【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじめまして。

【01-06】友達

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 無事ログアウトできたようだ。瞬きをしながらふかふかの椅子から起き上がろうとして、ヘッドマウントデバイスをつけているのを思い出した。
 ヘッドマウントデバイスをはずし、ついでに生徒証も外そうと思ったところで声が聞こえた。

 「おーい。瑠太。起きたか?」

 拓郎の声だ。

 「ああ。ちょうどな」

 僕は返事をしながら生徒証についている接続用コードを外し、ポケットに入れながら立ち上がった。
 部屋の明かりがまぶしく感じる。さっきまでの空間でも光を感じてはいたが、眼を通したものではないのだ。周りを見渡すと、クラスの三分の一ぐらいがまだヘッドマウントデバイスをつけていた。
 もしかしたら、僕が最後かもと思っていたけど、そんなことなかったらしい。
 さっき拓郎の声が聞こえたのを思い出し、拓郎を探す。拓郎はすぐに見つかった。AWに接続する前に角田先生が、立っていた場所に、角田先生と、南澤先生、ほか何名かと一緒に話していた。
 僕は微妙にふらつきながら彼らの方に歩いていく。

 僕が近づいてくるのに気づいた。角田先生が声をかけてきた。

 「大丈夫か?堤。設置型のヘッドマウントデバイスは慣れるまで負担が大きいから無理するなよ。」
 「はーい」

 覇気のない返答をしながら僕は改めて彼らを見てみる。どうやら大きなディスプレイに表示されている何かを見ているようだ。

 「何を見ているんですか?」

 僕はそういいながら会話の中に入ることを試みる。結果は成功だ。

 「みんなの大まかなビルドを見ているのだよ」

 痩身でメガネをかけ、髪を七三わけにしている委員長みたいな男の人が答えていた。彼からは、自信という服を着ているかのような印象を受ける。

 「君のビルドも見せてもらったよ。」

 ビルドを見る?最初は、よくわからなかったが、とりあえず、ディスプレイに何が書いてあるかを確認して、意味が分かった。ディスプレイには生徒がそれぞれ、どんな種族を選び、どの職業を選びどのようにステ振りしたかが書かれていた。基本的に人のビルドを詮索するのは、マナー違反である。どこで、戦うことになるかわからないのだから当然である。
 微妙に納得できないが、実験組は、キメラ種ばかりだ。どのような組み合わせをしたかばれなければ、別に問題ないことも確かだから反論しづらい。そんな複雑な気持ちになっている僕に、角田先生が話しかけてきた。

 「おまえの考えていることはわかるが、実験組のカリキュラムの中には自身の能力を考察して、発表するものも多い。これぐらいの情報はいずれバレることだぞ。」

 そうなのか。僕はまだ、一般人の気持ちでいたみたいだ。この学校は、VR競技のための学校なのだ。隠すのではなく、自分の経験を後続に繋げていく必要がある。競技に興味なくても、選手候補生として国に貢献しなければならないのだ。軽い気持ちでの入学だったが、予想以上に気を引き締める必要がありそうだ。

 「瑠太。別におまえだけじゃないぞ。望月も最初は嫌な顔してたからな」
 「米田!別に言わなくてもいいことだろう。それに一般的には、私たちの方が正しい。そうでしょう?角田先生!」

 「ん?まあ、そうだな。これが当たり前だとは思わない方がいいだろうな。学校外のプレイヤーとパーティ組むつもりなら特にな」

 いきなり話を振られた角田先生は戸惑いながらもそう答えた。
 僕はてっきりこの学校の生徒は生徒同士でパーティを組むのかと思っていたが違うようだ。

 「やはりそうだ。堤くん!我々は正しかったのだ!」

 「バッ」って効果音が聞こえてきそうな動きで僕を見て、そう言った。彼、望月君というようだ。エネルギッシュで生気に満ち溢れていて、とても活発的な人なようだ。まあ、いい人なんだろう。

 「そうみたいだね。とりあえず初対面だし自己紹介しておくよ。僕は堤瑠太。よろしくね望月君」
 「私としたことが、名乗っていなかったとは。私は、望月モチヅキ智也トモヤという。よろしく頼む。堤くん」

 悔しそうな仕草をしながら笑って手を差し伸べながら、彼は名乗った。器用な人みたいだ。

 「拓郎みたいに呼び捨てにしてくれていいよ」

 僕が、差し伸べられた手を握ろうとしながら、そう言うと、

 「了解した、堤。私の名前も呼び捨ててくれて構わない。三年間よろしく頼む!」

 そういって僕の手を「ガシッ」と掴んで上下に振り始めた。
 長い握手だな、と思っていると集まっていた人たちの最後の一人が声をかけてきた。

 「すみません。僕もいいですか?」

 握手がしたいのだろうか?
 望月の握手しながら空いている左手を彼に向かって差し出すと、望月も僕と握手した手を振るのを止めて、真顔で自分の左手を差し出した。差し出された手は両方とも左手だ。彼はどっちの手を掴むのだろう。どっちを左手で掴もうかオロオロしながら考えている少年を見ながら、そんなくだらないことを考えていると、

