【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

文字の大きさ
84 / 101
一員として

【08-04】

しおりを挟む
 僕たちが入った入り口は一般的な入り口ではなかった。俗にいう『V.I.P.』専用の入り口だ。なんでも、僕たちを狙ったマスコミ関係者がいるかもしれないからその対策だそうだ。僕としては、初めての体験で少しドキドキ、ワクワクしていた。

 僕たちが奥に入るとそこには何度か見た事のある手荷物検査のための機械や属探知機といった検査機器が置かれていた。僕たちはそこで一斉に検査を行う。本来は長蛇の列に並んでする検査もここではすぐに終わる。僕たちの他にも複数人の人影を見たがどの人も何らかの理由でここにいる人だ。僕はあまり彼らを見ないように努めた。

 一通りの検査が終わると僕たちはパフォーマンスとして一般の入り口からターミナルへと移るための準備に入った。
 といっても、特に何かをすることはない。ただただ一般の入り口から搭乗口までを歩くというだけ。その最中にもし誰かに話しかけられても過度な応対はしない。なにか聞かれてもコメントはしない。その二つだけを気を付けるように、とのことだった。

 搭乗時間まではまだ時間がある。当然だ。
 搭乗開始時間の少し前までに搭乗口に移動するように時間を合わせると、まだまだ時間がある。そのことを仁科さんがうんざりといった様子でぼやいていた。僕は両親と海外に行くときに二時間は空港に早く着いた方がいいと聞かされていた。だから僕にとって空港で時間を潰すことは当然のことで何ら疑問は持っていない。
 僕は五人での話し合いが終わると、自身のデバイスで情報を漁ることにした。

 まずは掲示板。ここは学校外だ。当然、行内掲示板は閲覧できない。だから、僕は一般の匿名掲示板を閲覧していく。時折、黒川に指示を出して欲しい情報を得られるようにしているが、どうも無駄な情報が多い。

 今年の夏休みのイベントはどうやらレベルアップ加速イベントとレイドボス討伐イベントのようだ。他にもこまごまと書かれていたが大まかにはその二つだ。
 イベント期間中は経験値の格闘にボーナスが付き、レイドボスを倒すことで限定の装備やアイテムを落とすそうだ。これは専用のインベントリが個人に与えられ、MOBを倒すごとにそこに蓄えられるような仕組みになっている。
 それ以外にも、敵対MOBに期間限定のアイテムのドロップが実装されていて、そのアイテムを一定数集めると何やら景品と交換できると書かれていた。
 中には、告知されていない限定のクエストがあるのでは、という噂も出ていた。これはいつのイベントにも出ている様だ。半ば確認といった流れではあったが、実際に検証しようという人がいるぐらいには盛り上がりを見せていた。

 イベントとしてはありきたりなものに見えるが、ネットの盛り上がりは上々だ。
 すでに廃人プレイヤーの中にはレイドボスの限定装備を手に入れた者がいるようで、その装備のスペックに関して議論がされているスレもあった。
 実はこういったイベントで獲得できる装備には、公式大会で使用できないように制限が掛けられている。その代わり、装備の性能は極上の物になっている。今回のスレをにぎわせている装備も最高難易度のレイドボスのドロップではないのだが、その性能は光るものがある。使い方によってはすごいのでは。なんて会話がされているのだった。
 バランスブレイカーというほどではなくとも、それに近い性能を持つ武器も過去四年間のイベント報酬や公式大会の商品に登場している。今回のイベントも最高難易度のレイドボスのドロップはそれらに近いのではないかと予想されているみたいだ。

 僕としては参加できないだろうイベントだ。参加したいという気持ちがあると同時に、今の僕では戦力にならないと冷静に考えている自分がいた。
 いつかは。絶対に。と、決心した僕。その横から僕に声を掛ける人がいた。

 「こんにちは」

 そう声を掛けてきたのは一人の男性だった。
 長身で眉にかかる程度に伸びた黒いストレートの髪を掻き上げている。その仕草は堂に入ったもので、その立ち姿もどこか洗練されているように見えた。声もどこか中性的な高さの声だ。もしかしたら歌手的な人なのかもしれない。なんて、予想して、放棄した。そんなことが分かっても大して意味がないからだ。

 「こんにちは」

 相手が誰だかは分からなかったが、ここは空港の待合室。しかも、一般人は入れない場所のはずだ。相手に失礼のないように僕も挨拶を返した。
 そんな僕を見て、男性は満足したのか僕の隣の席を指さして言った。

 「ここ、座っても?」
 「はい。どうぞ」

 別に断る理由もなかったので、僕はそう返した。

 今僕が座っているのは三人掛けの長椅子の左端だ。矢澤コーチたち他三名もそれぞれが時間を潰していたので僕とは少し離れていた。仁科さんと村山さんは何やらテーブルを一台占拠して、資料を並べて話をしているのも見える。
 僕は気にしないように心掛け、手元のデバイスをのぞき込んだ。

 イベントの情報が多かったが、偶然僕のことが書かれたスレッドも見つけてしまった。一コメ、二コメに書かれているのは僕の概要。特に書かれてはおらず、会見で発表したことと大差ない情報量だった。
 内容も根も葉もない中傷が多いようにも感じたが、時折ある『正直なんも分からなくね?』というコメを見て、少し安堵する。適当なことを言ってるだけだ。と自身の言い聞かせた。

 僕の一人芝居のような内心が百面相として表に出ていたのか、僕の隣から「くすっ」と笑い声が聞こえてきた。僕の隣に座ているのは先程の男性のみ。とすれば……

 僕は恐る恐るといった様子で横を向く。
 しかし、そこには本を広げて真面目な顔で読書をしているさっきの男性しかいなかった。この人以外にあり得ないと頭では思っていても、目の前の男性の様子からは笑っていたことを想像できなかった。
 僕は内心で首を傾げながら、再び手元のデバイスに視線を落とした。



-------

 結構な時間待っていたと思う。隣にいた男性もいつの間にかいなくなっていた。
 僕も掲示板はあらかた読み終え、いい機会だと思い世間のニュースを読み漁っていた。
 数か月前までテレビでよく見ていた女優が不倫をしていた、だとか。今話題のお笑い芸人が大物歌手と結婚、だとか。そんなエンタメ情報から、政治的な情報まで浅く調べてみた。
 政治に関しては分からないこともあったけど、暇潰しにはなった。

 僕は凝り固まった肩をほぐすために肩甲骨を寄せて肩を回した。

 「んー」

 つい声に出てしまったが、だいぶ固まっていたようだ。僕はついでに上がった視線の先で菊池さんが空港のスタッフらしき制服を着た人と会話しているのを見つけた。その様子は、世間話をしているようではなかった。手元のデバイスで時間を確認するとすでに一時間ほどたっていたみたいだ。
 そろそろかな。と、予想した僕はデバイスをポケットに入れて、いつでもいけるように準備を始めた。荷物を広げていたわけではないから、トイレに行くぐらいしかないが。

 待合室の奥にあるトイレを目指して席を立った。
 こうして待合室を見渡すと、僕が来た時と顔ぶれが少し変わっていた。だが、僕にとってはどうでもいいことだ。そのことはすぐに僕の頭から消えていた。

 トイレから出ると、ちょうどよかったと言った様子の矢澤コーチに呼ばれ、話を聞く。
 僕の予想は正しかったようで、もうそろそろ飛行機の搭乗準備ができるそうだ。僕は自身の持ち物を今一度確認して出発に備えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...