【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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慣れてきた日常

【04-10】運転

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 「今日、行ってもらう訓練はこの施設の名前通り、複数の作業を同時に行うための訓練だ」
 
 ステージには一つの椅子とヘッドマウントディスプレイにハンドルのようなものも見える。車の運転席みたいだ。
 
 「今日は最初だから簡単な訓練にしてある。車の運転だ」
 
 当ってたみたいだ。でも、何故運転なんだ。
 
 「僕、運転なんてしたことないんですけど」
 
 運転免許は二十歳からだし、今のご時世免許を持っている人の方が少ないだろうに。
 
 「大丈夫。運転の仕方を知らなくても問題ない。やってるうちにできるようになるから」
 
 それは大丈夫と言えるのだろうか。逆に心配になってきた。僕は矢澤コーチに心配そうな顔を向ける。
 
 「とりあえずやってみなさい」
 
 矢澤コーチはいろいろと言いたい僕に先んじてそう言った。僕はコーチに導かれるように座席に座った。
 
 「いいかい。これがハンドルで、アクセル、ブレーキ……」
 
 僕は車の操作について教えてもらう。
 
 「本当の車はもっと難しいんだけどね。昨今では、車を運転する人なんて減ってきてるからね」
 
 コーチが言う。制御AIの進んだ今の時代に車の運転は趣味の世界に入っている。そもそも運転ができる車を持っている人が少ないのだ。車の運転はAIによって行われていることがほとんどだ。同期が可能なAIによって行われるため、トラブルがあってもすぐに補助が入るようになっている。その結果、近年、ちょっとした軽い事故というのは発生していない。発生する事故のほとんどが人が運転していた車が原因になっている。
 
 「これは、昔あった車の操作を元にして作られていて、複数の作業を同時にする必要があるもの訓練になっている。もっと簡単な訓練もあるんだけど三つ以上の作業を並列でという訓練は少ないんだ」
 
 矢澤コーチの説明になんとなく納得しながら僕は機器を見ていく。いつも後部座席から見ている危機が近くに見えるのは少し楽しい。
 
 「やってみると案外面白いから。じゃあ、頑張ってみよう」
 
 矢澤コーチの開始の合図で訓練が始まった。僕は少し緊張しながらハンドルを握った。
 
 ヘッドマウントディスプレイに道路が表示される。僕が乗っている車は現在止まっているようだ。ディスプレイ上に指示が出される。ブレーキを半分踏んでからアクセルを少し踏む。指示通りにしてみると座席が揺れ始め、テレビで聞いたことがあるようなエンジンの音が聞こえてきた。僕は指示に従って運転を開始する。アクセルを踏み続けると速度が上がり続けるのに気づくまでに二回ほどガードレールに激突した。訓練用だからか他の車は存在しない。
 数度のクラッシュを経験しながらも僕はなんとか進み続けることに成功した。するとディスプレイ上に僕以外の車が現れ始めた。僕は急に現れた走る車に当たらないように運転をする。するとさらに指示が出る。車線を変更しないといけないようだ。僕はハンドルを右に回す。すると何度か体験した座席の振動を感じて、僕は自身の失敗を知る。ディスプレイには後ろからの追突と表示されている。僕は他の車が走っていることによる難易度の急激な変化に少し驚いた。
 
 失敗し、驚き、解決する。何度もその繰り返しを重ねていき、ようやく普通に運転できるようになるまでには一時間は使っていた。周囲の確認というのが思っている以上に大切なのだ。
 次の指示を待ちながら車を操作しているとディスプレイに終了の文字が現れた。訓練が終了したみたいだ。
 僕はヘッドマウントディスプレイを外し、息を吐きながら体を伸ばした。顔を上げ、天井を見てるとなんだか落ち着く。
 
 「上手くできたみたいだね。なんとかなったもんだろ?」
 「何回も失敗しましたけど」
 「まあ、今ので簡単な運転はできるようになったはずだ。本物の車の運転よりは簡略化されているし、ここまではみんなできるんだよ」
 「ここまでは、ですか?」
 
