47 / 101
慣れてきた日常
【04-11】共同風呂
しおりを挟む選手用VRデバイスに電源を入れるとディスプレイが光り、幾何学的な日の丸が映り、電源が入る。
少し待つと画面が切り替わり、本人確認が始まった。画面には執事の姿をしたマスコットキャラがお辞儀をしていた。地味にかわいい。
「音声確認をお願いします」
渋い声でそう言ったVRデバイスに僕は名乗る。
「堤 瑠太」
僕がはっきりと名乗ると、VRデバイスから声が返ってくる。
「音声を取得……確認完了。選手用VRデバイス『バトラー』起動します」
そう言ったVRデバイス『バトラー』が起動した。それを見た菊池さんが僕に言った。
「起動できたみたいですね。これでこのデバイスはあなたのものになりました。あとで指紋の設定等初期の設定をしておいてください。このデバイスには高性能AIが搭載されているのでそれに関しての設定なんかもするようであればご自由にどうぞ」
「分かりました。でも、この学校って高性能AIが搭載された個人用端末って持ち込み禁止だったと思うんですけど、大丈夫なんですか?」
「それについては大丈夫です。こちらの支給したAIが搭載されているものなので問題ありません。持ち込み禁止は情報漏洩を危惧したための措置ですから」
「なるほど。分かりました」
僕は頷いた。心配事項を解消したので安心した。これを持っていることで校則違反の退学になんてされたらたまったもんじゃない。安心した僕はVRデバイス『バトラー』をポケットにしまった。
「大丈夫そうだね。なら、今日は解散にしよう」
隣で僕と菊池さんの話を聞いていた矢澤コーチが預けていた背を起こしてそう言った。それを聞いた菊池さんはカバンを持って立ち上がり、矢澤コーチも立ち上がったので僕も立ち上がる。
そのまま、三人で訓練室を出て、施設の外に向かった。
施設の外に出たところで矢澤コーチが僕に言った。
「高校に入ってようやく慣れてきたところだろうけど、君の生活はまた変化していくことになるだろう。その過程で多くの悩みや心配事を抱えることになるかもしれない。そんなときは僕に連絡してくれ。その『バトラー』には僕たちコーチやスタッフの連絡先が登録されている。携帯電話としても使えるようになってるからいつでも連絡してくれて構わない。チームスタッフには心理カウンセラーもいる。何かあれば全力で君のバックアップをする。分かったかい?」
矢澤コーチの真剣な表情を見ながら僕は言う。
「はい。そのときはよろしくお願いします」
「うん。こちらこそよろしくね。じゃあ、ここで解散。また近いうちに会おう」
僕の返答を聞いた矢澤コーチがそう言って、校舎の方に歩いて行った。
「堤君、これから大変かもしれませんが頑張ってください。あと、これ。一応説明書になってるから。では、また。」
菊池さんもそう言って矢澤コーチの後を追っていった。
僕は二人が離れていくのを少し見続けた後、寮に向かって歩き出した。その頭の中では矢澤コーチの発言と菊池さんの発言が繰り返されていた。
-------
寮に戻った僕が自分の部屋に着くと、そこには拓郎がいた。
「おかえり。ん? 今戻ったのか?」
拓郎は着替えを持って共同スペースのテレビを見ていた。
「うん。拓郎は? 今から風呂?」
僕は自室に向かいながら聞く。
「ああ、食休みのつもりで付けたテレビが面白くてな」
「なにやってるの?」
「本当にあった怖すぎる世にも奇妙な話って番組。当たり外れがあるけど今回のは面白いんだよ」
「季節ごとにやってる番組だっけ。今日だったんだ」
そんなことを言いつつ、興味がなくなった僕は自室に入り上着とVRデバイスとその説明書を置いて、着替えを持ってから自室を出た。
「じゃあ、僕シャワー浴びるから」
テーブルに突っ伏しながらテレビを見ている拓郎に言って、僕は洗面所に向かおうとすると、拓郎が言ってきた。
「もう九時過ぎてるけど夕食食べたのか? まだなら先に行った方がいいんじゃないか?」
言われて僕はテレビに映る時計を確認すると九時を過ぎていた。
「時間が遅くなるとメニュー選べなくなることもあるから早めに行った方がいいぞ」
僕は拓郎の実体験も含むだろう忠告に従うことにする。僕は着替えを拓郎の座っていない方の椅子において、食堂に向かうことにした。
「食堂行ってくるよ。ありがと。テレビもほどほどにね」
「ああ、これが終わったら俺も風呂入ってVRルームに行くから」
「分かった」
僕は部屋を出て食堂に向かった。
食堂には数人の先輩方がいたけど夕食を食べているわけではなく何やら話している感じだった。
僕は、先輩たちを気にせずに夕食を食べた。今日はから揚げだ。醤油味の付いたから揚げにマヨネーズという定番の組み合わせはやっぱりおいしかった。味噌汁とサラダもぺろりと平らげ、ご飯もお代わりしてしまった。今日の訓練、余り動いてはいなかったがカロリーの消費は多かったのだろうか。バクバクと夕食を食べた僕は膨れ上がったお腹をさすりながらトレーを返して、部屋に戻った。
共同スペースには拓郎の姿が……あった。
僕は呆れながらも声を掛ける。
「ただいま。まだ終わってないんだ?」
「ああ、スペシャルだったみたいだ」
テレビから目を離さずに僕に返事をした拓郎を見て、僕はほっとくことにする。その番組はいつもスペシャルだろうに。
僕は今度こそシャワーを浴びることにしようと思ったところで、別の案を思いつく。今日はこの後バトラーの設定をする予定だ。だから、今日はAWをプレイしないつもりでいる。なら、共同風呂に行くのもいいんじゃないだろうか。僕は思い立ったが吉日を実行する。
「共同風呂に行ってくるよ」
僕が言うと、拓郎が僕の方を向く。
「シャワーにじゃないのか?」
「うん。こんな時間だし、それもいいかなって」
「そうか」
「じゃあ、いってくる」
僕は着替えを適当な袋に入れてから共同風呂に向かった。湯船に浸かるのは二か月ぶりぐらいだ。歩く速度が少しだけ早くなる。
エレベーターから一階に行き、共同風呂を目指す。食堂とは逆方向に歩いていく。今の時間に風呂を使っている人はいないだろうから一人風呂だ。僕は共同風呂に入った。
共同風呂の中は脱衣所になっていて着替えを置いて、服を脱ぐ。脱衣を入れる場所は生徒証で鍵が掛けられるようになっていた。僕はVRデバイスが必要だとは思ってなかったので自室に置いたままだ。僕は仕方なく鍵を掛けずに浴場に向かう。浴場の入り口には上段にタオルが積み重ねられていて、下には使ったタオル入れることができる穴が開いた棚が置いてあって、棚には自由に使っていいと書かれている。僕はタオルを一枚取ってから浴場に入った。
浴場は一般的な銭湯の浴場と同じような作りになっていた。大きな湯船と広い洗い場がある。予想通り、中には誰もいなかった。
僕は洗い場でシャワーを浴びて体を洗う。部屋のシャワールームと同じシャンプーやリンスが置かれているのでいつも通り洗える。頭から全身を洗った後、僕は湯船に浸かった。タオルは湯に浸けないように湯船の端に置いておく。
久しぶりの湯船を体全身で満喫する。足を伸ばし、つい「あーー」と声を出してしまった。温泉というわけではないが極楽気分になる。僕はのぼせそうになるまで浸かった後、シャワーで体を流してから浴場を出た。
脱衣所に入ったところにある棚に使ったタオルを入れて、新しいタオルで体を拭く。僕は持ってきた下着を履いて、髪を乾かすためにドライヤーを探す。洗面台に置かれているだろうと当たりを付け脱衣所内を見渡すと大きな鏡が置かれた洗面台にドライヤーが置かれていた。僕は下着だけの状態で洗面台に置かれている椅子に座り髪を乾かした。
髪を適当に乾かして、着替えを終えた僕は部屋に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる