す。どのみち教えることになるんだから問題ない。
 
 「それにしても最近AWプレイしてないなー」
 
 坪田君が腕を上に伸ばしながら言った。
 
 「何言ってんだ? 昨日もプレイしたって部屋で言ってたじゃないか」
 
 ルームメイトの智也が速攻で突っ込む。
 
 「そうなんだけどなー。やっぱ長時間プレイしたいんだよなー。狩りとか行きたいしなー」
 「俺も空飛びたいぜ」
 
 話題が変わったことに気づいた拓郎がすかさず話に入ってきた。
 
 「もう少しの辛抱だ。中間が終われば期末まで時間ができる」
 
 中間が終われば期末が来る。喜んでいいのかわからないが、拓郎たちは顔を緩ませていた。
 
 「期末が終われば夏休みだね」
 
 勇人はさらに先を見ていたようだ。まだ二か月以上先のことだ。
 
 「夏休みか。私は合宿だな」
 
 学年代表の特権の一つである合宿の参加。サポート側ではあるが日本のトッププレイヤー達とプレイできるのはいい経験になるだろう。
 
 「合宿か。俺も参加したかったな」
 
 拓郎は合宿のために学年代表になろうとしたんだったな。選手を目指すのなら選抜合宿に参加することに大きな意味があるんだろう。選手を目指していない僕でも興味があるんだから当然だ。まあ、実際に参加したいかと言われればそうでもないけど。
 
 「拓郎はとりあえず中間頑張らないと」
 「はぁ~。せっかくいい感じに話が変わってたのに……」
 
 僕が拓郎の現実に引き戻すと、拓郎が愚痴る。それを聞いて四人で笑い合う。既に日常になりつつある暖かい光景に僕は暖かい気持ちになっていた。



-------



 「瑠太ー、教えてくれ」
 
 放課後、AWを少しプレイしてから夕食を食べた後、自室に戻ると拓郎が共同スペースのテーブルに突っ伏していた。
 
 「またわからないところでもあったの?」
 「そうなんだよー。教えてくれよー」
 
 拓郎は既に集中力が切れているようだ。拓郎は自身の興味あることは積極的に覚えるのに、興味ないことは勉強すらしたくないようだ。拓郎は数学も苦手だが古典が酷い。拓郎曰く「こんなの使い道ないじゃん」だそうだ。僕もそう思うが、テストでは使うので覚えないといけないのだ。
 
 僕は心を鬼にして拓郎に教えていく。
 
 「だから、ここは……」
 「こっちはこうだったじゃ……」
 「る、らる、す、さす、……」
 「なにそれ?」
 「えっ?」
 
 僕たちの勉強会はここ一週間で定例の物になり始めている。今日も拓郎に勉強を教えた後、僕自身の勉強をして就寝する。AWをプレイする時間は確かに減ったが、僕は充実した日々を過ごしていた。こんな日常もいいもんだな、そんなことを考えながら目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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