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はじめまして。
【01-05】キャラメイク
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目を開けると、見覚えのある真っ白な空間に浮いているのがわかる。目の前には当然ディスプレイがあり、選択されるのを今か今かと待ちわびている。
僕は、迷うことなく、接続先に『アナザーワールド』を選ぶ。
すると、いつものように視界が暗転する。
-------
目を開けるとそこは見覚えのない部屋だった。中世の貴族が使っていそうな部屋だ。大きなクローゼットに、大きな姿見、天幕付きのベッドに、高そうなテーブルと椅子。
まるで、自分が全く別の世界に迷い込んだようさ錯覚をしてしまう。
微妙に感じる風に、微かに香る花の匂い。
おそらく、ここがキャラメイクのための空間なんだろう。
そう思った瞬間、あたりに光が広がり、気づくと高そうな椅子に座り、高そうなティーカップで高そうな紅いお茶を飲んでいる貴婦人がいた。名前は忘れてしまったが、確かAWに存在するといわれえている申し訳程度のストーリーでカギになる人物だったはず。
紅茶を飲み終えたその貴婦人は、僕の方を向いて語りだす。
「今日もまた新たな魂がこの世界を訪れる。その魂がどのような形で生命を得るのかはわからない。だけど、この荒んだ世界で彼らが少しでも希望をもって生きていけるように、私には祈る事しかできない。それぐらいしか、私にはできない」
貴婦人が語り終えると、また一瞬光を放ってから消えていった。
それと同時に、部屋の中に勢いよく風が吹く。
貴婦人の放った光のせいで目をつぶっていた僕が目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。
ただ、さっきの部屋にも置いてあった大きな姿見が置いてあった。
僕はその姿見を覗く。すると、目の前にディスプレイが現れた。
『名前の設定』と書かれているディスプレイに、”tail”と素早く記入して、次の設定に移る。
性別は、もちろん男を選択して、ふと姿見を見る。
僕の容姿は、両親曰く中性的で、子供のころはよく女の子に間違えられていたそうだ。
今の僕の身長は、成長期によって約百七十センチメートルになっている。そのため、今では間違えられることはない。髪は少し長めにしているため、中学の友人には、「おまえ、女装して町歩いたらスカウトされんじゃね」的なことを言われたが、よく考えてみてほしい。田舎の人にとっての町なんかにスカウトマンがいる確率は低いだろう。
気を取り直して。ここからが僕に正念場だ。
名前、性別の次は当然、種族の設定である。
ディスプレイにはいくつもの種族が映っている。
ヒューマン種に獣人種、鬼人種に竜人種それぞれにさらに分類があるようだ。しかし、そのなかでも、僕が求めているのはただ一つ。
ディスプレイにあるヒューマン種の中にあるキメラ種を選択する。
キメラ種のほかにも、魔人種や、天人種、エルフにドワーフといった、お決まりの種族や、ハーブラッドと書かれた項目も存在した。
だが、僕には関係ない。まあ、キャラが複数作れるならそういった種族でもプレイしたいとは思っているのだが。
表示の変わったディプレイに、ヒューマンよりかキメラよりかの設定を求められる。
シークバーのようなものがあり、左がヒューマン、右がキメラ。キメラ側に近づければ近づけるほどヒューマン種の特徴である汎用性が失われ、キメラとしてどれぐらいモンスターの体にすることができるかを表す『許容値』が増えていく。僕は、とりあえずキメラ側にシークバーを動かして決定を押す。この設定は後からでも変えられるようになっているのでとりあえず許容値を最大にしておく。
ディスプレイの表示が変わり、どのモンスターの体を使うかを選ぶことになった。今の許容値は最大の百。モンスターの一覧を眺めていく。どうやら、一応ではあるが動物も載っている ようだ。一覧にはその部位の特徴と許容値が書かれている。それをを元に、キャラを作っていく。
とりあえずではあるが、どんな部位を使うかは決めてある。
