死せる聖堂とガーゴイル

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デスマスク(9)

 次郎が死んで、1週間が経った。次郎の見舞いという日課がなくなってしまったものの、理杏は早くも次郎のいない生活に順応していた。
 あれから、絵を数枚描いてみたのだが、もう絵がしゃべることはなくなっていた。
 身近な人間の死によるショックのためなのか、自分が大人になったせいなのか。理由はよくわからなかった。
「普通の人はこんな気分なんだな」
 話し相手がいないので、独り言を呟くしかない。よくもまあこんな寂しい世界で、みんな生きてるものだなと、理杏は感心した。
 今日は久しぶりに学校に顔を出した。いつまでも休んでいるわけにもいかないし、何より、自分の身の振りを考える必要があった。
「栄、調子はもういいのか?」
「はい。ご心配かけました」
 先生には父の死は伝えていたが、友人の死は伝えていない。まさか身近な人間を立て続けに二人もなくしているとは思うまい。
「復帰できそうか?」
「それが、絵がまったく描けなくなってしまいました。というか、描きたいものが本当になくなってしまいました」
 理杏は端的に自分の状況を伝えた。
「休学の形をとることもできるが、どうする?」
「それなんですが……転科したいと思います。彫刻をやらせてください」
 生まれて初めて深々と、理杏は先生に向かって頭を下げた。
「お前、彫刻やったことあるのか?」
「ありません」
「素人が転科できるほど美大は甘くないぞ?」
「それなら、転科する方法を教えてください。なんでもします」
 今までにないハッキリとした理杏の姿に先生は戸惑った。
「死んでもなりたいものができたんです」
 理杏は、はっきりと口にした。
「僕は彫像の修復士になります」
 日本中を、世界中をまたにかけて、死にかけの彫像たちに命を吹き込みたい。父と次郎の絵と一緒に、世界中の「想い」のこもった像を見ていきたい。
 人はいつか死んでしまうが、彫像はこの世に残り続ける。人は無に帰ってしまうが、彫刻は物語とともに生き続ける。
 粉々に打ち壊されない限り。
 だから、魔除の魔がいつまでも魔を払い続けられるよう、僕はこの命を捧げたい。
 理杏の心は澄み渡っていた。
 絵の中の声はもう聞こえない。そのかわりに、今の理杏には、この世の姿がくっきりと見えるようになっていた。
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