【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじめまして。

【01-08】先輩

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 シャワーを浴び、きれいになった僕は、部屋着に着替えてから共有スペースで生徒証を見ながらのんびりしていた。
 
 生徒証には、いろんなアプリが入っていた。
 電卓や、辞書、天気といったよく見かけるアプリは当然入っていた。
 他にも、料理アプリやカロリー計算アプリ、読書用アプリなど一部の人にはうれしいものもあれば、怖い話アプリや世界遺産のことが書かれているアプリなど、必要かわからないものもあった。
 角田先生が言っていたニュースアプリと掲示板アプリも確認した。

 ニュースアプリには、学校からのおしらせや、授業内容の変更等の事務的を始めとして、AWで起こった出来事をまとめている記事や新しい攻略情報の記事もあった。
 掲示板には、日ごろの愚痴や恋の悩みといった日ごろの悩みを言う掲示板もあったが、多くはAWに関するものだった。一番盛り上がっているスレの最新近くを少し読んでみたらニュースアプリに書いてあったことが書かれていた。この掲示板に報告された内容がニュースになっていたのかもしれない。スレタイを確認すると、『AW速報情報提供場』になっていた。もしAW内でなにかあったらここに書こう、と頭の片隅に記憶しながら他の掲示板を見ていくと、ちょっとしたイベントの情報や、ダンジョンの攻略方法のほかにも、PK(プレイヤーキラー)や迷惑行為をする人のブラックリストもあった。これは確認しといた方がいかもしれないと、『AW速報情報提供場』と『ブラックリスト(情報求)』の二つをお気に入りに入れてアプリを閉じた。
 今、五十四分になった。拓郎は間に合わないかな、と思ったとき「ガチャッ」と音がした後、拓郎が入ってきた。

 「おかえりー」
 
 僕が拓郎にそう言うと、

 「すまん。遅くなった」

 と言ってから、自室に入っていった。着替えをしまうのだろう。
 この寮では、洗濯は自分ですることになっている。ただ、最新の洗濯機が使われているため、それほど苦労しないと聞いている。

 「よし。もう時間だし行くか」

 自室から出てきた拓郎は、手に持った生徒証を見ながら言った。

 「そうだね」

 そう言って、僕は立ち上がり、部屋を出た。


-------


 「シャワーはどうだった?」

 エレベーターを待つ間、拓郎が聞いてきた。

 「ホテルとかにあるシャワーと同じ感じだったよ。お風呂の方はどうだったの?」
 「風呂か。そうだな。思っていたよりきれいだったぞ。お湯もかけ流しで、洗う場所も多かったぞ」

 だいぶ良かったようだ。拓郎は笑いながらそう言った。
 僕も時間があるときに使ってみよう。

 エレベーターが来た。中には誰もいないようだ。

 二人で乗り込む。最初に乗った僕は一階のボタンを押す。
 扉が閉まり、動き出し、そして止まった。
 二階からだから、すぐなのだ。
 エレベーターから降りた僕たちは、食堂へ向かう。

 食堂は、昨日入寮されたときに教えてもらっている。
 すぐに食堂に着いた。食堂には男女ともに結構な人数がいた。
 イットク先輩が言っていたように全員が集まるとしたら、全員で七十人ぐらいになるのだろうか。
 中を見渡すと、先輩たちが皿やコップを配置していた。
 寮の食堂は、校舎の食堂と同じテーブルと椅子が置かれているが、一般的な食堂って感じだ。なぜだろう。
 奥には、料理を作るカウンターが見えるが、そこにいるのは、若い女の人で、給仕の人には見えない。カウンターの中と外で数人の人と話しているから、先輩なんだろうか。
 他も見ようとすると、僕たちは後ろから声をかけられた。

