11 / 33
1.誰が為に生きるのか
⑪
しおりを挟む
「オズさん、驚かないんですか?」
サルモネがまつ毛の長い美しい横顔を眺めながら聞くと、オズの目がぬるりとサルモネを捉えた。
「どうして? 」
「性別が変わって別人ですよ、俺」
そう言うとオズは顔に似合わず豪快に口を開け、声を上げて笑った。
「アハハ! 知ってたさ、君は赤髪の良く似合う青年だってこと。サルモネ、その名前も」
オズはサルモネの肩をギュッと寄せると、長いまつ毛を伏せた。
「僕はずっと待っていたんだから」
顔にかかる前髪で表情は伺えないが、オズは泣いていた気がした。何故か、そう思ったのだ。
サルモネは何も言えず、ただ黙って寄り添っていた。はじめて美しいと思えた朝日を浴びながら、掴みかけている居場所から離れまいとコートをギュッと握りながら。
「空を人間の二本足で歩くのはあまりに無謀だったかぁ」
「え? 」
オズはサルモネの身体を離さないよう器用にコートを脱ぐと、サルモネに押し付けた。
「ちょっと持ってて」
「えッあ……」
コートを脱いだオズの背には気がつけばカラスのような真っ黒な羽が生えていた。黒く靱やかな翼は一度羽ばたかせるだけでグンッと前に進んむ。
「うわぁッ!! 」
「すぐ慣れるさ」
風を切り、どんどん前に進む。
景色も流れるように変わってゆく。
「凄い……」
「サルモネだってこの空を飛んで行ったろう? 」
「……はい、だけどあまり憶えていなくて」
夜と風が違う。爽やかで包まれるような風だ。
木々が並んでいる森から、見知らぬ街。それを抜けると見覚えのある大きな家が見えた。サルモネが家を見つけた頃にはオズは下降をし、あっという間に地面に立っていた。
「さ、着いたよ」
昨晩、サルモネがのたうち回ったらしい場所に草木が萎びている。それを見つめ、サルモネは「ごめんなさい」と呟くとオズが不思議そうな顔をして視線の先を追いかけた。
「あぁ、気にすることない」
「でも……」
肩を落とすサルモネの背をポンと叩き、一歩前に出て、森の入口、折れた木々に手のひらを差し出した。
「サルース」
ふぅっと息を吹くと、さぁっと優しい風が吹いた。
「……凄い」
木々が忽ち起き上がり、元の姿に戻った。
いとも簡単に治してしまう魔法に感心する他ないサルモネは目を輝かせて自然と踵が浮いた。
「僕、君を引き取ろうと思うんだ」
「……え? 」
「行くあてが無いのなら、魔法士として僕の弟子になって欲しい」
その言葉にサルモネは口を開けてポカンととぼけてみせた。
「魔法士に、なれますか。俺は」
「君には才能がある。才能を活かすだけの力も」
誰にも必要とされていなかった。思い出せる限りの記憶の中に、自分は必要とされていなかった。
サルモネは心臓が押し潰されそうになるくらいに嬉し泣きそうな感情を押し殺していた。
「弟子に、して下さい」
「うん」
「よろしくお願いします」
頭を下げたサルモネは眉間に力を込めてから顔を上げたが、オズの顔を見て少し驚いた。
同じ顔をして、笑っているのだ。今にも泣き出しそうな笑顔にサルモネは笑ってしまった。
朝日がすっかり顔を出し、二人照らされながらしがらみは足元に張り付いたままなのを無視した。
「おーい! オズウェルさぁん! 」
心地の良い沈黙を破ったのは王宮からの使いのドッグドッグだ。少年のような風貌をしていながら四足で駆けてくる。
勢いそのままに二本足だけで駆けつけるハンチングを被った少年はサルモネを視界に捉えると愛想良く「おはようございます」と言った。
「オズウェルさんもおはようございます。お早いですね、お出掛けですか? 」
「いいや」
「それならよかった。それはそうと……こちらの方は? 」
ドッグドッグはサルモネをジッと見つめ、スンスンと匂いを嗅いだ。
「サルモネ。僕の弟子」
「へぇ……お弟子さんで…………
え?! 弟子?! 」
キィンと耳がなるくらいには大声だ。オズは耳を塞ぎ、もう一度サルモネが弟子であると告げるとドッグドッグは目をまん丸にしてサルモネにピタリとくっついた。
「オズさんが……弟子を。コモ様に至急お伝えしなければ、これは大ニュースだ」
「ドッグドッグ、サルモネが困ってる」
「すみません。少し、不思議な匂いがしたもので」
名を馳せたオズの弟子は今までに一人もいなかった。オズの繊細で強力な魔法を継承する者がいないと嘆かれていた。
アリスフォードの王も長く続く魔法士一門の途絶えは悩みの種であった。
ドッグドッグは胸を撫で下ろし、ようやくサルモネから離れた。
「すみません。名前も名乗らず。
僕はドッグドッグ、アリスフォードの王宮の使いです。どうぞよろしく」
「サルモネです。よろしくお願いします」
差し出された手をサルモネは握り、満面の笑みのドッグドッグに合わせて笑った。
同じくらいの歳に見えるドッグドッグに惹かれているようだった。
「ところで、今日はなんの用?」
「あぁ! そうです!
