【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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新たな日常

【06-06】合宿前日③

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 施設外観は都会にある低層型のオフィスビルのような印象だ。地上から数回分だけガラス張りになっていて、そこから中が伺えるようになっていた。
 
 ビルの入り口から中に入ると三階までが吹き抜けになっているエントランスに出た。外観からはもう少し階層があった気がするので全階吹き抜けということではないのだろう。
 僕は先輩たちに続いて先を進む。
 
 エントランスの中は、僕たちの寮やよく使う訓練施設とは異なっていて、椅子や机がなく、正面にエレベーターと受付のようなカウンターがあって、左右に上に登る階段とどこかにつながる通路があるだけだった。その通路にもよく見ると大きな両開きの扉が見えるので普段はしまっているのだろう。ただ、使われている素材や色に違いはなくどこか慣れ親しんだ感じがする。
 
 イットク先輩は迷いなく受付のようなカウンターの前に立って生徒証を取り出した。佐伯先輩もそれに続いて生徒証を出している。
 僕も出した方がいいのかなと思ってポケットに手を入れたところでイットク先輩が説明してくれた。
 
 「合宿の参加者はこの施設に入った時、必ずこのカウンターにある認証器に自分のデバイスを通さないといけないんだ。これは合宿の最初だけでなく最中でも同じだ。忘れるなよ」
 
 イットク先輩の言葉を聞いて、僕は入学式の日にみんなで寮に辿り着いたときのことを思い出した。同じようなことを言っていた気がする。
 
 佐伯先輩に続いて智也が認証し、最後に僕が認証をすると、カウンターの横にあるエレベーターから到着の音が鳴ってドアが開いた。
 
 「迎えが来たのかな」
 
 佐伯先輩がエレベーターの方に向いて呟いた。
 エレベーターの中からは一人の人物が出てきた。男の人だ。中年だろうか。肩幅が広くがっしりとした体型をしている。外見の印象では少し怖い感じだ。角田先生を見慣れているからそこまでではないが町中で見かけたら少しじっと見てしまうぐらいの体格だ。
 
 「ああ、久しぶりだね。田村君。佐伯君」
 
 声は若干高めな気がする。それでも、その声色は落ち着いた色をしていた。
 
 「お久しぶりです。三鴨さん」
 「お久しぶりです」
 
 イットク先輩と佐伯先輩は知っている人のようだ。日本チームのスタッフの人だろうか。
 ちなみに、田村というのはイットク先輩の苗字だ。
 
 「そっちの二人は見たことない顔だね。私の名前は三鴨《ミカモ》富士男《フジオ》。日本チームのコーチをしている。よろしくね」
 
 コーチだったみたいだ。
 三鴨さんの自己紹介に対して僕が会釈で返そうとすると、智也が自己紹介を始めた。
 
 「望月智也です。実験組の一年生代表をしています。よろしくお願いします」
 
 智也が隣で自己紹介したのに便乗して僕も自己紹介をすることにした。
 
 「堤瑠太です。よろしくお願いします」
 
 僕が軽く下げた頭を上げる。
 
 「うん。よろしくね」
 
 三鴨さんはそう言って少し笑い、僕に聞いてきた。
 
 「堤君は今年強化選手に選ばれた人だよね?」
 「あ、はい」
 「そっか。頑張ってね」
 「はい。ありがとうございます」
 
 僕は驚きながらもはっきりと答えて、頭を下げた。
 話してみた感じ優しそうな人みたいだ。
 
 「うん。じゃあ、とりあえず上に上がってもらえるかな」
 
 一通りのやり取りが終わった後、三鴨さんが僕からイットク先輩の方に顔を向けてそう言った。
 
 「分かりました」
 
 イットク先輩が答えたのを聞いて三鴨さんがエレベーターの前に移動してボタンを押した。
 その後ろにイットク先輩と佐伯先輩が続いたのを見て、一拍遅れながらもその後ろに付いて行った。
 
