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さみしい
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手が痛い事。辺りの女子が叫んだ事。シュンと圭吾が止めに入ってくれた事。その辺りをぼんやりと覚えている。
「なんで殴ったりなんか……」
そして今、桜子先生が目の前にいる。生徒指導室に二人きりだ。
長方形の白い机の向こう側。茶色の眉毛が中央に寄っているのがくっきり見える。
暫くは何も言わなかった。気まずくて、周りに置いてある本棚ばかりを見ていた。赤本と大学のパンフレット、奨学金についての本ばかりが並んでいる。
「私、なにか間違ってたの?」
肩を狭めて小さくなった先生が言った。両手は膝の上でガッチリ握られている。
間違っていたのか。と言われると間違っていたのかもしれない。写真は拡散してしまっただろう。
「先生、頑張ってくれるのは嬉しいです。でも、高校生って大人が思っている以上に残酷なんです。生徒同士も、この環境自体も」
どんなに優秀な先生でもレイと俺が写った画像を防ぐことはできなかったと思う。担任が桜子先生より無能で気力の無い先生なら、大事にならなかったかもしれない。でもそれはあまりに皮肉な結果だ。
「どうすればいいの……? 私、瀬七さんの事も、大平さんの事も、助けたいのに」
途切れ途切れの声で先生は話した。よく見ると白いプラスチック性の机に涙が数滴落ちていた。
「これは俺たちの問題なんだと思います」
それで小さく、ありがとうございましたと言って退室した。教室には戻れない。家の、自分の部屋に帰った。
部屋のベッドは安心した。電気を付けずに布団の中。光はスマートフォンの中だけに会った。
レイからの返信はまだない。
ドアの向こう。足音が聞こえる。父親が帰って来た音だ。こんなに足音は不快だったか。母親には早退したと伝えた。明日は高校へ行かないつもりだ。そうなると明日はなんて言い訳しよう。お腹が痛い。
「ご飯よ」
母親からメッセージが届く。夕飯はまた三人で食べた。
「今日、体調が悪かったんだって?」
「そうなのか? 勇人」
確かに体調は悪い。大きく外れてはいないが、詳しく説明したくない。第一、俺は人を殴ってしまっていた。今も右手の甲が赤い。高校中退くらいにはなるかもしれなかった。
「まぁ、そんな感じ。勉強とかは大丈夫だから」
答えにならない答えを返すしかなかった。
「お父さんは今日の仕事、どうだったの?」
箸を持つ手を見られたくない。そう思って適当に話題を逸らした。
「おぉ。珍しいな勇人が仕事の事聞くなんて」
何とか夕食は食べきった。それからすぐ部屋に戻ってベッドに入る。寂しい。心細かった。
枕に顔を埋めてみる。柔らかい。今度は抱きしめてみる。安心感があった。この枕がレイだったら良いのに。
枕の横に自分の頭を置いて、目の前にスマートフォンを設置する。それで、『ローマの休日』を見た。
有名なギターで殴るシーン。あそこまで楽しげだと、スッキリした。オードリーヘップバーンの服も綺麗だ。レイが着ても似合うかもしれない。
118分かけてすべて見た後、持ち帰ったタブレットに連絡が来た。
「きて」
枕をもう一度抱きしめた。やっとレイに会える。
「なんで殴ったりなんか……」
そして今、桜子先生が目の前にいる。生徒指導室に二人きりだ。
長方形の白い机の向こう側。茶色の眉毛が中央に寄っているのがくっきり見える。
暫くは何も言わなかった。気まずくて、周りに置いてある本棚ばかりを見ていた。赤本と大学のパンフレット、奨学金についての本ばかりが並んでいる。
「私、なにか間違ってたの?」
肩を狭めて小さくなった先生が言った。両手は膝の上でガッチリ握られている。
間違っていたのか。と言われると間違っていたのかもしれない。写真は拡散してしまっただろう。
「先生、頑張ってくれるのは嬉しいです。でも、高校生って大人が思っている以上に残酷なんです。生徒同士も、この環境自体も」
どんなに優秀な先生でもレイと俺が写った画像を防ぐことはできなかったと思う。担任が桜子先生より無能で気力の無い先生なら、大事にならなかったかもしれない。でもそれはあまりに皮肉な結果だ。
「どうすればいいの……? 私、瀬七さんの事も、大平さんの事も、助けたいのに」
途切れ途切れの声で先生は話した。よく見ると白いプラスチック性の机に涙が数滴落ちていた。
「これは俺たちの問題なんだと思います」
それで小さく、ありがとうございましたと言って退室した。教室には戻れない。家の、自分の部屋に帰った。
部屋のベッドは安心した。電気を付けずに布団の中。光はスマートフォンの中だけに会った。
レイからの返信はまだない。
ドアの向こう。足音が聞こえる。父親が帰って来た音だ。こんなに足音は不快だったか。母親には早退したと伝えた。明日は高校へ行かないつもりだ。そうなると明日はなんて言い訳しよう。お腹が痛い。
「ご飯よ」
母親からメッセージが届く。夕飯はまた三人で食べた。
「今日、体調が悪かったんだって?」
「そうなのか? 勇人」
確かに体調は悪い。大きく外れてはいないが、詳しく説明したくない。第一、俺は人を殴ってしまっていた。今も右手の甲が赤い。高校中退くらいにはなるかもしれなかった。
「まぁ、そんな感じ。勉強とかは大丈夫だから」
答えにならない答えを返すしかなかった。
「お父さんは今日の仕事、どうだったの?」
箸を持つ手を見られたくない。そう思って適当に話題を逸らした。
「おぉ。珍しいな勇人が仕事の事聞くなんて」
何とか夕食は食べきった。それからすぐ部屋に戻ってベッドに入る。寂しい。心細かった。
枕に顔を埋めてみる。柔らかい。今度は抱きしめてみる。安心感があった。この枕がレイだったら良いのに。
枕の横に自分の頭を置いて、目の前にスマートフォンを設置する。それで、『ローマの休日』を見た。
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「きて」
枕をもう一度抱きしめた。やっとレイに会える。
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