インスタントフィクション 400文字の物語 Ⅰ

スイスから来た機械の天使

　木材の構成要素から構築された機械天使はゆりかごの様な形をしていた。
　出生からして優しそうだ。
　
　日本で解禁されると希望者が機械天使のもとに集まった。その数2万1081人。
　権利として認められた以上、行政は粛々と対応しなければならなかった。
　
　最初の使用者候補は50歳の男性だった。30歳からひきこもっていたそうだ。職場でのイザコザに疲れて部屋に逃げた。それ以来、孤独だと言う。
　昨日、誕生日を迎えたそうだ。
「もう……。いいでしょう」
　諦めきった、穏やかな表情だった。
　カウンセリングと本人の変わらない意志によって、彼は機械天使に送り出された。
　
　2人目はリストカット癖のある24歳の女の子だった。
　中学の頃から死にたかったと本人は言う。
　カウンセリングの時も笑いながら
「死にたい」
と言っていた。
　しかし彼女が機械天使の前に立つと自然と涙があふれ出た。
　
　安楽死にはまだ早い。
　3Dプリンターで作られた安楽死装置、機械天使は無言で彼女にそう言った。