3 / 12
デスマスク(2)
「……なんだ、人形か」
理杏を睨みつけていたのは、神輿の上に乗った巨大な人形だった。目の周りには歌舞伎のような隈取りまで付いていて、よく見れば見間違えるわけがない。なのに迫力に圧倒されて、本当の人間かと思ってしまった。
広場の隅にある方形の石に腰かけて一息つくと、理杏はスケッチブックを取り出した。何か気晴らしに軽く描画してみようと思ったのだが、被写体になりそうなものは人形の憤怒の顔しかなさそうだった。
怖い顔は苦手だな、と思いつつも理杏は鉛筆を走らせる。
「がははははは。小僧よ、俺に驚いたみたいだなぁ」
描いた途端、絵の中の人形が豪快に笑いだした。
「君は一体なんなんだい?」
「俺はスサノオ。太陽神アマテラスの弟。そして、この祇園社の番人よ」
「なんでそんなに怖い顔してるんだよ。びっくりしたじゃないか」
「俺は気に食わないものすべてが気に食わないんだ。むかつく野郎はぶったおしたくてたまらん」
どうやら気性の荒い神様のようだ。
「それなら僕の友達の病気もぶったおしてほしいな。僕はそのために来たんだ」
「おう。俺を病魔退散のスサノオ様と知ってのことか。関心関心」
理杏は祇園社に病魔退散のご利益があることを知らなかった。しかし、話を合わせてうんうんとうなずいておくことにする。
「でもよ、この祭りの賑わいを見ると、疫病が流行ってるようには見えねぇけどな。おい、どんな病気が流行ってるんだ?」
「別に流行ってるわけじゃないよ。次郎はもうずっと長いこと病気なんだ」
「なんだ持病か。なら俺には無理だ。あきらめろ」
あっさりといわれて、理杏はその場でコケそうになった。
「諦めが早過ぎるんじゃない?」
「俺が得意なのは疫病。つまり伝染病な。持病は専門外なんだよ。持病はそいつの体力の問題だから、飯食って寝てればいいだけさ。弱けりゃ死ぬ。それだけだ」
「身も蓋もないなぁ。もういいよ、頼まない。神頼みとか思った僕が馬鹿だったよ」
結局、神様でも病気にかなわないのだと思うと、次郎は悲しくなった。
理杏はスケッチブックを破ろうとした。
「おいおい、つれねぇなぁ」
紙に亀裂が入ったところで、スサノオが更に話しかけてきた。
「お前の友人はもうすぐ死ぬのか?」
「……死なないよ」
「死ぬんだな?」
「……」
「あまり深刻になるなよ。人は死んだって無にはならない。俺は昔、死んだカーチャンのところまで会いに行ったこともあるんだぜ?」
「嘘だ。死後の世界なんてあるもんか」
「あるんだよ。人は死んだらヨミの国にいくんだ? 知らないのかよ」
「知らないよ。そんな国。どうせ行くなら天国がいい」
「天国ねえ。俺には天国とやらが良い所とは思えねえけどな」
スサノオは何かを憎むような表情で呟いた。
「まあいい。その友人は天国に行けると思うか?」
「行けるさ、きっと」
「聞きに行ってみたらどうだ? 天国に行くのか地獄に行くのか。それを決める奴を、俺は知っている」
「なんだって?」
「居場所を教えてやるから、ちょっと高く上げてくれ」
紙を頭上にかざすと、紙の中のスサノオの目玉が、ぐるりと回った。
止まった目玉が見つめる先には青くかすんだ山が見えた。六峰山と呼ばれている山だ。
「あの山の中腹に、六峰堂と呼ばれる祠がある。行ってみな。そいつが全部教えてくれるよ。人が死んだらどうなるかをな」
理杏を睨みつけていたのは、神輿の上に乗った巨大な人形だった。目の周りには歌舞伎のような隈取りまで付いていて、よく見れば見間違えるわけがない。なのに迫力に圧倒されて、本当の人間かと思ってしまった。
広場の隅にある方形の石に腰かけて一息つくと、理杏はスケッチブックを取り出した。何か気晴らしに軽く描画してみようと思ったのだが、被写体になりそうなものは人形の憤怒の顔しかなさそうだった。
怖い顔は苦手だな、と思いつつも理杏は鉛筆を走らせる。
「がははははは。小僧よ、俺に驚いたみたいだなぁ」
描いた途端、絵の中の人形が豪快に笑いだした。
「君は一体なんなんだい?」
「俺はスサノオ。太陽神アマテラスの弟。そして、この祇園社の番人よ」
「なんでそんなに怖い顔してるんだよ。びっくりしたじゃないか」
「俺は気に食わないものすべてが気に食わないんだ。むかつく野郎はぶったおしたくてたまらん」
どうやら気性の荒い神様のようだ。
「それなら僕の友達の病気もぶったおしてほしいな。僕はそのために来たんだ」
「おう。俺を病魔退散のスサノオ様と知ってのことか。関心関心」
理杏は祇園社に病魔退散のご利益があることを知らなかった。しかし、話を合わせてうんうんとうなずいておくことにする。
「でもよ、この祭りの賑わいを見ると、疫病が流行ってるようには見えねぇけどな。おい、どんな病気が流行ってるんだ?」
「別に流行ってるわけじゃないよ。次郎はもうずっと長いこと病気なんだ」
「なんだ持病か。なら俺には無理だ。あきらめろ」
あっさりといわれて、理杏はその場でコケそうになった。
「諦めが早過ぎるんじゃない?」
「俺が得意なのは疫病。つまり伝染病な。持病は専門外なんだよ。持病はそいつの体力の問題だから、飯食って寝てればいいだけさ。弱けりゃ死ぬ。それだけだ」
「身も蓋もないなぁ。もういいよ、頼まない。神頼みとか思った僕が馬鹿だったよ」
結局、神様でも病気にかなわないのだと思うと、次郎は悲しくなった。
理杏はスケッチブックを破ろうとした。
「おいおい、つれねぇなぁ」
紙に亀裂が入ったところで、スサノオが更に話しかけてきた。
「お前の友人はもうすぐ死ぬのか?」
「……死なないよ」
「死ぬんだな?」
「……」
「あまり深刻になるなよ。人は死んだって無にはならない。俺は昔、死んだカーチャンのところまで会いに行ったこともあるんだぜ?」
「嘘だ。死後の世界なんてあるもんか」
「あるんだよ。人は死んだらヨミの国にいくんだ? 知らないのかよ」
「知らないよ。そんな国。どうせ行くなら天国がいい」
「天国ねえ。俺には天国とやらが良い所とは思えねえけどな」
スサノオは何かを憎むような表情で呟いた。
「まあいい。その友人は天国に行けると思うか?」
「行けるさ、きっと」
「聞きに行ってみたらどうだ? 天国に行くのか地獄に行くのか。それを決める奴を、俺は知っている」
「なんだって?」
「居場所を教えてやるから、ちょっと高く上げてくれ」
紙を頭上にかざすと、紙の中のスサノオの目玉が、ぐるりと回った。
止まった目玉が見つめる先には青くかすんだ山が見えた。六峰山と呼ばれている山だ。
「あの山の中腹に、六峰堂と呼ばれる祠がある。行ってみな。そいつが全部教えてくれるよ。人が死んだらどうなるかをな」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。