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実の世界
再生。Ⅲ
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自分の判断だった。
決してその場の雰囲気やサトルの熱弁に惑わされての発言ではなかった。
自ら内省し、熟考した上での決断だった。
一同の視線が集中した。
サトルとミノルにしか理解し得ない会話だったにも関わらず、一同は良く集中して聞いていた。
そしてミノルの発言がこれから彼と会うことは無くなるのだと言う事を感じ取った。
そして一同を集めたサトルが口を開く。
「みんなありがとう。理解できないことも多々あったと思う。でも君達は彼に少なからず影響を与えた。だから聞いて欲しかったんだ。そして、彼の帰りを喜んで欲しい。突然だから難しいかもしれないけれど、それでも今は僕を信じて祝福して欲しいんだ」
サトルの発言に対して反対は無かった。
無粋な質問も無かった。
ただそれを受け入れた。
「さぁここから先、僕達二人だけの世界に入るよ。その前に何か言いたいことはあるかな?」
サトルは一同に向かってそう言った。
一同の誰一人としてここから先の世界など知る由も無かった。
しかし、別れのときだということはハッキリとしていた。
最初に話し出したのはナオミだった。
「あの。ミノルさん。降って来た人はこの世界を良くするだなんて身勝手なことを言ってごめんなさい。その。なんて言ったら良いんでしょう・・・。私には分からないけれどこれからも頑張って下さい!」
彼女の声は勇気を振り絞って告白する女生徒のように思えた。
あるいは本当にそうだったのかもしれなかった。
ミノルはこれを受けて最初にナオミと出会ったときのことを思い出した。
女子高生と恋愛沙汰だなんてスキャンダルだな。なんて思っていたことを懐かしく感じていた。
それほどまでに濃密な2日間だった。
彼女の告白に対してミノルは答えたいと思った。
「ありがとう。ナオミさん。君はまだまだ若い。これからきっと良い事が沢山あるよ。だからこれからも大切に生きていて欲しいな。俺も頑張るから」
女性になれていないミノルの精一杯のメッセージだった。
そして、彼女にも本当の意味で生きるということをして欲しい。
そう言った意味が込められていた。
ナオミの隣に居る彼女の母はただ微笑むだけだった。
その微笑には親友二人の世界への理解があった。
次にケンが話し始めた。
「俺には良くわかんねーッスけど。二人の問題なんですよね。きっと。だったらもう俺がとやかく言えることは無いです!言えることはさっきのフミヤの事件の指揮。鮮やかでした!」
ケンらしく快活に言った。
ミノルは自分の警察官としての職務を全うできたのだと思い嬉しく思った。
職務上の嬉しさがこんな所にあるのだと感じた。
きっと元居た世界でも感じることはあるはずだ。
ケンの快活な別れの言葉でより一層”生”への希望がわいてきた。
そこへきてユタカが手を振っている。
その手には紙が握られていた。
また、何か書いてくれたのだろう。
そう思ってミノルは手に取った。
「私には皆が何を言っているのかよく分からない。でも、もう会えなくなるって事は分かった。サトルの親友で居てくれてありがとう :)」
彼女の文面からはミノルに会えなくなる事よりもサトルと親友で居てくれることに対する感謝が読み取れた。
今日始めてあったのだからそれも当然かとミノルはそう思った。
そして彼女がくれた紙の余白にこう書いた。
「サトルとはずっと親友だよ。これからも」
ユタカは可愛らしく笑顔になった。
ミノルは本当にサトルとは今までもこれからも親友だと思っていた。
そのことを正直に書いた。
それが彼女を笑顔にさせたのだと感じた。
そしてサトルが言葉を発する。
「うん。もういいかな。僕はこれからミノルを送ってくるよ。さぁ解散だ」
そう言うとナオミとその母は無言で自分の部屋へ戻っていった。
彼女達の足取りは少し重いように思えた。
ケンとユタカも帰っていった。
