【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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新時代を垣間見る一人として

【09-01】僕はもしかすると中二病なのかもしれない

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 本庄さんはリンカーやARPCを取り出した小さい方の箱から手袋を出して右手に嵌めている。その手袋は見た感じだと布というよりも革で出来ているように見え、色は黒。それを嵌め終えると左手に持っていたもう一つの手袋を矢澤コーチに渡す。

「このARPCを使うためには今私が嵌めているようなグローブが必要になります」



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 本庄さんから説明されたARPCはとにかくすごかった。かつて世界中の人間がSFと呼んでいたものに登場していたコンピューター。ARPC上、テーブルの面積いっぱいに表示されたAR情報を手袋をはめた右手と声を使って操作していた。
 本庄さんと矢澤コーチが嵌めた手袋はARPCの表示するAR情報に干渉できるように作られた手袋だと言う。ARPCはあらかじめ設定されているユーザーからの操作を受け付けるようで、矢澤コーチも最初に手袋を渡されていたが本庄さんが操作を許可するまではいくら手を振っても操作を受け付けていなかった。
 本庄さんはその手袋をARグローブなんて呼んでいた。ARグラスといい安直だがわかりやすい。お偉いさんが分かりやすいように決めたんだろうな。
 ARグローブを嵌めた右手の形を変えながら動かすとそれが命令になる。人差し指で指せば強調。人差し指と親指で摘まむように動かせば移動。人差し指と薬指で選択などいろいろと説明をしてくれたけどほとんど忘れてしまった。
 実はこのグローブだが、リンカーを持っている人には必要ないと言っていた。正確に言うとリンカーの持つAR機能と同等のものを持つデバイスを持っていればいいらしい。リンカーのAR昨日で服が替わるのは全身にARフィールド的な何かを展開しているからだそうでそれを使えば手袋をしなくても操作できるんだって。本庄さんからすこしだけARPCの操作権を渡されて操作してみたけど、操作できた。
 ARグローブはリンカーが開発される前の段階に出来た開発物で、リンカーのようなAR機能を全身に展開できない人やできない場所での操作用として活用されるそうだ。ARPCの操作権はデバイス毎に振られるから会議室に設置したARPCに操作権を持たせたグローブを席数分置いておけば会議毎にいちいち操作権を認証させなくてもいいのだ。
 ARPCを使った説明はわかりやすかったけど、今までとは違った形での説明だったからすごく疲れたけど。慣れてないからだとは思うけど、神での説明の方が分かりやすいと思う。

 説明のが終わってから本庄さんがうっかりなのか意図してなのかわからないけど、ARPCよりもリンカーの方が高性能だと言っていた。多人数でも使える汎用性があるARPCに比べて、リンカーは個人用。いずれはどちらも普及するだろうけど、それまではリンカーよりもARPCの方が普及が速いかもしれないと。VRデバイスがあればAWをプレイするのに不足はないからそこらへんはね。

 僕が疑問に思っていた『ニューワールドプロジェクト』は『セカンドワールドプロジェクト』が名前を変えた団体で国連の下部にいた組織が晴れて独立した一組織となったものだそうだ。来年以降のVRオリンピックはこの『ニューワールドプロジェクト』によって開催されることになる。AWとSWもこの組織が運営するそうだ。
 『ニューワールドプロジェクト』が指し示すニューワールドとは現実世界を指すそうで、ARを使った新たな情報化社会を作るというプロジェクトなんだと。ニューワールドなんて大きく出たなと思ったのは僕の心の中だけの秘密だ。
 今年はまだ国連の管轄だから今年の大会には変更がない。しかし、来年以降はAW以外の競技を増やすというのがすでに関係者に公表されているらしく、頭が痛いと言っていた。 言い知れない不安を感じる。僕としても今この場で最新情報を聞いている状態に不安を感じる。早く公式に発表してくれないかな。

 一通りの説明が終わると、この部屋を出てからのことの話になった。
 まずホテルを使っている一般のお客さんの目が多い場所ではARグラスを使わないようにと言われた。特に僕を対象にして。僕以外が持っていたARグラスは貸与品なために一回一回回収する。僕のリンカーは僕への支給品でARグラスもそれの付属品。だから、これは僕の物。ということだそうだ。
 ARPCで説明された内容の資料はそれぞれのデバイスに送ってくれた。ARPCで使うソフトはそれ専用に調整・作成されたソフトだ。当然従来使われいるVRデバイスを始めとした携帯デバイスでも使えるようにデータを変換できる。僕のリンカー以外はARPCからすると旧型に当たる。僕だけはそのまま送られてきた。これを見て予定や今日あった説明を復習しといてくれって言われた。

 説明の最後にこのホテルで使えるサービスの説明があった。朝・昼・晩の三食はホテルについている。ホテルに入っているレストランならばどこでもいい。三食分は経費になるという。ふとっぱらー。
 さらに、ホテルで無料で使えるサービスはすべて使える。有料サービスに関しては各自で支払うこと。もしも、仕事上必要になったものがあれば後日申告することで経費として落ちるのだと言われたけど、経費の申請なんてしたこともないからなるべくしないでいいように生活するつもりだ。
 ホテルの外に出るときは必ずスタッフ全員が参加している連絡用のチャットルームで報告すること。一人で出歩くのは避け、だれかしらと行動することを強く言われた。

 ARグラスを返す時、最後だからと本庄さんがお魔僕たちが使っている多目的室の管理AIを呼び出した。

「マルチパーパスナンバーファイブ」
『ご用命はなんでしょうか?』
「ARモードを」
『かしこまりました。内装はどういたしましょうか?』
「日本家屋は?」
『ございます』
「では、それで」

 最初は何を言っているのかつかめなかったが内装という言葉とARという言葉で何となく察しがついた。

 部屋の内装が変わる。僕たちは何もしていない。ドアがあった場所が障子に変わり、僕たちが使っている機能的でシンプルなテーブルが木製の重厚感のあるテーブルへと変わり、十個ある椅子も木製に変わった。床は当然絨毯から畳になる。天井に四角い形で埋められた電灯に沿うように吊るすタイプの和風な灯が等間隔で垂れている。窓がある方には木で縁取りされているガラス張りの窓が張られていてその向こうにはどこかで見たことがある日本庭園が姿を現していた。

「へっ?」

 それが一瞬で起こる。僕はつい混乱からか声を漏らしていた。察しはついていたんだ。でも、こんな感じなの? もっとデジタルな痕跡が残ってるもんじゃないの?
 ARを使って部屋の内装を変えるっていうのは聞いたことがある。よく映画を撮影するときにARを使って撮影してそこにCGを重ねるなんて手法があるってテレビのメイキング映像でやってる。でも、ARの映像だけではCGは超えられないからARのデータにCGをプラスさせるってどこかのナレーターが言ってた。でも、これはまさにリアルだ。

「絨毯の感触がなければ本当に日本家屋にいるような錯覚をしてしましそうですね」
「ええ。これが普及すれば旅行関係、特に宿泊関係の企業は阿鼻叫喚することになるわね」

 菊池さんと村山さんが感想を話しているけどまさにその通りだ。
 僕はニューワールドなんて大きく出たなと思っていたけど、これは、案外大げさでもないかもしれない。ARが溢れた情報に埋もれた世界。VRによって距離を超越した世界。世界はさらに小さくなる。その果てになにか対規模が変化があればそれはもう新世界と言ってもいいのかもしれない。



 なんて、僕はもしかすると中二病なのかもしれない。


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