【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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変わり始めた日常

【05-08】コボルト①

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 洗濯ボックスを抱えたまま部屋に戻った僕は、自室のクローゼットに着替えをしまっていく。上着とズボン、下着とそれぞれ分けてしまったアッと、洗濯ボックスをいつもの場所において机の椅子に座った。今の時間は、二十時五十分。二時間はプレイできる。僕は自室を出てVRルームに向かった。
 
 
 
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 ログインして最初に現れた場所は、噴水広場。今まで通りだ。AWを始めてから二か月以上たっているが、いまだに宿を使っていない。石畳の地面と延々と噴出を続ける噴水。全体的に過ごしやすい温度になっているヴィーゼの町だが、この噴水広場は少し寒さを感じる場所だ。
 僕の腕に蛇が絡む。腕の触感からしてオンだろう。僕の尻尾たちの中でオンが一番細い。僕の羽織る外套の中で動く尻尾たちも外套の裾や正面の空いた場所から顔を出して周囲をキョロキョロとみている。そんな尻尾たちを見ながら噴水広場から冒険者ギルドに向かった。
 
 今日受けた依頼はコボルト討伐。これまでに何回か受けた事のある依頼だ。基本はゴブリンと同じだ。ゴブリンのいる東の森とは逆の、西の森に生息している。ゴブリンと同じようにコボルトリーダーという統率個体がいて、その個体がいる集団は、コボルトだけの集団よりも強い集団になっている。
 ゴブリンと違うのは、力ではなく速さに特化しているということと、より集団として連携してくるということ。また、一つの集団ごとに現れるコボルトの数もゴブリンよりは多いのだが、一個体としてはゴブリンよりも攻撃力が低くなっている。まあ、戦い方としてはあまり変わらない。僕はいつだって奇襲メインだ。
 冒険者ギルドでコボルト討伐の依頼を受けた後、西の門を出た。
 
 
 
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 門の正面に広がる森。所々光が差している森。暗い雰囲気は感じない。ある程度遠くまで見渡せるので、視界の確保は十分だ。東の森と同じように背の高い木と低い木が両方植生しているみたいだ。そのため、木陰に隠れようとすれば余裕で隠れられる。僕は、いつものように〔気配察知〕と〔気配遮断〕、〔忍び足〕を併用して森に入った。
 
 コボルトはゴブリンとは違って鼻が利く。隠れているつもりでも見つけられることがあるので間違いないだろう。掲示板でもそういう結論が出ている。匂いを出さないように対策を取れば解決する問題ではあるのだが、匂いを出さないというのはとても難しい。掲示板では、匂いを消すスキルもあると書かれていたが、そのスキルを取るための労力を考えると乗り気にはならない。
 僕は木や草の影に潜みながら移動を続ける。ゴールデンウィークのイベント以来、ゴブリン狩りのために森に入り続けたことで、僕にとって森は狩りがしやすい得意なフィールドと言えるようになっている。気配を読み、音を立てないように行動する。すでに僕のデフォルトの行動パターンだ。
 
 森に入って十数分。森の立てる音とは違う音が僕の耳に届いてきた。僕は動きを止めて耳を澄ませる。
 
 「バウッバウッ」
 
 小さな音だったが、僕には犬の鳴き声のように聞こえた。基本的に、この森にはコボルトしかいない。音の主はコボルトで間違いないだろう。僕は慎重に音がする方向へ移動した。僕は〔気配察知〕をしながらオンの〔隠密〕と〔迷彩〕を発動させる。オンが消えたことを確認して、オンの視点で熱感知を開始する。ゴールデンウィークのイベントでは、熱感知をするときはかなりの集中を必要としていたが、今では片手間で行う事が出来るようになっている。今後の訓練の成果次第ではもっと楽になるのだろうか。
 
 少し移動したところで僕の〔気配察知〕でコボルトと思わしき気配を見つけた。数は五。熱感知で探ってみるがまだ反応はない。気配の感じではリーダーはいないみたいだ。僕はいつでも戦闘に入れるように、より一層、慎重に移動する。鼻の利くコボルトに奇襲するためには、風下から奇襲した方がいいんだろうか。僕に風の向きを知るすべはない。
 僕はゆっくりと近づき、熱感知で五体の熱を感知したところで移動をやめた。〔気配察知〕と熱感知で感知した情報から敵の全体像を把握する。気配だけだと敵がどんな体勢をしているのかイマイチわからないときがある。そんなときに熱感知は役立つのだ。
 
 僕は奇襲を開始するための位置取りを開始する。僕の思考が影響して、のんびりと自由気ままに動いていた尻尾たちも各々がコボルトたちの姿を捉えたみたいだ。僕と同じ方向をジッと見ている。ヒューだけは一度見た後、そっぽを向いてしまったが。
 コボルトの攻撃は尻尾一本で弾ける程度の威力しかないので、牽制して攻撃の勢いを殺す必要はない。だから、五対一でも問題はないのだ。それでも、数は少ない方がいい。五体のうち確実に背を向いている方向が分かるコボルトの後ろ側に移動し、一撃で狩るための動きを確認する。もし仕留めそこなっても問題ないようにドーで攻撃することにする。僕の尻尾たちの単純な攻撃力では、ヒュドラの頭よりキラースネークの頭の方が高いのだが、〔猛毒〕のことを考えるとヒュドラの頭の方が適しているはずだ。僕は最初の一撃を脳内でイメージした。
 