 「拓郎。瑠太。待たせたか?」
 「ごめんね。遅れて」

 智也と勇人だ。彼らは二人で待ち合わせをしてから来たそうだ。

 「何か手伝った方がいいのかな?」

 勇人が周りを見ながら、言った。

 「私たちと同じように突っ立っている奴もいるようだからいいんじゃないか?邪魔になったらよくないし」
 「いやそうはいかないだろう。少し聞いてくる」
 
 智也が周りを見ながら言うと、拓郎が反論し、手の空いていそうな人に声をかけに行こうとすると、

 「手伝わなくていいぞ」

 と、後ろから声をかけられた。

 「イットク先輩。先ほどはありがとうございました」

 僕は、声をかけてきた先輩に言った。

 「おう。間に合ったみたいだな。風呂を入る時間としては短かったから、もしかしたら遅れるかもとは思っていたのだがな」

 「ぎりぎりでしたよ」

 拓郎が言った。

 「それもそうか。今日は、一年の歓迎会だから、おまえたちは特に何もする必要はないぞ」

 そう言ってから僕たちではなくどこかを見た。

 僕たちもそれにつられてそっちの方を向くと一人の男の人がいた。その人は、少しあきれながらイットク先輩に声をかけた。

 「イットク寮長。遅いですよ。寮長なんですからもう少し余裕をもって行動してください。」
 「すまんな。毎年何人かの新入生が玄関のところで自動ドアが開かなくて戸惑うみたいだから、エントランスにいたんだよ」
 「本当にそんな人いるんですか?あんなの少し考えればわかると思うんですけど」
 「現にこいつらは戸惑ってたぞ」
 「えっ。ほんとに?」

 ここで初めて男の人は僕たちの方を見た。

 「本当です。イットク先輩に助けてもらいました」

 拓郎が代表して答えた。
 
 「マジか……」

 なぜか微妙に落ち込んでいるこの人は誰なんだろうか。その答えはイットク先輩が教えてくれた。

 「こいつは、佐伯(サエキ)祐介(祐介)。二年で、副寮長だ」

 この人が副寮長のようだ。しかし、二年で副寮長なのか。もしかしたらすごい人なのかもと思ったところで、イットク先輩が続けて言った。

 「うちは、三年が寮長。二年が副寮長。そして、一年の代表には、俺らの補佐をしてもらう。この代表もあとで決めてもらう」
 
 なるほど。その代表になった人が次期副寮長になるのだろう。わかりやすい。

 「あ、イットク寮長。もう始める時間です」
 「ん?本当だ。じゃあ始めるぞ」

 さっきまで落ち込んでた佐伯先輩がイットク先輩に伝えると二人は給仕カウンターの方に歩いていった。

 「なるほど。ならばその代表は私がやる」

 二人の背中を四人で見ていると智也が言った。

 「いいんじゃない。応援しとくよ」

 代表なんてまったくやりたくない僕がそう言うと、

 「じゃあ、俺のことは応援してくれないのか?瑠太」
 
 と拓郎が言ってきた。拓郎もやりたいのか。代表になると何かいいことでもあるのだろうか。と思いながら僕は言う。

 「そんなことないよ。両方とも応援するよ。それにしても代表になると何かいいことでもあるの?」
 「確か、寮長になると、この学園から選手が出たときのために毎年行われるVRオリンピックのサポート団に無条件で入れるんだよね?」
 「そうなんだよ。しかも、実際の選手たちの合宿にも参加できるんだよ」
 「私以外にも知ってるやつがいるとは」

 理由は勇人が教えてくれた。
 自分以外も知っていたことを知り、智也は悔しそうに言う。僕は知らなかったし、結構貴重な情報なのだろうか。四人中三人が知っているみたいだけど。

 「いや、ちょっと前にやったテレビの特集でやってたんだから知ってて当然だろ」

 拓郎が言う。全然貴重な情報ではなかったようだ。

 「始まるみたいだよ」

 勇人が前を見て言う。


-------

 
 「今日は集まってくれてありがとう。今年の寮生活の一年も楽しくなりそうで何よりだ。とりあえず、つまらないことは先に終わらせよう。」

 前に立ったイットク先輩はそうつまらなそうな顔でそう言って話を続ける。

 「とりあえず最初に一つ。この学校はVRオリンピックの選手を育成すための学校だ。そのことを忘れないでほしい」

 なるほど。こういった形で一年ごとに気を引き締めるのか。

 「次は、新入生についてだ今期は十九名の新入生が入ってきたほとんどがキメラ種だ。先達としていろいろ教えてやってくれ」

 十九人だったのか。

 「最後に、五月にある選手候補合同合宿のメンバーについてだ。例年通りすでに結果が出ている。この寮からは誰も選ばれなかった。次の合宿はまだわからないが、みんな頑張ってくれ」

 いないのか。やっぱり緒方さんは特別だったということか。
 周りにいる先輩たちの顔を見てみると中には悔しそうな顔をしている人もいる。
 
 「よし。全員に伝えることはこのぐらいだな。じゃあ、乾杯するぞー。飲み物とれー」

 イットク先輩は、はやり終えた顔で飲み物の入ったコップを掲げる。
 僕たちは少し慌てながら誰のものでもないコップを探す。
 なんとか全員分のコップを見つけて、手に持ったコップを掲げる。中身は何だろう。

「みんな持ったなー?いくぞ!乾杯!」

 イットク先輩はそう言ってコップの中に入った飲み物を一気飲みする。僕も同じように飲み干す。中身は麦茶だった。
 飲み終えた先輩たちは、何人かの先輩が運んでいる料理を今か今かと待っている。中には、料理を運ぶのを手伝いに行く先輩もいる。
 それを見た拓郎が、駆けていく。遅れて智也も追いかける。点数稼ぎかな。

 「行っちゃいましたね」

 勇人が少し呆れながら言った。

 「勇人はいいの?」
 
 僕は勇人に言う。

 「僕はリーダーとか代表には向いてないですよ。それに合宿に参加したければ選手になればいいんです」

 初めて話した時の勇人はどこへやら。

 「まあ、確かに。応援してるよ」
 「はい。瑠太君は選手を目指さないんですか?」
 「そうだね。特になりたいとは思わないかな。選ばれれば別だけど自分からなろうとは思わないかな」
 「変わってるね」
 「そう?」
 「うん。この学校に来る人はどの人も選手を目指している人だから。」

 そんな会話をしていると女の先輩が僕たちの近くに料理の載った大皿と取り皿を置きに来た。
 どうやら自分で取り分けて食べることになるらしい。

 「料理が来たみたいだから取りに行こう」

 僕は勇人を誘う。

 「そうですね」
 「おいしいものあるかな」

 どんな料理か楽しみにしながら料理を取りに行った。


-------


 あの後、先輩たちが取るのを待ってから取った料理は普通においしかった。
 勇人と二人で料理を食べていると拓郎と智也も戻ってきて四人で話しながら食べていた。
 たまに、先輩から声をかけられたりしながら過ごしていると、イットク先輩が前に出て、ここらへんでお開きにすると言ってから一年に残るように言ってきた。

 先輩たちが後片付けをはじめる中、僕たち一年は一徳先輩がいる方に歩いていく。
 イットク先輩の周りには見覚えのある人たちがいた。

 「よし。そろったな。おまえたちの中から一人代表を出してもらう。立候補する奴はいるか?」

 イットク先輩がそういうと、半分どころか三分の二ぐらいの生徒が手を上げた。上げてない僕たちの方が目立つ。

 「おお!こんなにいるのかよ。俺の時とは段違いだぜ」

 イットク先輩が驚いていると、横にいた佐伯先輩が言う。
 
 「あのテレビの効果じゃないですか?」
 「なるほど。今手を上げたやつは要は合宿に行きたいやつなんだな」
  
 イットク先輩はそう言って手を上げている人たちを見渡す。

 「まあ、いい。じゃあ、手を上げてないやつはもう戻っていいぞ」

 てっきり多数決になるのかと思っていたが違うらしい。
 
 僕は勇人とこの輪から離れる。
 手が空いたから後片付けを手伝おうと思っていたが、周りを見渡すとすでに後片付けは終わっているようだ。
 食器洗浄機が動いている音が聞こえる。

 仕方ないから、部屋に戻ることにする。

 「僕は部屋に戻るけど、勇人はどうする?」
 「おれももどるよ」

 勇人も部屋に戻るようだ。
 僕たちは食堂を出て、エレベータ-に乗る。
 二階について勇人と挨拶をして別れる。

 「じゃあ、おやすみ」
 「おやすみ」

 勇人も笑って返してくれた。

 勇人と別れた僕は部屋に戻り、歯を磨く。
 まだ九時だ。先輩たちは今からAWをするのだろうか。
 掲示板を見ながら拓郎を待つが十時を過ぎても帰ってこない。
 掲示板にも飽きてきた僕を眠気が襲う。

 僕は、テーブルの上にあるメモ帳に先に寝ることを書いてから、目覚ましをセットしてベッドに入った。
 今日は疲れた。
 朝は、六時から八時の間にご飯を食べなければならない。寝坊しないようにと強く思ってから目を閉じる。
 今日会ったことを思い出しながら僕の意識は睡眠の波にと見込まれていく。

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