ウェブ小説に狂った男

まるっこ

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第2章 本当の職業

 第7話

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 六地蔵リクオが入居するツインタワー東棟は居住階層のほか、階層ごとに公的機関の出張所や警備会社、企業のオフィス、歯科医院、医療クリニックなどが入り、必要なものはネットで注文さえすれば、百貨店なみに種々の店舗が入るツインタワー西棟から即座に届けられる。
 
 自然に包まれた住まいにして、およそ生活に必要なものは全てそろう。そのふれこみに嘘はないが、もう一つ重要な役割を持っている。

 それは六地蔵のような患者の囲い込みだ――。

 最上階層に設置されたこの医療センターは、一般には公開されていない。
 全国展開を目指す国主導のプロジェクトとして他県に先駆け、この県で試験的に導入された。

 その最高責任者が、いま真木の眼前にいる精神科医・久條錬三教授である。
 同時に久條教授は、真木が勤める県大学病院の院長でもある。真木が将来的な診療科目として精神科を上げていたため、研修の一環として声がかかった。
 
 久條教授は、真木の報告に静かにうなずき、黙って手を差し出した。
 真木は教授の机に歩み寄り、一礼して報告書を手渡す。
 
 教授の目が、すさまじい速さで文字を追う。
 その表情からは何もうかがえない。稚拙な報告書になっていないだろうか……と真木は不安になってくる。
 
 報告書を読み終えた教授が顔を上げ、真木を見つめて言った。
「喜んでいる――で、正解だ」

 ワンテンポ遅れて意味がわかり、真木の顔はほころんだ。
「ありがとうございます。もっとたくさんの事を読み取りたいと思ったのですが――」

「彼はここに来てから落ち着いている。そして君には最低限の情報しか与えていない。初めてのごく短い面会で、多くの事を読み取れなくても無理はない」

 ほっとする想いとともに、真木は黙って頭を下げた。

「そこに掛けなさい」そう言われ、真木は教授の机の前にある応接セットに座った。

「六地蔵リクオが、ここに入った経緯を詳しく話そう」
 
 そう言って、教授は報告書を机の脇に置いた――。

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