尻尾を使って戦闘する上で、必要なのは、尻尾の強度と長さだと僕は考えた。尻尾で戦うということは、尻尾で攻撃して、尻尾で防御することになるのだ。言い換えれば、武器の強度と間合いの広さということになる。
それらを踏まえたうえで、一覧に目を通す。
いろいろあるが、中には欠点しかないような部位もあるみたいだ。きっと特定の条件下で強くなるのだろう、なんて考えながら目当てのものを探す。
最初に探したのは、竜の尻尾だ。竜の尻尾には、鱗もついているだろうし、長さも十分だろうという考えたのだ。だが、それらを見つけて、すぐにあきらめた。尻尾一本だけで許容値五十を超えるものばかりなのだ。
僕の中では、尻尾は一本でなく、五本ぐらい必要なことになっている。そもそも一本でいいなら、最初から竜人族でも選択していればいいのだ。
そんなことの考えながら一覧を見ていると、一つの部位に目が留まった。
『伸縮筋』と書かれた部位だ。これは、舌長ガエルというモンスターの一部らしい。おそらくだが、彼らの舌は長いのでなく、伸びるということなのだろう。そんな予想を立ててみた。この筋を尻尾にき見込めれば、長さに関してはクリアしたも同然である。筋ということもあり、伸ばすことができるのは、体の一部である。とりあえず、適当に選んだ尻尾にこの筋を組み込むことができるか試してみる。
選んだ尻尾は、グラスピッグという豚のモンスターの尻尾。
伸縮筋の許容値は、三。格安である。
グラスピッグの尻尾はもっと安い、一。何の効果もない尻尾だから当然といえば当然である。
その二つを選ぶと、許容値が百から九十六に減り、自分のお尻あたりから、小さな尻尾が生えてきた。
本来操作することが難しい尻尾だが、この空間では思うだけで操作できる。なので、まず尻尾を振ってみる。確認しようとしたが、短すぎてわからない。置いてある姿見に背を向けて振ってみる。すると、小さな尻尾が確かに左右に揺れていた。動くことが確認できた後は、伸びるかの確認である。「伸びろ」と姿見越しに見える尻尾に命じてみる。するとだんだんと伸びてきて体の前の方に届く長さになっていた。そのまま胴体に巻き付けるように伸ばしてみる。大丈夫なようだ。胴回りを一周したところで伸びなくなった。これぐらい伸びれば十分だと思う。今度は一気に最初の長さに戻るように念じてみる。すると、いつの間にか、お腹で感じていた尻尾の感触がなくなり元の戻さに戻っていた。
実験は成功といっていいだろう。
一本の許容値が三である五本使っても十五である。掘り出し物である。
次は尻尾を探していく。なかなかお目当てのものは見つからない。一番の候補は、ワイバーン種の尻尾である。亜流種に分類されるワイバーンの尻尾は鱗があり、強度もある方だと思うし、何より尻尾に毒がある個体があったのだ。その尻尾が今の尻尾候補である。
だが、妥協しないと決めたからには、まだ半分以上ある一覧を見ないで決めることはできない。
すでに二、三時間がたっているだろうが大丈夫だ。角田先生もそう言っていた。
その後も、苦行に近いただ眺めるという行動を続けていた。
これは、というものも中にはあった。例えば、尾切りトカゲというモンスターの尻尾だ。この尻尾は、強度はそれこそ低いが、瞬時に再生するのだ。また、元のモンスターが武器にしていることもあって貫通力が高いらしい。
しかし、もっといいのがある気がして、一覧を見る。最後まで、見てからでも遅くない。そんなことを考えていたら一つのモンスターの項目が目に留まった。
そのモンスターの名前は、『ヒュドラ』。神話に登場するモンスターである。これを見たとき思ったのだ。「別に尻尾じゃなくてもいいのでは?」と。
そう、気づいてしまったのだ。
尻尾みたいなものであればそれでいいのでは、と。
再生能力の高いヒュドラの頭を尻尾にすればいいのでは、と。
だが、ヒュドラの頭は核となる頭(核)が四十、他が十五と結構高かったのだ。最大で五本。しかし、許容値百にするということは、元のヒューマンの体は、とても弱くなってしまうということを意味するのだ。
だが、なぜだかヒュドラの頭(核)を、外す気にならない。
そこで、また閃いたのだ。ヒュドラの核さえあれば他の頭はヒュドラじゃなくてもいいのでは、と。
