【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじめまして。

【01-00】アナザーワールド

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 二○××年、数多の物語に登場しつつも、多くの科学者に不可能だと言われていた、ある技術が実現された。

 かねてより研究されていた仮想現実ヴァーチャルリアリティー
 その技術が活用されている、個人用のメガネ型TVが大衆に普及し、若い世代の中には仮想現実に対して夢を見る者も少なくなっていた。
 しかし、権威と言われている研究者の中には、VR技術に夢を見ているものが多かった。かつて自身が夢見た『仮想内のもう一つの世界』を実現させるために、何人もの研究者が己の知識を持ち寄り完成したのが、「仮想世界体験システム」と言われる新たな理論である。
 それは、成熟したといわれ始めていたVR技術に、新たな波紋を広げた。それ以来、研究は加速する。
 今では、過去には空想の産物でしかないとと言われていたVR技術を利用したネット上でのコミュニケーションは当たり前のものとなり、家に居ながらにして、サーバー内に作られた学校や企業に通うというのも珍しくなくなっていた。当然他国のサーバーに接続すれば、外国人とも簡単に会うことができる。
 これにより、国家間の実質的な距離はなくなったも同然のものとなっていた。
 国という垣根を超えたイベントが多くなり、オリンピックやワールドカップのようなイベントが開催されても、実地ではなくVR内に作られた観客席で、国籍関係なく酒を飲み談笑しながら観戦することも増えていた。そんな中、国連は新たなプロジェクトを公表した。

 『セカンドワールドプロジェクト』

 文字通りの意味である。
 国連内の有力ないくつかの国家が連盟で企画したプロジェクト。
 VR環境内に国連が運営するフィールドを作り、どの国からも接続できるようにする。そのなかでは、新たな規律が決められ、国家間の諍いの一切を排除されるという。究極のグローバリゼーションといってもいいだろう。

 このプロジェクトが発表されたときは、不可能だと思われていた。当然だ。国家間の諍いを排除するなんてことができるわけがない。
 だが、考えてみてほしい。VR内のプログラムされた規律は絶対である。違反すれば、プログラムによって、即座に国連に報告され、対処される。
 完全な法治国家といってもいいのかもしれない。
 法の番人は人でなく、機械。
 その目を掻い潜るにはVR内の法を穴を見つけるしかない。だが、いくつもの国家の長年の歴史の中で培われた知識によって作られた法の穴を探すというのは不可能に近いだろう。

 結果、このプロジェクトは成功を収めた。

 その後、いくつものVR環境が作られる。
 ファッションブランドは、セカンドワールド内でのアバターのカスタマイズ用にいくつもの服をデザインし、販売し、その中でも人気だったものは、現実でも発売されるようになった。
 ファッションだけではない。
 料理を出す店では、試食を。
 家具を販売する店では、自社の製品の展示や、レイアウトの体験を。
 いくつもの会社が、セカンドワールド内で疑似体験させることによって、現実でも商品を販売しようとしたのだ。各企業は出店費を、セカンドワールドを運営する国連の下部団体に払い、これをセカンドワールドの運営の費用に充てていた。

 また、各国は、自身の国の素晴らしさを強調するためにいくつもの旅行ソフトを作り提供した。
 あるソフトでは、秘境にある感動を得ることができ、あるソフトでは、まるで自分がその国に住んでいるかのような体験ができる。
 国連の作成したソフトでは、世界中の人とスポーツができるというものもある。肉体的な制限にとらわれないそのソフトでは、すべての人が同じポテンシャルを持つことになり、結果、多くの戦術が生まれることになる。体を悪くしたために運動できない人達はもちろん、プロスポーツ選手やプロの監督の中にもそのソフトを使うことによって戦術眼を養おうとするものが出てくるほど注目をうけ、多くの人がそのソフトを利用する。そのすべてが、セカンドワールドを介することになる。
 これによって、オリンピックやワールドカップといった現実での国際的な競技とは別に、VR内での競技が検討されることになる。