 気持ちを落ち着かせ、何が起きても混乱しないようにする。特にコボルトは動きが速い。そのことを思い出してから深く息を吐き、奇襲を開始した。
 自身の出来る最速の動きで、初撃の対象に迫る。僕の動きで響く音を感じたコボルトたちが体を震わす。
 コボルトとの距離が四メートルを切った所で、ドーを操作する。狙うのは首。一撃で屠る。匂いで気づいたのだろう。コボルトたちは一斉に吠えだした。
 僕から一直線に放たれた尻尾は僕の狙い通り、僕に背を向けるコボルトAの首に食いついた。その攻撃の動きでコボルトAが軽く浮いたところで他の四体のコボルトが僕のことを視認する。だが、もう遅い。僕の奇襲を受けたコボルトAはドーに噛みつかれたまま、四肢をだらしなくぶら下げている。
 
 念押しでドーの〔猛毒〕を使ってから、咥えていたコボルトAを放り投げる。僕の成長したステータスをもってすればコボルト一体を放り投げることは難しくない。
 僕が放り投げたと同時に二体のコボルトが僕の左側と正面から迫ってきていた。
 僕はコボルトの状態を確認する。僕に迫る二体は無手のようだ。他の二体のうち一体だけ剣のようななにかを持っているのが視界の端に見えた。反応速度向上訓練を始めてから、反応速度が上がった実感はないのだが、視界が広くなった実感はある。これもその一つだ。
 
 僕は、キーとルーで二体のコボルトの対処をする。右の爪で攻撃してくる左から迫るコボルトBの右腕にルーで噛みつかせて左に引っ張りながら、キーで正面から迫るコボルトCの首を狙う。腕を引かれて体勢を崩したコボルトBが地面から宙に浮いたので、そのまま放り投げる。首を狙われたコボルトCが向かってくるキーに噛みついてきた。痛みは感じないが、キーの動きが鈍る。〔再生〕で回復するのでキーに噛みつかせたまま、僕の方に引っ張り、ラーでコボルトCの首を噛みつかせて、噛み千切る。
 
 倒れていく正面コボルトを見ながら、剣持ちコボルトDが僕の方に迫るのを視認した。最後のコボルトEも僕の方に走ってきている。
 剣持ちコボルトDの対処が一番面倒なので、先にコボルトEを倒すことを決め、移動をしようとすると、ルーが素早く動き背後から迫っていたコボルトBの噛みつき攻撃を頭突きで防御した。遠くに投げたつもりだったのだが、そこまで遠くに飛んでいなかったみたいだ。
 自動防御の発動によって、移動が止まった僕に剣持ちコボルトDが剣を振り下ろしてくる。僕はドーで剣を横から外に弾き、ラーで首を狙う。剣持ちコボルトDが後ろに跳んで回避しようとした。しかし、一メートル下がったところで僕の射程範囲内であることに変わりはない。ラーを回避しきれなかった剣持ちコボルトDはそのままラーに首を千切られた。
 
 残るは正面から走ってくるコボルトEと左後方にいるコボルトBのみ。僕は二体が視界に入るように左を向きながら右に移動する。
 右から迫るコボルトEを〔再生〕の終わったキーとラーで左右から首を狙い、右から迫るコボルトBはドーとルーで動きを阻害する。両方一斉に仕留めるのもできるだろうけど、ここは一体ずつ倒す。
 コボルトEは迫ってきたキーとラーの攻撃を自身の腕を使って防御しようと腕で首から上を隠した。これがゴブリンであれば仕留めきれないのだが、コボルトであれば問題ない。キーで腕を噛みつき、無理やり腕をずらして隙間からラーで噛みついた。
 
 ラーで噛みついたのを見て、左から迫るコボルトの四肢をドーとルーで狙って動きを止める。
 噛みついたラーでコボルトEの首を食い千切り、両腕をドーとルーに噛みつかれ、地面から足の浮いた状態のコボルトBの首をキーで食い千切った。
 
 動くコボルトがいないことを確認する。確認を終えた僕は小さく息を吐いた。結果は上々。反省する点もなく、完璧に近い狩りだったと思う。
 僕は尻尾を動かして倒れているコボルトたちに触れていく。ゴブリンを狩っているときに気づいたことだが、どうやら依頼の収納は尻尾経由でもできるようだ。五体のコボルトを収納した。僕は周囲を見渡し、周りを確認する。左の方に少し表面が剥がれた木が近くにあった。投げ飛ばしたコボルトBが早く復帰したのはあの木に当たったからか。
 剣持ちコボルトの剣が落ちていたのでそれを回収する。たまに落とすこの剣は道具屋で売れる事が以前発覚したので、それ以来出来るだけ回収するようにしているのだ。
 
 他に何もないことを確認した僕は、コボルトを探すために再び森に入った。
 
 
 
 
 
 
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