新世界が聞こえる

はら田

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3.どの道をゆく?

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「どう? このベーコン。特殊魔法で燻製した一級品だよ」
「ううん……」

 はじめて来たアリスフォードの認可マーケットはたった一人だった。オズは家でふて寝しているために、一人で心細いがオズに腹が立っているサルモネはついてきて欲しいとは言わなかった。

「あちゃー」

地獄絵図のキッチンを見てもそのひと言。悪びれる素振りもなければ他人事。

「ベーコンも、ダメかぁ」

保管庫を開けてなはは、と笑うのでサルモネは「当たり前でしょうが!!! これで!よく! 俺に料理させようとしましたね!!! 」と怒鳴りつけた。

「そんなに怒ること? なんかサルモネじゃない」

サルモネの怒りのツボを次々と的確に押していく。オズも苛立ちを見せるがお門違いにも程があった。

「あのですね! 言わせてもらいますけど、家が汚すぎます! 本に書類に植物ですか? 人が住む家じゃありません! 」
「人じゃない、魔法使い」
「そういうこと言ってんじゃないんですよ」

 背の高いオズを見上げながら詰め寄るとオズはムッとした顔でサルモネを見つめ返した。

「片付けますよ」
「サルモネがやってよ。得意だろ」
「なッ! 」

 ワガママ中のワガママ。大きな子供と言っても過言ではなかった。長い前髪の隙間から冷たい瞳が見下ろし、サルモネは何を言っても無駄だと諦めた。

「……はぁ。掃除道具は」
「え? 」
「掃除道具です。箒とか、雑巾とか」

 キッチンの異臭すらもうしない程に呆れ果てていた。珍しく怒鳴ったことで気疲れしたサルモネは大人しくオズについて家の裏に向かった。次はくたびれた倉庫があり、オズは手を使わずに扉を開いた。

「ここにあると思うんだけど……」

ボロボロの倉庫は物を動かす度に天井や棚からホコリや塗装が落ちてくる。家も倉庫も長い年月が経っているのだが、オズが手入れをかなり怠っているためガタがきている。
本来ならば魔力で維持できるはずなのだ。

「あ、あったあった! 」

はい、と手渡されたのは穂先がほとんどない箒だった。

「……これ、で掃除しろって? 」
「え、ダメかな」
「ダメです。オズさん今までどうやって生きてきたんですか?! 」
「いや、そんな事を言われたって」

魔力さえあれば魔法士は死なない。百年何も口にせず引きこもっていようが死なないのだ。
長く伸びた髪もオズが生に無頓着であるという証拠だ。

「オズさん今から片付けをしますよ。魔法で出来るならそうして頂けると助かります」
「なんで」
「今のままじゃまともに暮らせないからですよ。満足に食事も出来ません」

 言い切るとサルモネは家に戻った。

「何?キッチン綺麗にすればいいの」
「全部ですけど……まぁ、まずはキッチンですね」
「分かったよ……」

 キッチンに続くホコリだらけの廊下を戻り、異臭が漂いはじめたのでサルモネは鼻を摘んだ。
キッチンの入り口に立つと、オズは仁王立ちをして「カサロス」と呪文を唱えた。

「わッ! 」

とぷんッ。透明なボールのような物体が数個床から迫り出してきた。ぷるぷると揺れながら浮かぶ物体はパチンと弾けると透明な液体がキッチン一面に広がった。
液体はまるで生きているかのごとく部屋を蠢き床、天井、シンクやコンロ、食品庫に貼り付いた。

「凄い! 」

目を丸くしたサルモネの瞳には新品同様の床、ピカピカのシンクが目に飛び込んできた。
液体は茶色く汚れ、腐った食材ごと抱き込んでシンクの中にギュウギュウに詰まった。

「どう? 」

オズがパチンと指を鳴らすと液体は排水溝に吸い込まれていった。

「凄いです! 」

キッチンにパタパタと足音を立てて入り込んだサルモネはピカピカのシンクやコンロを触った。あのキッチンが嘘のように綺麗だ。

「ほら、簡単に掃除なんか出来るんだから」
「……へぇ? 」

 じゃあ、と言いかけたサルモネを察してオズは耳を塞いだ。

「ちょっと! 聞かないフリしないで下さいよ! 」
「だって家を全部やれって言おうとしたでしょ! 」
「そうですよ。今、簡単って言いましたよね! 」

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