 多くの研究者や学者がどのような競技にするか話し合った。VR上のことなので銃を使った疑似的な戦争を行うことも容易いが、競技としてはふさわしくないだろう。
 国家間の競争ではあるが、国家間の争いを連想させてはいけないのだ。
 肉体的な才能に左右されず、なおかつ、各国家の威信を示すことができるような競技を考えた。
 そのときある島国の学者が言った「ゲームはどうだろう」と。

 国連は、新たな発表をした。
 国連の主導により新たに作られた国際的な競技大会の競技種目が発表されたのだ。その種目はゲーム。
 ある島国では昔から言われていた、VRMMO。これは昨今では当たり前のものとなっていた。国連は新たに一つのVRMMOを作り、そのゲームの中で作られたキャラクターを使って競技をしようというのだ。
 この報を受け、世界中のゲーマーは歓喜した。いままでゲームの世界的な大会というのは数えられないほど存在した。しかし、今回のこれは、それらとは全く違うといってもいいだろう。
 今までのは、そのゲームの中での最強を決めるものだったのに対して、この大会は、オリンピックやワールドカップに並ぶ世界的な大会なのだ。すなわち、大会の勝者は世界一のゲーマーと言われるようになるかもしれない。
 さらには、VR空間で行われる大会なので毎年開かれる予定になっている。自己顕示欲の強いゲーマーにはもってこいの大会になるだろう。

 この発表から三年、国連は一つの型ともいえるゲームを各国に対して発表した。
 一つのゲームを作るには少なすぎる期間である。これは、いくつもの世界的なゲームメーカーの共同で作られたからこその期間である。既存の人気作のシステムの一部を流用したことが大きな理由の一つである。
 しかし、これで完成ではなかった。
 国連より厳正に決められた基準の範囲内で各国はゲームに肉付けすることが可能であった。これによって、各国の国としての特色を出そうというものだった。といっても、大まかな設定は変わらない。複数のゲームのシステムを使っているため種族、職業だけでなく、レベル制とスキル制を採用することになったそのゲームは、自由度を高めるためにかなりのカスタマイズを可能としていたのだ。
 そのため、各国が加えた設定は、基準の範囲内での、神話や自国の歴史上に存在した伝説の武器や、いくつかの種族・職業・スキルを作成した程度であったが、それでも膨大な数が追加されることになった。その追加されたものも、同じようなものは統合されたり、逆に明確な違いが作られたりと、ありとあらゆるカスタマイズを可能にするために思考錯誤がされた。

 五年後、国連の発表からは八年の月日が流れていた。
 新たに発表されたゲームは世界中に配布された。プレイは無料。
 セカンドワールド内で出店できたように、ゲーム内でも企業が出店できることになっていた。セカンドワールドと同様にその利益で運営することになっている。ゲーム内では、実際に効果を持つアイテムとして販売することができるため、より効果が見込めると予想されていた。

 プレイするのは無料である。この話題作をプレイしなかったものは少ないだろう。
 セカンドワールドに接続するために個人の持つパーソナルID一つにつき、一キャラクターのみ作成できる。
 多くの人がプレイし、驚愕した。莫大な資金が費やされたそのゲームは既存のゲームとは一線を画するものであったからだ。あるコメンテーターは、TVでこう語った。

 「セカンドワールドが並行世界であるのなら、このゲームは異世界だ」

 このコメントから、このゲーム『アナザーワールド』と呼ばれるようになった。

 このゲームが各国に発表されてからの五年間に、ある島国では一つのプロジェクトが始動していた。五年後、アナザーワールドが世界に公表された後、その島国は、満を持して発表した。このゲームを用いた競技のために国は、一つの学校を作ることを。

 『国立VR競技専門高等学校』

 この物語は、 アナザーワールドの公表から三年経った四年目の春、このゲームの影響によって変化する世界で、ただゲームがしたいからという理由だけでこの高校に入学した一人の少年の物語である。
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