【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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プロローグ

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『VRオリンピック』
 VR技術が発展したこの時代、国連の主導によって開催が表明されてから、早十三年。八年の月日を経て競技用VRMMO『アナザーワールド』が完成し、実際に『VRオリンピック』が開催されてから五年目の第五回VRオリンピックを迎えていた。
 競技は、専用に開発されたVRMMO『アナザーワールド(略称:AW)』のキャラクターを使って行われる。

 去年、僕は『国立VR競技専門高等学校』に入学した。
 そのときは、思いもしていなかった。僕は三年間AWを楽しくプレイして、面白い高校生活を送るはずだった。それなのにこの状況は何だろう。

 「あったぞ!ジャパンのフラッグだ!敵は一人!速攻で奪取するぞ!」

 十人近くの相手選手が僕のいる方にすごい速さで突っ込んでくる。そんなに早く移動できない僕はうらやましいと思いながらも今の状況を考える。
 今僕の後ろには、大きなフラッグが立っている。もちろん国旗が使われている。僕はこのフラッグを守らないといけないのだ。
 
 「待て!あいつは!」

 こちらに向かってくる相手選手の一人が何か言っているが、その選手の仲間は、関係ないとばかりに突っ込んでくる。
 僕はこのどうしようもない状況を打破すべく行動することにする。
 僕の視界には五《・》本《・》の蛇の頭が見える。
 僕の相棒たちであり、僕の体の一部だ。それらが僕の腰あたりから尻尾のように生えている。
 こいつらも、僕の意思に呼応するかのように相手の選手を威嚇し始める。

 「僕はもっとかっこよく戦いたかったんだ!」

 この状況にせめてもの反抗の意思を言葉にして叫ぶ。
 僕はもっと動き回って、跳ね回って、かっこよく尻尾を使って戦いたいんだ。こんな、移動型防衛システムになるつもりなんてなかったんだ。

 そんなことを考えながら、僕は尻尾を操作する。
 こいつらは僕の一部でありながらも思考する。守ることに関しては、ある程度勝手にやってくれる。
 キラースネークの頭二本を僕は操作して、向かってくる選手たちを攻める。
 
 「ジャップが!落ちろ!」

 僕は罵声を浴びながらも相手の選手たちの攻撃の対処する。
 僕のキラースネークの頭二本を使って攻撃してくる相手のタイミングや体制を崩して邪魔をする。そうすれば残りのヒュドラの頭二本が勝手に守ってくれる。
 全部操作するのは大変だし面倒だからの自動防御はとても助かる。

 僕は動かない。動かなくても僕の伸縮自在なこの相棒たちを使えばかなりの範囲をカバーできる。
 僕と相手の選手たちは早くも膠着状態に陥ってしまった。
 僕はそれで構わない。僕が彼らを止めている間に味方たちが相手のフラッグをとってきてくれればこっちの勝ちなんだから。

 「こいつは何なんだ!気持ち悪い!たった一人で俺たちを止めるなんてチートか!」

 相手の選手が吠える。しかし、なんとも失礼な奴である。そもそも国連が主催する大会で国の代表として出場しているのにチートなんて使えるわけないじゃないか。

 「やはりこいつは!」

 どうやら僕の事を知っている人がいるようだ。別に秘密にしていたわけじゃないけど国の代表になるような選手に知ってもらっていることは一プレイヤーとしてうれしい。

 「なんだ。知っているのか!知ってるなら報告しろ!」

 さっき無視したのはあなたたちでは。心の中で疑問をぶつけながらこの膠着状態を崩すための手を打つ。

 「こいつは一部で有名なプレイヤーだ!蛇のような尻尾を六《・》本《・》使って戦うキメラ種だ!」
 「六本?五本しかないじゃにk……」

 気づいたようだがもう遅い。さっきから喚いていた選手が急に倒れるのを僕と相手の選手たちは見つめる。

 「どういうことだ!」
 
 他の選手が僕のことを知っている選手に問いただす。聞かれた選手も答えようとするが、僕はそれを許さない。
  
 「こいつh……」

 僕を知っている選手も先ほどの選手と同じように倒れていく。

 「おい!そいつの首に蛇が!」

 流石に気づいたか。
 僕の尻尾は六本。
 再生能力を持つヒュドラの頭(核)とそれに従うヒュドラの頭二本に、攻撃特化のキラースネークの頭二本、最後に、

 「何だこいつ!いきなり現れた!しかも、〔気配探知〕に反応しないぞ」
 
 隠密迷彩蛇の頭。その名のとおり気配を消せて、迷彩もできる奇襲用の尻尾。
 五本の尻尾で守りつつ、隠密迷彩蛇の頭を使って奇襲する。これが僕の必勝パターン。
 
 「やばいぞ!守りが固い!いったん引くぞ!」

 どうやら撤退するようだ。でもそれは困る。図らずしも防御特化になってしまった僕にも大きな弱点があるのだ。
 僕は、撤退を始めた相手選手に対して六本の尻尾すべてを操作して防御を捨てた特攻を仕掛ける。

 「なんだいきなり!う、うわー!」

 一人ずつ、着々と始末していく。僕の尻尾は思考する。僕が操作し切れない細かい動作は各々で行ってくれる。極めて優秀なAIである。
 
 「くそ!なんでこんな奴が!くそー!」

 最後の一人も地沈んだ。

 僕は尻尾の操作を解除して、相棒たちの頭をなでる。
 この種目は、『攻城戦』と言われていて、参加可能人数は二十人。
 その名のとおり、相手の陣地を攻め落とし、相手方のフラッグを奪取することが勝利の条件だ。最初に与えられる陣地は各国でカスタマイズ可能。うちは僕が一人陣地に残って他の選手が総攻撃を仕掛けるという博打のような作戦だ。この作戦を聞いたとき僕は代表のコーチ陣の正気を疑った。

 僕は、光の粒子を散らしながら消えていく相手選手を見ながら、高校に入った時のことを思い出していた。
 すべてが新しいことだったあの日。尻尾を動かすどころか立つことすらできなかったあの日。いろいろと思い出していると、空から鳥人間のようなプレイヤーがやってきた。相棒たちは身構えるが僕がやめさせる。味方だ。

 「瑠太!大丈夫か!相手の陣の守りを見た隊長に自陣の応援に行くように言われたんだが、大丈夫そうだな」

 声をかけてきた味方プレイヤーは、自陣の荒れ具合と僕が無傷なのを目にすると、だんだんとトーンダウンしていく。
 こいつは、拓郎。僕と違って、選手になることを目指していた僕のルームメイトだ。

 「もう全員倒しちゃったよ」
 「何人ぐらいいたんだ?」
 「九人かな」
 「あと十一人か」
 「拓郎は攻撃に参加しなくていいの?」
 「ああ。ここで持ってるように言われたからな」
 「じゃあ、待ってようか」

 その後、五分ほどして試合終了のブザーが鳴った。
 こっちに戻ってきていないから、相手を全滅させたんだろう。
 こうして僕たちは、VRオリンピック『攻城戦』の初戦を突破した。


 この大会を機に僕は世界的に防御特化のプレイヤーとして有名になる。
 けど、とりあえず言いたいことがある。

 何故こんなことになったんだろう。



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