 「手伝ってもらうのは去年と同じように二階の設備の設置だ。田村君と佐伯君はわかっているよね?」
 「はい」
 「はい」
 
 エレベーターに乗ると、三鴨さんが僕たちに今日の予定を話し始めた。
 
 「それが終わったらVRルームでの接続の設定の方の手伝いをしてほしい。それが終われば今日の仕事は終了だよ」
 「分かりました」
 
 田村先輩がそう言って頷いた。僕も頷いておく。
 
 「夜はみんなで食べることになっているから終わっても帰らないように」
 
 夜も一緒に食べることになるみたいだ。
 短い説明が終わるとほぼ同時にエレベーターが二階に着いた。心なしか時間が掛かった気がする。
 
 「じゃあ、よろしく頼むよ」
 
 そう言って、三鴨さんは一人で左奥に歩いて行ってしまった。
 エレベーターを出たところは正面の吹き抜けから一回のエントランスが見え、左右に通路が続いているのが見えた。その奥には外の景色が一望できるようになっていた。壁がガラス張りでできているからだ。
 僕たちはどっちに行けばいいんだろうか。その答えはイットク先輩が持っていた。
 
 「俺たちは右だ。左はサーバールームになっているからチームのスタッフしか入ってはいけないことになっている。俺たち生徒や選手の人は入れない」
 
 そう言って、イットク先輩が歩き出した後に付いて行く。
 イットク先輩がいて本当によかったと思う。もし、寮長たちが合宿に参加できない決まりになっていたら僕一人で今日ここに来ることになっていたのだ。そのことを想像するだけで少しお腹が痛くなりそうだ。僕は心の中で一人安心しながらイットク先輩たちの後に付いて行った。
 
 
 
-------
 
 
 
 イットク先輩の後について進んだ先には一つの扉。一回のエントランスにもあった大きな扉だ。
 イットク先輩はその扉を強めにノックしてから扉を開いた。
 
 「失礼します」
 
 そう言って中を覗き込むイットク先輩。それを見守る僕と智也と佐伯先輩。数秒の間をおいて扉の向こうから返答があった。
 
 「入ってきてください」
 
 声的には女性だろうか。
 僕たちは扉をくぐって中に入った。
 中は大きな一室になっていて、大きな機材が散乱していた。
 
 「田村君たちですか。待ってましたよ」
 
 そう言って、僕たちに声を掛けてきたのはメガネをかけたおとなしそうな女性だった。散乱している機材の整理でもしていたのか、少し着崩れしていて髪も乱れている。それらが相まって僕の彼女に対する最初の印象は地味目な委員長キャラの皮を被ったドジっ子だった。
 
 「お久しぶりです。宮崎さん」
 「久しぶりですね。佐伯君も」
 
 ドジっ子改め宮崎さんはイットク先輩に返事した後、佐伯先輩にも目を向けた。目を向けられた佐伯先輩も返事をしていた。
 
 「後ろの二人は初めましてですね。私の名前は宮崎《ミヤザキ》浩子《浩子》よ。よろしくね」
 
 彼女の自己紹介の後、僕たちも自己紹介をすると、彼女から供する仕事について説明された。今日、僕たちがすることはこの大きな部屋に散乱する機材の整理と設置だった。僕たちは二手に分かれて行動する必要があるみたいだ。
 
 片方はここで宮崎さんと機材の確認。どんな機材があるのか、それらの状態は良好かどうか、を見ていく作業。
 もう片方は、ここにある機材で確認が済んだ物の中で今回の合宿に使われる物を所定の場所に持っていく作業。
 
 今現在、ここにある機材は今回の前回の合宿の終わりに片したままなのだそうだ。一見、散乱しているように見えるこの部屋の仲も一応整理された後らしい。
 僕たちは、イットク先輩と智也、佐伯先輩と僕の二人に分かれて作業に当たることにした。僕たちがする作業は前者の作業。この部屋の機材の確認をする作業だ。
 僕たちは宮崎さんの説明を受け終わった後、行動を開始した。
 
 
 
 
 
 
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