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その2
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これだよ。こんなやつがいるから、なかなか計画実行に踏み切れないんだよなぁ。この計画、クラスメイトの支持が得られなかったらそれでおしまいだ。こういう『追い出すのかわいそう派』が多数を占めているようじゃ、しくじりは目に見えてる。まあいい、ルーキーには、改めて後藤のひどさをレクチャーしてあげよう。ルーキーを説得できないようじゃ、他のクラスメイトも説得できるわけがないもんな。
「お前だって、後藤からは散々殴られてるだろ。いまどき、あんなボカスカ殴る暴力教師いないよ。あいつくらいのもんだよ」
「けど、後藤先生、僕だけを殴ってるわけじゃないし……」
「僕だってマッサンだって、山ほど殴られてるよ。だからこんなに怒ってんだろ」
「そうじゃなくて、後藤先生、みんなを分け隔てなく殴ってるっていうか……」
「……最悪だろ、それ。なおさら皆で直訴しなきゃダメじゃないか」
「えっと、だから、なんていうか、後藤先生はね、その……」
ルーキーは何かいい言葉でも浮かんでないかと、キョロキョロと視線をさまよわせた。その挙句に搾り出した言葉はこれ。
「公平なんだよ、後藤先生は。うん」
ダメだ。僕にはコイツが何を言っているのか、さっぱりわかりません。人を公平に殴る奴を追放することが、なぜ可愛そうだと思えるのでしょうか。
同意を求めようとマッサンのほうを振り向いてみたら、マッサンは僕とは違って、ちょっと驚いたような顔をしていた。
「後藤の奴、そんなにみんなのことボコスカ殴ってたっけ? あいつのメガトンパンチをくらってるのなんて、俺たち3人くらいだと思ってたけどな」
「うん、まあ、殴られてる回数はタケちゃんがダントツで多いと思うけど」
あ、やっぱ僕が一番なのね。
「『後藤暴力被害者の会』会長なら任せてくれ」
「いつも遅刻してくるからでしょ」
「いい大人は規則に縛られたりしないんだよ」
ううん、いい言葉だなぁ。我ながら。
「けど、回数に差はあっても、後藤先生に殴られたことない人、うちのクラスにはいないと思うよ」
「んじゃ、アイツは」
マッサンが音楽室へ抜ける裏口を指差して言った。ああ、そうか、音楽室には彼がいるな。
「あ~、ニムラくんねぇ……」
ニムラくんはうちのクラスの中でも真っ当な優等生だ。昼休みにはいつも音楽室にいて、ピアノの練習をしている。音楽準備室でだべっているだけの僕らとは違うのだ。
まあ、何しろ、絵に描いたような優等生だし、成績もいいし、ピアノも弾けるし、顔もそこそこいいほうだし、さすがの鬼後藤とは言え、ニムラくんを殴るようなことがあるとは思えない。
「体育の時間、だったかな? 確か、思いっきり殴られてた、と思うよ?」
「はっきりしろよ、おい。俺、アイツが殴られてるとこ見た覚えないぞ。いいよ、本人に聞いてくるから」
おっとっと。言うが早いか、マッサンは音楽室に入っていってしまった。ピアノの音が止む。僕も早く追いかけないと。面白そうな話を聞き逃したらもったいないし。
「うん、先生から殴られたことあるよ」
ニムラ君の声が聞こえてきた。
「え? マジで? 何したの、お前」
「何もしなかったよ」
「は?」
「5月だったかな? 松永君、バスケの最中に転んで怪我してたろ」
「俺? ああ、あったなぁ、そんなこと。膝をすりむいただけだったけどさ」
「あのときね、皆が松永君に駆け寄ってたときね、後ろでぼうっとしてたら、ゴツンってやられた。あれは痛かったなぁ、ほんとに」
なんにもしてないのに、殴っただって? ニムラくんを? それはなんて……。
「なんてひどい奴なんだ! 後藤の奴は! 許せんなぁ!」
むっちゃくちゃいい笑顔で叫びながら、マッサンが僕のほうを振り向いた。たぶん僕も同じような顔をしていたと思う。
そして、この笑顔こそが、作戦決行の合図だった。
「お前だって、後藤からは散々殴られてるだろ。いまどき、あんなボカスカ殴る暴力教師いないよ。あいつくらいのもんだよ」
「けど、後藤先生、僕だけを殴ってるわけじゃないし……」
「僕だってマッサンだって、山ほど殴られてるよ。だからこんなに怒ってんだろ」
「そうじゃなくて、後藤先生、みんなを分け隔てなく殴ってるっていうか……」
「……最悪だろ、それ。なおさら皆で直訴しなきゃダメじゃないか」
「えっと、だから、なんていうか、後藤先生はね、その……」
ルーキーは何かいい言葉でも浮かんでないかと、キョロキョロと視線をさまよわせた。その挙句に搾り出した言葉はこれ。
「公平なんだよ、後藤先生は。うん」
ダメだ。僕にはコイツが何を言っているのか、さっぱりわかりません。人を公平に殴る奴を追放することが、なぜ可愛そうだと思えるのでしょうか。
同意を求めようとマッサンのほうを振り向いてみたら、マッサンは僕とは違って、ちょっと驚いたような顔をしていた。
「後藤の奴、そんなにみんなのことボコスカ殴ってたっけ? あいつのメガトンパンチをくらってるのなんて、俺たち3人くらいだと思ってたけどな」
「うん、まあ、殴られてる回数はタケちゃんがダントツで多いと思うけど」
あ、やっぱ僕が一番なのね。
「『後藤暴力被害者の会』会長なら任せてくれ」
「いつも遅刻してくるからでしょ」
「いい大人は規則に縛られたりしないんだよ」
ううん、いい言葉だなぁ。我ながら。
「けど、回数に差はあっても、後藤先生に殴られたことない人、うちのクラスにはいないと思うよ」
「んじゃ、アイツは」
マッサンが音楽室へ抜ける裏口を指差して言った。ああ、そうか、音楽室には彼がいるな。
「あ~、ニムラくんねぇ……」
ニムラくんはうちのクラスの中でも真っ当な優等生だ。昼休みにはいつも音楽室にいて、ピアノの練習をしている。音楽準備室でだべっているだけの僕らとは違うのだ。
まあ、何しろ、絵に描いたような優等生だし、成績もいいし、ピアノも弾けるし、顔もそこそこいいほうだし、さすがの鬼後藤とは言え、ニムラくんを殴るようなことがあるとは思えない。
「体育の時間、だったかな? 確か、思いっきり殴られてた、と思うよ?」
「はっきりしろよ、おい。俺、アイツが殴られてるとこ見た覚えないぞ。いいよ、本人に聞いてくるから」
おっとっと。言うが早いか、マッサンは音楽室に入っていってしまった。ピアノの音が止む。僕も早く追いかけないと。面白そうな話を聞き逃したらもったいないし。
「うん、先生から殴られたことあるよ」
ニムラ君の声が聞こえてきた。
「え? マジで? 何したの、お前」
「何もしなかったよ」
「は?」
「5月だったかな? 松永君、バスケの最中に転んで怪我してたろ」
「俺? ああ、あったなぁ、そんなこと。膝をすりむいただけだったけどさ」
「あのときね、皆が松永君に駆け寄ってたときね、後ろでぼうっとしてたら、ゴツンってやられた。あれは痛かったなぁ、ほんとに」
なんにもしてないのに、殴っただって? ニムラくんを? それはなんて……。
「なんてひどい奴なんだ! 後藤の奴は! 許せんなぁ!」
むっちゃくちゃいい笑顔で叫びながら、マッサンが僕のほうを振り向いた。たぶん僕も同じような顔をしていたと思う。
そして、この笑顔こそが、作戦決行の合図だった。
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