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はじまりの日

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森の中の小さな教会。そこで2人は結婚した。

遠回りもあった。すれ違いもあった。

ほんの少しの距離のようで、実は長い道のりだったのだ。

その苦難の道のりは、おそらく2人にしか分からないものだろう。

「隣にいるのが君でよかった」

ポツリと呟いた。

「私もそう思う」

呟きが返ってきた。

「君を幸せにするよ」

と、言うと、

「違うよ。一緒に幸せになるんだよ。

 これまでも。これからも」

と、返された。

2人はお互いに微笑み合うと、

空のかなたに沈もうとしている夕日を見つめ続けた。

これから自分たちを待つ、長い道のりを見つめるように。

---------

2人は物心ついたときからの幼馴染だった。

僕は町の有力者の息子。君はただの公務員の娘。

身分違いとか、そんな時代遅れの考えは、

僕たちの間にも近所の大人たちの間にもなくて、

年が同じ僕たちはいつも一緒に遊んでいた。

お互いの家に遊びに行くのはしょっちゅうで、

そこに気恥ずかしさは全然なかった。

小学校が終わるまでは。

たぶん原因は友人たちだと思う。

人のせいにするのは良くないけれど。

中学生になってくると、

クラスメートたちは異性に対する興味と憧れと嫌悪を

あわせたような感情を持つようになる。

僕たちは良くても、周りは僕らの関係を放っておかない。

ある人は「つきあっているのか?」と、興味深々で聞き、

ある人は「お前は嫁がいていいよな」と、嫉妬交じりに言い、

ある人は「女と遊んでるんじゃねぇよ」と、理不尽に罵った。

君の周りでも同じだったんじゃないだろうか。

もしかすると、女の子の輪のほうが、

もっと辛辣だったのかもしれないね。

そんなわけで、僕たちは次第に離れていってしまった。

けれど、僕たちの年齢が離れるわけでもないし、

僕たちの家が離れるわけでもない。

高校も同じところに進んでしまった。

だから、つかず離れずの関係が、ずっと続くと思っていた。

高校3年になって、受験がせまるまでは。

僕は、県外の大学を目指していた。

成績も十分に足りており、

そこに行くものと確信していた。

だけど、受験の日が近づけば近づくほど、

僕は焦りのようなものを感じてきた。

最初は、なんでこんなに焦るのか分からなかった。

そしてその日、たまたまだったけど、

家の近くで君と出会った。

少しだけ話をしてすぐに分かれてしまったけど、

ほんとうはあの時、もっと話がしたかった。

なぜかは分からなかったけど、

あの時は、一分でも、一秒でも長く、

君と他愛もない話をしていたかった。

君と別れたあと、

ーーーーおいていくのか?

と、自分の中で、誰が言った気がした。

そのときようやく、僕は自分の気持ちに気づけたんだ。

君が、家から通える短大に進学する、と言ったとき、

君なら大丈夫、がんばれよ、と僕はなんでもなさげに言った。

言葉に偽りはないが、気持ちは偽りばかりだった。

12月になった。受験はもう目の前だった。

僕は両親に、地元の大学を受ける、と口走っていた。

今となっては、よくそんなことを言ったものだと思う。

僕は自分でもどうしていいのか分からなくなっていたのだ。

父親には、その場で張り倒された。

男が決めた志を途中で降ろすとは何事か、と説教された。

母親は、確かーーー黙って、僕を見つめていたと思う。

どう思っていたのかは分からない。

父親は満足するまで僕を小突き、説教した後、

落ち着きを取り戻したように、こう言った。

どんな事情があるのか知らないが、

地元に残りたい事情があるのならば、

まずその事情と全力で向き合うべきではないのか。

成績は足りているんだろう。

勉強なんてしなくていいから、

お前はそれだけ全力でやればいい

確かに僕は、そのときまで自分1人で悩んでいるだけだった。

冷静に考えればバカみたいだ。

僕1人の問題ではなかったのだ。

僕と君との問題なのだ。

そして君の気持ちなんて、このときの僕は、

まだ何にも聞いちゃいないのだ。

1人でうじうじと、本当にバカじゃないだろうか。

ありがとう、とうさん。

そう言って、僕は家を出た。

君の家に向かうために。

そんなわけで、僕は君に告白した。

付き合ってほしい、と。

受験が終われば離れ離れになるけれど、

これからも一緒にいたい、と。

そして、君の答えはーーーー

「イヤ。5年間もロクに話してなかったのに、バカじゃないの。

 しかも、すぐに遠距離になるって分かってるこのタイミングで?

 ゴメンだから、そんなの。だいたい私、他に好きな人いるから。

 いつまでも子どもみたいなキモチ、引きずらないでくれる?」

---------

桜が咲いていた。

引越しが多いこの季節、僕はまだ地元にいる。

引越しをする予定もない。

合格県内だからとタカをくくっていたのがいけなかったのか、

それとも、恋にのぼせていたのがいけなかったのか。

まあ、どちらのせいでもないとは思う。

ただのメンタルの問題だ。

僕は地元で浪人することになった。

彼女は無事に短大に受かったようで、

ルンルン気分で好きな人に告白したらしい。

結果は聞いてない。まだ聞くになれない。

予備校への入校手続きを済ませて帰ってくると、

両親が2人そろって、リビングでくつろいでいた。

息子の受難にもかかわらず、テレビを見ながら笑っている。

恨みがましい視線に気づいたのか、

母親がやってきた。そして、こんなことを言う。

「大丈夫、大丈夫。少しの遠回りくらい。

 勉強も。恋愛も。

 お父さんと、お母さんも、たくさんの 

 回り道をして、ようやく結婚することができたの」

僕への気遣いなどそっちのけで、

両親の馴れ初めについてうれしそうに語る母。

いかに自分たちが紆余曲折を経て、結婚にいたったのか。

それはもう力説してくれた。

意味不明だけど、その大げさな話は少しだけ僕の心を和ませてくれた。

「そうして、あなたが生まれたの。

 だから、あなたは、生まれるその前から、

 たくさんの遠回りを経てここにいるの。

 だから少しの回り道くらい大丈夫。

 これまでも、これからも」

最後に「困ったら私たちがいるから」と、

ようやく親らしいことを言ってくれた。

来週には4月になる。

一般的には「灰色の」と呼ばれる形容詞をつけたまま、

僕の18歳の春が始まる。

(了)

※この物語は第一回創作版真剣文字書き一本勝負参加作品として投稿されたものの再掲です。
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