僕は、この仮説を証明するために、ヒュドラの頭(核)以外に適当に選んだいくつかの種類の尻尾を生やして、ヒュドラの頭(核)でちぎってみた。確定していないからこそできる所業である。確定していれば痛覚だ通るため千切れただけで悶絶していただろう。だが、その結果、分かったことがある。それは、再生するものと再生しないものがあったことである。その二つの分類は簡単であった。二つの違いは、単純に、蛇であるか、ないか、であった。
このことが分かった僕は、今度は蛇の尻尾ではなく、頭の方で同じことをやってみた。すると、再生したのである。
僕は歓喜した。大発見である。
僕は改めて、一覧に目を通す。
今確定しているのは、ヒュドラの頭(核)と伸縮筋で許容値四十三。それ以外に何かないか。僕は目を皿にして探した。その結果決めたのがこれである。
ヒュドラの頭(核)と伸縮筋で許容値四十三。
ヒュドラの頭と伸縮筋で十八。これを二本で三十六。
隠密迷彩蛇の頭と伸縮筋で八。
キラースネークの頭と伸縮筋で五。これが二本で十。
計、許容値九十七。あまり三。ということになった。
ヒューマンには三しか振れないが、別にいいという考えに行きついた。
ヒュドラの頭は猛毒を持っているし、キラースネークは毒とかは持たないが、純粋な肉体能力が高い。最後の、隠密迷彩蛇は、気配を消せて、姿も隠せるけど肉体はとても弱いという、希少種らしい。いまだに発見されていない種と書いてあった。この頭は、普段から隠しておいて、いざというときに不意打ちに使うようである。使い方次第では、偵察にも使えるかもしれない。
これら六本が伸びるのである。そう考えると、別に本体に力がなくてもいいのでは、と思ってしまったのだ。序盤は大変だろうけど、ある程度育った後であれば、結構強くなるのでは、と考えている。
僕は、決めた六本を腰あたりから生やしながら、いろいろな動きをしてみた。一番の収穫は、伸ばした蛇の頭に乗れば、早く移動できるということ。そして、操作しやすい環境でありながら六本を同時に操作することができなかったことである。
とりあえず満足した僕は、ひとつ前に戻って、許容値を振りなおした。
そして、六本の蛇の頭を確定させて次に進んだ。
かなりの時間見ていたディスプレイの表示が変わり、職業の選択になった。
職業には熟練度があり、試練を受けて上位の職になっていく必要があるらしく、最初の職は戦士、盗賊、術師、信者 、の四つしかない。
僕は、盗賊を選んだ。
理由は簡単だ。消去法である。
肉体の弱い僕に戦士は無理である。
魔法の使えるモンスターを選ばなかった僕に術師は無理である。
モンスターの一部を宿している僕に信者は無理である。
ということで、盗賊になった。
次の設定に移ろう。
次は、ステータス振り分けである。
初期のステータスポイントは十五。
ステータスは五つ。
STR、MAG、VIT、AGI、DEX。
順に、力、魔法、耐久力、速さ、器用さ、である。
このステータスだが、実は結構不安定なもので、STR十のキャラがSTR二十のキャラに力で勝つことができるのはAWでは常識に近いものらしい。戦いというものは、一瞬の気のゆるみ、地の利、技量の差、いくつもの要因が複雑に絡み合うだ。そのため、この数値が絶対ということはない。しかし、双方が完璧に力を発揮すれば、STR十の方が勝つことはまずできない。AWでのステータスはそのキャラの発揮できる最高の値ということになる。
それでも、ステータスが高いに越したことはない。このステータスが、キメラ種の大きな弱点である。
ステータスはキャラのレベルごとに上限が決められる。
この上限が一番緩いのが、ヒューマン種である。ヒューマン種は、ステータスポイントの総数がステータスの上限になる。すべてのステータスに一は必ず振られるため、実質上限なしである。
これに対してほかの種族は得意な分野の上限は上がり不得意なものは低くなっている。例えば、獣人種は一部を除いてMAGの上限がレベルと同数になる。その代わり、STRやAGIの上限が上がる。
基本的に、ステータス上限の総和は、ステータスポイントの総数以下にならたいため、自由度がなくなるわけではない。
普通は、これらを考慮したうえで、種族を選ぶのだ。
しかし、キメラ種には、当てはまらない。
純粋なキメラ種、許容度百のキメラ種は、選んだモンスターの部位で上限が決まる。そのため、ビルドによってはステータス上限が少ないのだ。場合によっては、ステータス上限の総和が、ステータスポイントの総数以下になることもある。
キメラ種はレベルが上がるときに緩和される上限の値が大きくなるため、最終的には、ステータス上限の総和は、ステータスポイントの総数以下にならなくなるらしい。
そのことを踏まえて、ステ振りを行う必要がある。
僕のステータスはこうだ。
ステータスポイント(SP):十
STR:一(上限:三)
MAG:一(上限:一)
VIT:一(上限:五)
AGI:一(上限:一)
DEX:一(上限:二)
見事に余った。しかし、これは想定の範囲内だ。むしろ、結果としてはいい方だろう。ステータスが絶対じゃないAWでは突出した能力が一つでもあれば十分活動できるのだ。
僕は、上限までステータスを振った。
これで、キャラ作成は終了だ。
AWにはスキルも存在するが、これはAW内で行動した結果として得るものであって、最初は種族特有のスキルしか持てないことになっている。
キメラの場合は、本人にも影響があるスキルと、モンスターの部位だけにしか影響しないスキルの二つがある。これについては、選べない。キャラメイクが終わった後にしかわからないようになっている。
キャラメイクの終わった僕は最後の確認画面を確認していた。間違いのないことを確認して、確定ボタンを押おうと念じるが反応しない。しかたなく、ディスプレイの確定ボタンを押すと、ディスプレイが消えた。AWでは、思考によるディスプレイの操作ができないというのは聞いていた。けど、このタイミングということは、もうお試しではなくなったということだろうか。
一度消えたディスプレイが再び出現した。そこには、このままAWを始めるかどうか書いてあった。
このまま始めたいところだが、そうはいかない。
僕はいいえを選択して、ログアウトする。
僕は、迷うことなく、接続先に『アナザーワールド』を選ぶ。
すると、いつものように視界が暗転する。
-------
目を開けるとそこは見覚えのない部屋だった。中世の貴族が使っていそうな部屋だ。大きなクローゼットに、大きな姿見、天幕付きのベッドに、高そうなテーブルと椅子。
まるで、自分が全く別の世界に迷い込んだようさ錯覚をしてしまう。
微妙に感じる風に、微かに香る花の匂い。
おそらく、ここがキャラメイクのための空間なんだろう。
そう思った瞬間、あたりに光が広がり、気づくと高そうな椅子に座り、高そうなティーカップで高そうな紅いお茶を飲んでいる貴婦人がいた。名前は忘れてしまったが、確かAWに存在するといわれえている申し訳程度のストーリーでカギになる人物だったはず。
紅茶を飲み終えたその貴婦人は、僕の方を向いて語りだす。
「今日もまた新たな魂がこの世界を訪れる。その魂がどのような形で生命を得るのかはわからない。だけど、この荒んだ世界で彼らが少しでも希望をもって生きていけるように、私には祈る事しかできない。それぐらいしか、私にはできない」
貴婦人が語り終えると、また一瞬光を放ってから消えていった。
それと同時に、部屋の中に勢いよく風が吹く。
貴婦人の放った光のせいで目をつぶっていた僕が目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。
ただ、さっきの部屋にも置いてあった大きな姿見が置いてあった。
僕はその姿見を覗く。すると、目の前にディスプレイが現れた。
『名前の設定』と書かれているディスプレイに、”tail”と素早く記入して、次の設定に移る。
性別は、もちろん男を選択して、ふと姿見を見る。
僕の容姿は、両親曰く中性的で、子供のころはよく女の子に間違えられていたそうだ。
今の僕の身長は、成長期によって約百七十センチメートルになっている。そのため、今では間違えられることはない。髪は少し長めにしているため、中学の友人には、「おまえ、女装して町歩いたらスカウトされんじゃね」的なことを言われたが、よく考えてみてほしい。田舎の人にとっての町なんかにスカウトマンがいる確率は低いだろう。
気を取り直して。ここからが僕に正念場だ。
名前、性別の次は当然、種族の設定である。
ディスプレイにはいくつもの種族が映っている。
ヒューマン種に獣人種、鬼人種に竜人種それぞれにさらに分類があるようだ。しかし、そのなかでも、僕が求めているのはただ一つ。
ディスプレイにあるヒューマン種の中にあるキメラ種を選択する。
キメラ種のほかにも、魔人種や、天人種、エルフにドワーフといった、お決まりの種族や、ハーブラッドと書かれた項目も存在した。
だが、僕には関係ない。まあ、キャラが複数作れるならそういった種族でもプレイしたいとは思っているのだが。
表示の変わったディプレイに、ヒューマンよりかキメラよりかの設定を求められる。
シークバーのようなものがあり、左がヒューマン、右がキメラ。キメラ側に近づければ近づけるほどヒューマン種の特徴である汎用性が失われ、キメラとしてどれぐらいモンスターの体にすることができるかを表す『許容値』が増えていく。僕は、とりあえずキメラ側にシークバーを動かして決定を押す。この設定は後からでも変えられるようになっているのでとりあえず許容値を最大にしておく。
ディスプレイの表示が変わり、どのモンスターの体を使うかを選ぶことになった。今の許容値は最大の百。モンスターの一覧を眺めていく。どうやら、一応ではあるが動物も載っている ようだ。一覧にはその部位の特徴と許容値が書かれている。それをを元に、キャラを作っていく。
とりあえずではあるが、どんな部位を使うかは決めてある。
尻尾を使って戦闘する上で、必要なのは、尻尾の強度と長さだと僕は考えた。尻尾で戦うということは、尻尾で攻撃して、尻尾で防御することになるのだ。言い換えれば、武器の強度と間合いの広さということになる。
それらを踏まえたうえで、一覧に目を通す。
いろいろあるが、中には欠点しかないような部位もあるみたいだ。きっと特定の条件下で強くなるのだろう、なんて考えながら目当てのものを探す。
最初に探したのは、竜の尻尾だ。竜の尻尾には、鱗もついているだろうし、長さも十分だろうという考えたのだ。だが、それらを見つけて、すぐにあきらめた。尻尾一本だけで許容値五十を超えるものばかりなのだ。
僕の中では、尻尾は一本でなく、五本ぐらい必要なことになっている。そもそも一本でいいなら、最初から竜人族でも選択していればいいのだ。
そんなことの考えながら一覧を見ていると、一つの部位に目が留まった。
『伸縮筋』と書かれた部位だ。これは、舌長ガエルというモンスターの一部らしい。おそらくだが、彼らの舌は長いのでなく、伸びるということなのだろう。そんな予想を立ててみた。この筋を尻尾にき見込めれば、長さに関してはクリアしたも同然である。筋ということもあり、伸ばすことができるのは、体の一部である。とりあえず、適当に選んだ尻尾にこの筋を組み込むことができるか試してみる。
選んだ尻尾は、グラスピッグという豚のモンスターの尻尾。
伸縮筋の許容値は、三。格安である。
グラスピッグの尻尾はもっと安い、一。何の効果もない尻尾だから当然といえば当然である。
その二つを選ぶと、許容値が百から九十六に減り、自分のお尻あたりから、小さな尻尾が生えてきた。
本来操作することが難しい尻尾だが、この空間では思うだけで操作できる。なので、まず尻尾を振ってみる。確認しようとしたが、短すぎてわからない。置いてある姿見に背を向けて振ってみる。すると、小さな尻尾が確かに左右に揺れていた。動くことが確認できた後は、伸びるかの確認である。「伸びろ」と姿見越しに見える尻尾に命じてみる。するとだんだんと伸びてきて体の前の方に届く長さになっていた。そのまま胴体に巻き付けるように伸ばしてみる。大丈夫なようだ。胴回りを一周したところで伸びなくなった。これぐらい伸びれば十分だと思う。今度は一気に最初の長さに戻るように念じてみる。すると、いつの間にか、お腹で感じていた尻尾の感触がなくなり元の戻さに戻っていた。
実験は成功といっていいだろう。
一本の許容値が三である五本使っても十五である。掘り出し物である。
次は尻尾を探していく。なかなかお目当てのものは見つからない。一番の候補は、ワイバーン種の尻尾である。亜流種に分類されるワイバーンの尻尾は鱗があり、強度もある方だと思うし、何より尻尾に毒がある個体があったのだ。その尻尾が今の尻尾候補である。
