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実の世界
再生。Ⅰ
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「あぁ!ミノルさん!サトルさん!」
ナオミが安堵から声を上げた。自分の最も信頼する二人に対して感謝と安心とを伝えたかった。
近くに居たサトルが優しく声を掛ける。
「無事みたいだね。良かった」
サトルはアイコンタクトを使ってミノルにもこちらへ寄るように伝えた。
「ミノルさん!」
ミノルが近寄るとナオミはミノルに抱きついた。緊張の糸が突然解れたからか、あるいは、父親に対して護ってもらいたいと言うような心境で抱きついたのかもしれなかった。
「良かった。本当に」
ミノルもこの時ばかりは、ナオミからの抱擁を暖かく受け止めた。ミノル自身もナオミを抱きしめてやりたかった。父のように優しく包み込んであげたいとすら思っていた。
そして彼女の母があわてて駆けて来た。
母親もまた愛おしい娘の安全を確認して、安堵の表情を浮かべていた。
ミノルは早く自分が生きたいと思っていることを誰かに打ち明けたかった。
そしてその誰かとはサトルをおいて他には居なかった。
自分に生きたいと思わせてくれた本人に今の心情を伝えたいと思っていた。
しかし、今はフミヤの後始末をしなければならなかった。
そのためにこの感情を抑えることを苦痛に感じた。
しかし職業上、向き合わなければならないことがあるのも事実であった。
またその義務を果たすことが、これから生きていく上で必要になるとも思っていた。
きっとこれからこの世界で生きていく上でも義務や現実には直面するだろう。
しかし、逃げてばかりいられない。
ミノルはそうして現実と対峙することを自ら選んでいた。
「ケン。ありがとう。後は自警団の皆さんにお任せしよう。面倒な説明は俺がするよ」
ミノルはそう言って自警団のなかでも最も屈強な男に話しかけた。
自分がこの現場の指揮を執ったこと、仲間と共に事件に当たったこと、その他、事細かに事件について話した。
確かにこの業務は面倒で、一見するとどうだっていいような仕事に思えた。
しかし今のミノルはこれも現実の一環で、自分の行動に対する責任だとも思っていた。
さらにもう一つやらなければならないことがあった。
彼は自警団に拘束され連行されているフミヤの元へと歩み寄った。
「お前も人生について考えるといいよ。自分で感じ、判断し、行動し、責任を取るんだ。まずは今回の事件について責任を取ることからはじめるんだ。道は一つじゃない。やり方次第、工夫次第、そして、生き方次第で状況は変えることが出来るんだ。俺は今ならそう言える。親友が教えてくれたんだ」
フミヤはその言葉を聞くと、うなだれながらまた自警団に囲まれながら歩き始めた。
ミノルはすべての責任を果たすと、やはり、サトルの元へと歩を進めた。
今の自分は本当の意味でこの世界で生きたいと感じていることを早く話したかった。
そしてもう一つ。絶たれた問答の続きが気になっていた。
「サトル。俺はやっぱりこの世界で皆と生きて行きたい。本当に、心の底からそう思うんだ。それにさっき自警団の隊長と話をしていたら、自警団に入らないかって聞かれたんだ。どうかな?俺もこの世界で生きていけそうじゃないか?それに今はお前と同じ様に、感じて、判断して、行動して、責任を取る。これが出来るんだよ。きっと大丈夫だ。また一緒に生きていこう」
ミノルは心の内を打ち明けた。
彼の言葉は興奮で早く発せられていた。
どうしても生きて行きたい。
そう思えるまでに彼の心は”生”に対して積極的になっていた。
そうして早く親友から許諾を得たかった。
「それはどうしてもダメだよ」
やはりこの親友は許可を与えなかった。
絶たれた問答の続きを再開しなければならなくなった。
「なんでダメなのか理由を教えてくれよ。今の俺は、本当に生きていたいと思ってるんだ。それはお前なら分かってくれるんじゃないのか?」
ミノルは語気を強めて言った。
どうしても納得のいく説明をしてほしいと思った。
つまり、彼は心から”生”について希望を抱いていた。
問答の相手。親友のサトルは少ししてから口を開いた。
「皆に集まってほしい」
ゆったりとした口調でそう言った。
ミノルはそんなことよりも早くこの問答に決着をつけたかった。
それも自分がこの世界で生きていくという決着を望んでいた。
しかし、親友の声には真剣さが含まれていた。
唯一の親友である自分だからこそ分かったとミノルは確信していた。
必ず意味があるとそう思っていた。
「分かった」
ミノルはそう簡潔に答えた。早く答えが欲しかった。
「みんな!少し集まってくれないか!」
ミノルの真剣で大きな声を聞いた一同は振り向いて集まり始めた。
助けられたナオミと娼婦であるその母。
酒場で出会い、フミヤを確保してくれたケン
耳が聞こえないながらも状況を把握して来てくれたユタカ
一同がミノルとサトル、両親友の方を向いていた。
口を開いたのはサトルだった。