また出たんです! 墓荒らしが」
サルモネがまつ毛の長い美しい横顔を眺めながら聞くと、オズの目がぬるりとサルモネを捉えた。
「どうして? 」
「性別が変わって別人ですよ、俺」
そう言うとオズは顔に似合わず豪快に口を開け、声を上げて笑った。
「アハハ! 知ってたさ、君は赤髪の良く似合う青年だってこと。サルモネ、その名前も」
オズはサルモネの肩をギュッと寄せると、長いまつ毛を伏せた。
「僕はずっと待っていたんだから」
顔にかかる前髪で表情は伺えないが、オズは泣いていた気がした。何故か、そう思ったのだ。
サルモネは何も言えず、ただ黙って寄り添っていた。はじめて美しいと思えた朝日を浴びながら、掴みかけている居場所から離れまいとコートをギュッと握りながら。
「空を人間の二本足で歩くのはあまりに無謀だったかぁ」
「え? 」
オズはサルモネの身体を離さないよう器用にコートを脱ぐと、サルモネに押し付けた。
「ちょっと持ってて」
「えッあ……」
コートを脱いだオズの背には気がつけばカラスのような真っ黒な羽が生えていた。黒く靱やかな翼は一度羽ばたかせるだけでグンッと前に進んむ。
「うわぁッ!! 」
「すぐ慣れるさ」
風を切り、どんどん前に進む。
景色も流れるように変わってゆく。
「凄い……」
「サルモネだってこの空を飛んで行ったろう? 」
「……はい、だけどあまり憶えていなくて」
夜と風が違う。爽やかで包まれるような風だ。
木々が並んでいる森から、見知らぬ街。それを抜けると見覚えのある大きな家が見えた。サルモネが家を見つけた頃にはオズは下降をし、あっという間に地面に立っていた。
「さ、着いたよ」
昨晩、サルモネがのたうち回ったらしい場所に草木が萎びている。それを見つめ、サルモネは「ごめんなさい」と呟くとオズが不思議そうな顔をして視線の先を追いかけた。
「あぁ、気にすることない」
「でも……」
肩を落とすサルモネの背をポンと叩き、一歩前に出て、森の入口、折れた木々に手のひらを差し出した。
「サルース」
ふぅっと息を吹くと、さぁっと優しい風が吹いた。
「……凄い」
木々が忽ち起き上がり、元の姿に戻った。
いとも簡単に治してしまう魔法に感心する他ないサルモネは目を輝かせて自然と踵が浮いた。
「僕、君を引き取ろうと思うんだ」
「……え? 」
「行くあてが無いのなら、魔法士として僕の弟子になって欲しい」
その言葉にサルモネは口を開けてポカンととぼけてみせた。
「魔法士に、なれますか。俺は」
「君には才能がある。才能を活かすだけの力も」
誰にも必要とされていなかった。思い出せる限りの記憶の中に、自分は必要とされていなかった。
サルモネは心臓が押し潰されそうになるくらいに嬉し泣きそうな感情を押し殺していた。
「弟子に、して下さい」
「うん」
「よろしくお願いします」
頭を下げたサルモネは眉間に力を込めてから顔を上げたが、オズの顔を見て少し驚いた。
同じ顔をして、笑っているのだ。今にも泣き出しそうな笑顔にサルモネは笑ってしまった。
朝日がすっかり顔を出し、二人照らされながらしがらみは足元に張り付いたままなのを無視した。
「おーい! オズウェルさぁん! 」
心地の良い沈黙を破ったのは王宮からの使いのドッグドッグだ。少年のような風貌をしていながら四足で駆けてくる。
勢いそのままに二本足だけで駆けつけるハンチングを被った少年はサルモネを視界に捉えると愛想良く「おはようございます」と言った。
「オズウェルさんもおはようございます。お早いですね、お出掛けですか? 」
「いいや」
「それならよかった。それはそうと……こちらの方は? 」
ドッグドッグはサルモネをジッと見つめ、スンスンと匂いを嗅いだ。
「サルモネ。僕の弟子」
「へぇ……お弟子さんで…………
え?! 弟子?! 」
キィンと耳がなるくらいには大声だ。オズは耳を塞ぎ、もう一度サルモネが弟子であると告げるとドッグドッグは目をまん丸にしてサルモネにピタリとくっついた。
「オズさんが……弟子を。コモ様に至急お伝えしなければ、これは大ニュースだ」
「ドッグドッグ、サルモネが困ってる」
「すみません。少し、不思議な匂いがしたもので」
名を馳せたオズの弟子は今までに一人もいなかった。オズの繊細で強力な魔法を継承する者がいないと嘆かれていた。
アリスフォードの王も長く続く魔法士一門の途絶えは悩みの種であった。
ドッグドッグは胸を撫で下ろし、ようやくサルモネから離れた。
「すみません。名前も名乗らず。
僕はドッグドッグ、アリスフォードの王宮の使いです。どうぞよろしく」
「サルモネです。よろしくお願いします」
差し出された手をサルモネは握り、満面の笑みのドッグドッグに合わせて笑った。
同じくらいの歳に見えるドッグドッグに惹かれているようだった。
「ところで、今日はなんの用?」
「あぁ! そうです!
また出たんです! 墓荒らしが」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる