【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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一員として

【08-08】リンカー

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 六階。
 四基置かれているエレベーターを降りた正面。二つ並ぶエレベーターの間に貼られているフロアマップを見て多目的室を探す。たしか五号室。
 五号室の場所を確認してそちらに向かう。短い距離だが無人の廊下を見て、自分が最後かもしれないとふと頭をよぎって自然と小走りになる。

 多目的室のドアは両開きの物で、学校の教室のように前と後ろの二か所に出入り口があるみたい。どっちが前かもわからないから近い方のドアでノックをします。
 タ、タ、タとドアの向こうで誰かが歩く声がしてからドアが開く。

「堤君、早いね」

 ドアが片方開いて矢澤コーチが顔を出した。
 早いねってことは最後じゃなかったってことか。すこしほっとして矢澤コーチにお礼を言ってから部屋の中に入る。
 室内には矢澤コーチと本庄さん、それと、村山さんが居た。室内には大きなテーブルが中央に置かれていてそれを囲むように椅子が十ほどある。そのテーブルの上には一台のタブレット型PCと紙の資料。それとトランクのような正方形の箱が大小二つと複数のよくわからない機会の部品らしきものが散乱していた。

「堤君が来たよ」
「ちょうどいいわね」

 矢澤コーチがタブレット型PCを除いている二人にそういうと二人は顔を上げて僕を見る。
 テーブルの近くまで歩くと本庄さんが僕に向かって手を出した。

「初対面だね。本庄です。よろしく」
「はい。堤です。よろしくお願いします」

 僕はその手を掴む。握手だ。

「先に彼に渡してしまってもいいのでは?」
「そうだね」

 村山さんと矢澤コーチが何やら相談しているが僕になにかを渡すって何を渡されるんだろうか。スタッフ用のカードかなにかかな。
 本庄さんがトランクみたいな箱の小さい方を開ける。そこから一枚の板状の物体を取り出した。ガラスとかアクリルのような半透明の物体で大きさは僕の持つVRデバイスと同サイズ。薄さは少し薄いかな。縁を囲むように黒い何かがついている。金属かな。それを取り出してもう一つの方の正方形の箱を開く。先の箱は中に物がいくつか入っているようだったが、二つ目はどうやら何かの機械が入っているみたいだ。タブレット型のPCに箱から伸ばしたコードを繋げている。
 最初の箱から取り出した板を二つ目の箱に差し込むとPCの画面を食い入るように見て、キーボードで操作している。
 なにをしているのか詳しく見るために本庄さんたちの方に寄ってみようとしたとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 この部屋で一番若いのはもちろん僕だ。僕がドアを開けに行こう。そう思いドアの方に向き直ると村山さんが僕を止めた。

「私が行くから堤君はこっちに来ておいて」

 村山さんはそう言うとドアの方に歩きだしてしまう。ここで無理にドアを明けに行く必要もないな。なにやら作業を続ける本庄さんに近づいた。

「堤君はVRデバイス持ってきてるよね?」
「もちろん」
「だよね。じゃあ、出しておいて」

 矢澤コーチが僕に確認を取ってくるが、今僕がデバイスを持ち歩かないなんてことはさすがにできない。言葉通じないし。
 矢澤コーチが軽く笑いながら言ったとおりにポケットからデバイスを取り出してテーブルに置いた。
 そのやり取りの間に村山さんと菊池さん仁科さんがテーブルの近くに来ていた。どうやら菊池さんと仁科さんは一緒に来たみたいだ。

「よし。これで大丈夫なはずだ」

 本庄さんがPCを見ながらそう呟いた。

「何をやっていたんですか?」

 仁科さんが本庄さんに聞くが本庄さんは作業に夢中だ。仁科さんが矢澤コーチに目を向けると矢澤コーチが説明してくれた。

「これはリンカーという新しいデバイスの調整をしてるんだ」
「リンカーですか? 初耳ですね」

 仁科さんは初耳だと言うが、僕ももちろん初耳だ。菊池さんの様子を横目に伺うと彼女も知らなそうだ。リンクってことは繋がる的な意味だとは思うけど。

「簡単に言ってしまえば、VRデバイスの最新機だよ」
「的を得てはいますけど、正しいとも言いづらいので私の方で説明します」

 矢澤コーチが説明してくれた通りだとすると僕の持つVRデバイスの後継機ってことだよね。あの板が後継機。あまりにも外観が変わりすぎていてしっくりこないから本庄さんの説明を聞こう。
 僕は真面目に聞こうと本庄さんに注目する。

