刃に縋りて弾丸を喰む

青い

文字の大きさ
上 下
20 / 64

Episode〈3〉蜜月 ⑸

しおりを挟む
 「……うん、そう。上手、上手」
 暗い部屋の中、二つ並んだ布団の上で、カタナはその下半身にうずめられた私の頭を撫でた。
 先刻、湯船の熱気に包まれながら口づけを繰り返していた私は、尻に硬いものが当たる感覚をおぼえた。そんな私の様子を気取って、カタナが珍しく甘えた声を出した。
 「ねえ、ひとつお願いしてもいい?」
 ───そのお願いが“これ”だった。
 硬くそそり立ったそれに歯を立てないよう気をつけながら、喉の奥まで食んでゆく。男性のそれを口で慰めることなどもちろん初めてで、どうすればよいか分からない私を、カタナは優しい声で導いてゆく。
 「……っ」
 一瞬、カタナの身体がこわばった。髪を撫でる手も止まって、は、と頭の上から短い吐息が振ってくる。
 ずるり、と口からカタナのそれが引き抜かれた。
 「あぶな、イっちゃいそうだった」
 その声と同時に身体を抱き上げられて、そのまま優しく布団の上へと押し倒される。カタナは私の口元につたったよだれを指で拭いながら、意地悪く笑った。
 「ふふ、本当にあんたは飲み込みが早いね。……それか買った“オモチャ”でこういう練習もしたの?」
 ───買った、“オモチャ”?
 カタナの言葉に一瞬思考が停止して、はっとする。
 まさか、まさか……!?
 「ええと、なんだっけ。ピンク色のローターと、同じような色のディルドと……」
 「あっ!?えっ、あっ!?」
 愉しそうに私が最近ネットで買った“オモチャ”の数々を読み上げるカタナの口を思わず塞ぐ。彼の目がニンマリと弓なりに弧を描く。
 「あんたのことは何でも分かるけど……やっぱり、カラダが一番正直だ」
 「っふぁ……」
 カタナの口を塞いでいた指の間を、ぬるりとした体温が這った。
 指と指の間をじっとりと舐めながら、カタナは私を組み伏せ鼠径部に手を伸ばす。
 「ね、どうやって遊んでいたの?今日のパズルみたいに、すっかり集中しちゃってた?───もしかしたら、オレの部下に見られてたかもしれないね」
 ちゅ、と手のひらについばむようなキスをして、カタナは私の両手を頭の上に縫いとめた。
 「さすがに妻のそんな姿を他の男に見られるのは───いい気がしないね」
 耳元を、低い声がくすぐった。
 「っあ、は、ん……っ」
 激しくナカを弄ばれて腰が跳ねるも、覆い被さったカタナのカラダはびくともしない。むしろ腰ごと布団に押しつけられて、太ももを硬い感触がたわませる。
 「っ───…」
 私が達したのを見て取ったカタナは指を抜いて、枕元に手を伸ばした。袋からコンドームを取り出すと、彼は私の手を取った。
 「……ほら、ゴム。付けてみて」
 コンドームごとカタナのそれに手を添えられて、おそるおそるその先にコンドームをかける。少し力を入れて端を引っ張ったが、くるくると小さくまとめられた薄っぺらいゴムの膜はなかなかほどけてくれなかった。
 「んー、それじゃ破れちゃうよ」
 見かねたカタナが私の手からコンドームを取って手際よく自身のそれに巻き下ろした。
 「まあ、オモチャじゃ覚えらんないよね」
 カタナはぽつりと呟いて、ゴムの着いたそれを私の秘部へとあてがった。ゆっくりと、焦らすように割れ目をなぞりながら、彼は私の頬に手を添えた。
 「ねえ。オレより、オモチャの方が気持ちいいの?」
 カタナの指が頬を撫でるたび、彼の腰が動いて、ぬぷ、ぬぷと下腹部から水音が響く。膣口からその上の突起、さらには後ろの穴まで、硬い感触が恥部をゆっくりと行き来する。
 時折、ナカへの入り口を割って入るようなそぶりをしては、ふっと力が緩んでまた一直線に這ってゆく。
 「……ちょっと。勝手に挿れちゃ、だーめ」
 何度も何度も焦らされて、もどかしさに下へとよじった腰がカタナの左手に押さえつけられた。
 「ほら、教えてよ。オレのとオモチャと、どっちが欲しい?」
 ちゅぱ、ちゅぱと膣口がそれに引っ付いては離される音がする。頬を撫でる骨張った手の感触すら、お腹の奥をきゅうと締めつける。
 すぐそばにある、目もくらむような快楽の気配。それを奥のオクから求め、欲し、懇願するカラダが、無骨な手のひらにすり寄った。
 「……カタナがいい。カタナの、ちょうだい。いっぱい、ちょうだい」
 本能のままに口から言葉がこぼれ出たが早いか、身体は熱く硬いそれに貫かれていた。
 「っあ、ひぅ、んう、ぁっ」
 強く深く、一気に最奥まで到達したそれは、浅い動きでオクを執拗に責める。
 「それじゃ、ちゃーんとゴムの付け方も覚えないと。でないと……」
 ちゅっ、ちゅっとまるでキスのような音を密着した下腹部から立てながら、カタナの愉しそうな声が耳をくすぐった。
 「赤ちゃん、できちゃうよ?」
 とん、とんと突かれているオクの上、へその周りを撫ぜられて、身体がびくりと反応する。
 「ああもう、そんなに締めつけないでよ」
 おどけた調子でそう言いながらも、カタナの腰と手は止まらない。むしろ、さらに執拗に私の敏感な部分を責め立てる。
 「ひぅ……っ」
 息を吸うより多く身体が快楽に侵されて、頭がくらくらする。胸の奥から絞り出した吐息に小さくあえぎ声を滲ませる私に、カタナは優しく語りかけた。
 「そもそもセックスって、本来は子どもを作るための行為でしょ?」
 とん、とんとオクを突く熱が、次第に激しく、深くなる。
 「そんな風にね、ちょうだいって口で言われて。きゅうって、体で引き留められちゃったらさ」
 いつの間にか、お腹の上をさまよっていた手は二つとも、私の手に指を絡めて布団に押しつけられていた。
 「オレだって、つい孕ませたくなっちゃうよ」
  肉と肉がぶつかる音と、二人の荒い呼吸が交わる音。遠くに聞いていたはずの波の音は、いつのまにか淫靡な水音にかき消されてしまった。
 言葉らしい言葉はなく、ただお互いの身体だけがそれぞれの快楽に没入していた。
 少し早く、私に絶頂が訪れる。のけ反った身体に呼応するように、カタナの身体がぶるりと震えた。
 つぷ、と、ナカから、カタナが抜ける感覚があった。
 「……はい、外してみて」
 先ほどまで硬く、熱を持っていたそれがだらりとお腹の上に下ろされる。言われるがまま、そろそろとゴムの膜を外すと、その先にはたっぷりと液体がたまっていた。
 「ね。こんなにいっぱい、赤ちゃんの種をあんたのお腹のオクに出そうとしてたんだよ。オレの体」
 私の手から使用済みのコンドームを摘まみ取ると、カタナは手際よくその口を結んで近くのゴミ箱へと投げ捨てた。
 「オモチャより、オレの、がいいんでしょ?……それじゃ、避妊の仕方を覚えてね」
 振り返ったカタナが、ニンマリと笑う。
 「これからはオモチャを使う暇もないぐらい、いっぱい抱いてあげるから」
しおりを挟む

処理中です...