「みんな。聞いて欲しい。これから彼は帰るんだ」
手話を交えながらそう言った。
ナオミが安堵から声を上げた。自分の最も信頼する二人に対して感謝と安心とを伝えたかった。
近くに居たサトルが優しく声を掛ける。
「無事みたいだね。良かった」
サトルはアイコンタクトを使ってミノルにもこちらへ寄るように伝えた。
「ミノルさん!」
ミノルが近寄るとナオミはミノルに抱きついた。緊張の糸が突然解れたからか、あるいは、父親に対して護ってもらいたいと言うような心境で抱きついたのかもしれなかった。
「良かった。本当に」
ミノルもこの時ばかりは、ナオミからの抱擁を暖かく受け止めた。ミノル自身もナオミを抱きしめてやりたかった。父のように優しく包み込んであげたいとすら思っていた。
そして彼女の母があわてて駆けて来た。
母親もまた愛おしい娘の安全を確認して、安堵の表情を浮かべていた。
ミノルは早く自分が生きたいと思っていることを誰かに打ち明けたかった。
そしてその誰かとはサトルをおいて他には居なかった。
自分に生きたいと思わせてくれた本人に今の心情を伝えたいと思っていた。
しかし、今はフミヤの後始末をしなければならなかった。
そのためにこの感情を抑えることを苦痛に感じた。
しかし職業上、向き合わなければならないことがあるのも事実であった。
またその義務を果たすことが、これから生きていく上で必要になるとも思っていた。
きっとこれからこの世界で生きていく上でも義務や現実には直面するだろう。
しかし、逃げてばかりいられない。
ミノルはそうして現実と対峙することを自ら選んでいた。
「ケン。ありがとう。後は自警団の皆さんにお任せしよう。面倒な説明は俺がするよ」
ミノルはそう言って自警団のなかでも最も屈強な男に話しかけた。
自分がこの現場の指揮を執ったこと、仲間と共に事件に当たったこと、その他、事細かに事件について話した。
確かにこの業務は面倒で、一見するとどうだっていいような仕事に思えた。
しかし今のミノルはこれも現実の一環で、自分の行動に対する責任だとも思っていた。
さらにもう一つやらなければならないことがあった。
彼は自警団に拘束され連行されているフミヤの元へと歩み寄った。
「お前も人生について考えるといいよ。自分で感じ、判断し、行動し、責任を取るんだ。まずは今回の事件について責任を取ることからはじめるんだ。道は一つじゃない。やり方次第、工夫次第、そして、生き方次第で状況は変えることが出来るんだ。俺は今ならそう言える。親友が教えてくれたんだ」
フミヤはその言葉を聞くと、うなだれながらまた自警団に囲まれながら歩き始めた。
ミノルはすべての責任を果たすと、やはり、サトルの元へと歩を進めた。
今の自分は本当の意味でこの世界で生きたいと感じていることを早く話したかった。
そしてもう一つ。絶たれた問答の続きが気になっていた。
「サトル。俺はやっぱりこの世界で皆と生きて行きたい。本当に、心の底からそう思うんだ。それにさっき自警団の隊長と話をしていたら、自警団に入らないかって聞かれたんだ。どうかな?俺もこの世界で生きていけそうじゃないか?それに今はお前と同じ様に、感じて、判断して、行動して、責任を取る。これが出来るんだよ。きっと大丈夫だ。また一緒に生きていこう」
ミノルは心の内を打ち明けた。
彼の言葉は興奮で早く発せられていた。
どうしても生きて行きたい。
そう思えるまでに彼の心は”生”に対して積極的になっていた。
そうして早く親友から許諾を得たかった。
「それはどうしてもダメだよ」
やはりこの親友は許可を与えなかった。
絶たれた問答の続きを再開しなければならなくなった。
「なんでダメなのか理由を教えてくれよ。今の俺は、本当に生きていたいと思ってるんだ。それはお前なら分かってくれるんじゃないのか?」
ミノルは語気を強めて言った。
どうしても納得のいく説明をしてほしいと思った。
つまり、彼は心から”生”について希望を抱いていた。
問答の相手。親友のサトルは少ししてから口を開いた。
「皆に集まってほしい」
ゆったりとした口調でそう言った。
ミノルはそんなことよりも早くこの問答に決着をつけたかった。
それも自分がこの世界で生きていくという決着を望んでいた。
しかし、親友の声には真剣さが含まれていた。
唯一の親友である自分だからこそ分かったとミノルは確信していた。
必ず意味があるとそう思っていた。
「分かった」
ミノルはそう簡潔に答えた。早く答えが欲しかった。
「みんな!少し集まってくれないか!」
ミノルの真剣で大きな声を聞いた一同は振り向いて集まり始めた。
助けられたナオミと娼婦であるその母。
酒場で出会い、フミヤを確保してくれたケン
耳が聞こえないながらも状況を把握して来てくれたユタカ
一同がミノルとサトル、両親友の方を向いていた。
口を開いたのはサトルだった。
「みんな。聞いて欲しい。これから彼は帰るんだ」
手話を交えながらそう言った。
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