悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第二部

194.夢叶様の正体




 エヴァに首を握られたユキ様は、苦しそうにもがいていた。

「ゔゔ、ゔゔぅ⋯⋯」
「エヴァやめて! ユキ様が死んじゃう⋯⋯!」
「この程度では死にませんよ。ちゃんと加減しています。まぁ、意識は失うかもしれませんが⋯⋯」
「一般人の弱さなめんな! 早く離しなさい!」
「⋯⋯」

 渋々首から手を離すエヴァ。
 大きく咳き込むユキ様に、私は駆け寄る。

「ゲホッゲホッ⋯⋯ゔっ、ゴホッガハッ」
「大丈夫ですか、ユキ様!? ゆっくり、ゆっくり息してください!」

 ユキ様の呼吸が落ち着いたのを確認すると、エヴァから魔力封じの枷を渡された。

「それで彼女を拘束してください」
「⋯⋯どうして、ユキ様の首を絞めたの」
「彼女が武器ナイフを持っていたからですよ、ユリアーナ様。後ろから刺されたらどうするのです?」
「! ナイフ⋯⋯?」

 それです、とエヴァは足で押さえつけたナイフを指した。

「懐に隠し持っていました。彼女は、暗殺を命じられた可能性があります」
「っ違います! 私は、暗殺なんて⋯⋯!」
「どうやって証明するのです? 護身用として持っていた、とでもおっしゃるつもりですか?」
「信じてもらえないかもしれませんが⋯⋯そう、です」
「話になりませんね」
「エヴァ。だからって、首を絞めるのはやりすぎよ」
「⋯⋯以後気をつけます。さ、早く拘束してください」

 ユキ様の両手と両足にそれぞれ枷をつける。
 その姿は捕らえられた罪人そのものだ。

「本当なら殺すところなのですがね」
「エヴァ」
「⋯⋯私は当たり前のことを言っただけですよ。彼女は敵で、武器を持っていた。武器を持っていたことを、ユリアーナ様は分かっていらっしゃらなかったようですが、それを抜きにしても何故、彼女を拘束しなかったのです?」
「ユキ様は保護されることを望んでいたわ。降伏していたも同然よ」
「それはユリアーナ様の考えでしょう? 感情の証明はできない」
「っ⋯⋯」
「ここは敵地です。敵を野放しにするのは危険だと、ユリアーナ様なら分かるはずです。違いますか?」

 エヴァの言うことは、正しい。
 ユキ様に敵意があってもなくても、拘束はすべきだった。

「⋯⋯⋯⋯エヴァが、正しい。私が⋯⋯間違ってたわ。それは、認める。―――けど、すぐ物騒な考えになるのはあなたの悪い癖よ、エヴァ。裏社会では普通なのかもしれないけれど、ここは表社会なの」
「妓楼が、表社会? 限りなく裏社会クロに近いところでしょう?」
「⋯⋯それでも、すぐに殺そうとするのはやめて。彼女たちはちゃんと存在意義がある。貴重な情報源としての存在意義が、ね」

 すると、ズキリと頭に痛みがした。
 魔法の効果が薄れ始めたか⋯⋯。

「頭痛ですか?」
「⋯⋯えぇ。おそらくは、禁止薬物の」
「これを。定期的に服用すれば、一週間ほどで完治するはずです」

 エヴァが差し出したのは錠剤だった。
 すごいな、この世界。
 禁止薬物の依存から、抜け出すことができるのか。
 前世では、禁止薬物の服用をやめた後、少なからず後遺症が残っていたはずだ。
 テレビのニュースの特集で、そう言っていたのを覚えている。
 薬を飲むと、私はエヴァに尋ねた。

「エヴァ。あなた、ここに来るまで何してたの? ⋯⋯というか、なんで自分の腹を刺したのよ! 私、すっごく怖かったんだからね!」
「あぁ。あの時は本当に申し訳ございませんでした。そこの花魁女狐にしてやられまして、禁止薬物と睡眠薬、麻痺毒が含まれた御香で嵌められたので、止むを得ず」
「え? そうだったの!? ―――ユキ様すごいじゃん! あのエヴァを追い詰めるとは、やるじゃん!」
「え、あ⋯⋯ありがとうございます⋯⋯??」
「何故彼女を褒めているのです? ここは、私を嵌めた理由を問い詰めるところでは?」

 えー?
 でもさ、ユキ様は一般人だよ?
 エヴァみたいな規格外の化け物相手に一般人ひとりで挑んで、しかも、実質勝利でしょ?
 すごいとしか言えないじゃ~ん。

「どーせ、誰かに命令されたんでしょ? ね、ユキ様。相手は誰? 私が⋯⋯というより、エヴァかな? そいつには相応しい罰を与えるから教えてよ~」
「⋯⋯⋯⋯す」
「ん? なんて?」
「えと、その⋯⋯命令したのは、サクラ、です」
「「⋯⋯」」
「ユキの言ってることは合ってるよ~。私が命令したの~」
「「⋯⋯」」
「―――殺す」
「わー! ちょ、ちょっと、ストープッ!!」

 分かるよ、分かるよ!
 悔しかったんだよね!
 ノイア・ノアールの幹部で、終焉の死神エヴァって呼ばれてるレグルス様の右腕が、一般人の女性(=ユキ様)に嵌められたのがまず悔しかったんだよね!
 でもってそのユキ様に命令した人がサクだって分かって、サクを殺してエヴァの中の黒歴史(?)を消そうとしたんだよね!
 でも、そんなの無理だよ!
 だって、本当に消すなら、このことを知っている私とユキ様も殺さなきゃいけないよ!?
 エヴァはそんなことしないよね!!?
 そうじゃなきゃ私、困るんだけど!?

「ほーらほらほら、思い出して思い出して!私、エヴァにもう一個聞いたよね? ここに来るまで何してたの」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯腹の怪我を治して、妓楼にいた全ての従業員・客を取り押さえ、ここに来ました。途中から魔力反応がしたので、ユリアーナ様がここにいるのは分かっていました」
「え? 取り押さえたの?」
「はい。私が命令して、ノイア・ノアールの組員たちに取り押さえてもらいました。私は楼主の紫雲シウの部屋にあった出入り口から地下ここへ来ました」
「えっ! 地下への入り口って楼主の部屋にあったの!? ⋯⋯そりゃ、見つけられないわ」

 あそこは、なかなか入ることのできない部屋だ。
 シウさんの許可がない限りは出入り禁止になっている。
 シウさんの事実であり、お客さんと取引をするための部屋でもあるためだ。

「ん? 地下への入り口が楼主の部屋にあったってことは⋯⋯」
「ええ。シウも敵でした」
「うわぁ⋯⋯敵、多くね?」
「そんなものでしょう。ですが、シウも他の薬物関係者と同じく、ムトについての情報は持っていませんでした」

 やっぱりムト様の手がかりは掴めないかぁ。
 ⋯⋯でも、サクなら。

「サクは、ムト様に会ったことがあるんだよね? 知ってること、教えてくれない?」
「!? 彼女が⋯⋯?」
「そだよ~。私はムト様と会ったことがある。嘘じゃないよ。ちなみに言うと、アデルバード様⋯⋯じゃなくてエヴァ、だっけ? あなたを嵌めるよう、命じたのもムト様だよ~」
「「!!?」」

 ムト様はアデルバードがエヴァだってことを、知っていた⋯⋯?
 だとしたら、当然ながらムト様は裏社会の人間と言うことになる。
 禁止薬物に関わっている時点で、それはもう確定事項のようなものだ。

「早く記憶を⋯⋯!」
「まさか、魔法で記憶を視るつもり?」
「当たり前でしょう。口先だけの情報では信憑性に欠けます。記憶を視る方が早いですし、何より信用できる。⋯⋯構いませんね?」
「⋯⋯好きにしなよ。どうせ、私に選択権なんてないんでしょ?」
「サク!?」
「いいよ、チヨちゃん。遅かれ早かれ、いずれはこうなると思ってたから。だから、大丈夫。大丈夫だから、ほら。ね?」
「⋯⋯」

 サクの笑顔は、私には少し、まぶしかった。
 離れていてください、と言われ、私はエヴァたちから一定距離感覚を取る。
 何が起こるか分からないから、とのことだが、記憶を視るだけなのに、そんな警戒する必要はあるのだろうか。
 サクに何かしらの魔法がかかっているとすれば、それは、記憶を抹消する魔法だろう。
 サクに影響が出るだけで、私たちには何も起こらないと思うのだが⋯⋯。
 エヴァはサクに近づき、魔法を展開した。

―――これは⋯⋯かなり強力な魔法だな。

 対象者の記憶を視る魔法。
 複数の魔法を同時展開・発動することにより記憶を視ることができる。
 私も使えなくはないが⋯⋯魔力消費は激しいし、維持が難しい。
 もし私がこの魔法を使うなら、魔力切れを想定して、魔石を用意しておく。
 エヴァはそういうのを一切なしでこの魔法を使うようだ。

