2 / 33
1.誰が為に生きるのか
②
しおりを挟む夜の街は暗く乾いた空気、肌に染みない冷たく軽い風が建物の間を縫って駆け抜ける。
閑散とする街灯もないような路地に赤髪少女は一つのランプの明かりを頼りにユラユラと歩き続けた。ランプの灯りを頼りに歩くのは彼女一人だけではない、同じ年頃の少女が数人、その少女を品定めする男達が同じように路地を歩いていた。
「君は一晩如何ほどかな?」
シルクハットを被った紳士。中年くらいに見える男は優しい笑みを浮かべ赤い髪の少女に声をかけた。
少女は自らの顔が見えるようにランプを掲げると、小さな声で『今夜は、二万』と呟いた。
丸い目は虚ろで、まるで生き人形だが琥珀色の瞳だけが凛と美しく光っていた。
紳士は少女の手に二万を握らせて肩を抱いた。
今日は運がいい、街へ出て1時間も経たずに声を掛けられたと少女はホッと息を吐く。
少女のまだあどけなさの残る顔には感情は伺えず、結ばれた唇が開くことはなくただ街に据える闇を見つめている。
突然、ランプの火が不自然に揺れた。
グニャリと火が歪む。
「……? 」
「君、名前は? 」
シルクハットの男が聞くと少女はハッとして小さな声で答えた。
「アシュリーです」
冷えている筈の夜の空気だが、さらに冷たい空気がヒヤリと頬を撫でる。身体の中芯に触れられるような冷たさが毛を逆立てた。
違和感が脳内を染めると周囲でザワザワと囁き合う声が聞こえだす。そしてたった一人、耳元で囁くようにも聞こえたその低い声に少女は足を止めた。
『迎えに来たよ』
その声だけハッキリと聞こえたのだ。低くて心地の良い優しい声。温かいミルクに溺れた時のようなまどろみが身体に沁み渡るようだ。
パチンッ。
何かが弾けた。視界がチカチカと眩しくなった。
「うッ」
一瞬だけ、昼間に戻ったようだった。火花とも違う一瞬の明かりは到底人間に出来うるものではない。
すぐに街は夜に戻り、ランプの灯りだけが
ぼんやりと明るいだけだった。
少女は気のせいにしてしまいたかったが、シルクハットの男は消え、自分と同じように街を彷徨いていた少女達も消えてしまっていた。
驚いた少女がランプの明かりを乱暴に揺らし
辺りを見渡すが、ネズミ一匹いない。
「……どうして? 」
ポツリ。少女は零すと長い赤髪が冷たい風に流された。鳥肌が立つ。それは寒さからくるものではなくて、全身の細胞が奮い立つような恐ろしさからくるものだった。
ピリリと痺れる指先。
またチカチカとする視界。
「今日は一晩いくら? 」
ランプの火が再び揺れた。
少女はユラユラと不安そうに揺れる灯りを
声のする方へ掲げると、暗闇の中の声に答えた。
「今夜は、2万」
低く、冷く響いた声の正体は見えない、気配すらしない。声は近くでするのに照らしても人影すら見えない。
「それで、君の命は買える? 」
「……いのち? 」
思わず後退りした少女の手を暗闇から伸びた手が掴んだ。途端、視界は暗闇に馴染む。厚手のコートを着た男が少女の手を掴み顔を覗き込んでいたのだ。
「魔力は消耗品だよ、そんな風にぞんざいに扱うんじゃない」
「ひッ! 」
暗闇によく溶ける真っ黒な髪の隙間から、ビー玉のような美しい青い瞳が少女を見つめた。
既に少女は限界だった。頭がグラグラと揺れ、激しく息を切らして今にも倒れそう。
男は少女の身体を引き寄せ、背中に手を回し大事そうに抱えた。
「おやすみ」
耳元で囁かれたのを最後に少女は目を瞑った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる