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デスマスク(2)
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「……なんだ、人形か」
理杏を睨みつけていたのは、神輿の上に乗った巨大な人形だった。目の周りには歌舞伎のような隈取りまで付いていて、よく見れば見間違えるわけがない。なのに迫力に圧倒されて、本当の人間かと思ってしまった。
広場の隅にある方形の石に腰かけて一息つくと、理杏はスケッチブックを取り出した。何か気晴らしに軽く描画してみようと思ったのだが、被写体になりそうなものは人形の憤怒の顔しかなさそうだった。
怖い顔は苦手だな、と思いつつも理杏は鉛筆を走らせる。
「がははははは。小僧よ、俺に驚いたみたいだなぁ」
描いた途端、絵の中の人形が豪快に笑いだした。
「君は一体なんなんだい?」
「俺はスサノオ。太陽神アマテラスの弟。そして、この祇園社の番人よ」
「なんでそんなに怖い顔してるんだよ。びっくりしたじゃないか」
「俺は気に食わないものすべてが気に食わないんだ。むかつく野郎はぶったおしたくてたまらん」
どうやら気性の荒い神様のようだ。
「それなら僕の友達の病気もぶったおしてほしいな。僕はそのために来たんだ」
「おう。俺を病魔退散のスサノオ様と知ってのことか。関心関心」
理杏は祇園社に病魔退散のご利益があることを知らなかった。しかし、話を合わせてうんうんとうなずいておくことにする。
「でもよ、この祭りの賑わいを見ると、疫病が流行ってるようには見えねぇけどな。おい、どんな病気が流行ってるんだ?」
「別に流行ってるわけじゃないよ。次郎はもうずっと長いこと病気なんだ」
「なんだ持病か。なら俺には無理だ。あきらめろ」
あっさりといわれて、理杏はその場でコケそうになった。
「諦めが早過ぎるんじゃない?」
「俺が得意なのは疫病。つまり伝染病な。持病は専門外なんだよ。持病はそいつの体力の問題だから、飯食って寝てればいいだけさ。弱けりゃ死ぬ。それだけだ」
「身も蓋もないなぁ。もういいよ、頼まない。神頼みとか思った僕が馬鹿だったよ」
結局、神様でも病気にかなわないのだと思うと、次郎は悲しくなった。
理杏はスケッチブックを破ろうとした。
「おいおい、つれねぇなぁ」
紙に亀裂が入ったところで、スサノオが更に話しかけてきた。
「お前の友人はもうすぐ死ぬのか?」
「……死なないよ」
「死ぬんだな?」
「……」
「あまり深刻になるなよ。人は死んだって無にはならない。俺は昔、死んだカーチャンのところまで会いに行ったこともあるんだぜ?」
「嘘だ。死後の世界なんてあるもんか」
「あるんだよ。人は死んだらヨミの国にいくんだ? 知らないのかよ」
「知らないよ。そんな国。どうせ行くなら天国がいい」
「天国ねえ。俺には天国とやらが良い所とは思えねえけどな」
スサノオは何かを憎むような表情で呟いた。
「まあいい。その友人は天国に行けると思うか?」
「行けるさ、きっと」
「聞きに行ってみたらどうだ? 天国に行くのか地獄に行くのか。それを決める奴を、俺は知っている」
「なんだって?」
「居場所を教えてやるから、ちょっと高く上げてくれ」
紙を頭上にかざすと、紙の中のスサノオの目玉が、ぐるりと回った。
止まった目玉が見つめる先には青くかすんだ山が見えた。六峰山と呼ばれている山だ。
「あの山の中腹に、六峰堂と呼ばれる祠がある。行ってみな。そいつが全部教えてくれるよ。人が死んだらどうなるかをな」
理杏を睨みつけていたのは、神輿の上に乗った巨大な人形だった。目の周りには歌舞伎のような隈取りまで付いていて、よく見れば見間違えるわけがない。なのに迫力に圧倒されて、本当の人間かと思ってしまった。
広場の隅にある方形の石に腰かけて一息つくと、理杏はスケッチブックを取り出した。何か気晴らしに軽く描画してみようと思ったのだが、被写体になりそうなものは人形の憤怒の顔しかなさそうだった。
怖い顔は苦手だな、と思いつつも理杏は鉛筆を走らせる。
「がははははは。小僧よ、俺に驚いたみたいだなぁ」
描いた途端、絵の中の人形が豪快に笑いだした。
「君は一体なんなんだい?」
「俺はスサノオ。太陽神アマテラスの弟。そして、この祇園社の番人よ」
「なんでそんなに怖い顔してるんだよ。びっくりしたじゃないか」
「俺は気に食わないものすべてが気に食わないんだ。むかつく野郎はぶったおしたくてたまらん」
どうやら気性の荒い神様のようだ。
「それなら僕の友達の病気もぶったおしてほしいな。僕はそのために来たんだ」
「おう。俺を病魔退散のスサノオ様と知ってのことか。関心関心」
理杏は祇園社に病魔退散のご利益があることを知らなかった。しかし、話を合わせてうんうんとうなずいておくことにする。
「でもよ、この祭りの賑わいを見ると、疫病が流行ってるようには見えねぇけどな。おい、どんな病気が流行ってるんだ?」
「別に流行ってるわけじゃないよ。次郎はもうずっと長いこと病気なんだ」
「なんだ持病か。なら俺には無理だ。あきらめろ」
あっさりといわれて、理杏はその場でコケそうになった。
「諦めが早過ぎるんじゃない?」
「俺が得意なのは疫病。つまり伝染病な。持病は専門外なんだよ。持病はそいつの体力の問題だから、飯食って寝てればいいだけさ。弱けりゃ死ぬ。それだけだ」
「身も蓋もないなぁ。もういいよ、頼まない。神頼みとか思った僕が馬鹿だったよ」
結局、神様でも病気にかなわないのだと思うと、次郎は悲しくなった。
理杏はスケッチブックを破ろうとした。
「おいおい、つれねぇなぁ」
紙に亀裂が入ったところで、スサノオが更に話しかけてきた。
「お前の友人はもうすぐ死ぬのか?」
「……死なないよ」
「死ぬんだな?」
「……」
「あまり深刻になるなよ。人は死んだって無にはならない。俺は昔、死んだカーチャンのところまで会いに行ったこともあるんだぜ?」
「嘘だ。死後の世界なんてあるもんか」
「あるんだよ。人は死んだらヨミの国にいくんだ? 知らないのかよ」
「知らないよ。そんな国。どうせ行くなら天国がいい」
「天国ねえ。俺には天国とやらが良い所とは思えねえけどな」
スサノオは何かを憎むような表情で呟いた。
「まあいい。その友人は天国に行けると思うか?」
「行けるさ、きっと」
「聞きに行ってみたらどうだ? 天国に行くのか地獄に行くのか。それを決める奴を、俺は知っている」
「なんだって?」
「居場所を教えてやるから、ちょっと高く上げてくれ」
紙を頭上にかざすと、紙の中のスサノオの目玉が、ぐるりと回った。
止まった目玉が見つめる先には青くかすんだ山が見えた。六峰山と呼ばれている山だ。
「あの山の中腹に、六峰堂と呼ばれる祠がある。行ってみな。そいつが全部教えてくれるよ。人が死んだらどうなるかをな」
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