―――相変わらず恐ろしい人。

 これが普通なのだと思うと、裏社会って怖いなぁと思う。

―――お。始まる。

 エヴァの魔法陣が淡く光り、発動した。
 えげつない量の魔力が消費されている、と体感で分かった。
 そして、それと同時にもう一つ、分かったことがあった。



―――



 その瞬間、無数の刃の斬撃が、嵐となって飛んできた。

 ドーンッ
 ミシミシミシッ

 地下が、

 パリーン
 ガッシャーン
 ギシッ
 グラグラッ
 ギイィィィィ

 建物が、

 シュッ
 メキメキメキメキ
 ドシャーン
 グチャ
 グシャリ

 すべてが、
 全部全部、壊れていく音がする。
 本能的に発動した防護結界は、数秒の内に破壊された。
 瞬時に同じものを何度も何度も、強度を上げ、範囲を広げ、展開していく。
 発動、破壊、発動、破壊、発動、破壊、発動、破壊⋯⋯⋯⋯そして、止んだ。

「ぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っあ⋯⋯⋯⋯」

 猛攻は、五分ほど続いた⋯⋯と、思う。
 もう、何が起こっていたのか、分からなかった。

―――攻撃、された⋯⋯?

 だが、あれはエヴァの攻撃ではなかった。
 エヴァの魔力ではなかった。
 私の知らない誰かの魔力だ。
 それも、複数。

―――みんな、どこ⋯⋯?

 サクは、どうなった?
 エヴァは、どうしている?
 ユキ様は⋯⋯―――

「な、んで」

 ユキ様は⋯⋯―――死んでいた。

「ゆき、さま⋯⋯?」

 原型を、とどめていなかった。
 かろうじて、服の柄だったり、簪だったりでユキ様だと分かるだけで。
 は、人の形を成していなかった。
 錆びた鉄の匂いが、強く、強く鼻を抉るように刺激する。
 檻に閉じ込められていた薬物依存者たちは、皆、赤い血の海となって。
 上を見上げると、つい昨日まで働いていた妓楼であろう建物に穴が開いて、朝空が見えた。
 上から、誰かが叫ぶ声がする。
 たくさんの人が怪我をしていて、死んでいて、混乱しているのが、分かった。

「―――ぁ」

 視界に、が映る。
 これでもかと言うほどにバラバラにされた、人間だ。

「ぁ、ぁぁあ、ぇぅ、ど、して⋯⋯」

 は無残な肉体と化していた。
 四肢はもちろん、身体はバラバラに切断されていた。
 まるで、糸で切ったかのように―――

―――

 過去の記憶と、つながる。

『〈これはエヴァ様の予想なのですが、おそらく、犯人は―――〉』
『〈傀儡師で、性別は男。人形と糸、植物などを使って攻撃してきたそうです〉』
『ハイネ・アルドワーズは、四肢がバラバラになった状態で発見された。それも、すごくきれいな切断面だった』

 サクの死体は、ハイネ先輩に似ていた。

「―――ユリアーナ、様」
「ッ!!! エヴァ⋯⋯!?」

 声のした方を見ると、そこには、瓦礫に埋もれたエヴァがいて、私を、呼んでいた。

「い、いま、助けるから⋯⋯!!」

 生きている人がいた。
 そのことに、ただただ私は安心して、涙が零れた。
 エヴァは全身傷だらけだったが、命に別状はないという。

「生きて、いたようで、何よりです」
「それは⋯⋯それは、私のセリフよエヴァ⋯⋯っ」
「⋯⋯泣かないでください。ちゃんと、私は生きていますから」

 エヴァに涙を拭ってもらうも、涙が止まらない。
 涙の止め方が、分からない。

「⋯⋯ユリアーナ様。先に報告しておきます。あの禿の記憶ですが、全てを視ることはできませんでした」
「⋯⋯そう」
「彼女には、どうやら記憶を覗かれた際に発動する呪いらしきものが仕込まれていました。おそらく、本人も知らなかったかと」

 呪い。

―――信じたく、ない。

 予想が、確信に変わっていく。

『ハイネ・アルドワーズは、四肢がバラバラになった状態で発見された。それも、すごくきれいな切断面だった』
『〈これはエヴァ様の予想なのですが、おそらく、犯人はあるじ様の下僕しもべの一人でしょう。五年前の襲撃事件後、マナ・ライアーを逃がした人物かと思われます。傀儡師で、性別は男。人形と糸、植物などを使って攻撃してきたそうです〉』
『―――あるじ様と呼ばれる、正体不明の人物が関わっていると考えられます。五年前のマナ・ライアーと名乗る者の主人あるじです』
『彼女には、どうやら記憶を覗かれた際に発動する呪いらしきものが仕込まれていました』

 もしかして、なのか?
 夢叶ムト様の、正体は―――

「人物の顔までは分かりませんでしたが、これは確かです。あの禿の記憶の中には、『

 忘れるはずもない。

『久しぶり。由良お姉ちゃん』

 彼女は、私の前世の妹で、私を殺そうとしている人物なのだから。

―――夢叶ムト様は、花蓮あるじ様だ。


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