だが、妥協しないと決めたからには、まだ半分以上ある一覧を見ないで決めることはできない。
すでに二、三時間がたっているだろうが大丈夫だ。角田先生もそう言っていた。
その後も、苦行に近いただ眺めるという行動を続けていた。
これは、というものも中にはあった。例えば、尾切りトカゲというモンスターの尻尾だ。この尻尾は、強度はそれこそ低いが、瞬時に再生するのだ。また、元のモンスターが武器にしていることもあって貫通力が高いらしい。
しかし、もっといいのがある気がして、一覧を見る。最後まで、見てからでも遅くない。そんなことを考えていたら一つのモンスターの項目が目に留まった。
そのモンスターの名前は、『ヒュドラ』。神話に登場するモンスターである。これを見たとき思ったのだ。「別に尻尾じゃなくてもいいのでは?」と。
そう、気づいてしまったのだ。
尻尾みたいなものであればそれでいいのでは、と。
再生能力の高いヒュドラの頭を尻尾にすればいいのでは、と。
だが、ヒュドラの頭は核となる頭(核)が四十、他が十五と結構高かったのだ。最大で五本。しかし、許容値百にするということは、元のヒューマンの体は、とても弱くなってしまうということを意味するのだ。
だが、なぜだかヒュドラの頭(核)を、外す気にならない。
そこで、また閃いたのだ。ヒュドラの核さえあれば他の頭はヒュドラじゃなくてもいいのでは、と。
僕は、この仮説を証明するために、ヒュドラの頭(核)以外に適当に選んだいくつかの種類の尻尾を生やして、ヒュドラの頭(核)でちぎってみた。確定していないからこそできる所業である。確定していれば痛覚だ通るため千切れただけで悶絶していただろう。だが、その結果、分かったことがある。それは、再生するものと再生しないものがあったことである。その二つの分類は簡単であった。二つの違いは、単純に、蛇であるか、ないか、であった。
このことが分かった僕は、今度は蛇の尻尾ではなく、頭の方で同じことをやってみた。すると、再生したのである。
僕は歓喜した。大発見である。
僕は改めて、一覧に目を通す。
今確定しているのは、ヒュドラの頭(核)と伸縮筋で許容値四十三。それ以外に何かないか。僕は目を皿にして探した。その結果決めたのがこれである。
ヒュドラの頭(核)と伸縮筋で許容値四十三。
ヒュドラの頭と伸縮筋で十八。これを二本で三十六。
隠密迷彩蛇の頭と伸縮筋で八。
キラースネークの頭と伸縮筋で五。これが二本で十。
計、許容値九十七。あまり三。ということになった。
ヒューマンには三しか振れないが、別にいいという考えに行きついた。
ヒュドラの頭は猛毒を持っているし、キラースネークは毒とかは持たないが、純粋な肉体能力が高い。最後の、隠密迷彩蛇は、気配を消せて、姿も隠せるけど肉体はとても弱いという、希少種らしい。いまだに発見されていない種と書いてあった。この頭は、普段から隠しておいて、いざというときに不意打ちに使うようである。使い方次第では、偵察にも使えるかもしれない。
これら六本が伸びるのである。そう考えると、別に本体に力がなくてもいいのでは、と思ってしまったのだ。序盤は大変だろうけど、ある程度育った後であれば、結構強くなるのでは、と考えている。
僕は、決めた六本を腰あたりから生やしながら、いろいろな動きをしてみた。一番の収穫は、伸ばした蛇の頭に乗れば、早く移動できるということ。そして、操作しやすい環境でありながら六本を同時に操作することができなかったことである。
とりあえず満足した僕は、ひとつ前に戻って、許容値を振りなおした。
そして、六本の蛇の頭を確定させて次に進んだ。
かなりの時間見ていたディスプレイの表示が変わり、職業の選択になった。
職業には熟練度があり、試練を受けて上位の職になっていく必要があるらしく、最初の職は戦士、盗賊、術師、信者 、の四つしかない。
僕は、盗賊を選んだ。
理由は簡単だ。消去法である。
肉体の弱い僕に戦士は無理である。
魔法の使えるモンスターを選ばなかった僕に術師は無理である。
モンスターの一部を宿している僕に信者は無理である。
ということで、盗賊になった。
次の設定に移ろう。
次は、ステータス振り分けである。
初期のステータスポイントは十五。
ステータスは五つ。
STR、MAG、VIT、AGI、DEX。
