【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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新時代を垣間見る一人として

【09-06】開会式の裏で

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 VRオリンピックにおける開会式。それはSWセカンドワールド内で行われる。開会式のみならず、VRオリンピックの観戦もSWに特設された大会用フィールドでする。
 SWで流れた映像はテレビで放送されているのでそっちを見るという人もいる。しかし、ヘッドマウントデバイスを持っていればすぐにSWに行けて観戦もできる。それなのにテレビで見る必要があるかと言われれば必要ないと答えるしかないだろう。
 競技に関しても、一回戦毎の放送ではない。決勝に被るような試合はなくともその前はありうる。となれば、テレビ一枚では足りない。一人で見たい、会場なんて言ったら人が多すぎて疲れちゃうよ、という人はSW内に作られた個人用のスペースでテレビを何枚も張り付けて見ればいい。
 その結果、テレビでの放送は専門家と紹介された人間が実際の競技の映像を実況したり説明したりという内容が主流になっていて、なんとか視聴率を稼いでいるようだ。

 SWセカンドワールドは|AWのシームレスなオープンフィールドとは違って様々なフィールドが作られている。さらに、町のようなフィールドに存在する店はすべて別フィールドとして作られている。
 VRオリンピックの会場も同様であり、会場があるフィールドへ飛べばコロッセオのような建物とそれを囲うように出店やショーが行われているのが目に入る。コロッセオに入れば受付のようなカウンターのある大きなフィールドに入り、そこからさらに複数のフィールドへと移動することになる。特定のアカウントしか入れない個室もあれば誰でも入れるようなコロッセオに合わせて作られた観客席もある。
 それらを組み合わせて一つのコロッセオの靴られたものが観客には見えるので自分の反対側に座ってる観客の顔を見ることもできる。

 現実で大会本部が用意した大会会場は、マンハッタンにある一棟の超高層ビル。VRオリンピックに出場する際、現実で移動する必要はない。自分が暮らす家からVRオリンピックの選手用のサーバーに接続すれば勝手に会場につないでくれる。しかし、世界中を覆うネットワークは年々進歩していてもラグが必ず発生する。VRオリンピックのような大きな大会ではラグ一つで勝敗を決することは少なくない。VRオリンピックでは基点を大会会場としていてそこからラグが発生する。当然大会会場にあるヘッドマウントデバイスはラグが発生しにくくなっている。そして、そこから離れれば離れれるほどラグの発生する確率は増えていく。だから、各国の選手たちは大会会場に集まってくる。

 大会会場では一層毎に国が別けられる。今年の日本は三十二階。エレベーターに乗ったときは気圧の変化を少し感じたぐらい高い。
 僕はそこで矢澤コーチたち先乗りしていたスタッフに合宿終了後んみ合流したスタッフを合わせたスタッフ全員と一緒に最終調整をしていた。

〈どうかな? なんかおかしいところある?〉
「いえ。三日前に試したときと同じ感覚で操作できます」

 僕は今、大会会場から接続できる専用のテストフィールドでVR接続の最終調整をしていた。三日前までやっていたテストを一通りこなして今は結果待ちだ。僕の感覚では三日前と同じように操作できていたけど、データとして数値を出したときに変化が起こってるかもしれない。

〈こちらとしても問題ないという結果が出た。最終調整はこれで終わりにしよう。堤君はログアウトしておいて〉
「分かりました」

 僕はメニューを出してログアウトを選択した。このメニューの操作方法とかARモードで使えたら楽そうだな。あとで黒川に聞いてみよう。僕の意識は一瞬の暗転のあと、背中に当たる柔らかいクッションの感触と頭に乗っている金属の重さを感じていた。
 ヘッドマウントデバイスを外す、すると、目の前を覆っていた椅子を囲む繭の正面部分が上に上がり肘の先からリンカーが排出される。
 リンカーはVRデバイスと同様に差し込むことで設置型のヘッドマウントデバイスと接続する。一般的な頭に付けるだけの携帯用ヘッドマウントデバイスにはコードで繋げるのだがリンカーにはコードを挿す場所がない。これ仕様なのかな。