 「いや、自己紹介のことじゃないか?」

 と拓郎が冷静に突っ込んできた。
 それもそうか。
 僕は少し残念そうにしだり手を引っ込めると、望月も気づいたのか同じように、少し残念そうにしている。彼は、空気を読むことができるようだ。さっきまでの行動にも演技が入っていたのかな、なんて考えていると、最後の一人である少年のオロオロしながら小さな声で言った。

 「そうなんです。まだ高校で友達がいなくて、よかったら友達になってください」

 言い終わると同時に頭下げる少年に、拓郎が声をかける。

 「俺はいいぞ。友達になろう」

 拓郎に続いて望月も同意する。

 「断る理由がないな。友達になろう!それと、そんなに頭を下げる必要なないと思うぞ」

 前屈のような状態になっていた少年は勢いよく頭を上げて、拓郎、望月と見た後、僕を見た。

 「僕も構わないよ。よろしくね」

 僕も断る理由がない。

 「ありがとうございます。おれは原田ハラダ勇人ハヤトって言います。よろしくお願いします」

 彼は少しだけ頭を下げたがすぐに上げ、にこりと笑った。
 うん。年下の近所の少年にしか見えない。

 「よろしくな。原田」
 「よろしく頼むぞ原田」
 「よろしく、原田少年」

 僕は彼の容姿から、そう呼ぶことにした。

 「えっ、少年?」
 「確かに同い年には見えないな」
 「的を得てはいるが、彼も立派な高校生だ。少年はやめよう」
 
 「あれ誰も否定してないような。」

 たしかに、いきなり失礼だったかもしれない。だから、彼に謝ることにした。

 「そうだね。ごめんね、原田君。じゃあ、君は今日から原田青年だ」
 「それはまた違うんじゃないか」
 「そうだな。原田は青年には見えないな」

 「え、ぼくh、あ、おれは全然青年でいいよ。青年にしようよ」
 
 「うーん。他に何かあるかな?原田君」
 「なんかあるか?原田」
 「希望を聞こう。原田」

 「えっ、自分のあだ名を自分で決めるの!?ちょっと待ってね!いま考えるから!」

 自分が原因なのはわかっているけど、ここまで話が盛り上がるとは思わなかった。
 今更だけど、なんかみんなキャラが濃いな。
 僕この学校でやっていけるかな、そんな一抹の不安を抱きながらも、僕は会話を続けた。

 「もう勇人でいいんじゃない?」
 「そうだな。俺のことは拓郎でいいぞ」
 「それでいこう。米田も堤も俺のことは、智也と呼んでくれ」
 「わかったよ。僕も瑠太でいいよ。よろしく勇人、智也」 
 「勇人なんて親以外で初めて呼ばれたよ!ありがと。これからよろしくね。拓郎くん、智也くん、瑠太くん」

 やっと会話が終息したところで、新たに一人ログアウトしたようだ。
 女の子のようだが、ふらふらしていて危なっかしい。
 南澤先生が小走りで支えに言った。

 「そろそろ夕食の時間だから、おまえたちはもう寮に戻れ。明日、遅刻しないようにな」

 角田先生はこっちを向いてそう言って、またディスプレイをそう操作し始めた。

 「夕飯か。昼食みたいにおいしいといいな」

 拓郎は、そういって廊下の方に歩き始めた。
 つられて僕たちも歩き出す。
 僕も昼食のカレーを思い出して、期待に胸を膨らませた。


-------


 四人で校舎を出た。
 基本的に、教材は全部教室に置いていくようになっているためみんな手ぶらだ。
 僕は校舎の方を見た。
 朝はわからなかったが、横長の二階建てになっていて、橋がそれぞれ大きく広がっている。片方が、食堂で、もう片方が、さっきまでいた設置型ヘッドマウントデバイスの置かれている部屋なのだろう。どう考えても迷いようがない建物のようだ。
 校舎の空はすでに茜色を通り越し、宵闇へと変容し始めている。
 
 今日は、高校初めての日。なんだかんだ濃い時間を過ごしていたと思う。人ごみに酔ったことに始まり、学食の料理に、キャラメイク、そして、友達。
 今日感じたものも三年後には日常になっているのかもしれない。だけど、僕は今日のことを一生忘れないだろう。そう胸を張って言える一日だった。
 僕は、三年間通うことになる校舎に少し頭を下げ、「三年間よろしくお願いします」と心の中で言った。
 なんで心の中でなのか。答えは簡単だ。みんながいる前では恥ずかしいかったからさ。

 「おーい。瑠太。なにぼーっとしてるんだー。置いてくぞー」

 拓郎の声を聴いてみんなの方を見ると結構な距離ができていた。
 僕は、自分の考えを表に出さないようにしながら彼らを追いかけた。

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