「矢澤さんがリンカーと言いましたが、正確には次世代型VRAR接続補助デバイスです。開発名がリンカーでそのまま正式名称にする予定だそうです。今調整している個体は堤君の物になります。今年大会に出場する人数分のリンカーがすでに各国に届けられています。こちらでも調査をして安全が確認できているので支給ということになりました。機能についてはいろいろと説明しきれないほどあるのでまずは個体の調整を終わらせてしまいましょう。堤君。あなたのデバイスを貸してください」

 な、なるほど? リンカーというのが僕のデバイスになるってことはわかった。あれ? 大会に出場する人数分ってことは僕の分はないのでは。僕はテーブルに置いた自分のデバイスを本庄さんに差し出しながら聞いてみた。

「出場する選手の人数分なのに僕の分もあるんですか?」
「ええ。君は今回の大会では一応選手として登録してあります。控えの控えで。あとVRデバイスの接続テストを行うテスターとしてスタッフ登録してます。一応登録しているだけでいざ出番が来たら棄権することになってるから安心してください。データの移行には数分かかります」

 それは安心していいのかな。でも、僕がもらっても大丈夫ってことか。ちょっと選手登録に関する決まりが気になるけど知らなくてもいいことだと好奇心は抑えよう。
 本庄さんが僕のデバイスを受け取るとそれをリンカーを差し込んだ箱に差し込んだ。

「データは一部ソフトを除きすべて移行できるから安心してください。一部ソフトに関するデータもリンカー内に保持されるのでリンカーに対応したそれらソフトが提供されたときにそのデータが使えるはずです」
「わかりました」

 データはそのまま移行されるって言うけどソフトに関しては少し残念だ。僕が新たに入れたっていうソフトは少ないからどれほどそのまま使えるかは実際にいじってみないとわからない。全部そのまま移行できるといいけど。

「本庄さん。さっきVRARって言ってましたけど? 私の聞き間違いですか?」
「いや、俺も聞こえましたよ」

 菊池さんの問いに仁科さんも同意した。たしかに言っていた。ARはAugmented Realityの略で日本語では拡張現実となる。VRの仮想現実とは違って、現実世界においてデータを使って現実を拡張していくというもの。言葉にするとむずかしいな。
 AR自体は現代でも活用がされてはいるのだけど、ごく一部の人たちしか使っていなかったはずだ。ARの便利なところは現実の生活に直結すること。しかし、その現実の拡張が自己から他者に範囲を広げたときに大きな問題が出てくる。それが、機器の問題だ。ARを活用するための機械は効果でサイズも大きい。そして、使用者以外にその機能が及ぶものが少ない。よく聞くのは軍事兵器としての活用。ライフルのスコープにAIを積んで弾道計算したあとにARとしてスコープに映して射撃種の精密射撃を助けるとか。車のフロントガラスにAR機能を組み込んで道路の状態や目的地までのルートを取得される情報を表示して運連をサポートするとか。服飾店でAR技術を使って視覚的な試着をするとか。どれも使用者にのみ便利なもので、どれもあると便利だけど自分用や家庭用で必要性があるというのは少ない。車なんてオートドライブが主流な現代では逆にARが邪魔だなんて声も多い。特段必要もないし、持っていても一人にしか意味がないというのが今のARに対する評価だと思ってたんだけど。

「私も最初本庄さんに聞いたときに聞き返してしまったよ。でも、これがまたいろいろあったみたいでね」

 矢澤コーチが菊池さんと仁科さんに同意しながらもぼかして話すと、本庄さんが簡潔に事情を説明してくれた。

「どうやらブレイクスルーが起きたようです」

 ブレイクスルーかー。






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