「お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。コーチ」

 僕が繭から出ると水の入った紙コップを矢澤コーチが渡してくれる。さっきのアナウンスも矢澤コーチだ。

「日本の環境と比べるとどうだね?」
「日本の環境とですか?」

 矢澤コーチと一緒に三鴨さんも僕のそばまで来ていた。最初の印象では大きなガタイをしていて怖い印象だったけどよく見ると少し肉がついているようにも見える。たるんでるっていうか衰えてるっているのか。服装が違うからそう感じるのかな。
 今の僕たちはスーツではない。ジャージだ。なぜジャージなのかはわからないのだけどジャージなのだ。その内側にはVR接続をする際に有利になる選手のユニフォームを着こんでいる。体に張り付くようなスーツだからVRスーツって言ってもいいかな。ARグラスとかARグローブとかそんなネーミングセンスに感化されたか。本当は、えーっと……忘れた。

「一通り報告は受けているけどね。一応聞いておきたくてね」

 日本と比べてか。うーん。一週間ぐらいのテストプレイで日本での感覚があやふやになっているけどたぶん……。

「すこしばかり情報の伝達が遅く感じます。ほんのすこしだけどちょっと動きづらいかなって思います」
「動きづらい、ね。たしかに」

 三鴨さんは僕の感想に頷きながら手に持っていたタブレット型のPCで資料を確認している。その資料は僕ももらっているものと同じだとすれば、確か一日ごとの調査結果と僕の感想も書かれているはず。

 僕の仕事はこれでおしまい。もう少しすれば開会式が始まる。僕も開会式を見れ……ないかも。あれ? さっきリンカーで個人用ヘッドマウントデバイスに接続できないって確認したばっかじゃん。なんてことだ。ここにある設置型はすべて選手用のヘッドマウントデバイスだから接続テストを終わった後は使用できない。隣にある休憩室にあるテレビで見るとしよう。すこし、いや、かなり残念だけど。



-------



 開会式を見る暇なんてなかった。
 VR接続のチェックが終わったと思っていた僕だったけど僕が終わったのは使用されるヘッドマウントデバイスの内の一台。部屋に置かれたヘッドマウントデバイスは二十五台だ。僕はそれを一台一台接続チェックしていく作業をしていた。

「大丈夫そうですか?」
「適正数値ですね」

 機器担当の人とシステム担当の人を合わせて僕たちはスムーズにこなしていく。最初はチェック項目をこなしながらのチェックだったのが今では無言でチェックができる。

「これで終わりですか?」
「そうですね。お疲れ様です」
「お疲れ様でした」

 僕がテストプレイを終えたのは十二時半。あと三十分でスカイランが始まってしまう。

「堤君」

 僕が水を飲んで休憩していると菊池さんに呼ばれた。
 今矢澤コーチや三鴨さんのコーチ陣は隣の会議室に集まって今後の作戦を研究している。三十分前を過ぎているからもしかしたら選手も集まっているかもしれない。

「ステージが発表されたようで、堤君も会議に参加してくれとのことです」
「わかりました」

 スカイランのステージは発表された。スカイランだけでなくタイムのステージは三十分までにはステージが発表される。今回も三十分を切ってるから発表されたということか。
 それにしても、僕が会議に呼ばれるってどういうことだろう。

「開会式はすごいことになってたみたいですよ」
「菊池さんは開会式見れたんですか?」
「いえ。でも、掲示板を含めニュースでもお祭り騒ぎですよ」
「なんか面白いことでもあったんですか?」
「ええ。もうとびっきりの」
「とびっきり?」
「この間のARの情報が発表されたみたいです」
「ああ。なるほど」

 大々的に発表するってことはもう世界中に広める準備が出来ているってことなのかも。来年には街中にはARグラスを掛けた人ばかりになる想像をして少し気持ち悪いと思ってしまった。









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