順に、力、魔法、耐久力、速さ、器用さ、である。
このステータスだが、実は結構不安定なもので、STR十のキャラがSTR二十のキャラに力で勝つことができるのはAWでは常識に近いものらしい。戦いというものは、一瞬の気のゆるみ、地の利、技量の差、いくつもの要因が複雑に絡み合うだ。そのため、この数値が絶対ということはない。しかし、双方が完璧に力を発揮すれば、STR十の方が勝つことはまずできない。AWでのステータスはそのキャラの発揮できる最高の値ということになる。
それでも、ステータスが高いに越したことはない。このステータスが、キメラ種の大きな弱点である。
ステータスはキャラのレベルごとに上限が決められる。
この上限が一番緩いのが、ヒューマン種である。ヒューマン種は、ステータスポイントの総数がステータスの上限になる。すべてのステータスに一は必ず振られるため、実質上限なしである。
これに対してほかの種族は得意な分野の上限は上がり不得意なものは低くなっている。例えば、獣人種は一部を除いてMAGの上限がレベルと同数になる。その代わり、STRやAGIの上限が上がる。
基本的に、ステータス上限の総和は、ステータスポイントの総数以下にならたいため、自由度がなくなるわけではない。
普通は、これらを考慮したうえで、種族を選ぶのだ。
しかし、キメラ種には、当てはまらない。
純粋なキメラ種、許容度百のキメラ種は、選んだモンスターの部位で上限が決まる。そのため、ビルドによってはステータス上限が少ないのだ。場合によっては、ステータス上限の総和が、ステータスポイントの総数以下になることもある。
キメラ種はレベルが上がるときに緩和される上限の値が大きくなるため、最終的には、ステータス上限の総和は、ステータスポイントの総数以下にならなくなるらしい。
そのことを踏まえて、ステ振りを行う必要がある。
僕のステータスはこうだ。
ステータスポイント(SP):十
STR:一(上限:三)
MAG:一(上限:一)
VIT:一(上限:五)
AGI:一(上限:一)
DEX:一(上限:二)
見事に余った。しかし、これは想定の範囲内だ。むしろ、結果としてはいい方だろう。ステータスが絶対じゃないAWでは突出した能力が一つでもあれば十分活動できるのだ。
僕は、上限までステータスを振った。
これで、キャラ作成は終了だ。
AWにはスキルも存在するが、これはAW内で行動した結果として得るものであって、最初は種族特有のスキルしか持てないことになっている。
キメラの場合は、本人にも影響があるスキルと、モンスターの部位だけにしか影響しないスキルの二つがある。これについては、選べない。キャラメイクが終わった後にしかわからないようになっている。
キャラメイクの終わった僕は最後の確認画面を確認していた。間違いのないことを確認して、確定ボタンを押おうと念じるが反応しない。しかたなく、ディスプレイの確定ボタンを押すと、ディスプレイが消えた。AWでは、思考によるディスプレイの操作ができないというのは聞いていた。けど、このタイミングということは、もうお試しではなくなったということだろうか。
一度消えたディスプレイが再び出現した。そこには、このままAWを始めるかどうか書いてあった。
このまま始めたいところだが、そうはいかない。
僕はいいえを選択して、ログアウトする。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
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剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
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「どうしたものかな」
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たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
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