 僕は伸ばしていた体を戻し、矢澤コーチの方を向く。コーチはパソコン型インターフェースの前に立って何やら操作している。
 
 「本当の訓練は次からだ。さっきまでの訓練にも複数の作業を一緒に行う場面があったが、今度からはもっと増える。さあ、準備して」
 
 僕は、言われるがままにヘッドマウントディスプレイを装着し、次の訓練を始めた。
 
 
 
-------
 
 
 
 「お疲れ様。どうだった?」
 「難しすぎます」
 
 これは、今の僕の気持ちを表すのに最適な一言だろう。
 続けて始まった訓練は最初の訓練とは天と地ほどの差があった。ちょっと気を抜いた途端にクラッシュなんてことが二十回以上起こったぐらい難しかった。
 一番難しかったのが戦闘があるカーチェイス。他にもいろんなカーチェイスがあったけどこれは特に難しかった。周囲に車が走る中で、僕の乗る車と敵の車で銃による戦闘が行われながらもカーチェイスするという設定。戦闘に集中しすぎれば他の車にぶつかり、運転に集中しすぎればハチの巣にされる。その時その時の状況を把握して、それに適した判断をする。言葉にするのは簡単だけど実行するのは難しい。助手席に座っている味方なんかは三十回死んでいたと思う。
 
 「そう言うと思ったよ。でも心配しないで。この訓練はもともと難易度が高めに設定されているんだ」
 「心配なんてしませんよ。もっと簡単なのからが良かったです」
 
 僕は素直な思ったことを言う。すると、矢澤コーチは笑ったように、しかし、真面目な声色で言う。
 
 「この学校の生徒だったらそれでもよかったかもしれないけど、君にはそれじゃあダメなんだよ。君にはもっと難しいのをこなしてもらわないといけないんだ。君にはいち早く戦力になってもらいたい。君の自動防御は一プレイヤーとしても価値があるものなんだ」
 「これ以上ですか?」
 
 僕は驚いた。これ以上に難しいなんて想像つかない。襲撃者が増えるんだろうか。それぐらいしか思いつかない。
 
 「まあ、いずれはってことだけどね。当分はこれを続けてもらうよ」
 「分かりました」
 
 良かったのか、良くなかったのか、よく分からないが僕は頷く。
 
 「明日からも大変だろうけど必ずやるんだよ? 君はもうチームの一員なんだからね。じゃあ、今日の訓練は終わりにしよう」

 矢澤コーチの真剣な表情を見て僕も気を引き締めたところで今日の訓練は終了になった。矢澤コーチがパソコン型インターフェースの前からソファの方に行って座ったので、僕も座りにいく。

 「お疲れ様です」
 「ありがとうございます」
 「疲れてるところ申し訳ないんですが、VRデバイスについて説明し忘れたことがありました」

 菊池さんがソファに倒れこんだ僕に言ってきた。僕は軽く頷く。
 
 「そのVRデバイスにはAIが積んであります。なので、その設定をしなければいけませんでした」
 
 僕は一瞬、それって大事なことだったんじゃないの、と思ったが言葉にはしなかった。
 
 現在のスマホのような個人用携帯電話にはAIが搭載されていることが標準になっている。僕がこの学校に入るまで使っていたスマホにもAIが搭載されていた。高性能なAIではなかったが言葉による操作や音声による通知など便利な面も多かった。
 この学校では個人所有の個人用携帯電話の所持が校則で禁止されているので、僕のスマホは今爺ちゃん家にあるはずだ。
 
 「電源を入れる前に一つ。電源が入ると音声による本人確認が行われます。確認を求められたら自分の名前を言ってください。それで確認が取れるはずです」
 「分かりました」
 
 僕は頷いて了承する。
 
 「では、電源を入れてください」
 
 僕は電源ボタンを長押しした。
 
 
 
 
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