二人は特にこの状況が飲み込めていないだろうとミノルは思った。
しかし、それよりも今からサトルと何をするのかが気になった。
二人には後でサトルが詳細を教えるだろう。そう思っていた。
「僕達もまずは外にでようか」
サトルが提案した。
ミノルは頷き二人で外へ出た。
外は夜ながら晴れていた。
「どこへ行くんだ?どうやって元の世界に戻るんだ?それに確かに俺は死んだ。それを蘇らすだなんていったいどうやって?」
ミノルの疑問は尽きなかった。
「歩きながら話そうよ。まずは僕の家の方へ行こう」
サトルはまたいつもの諭すような笑顔でそう言った。
「ねぇここへ来てから堅苦しい話ばかりしたね。だから歩きながら元居た世界のときみたいにどうでもいいような話をしておこう」
またもサトルから提案した。
「そうだな。じゃあお前とユタカはどういう関係なんだ?」
ミノルは男同士の会話を楽しみたかった。
そして男同士のくだらない会話といえば女性関係だった。
ユタカはやはり、サトルの死後の人生を変えた人物でもある。
そしてわざわざミノルに紹介した。
そうなるとユタカとサトルは男女の仲にあるのではないかという疑問は当然、湧いてきていた。
「ふふっ 聞かれると思った」
サトルもこのくだらない男同士の会話に乗ってきた。
そして続けて答える。
「どうかな。僕は割りと彼女の事が好きなんだけれどね。彼女はどう思ってくれてるのか。あるいはなんとも思っていないのかもしれないしね」
サトルもミノルと同じく元居た世界では女性関係には疎い人物だった。
女性関係に疎い男二人が女性について話す。
くだらないと知りながらも二人はこの会話を楽しんだ。
「ユタカは君の死後の人生を変えてくれたんだろう?それにユタカだって手話を使ってくれるお前が居て助かってるんじゃないかなぁ」
「そうかな?そうだと嬉しいな」
こんな会話を繰り返しているうちに森の前にあるサトルの家の前へたどり着いた。
「なぜ僕がこんな森の入り口に家を構えたと思う?」
ミノルにはさっぱり分からなかった。
分からないという表情を浮かべているとサトルが続けて言葉を発した。
「この森だよ。君のために護っておいたんだ。いつか君がこの世界に来てしまうんじゃないか、そう思ってね」
二人はさらに森へと進んでいった。
二人の眼前に白く荘厳な雰囲気を漂わせている扉が見えた。
「これさ。これを護っていたんだよ。ずっと君のためにね」
ミノルはこの白く荘厳な扉に強く惹かれた。
それは彼の”生”への希望が生んだ感情だった。
白く荘厳な扉は”生”に繋がる。
ミノルはそう直感した。
「この扉に入れば元居た世界に戻れるのか」
その発言に対してサトルはゆっくりと頷いた。
その動作から彼もまた本心ではミノルと別れるのが辛いと思っているいうことを表していた。
「じゃあ。ここでさよならだ。でもファンタジーに溺れるのは必ずしも悪いことじゃない。時には休憩も必要だからね。その時は、僕の事を、僕らの事を思い出して欲しいな」
親友と別れる時、何をどう話したらいいのか二人には良く分からなかった。
「分かったよ。もう俺はファンタジーに耽溺しない。現実にも向き合う。自分で生きる。そうして疲れたときにはファンタジーを上手く使うよ」
ミノルはこれまでサトルに教わったことを思い出しながら言った。
二人の瞳は潤んでいた。
「じゃあ」
二人同時にそう言った。
ミノルは白い扉に手をかけた。
そうしてゆっくりと扉を開けた。
扉の先には階段が見えた。
その階段もまた白すぎるほどに白かった。
ミノルはゆっくりと階段を上っていく。
降って来たときのような不快感は無かった。
むしろ自分が”生”へと向かっているのだとはっきり感じさせた。
心地よかった。
階段を上っていくにつれ意識が遠のいていく。
そうして遂に完全に意識を失った。
山口巡査部長
そう呼ばれた気がした。
実はこの声に聞き覚えがあった。
部下の青森 豊だった。
あぁ話せるんだな。そう思った。
つまり、きっと今自分は、元居た世界に居るんだな。
ぼんやりそう思っていた。
山口巡査部長!
今度は男の声だった。
きっともう1人の部下、秋田 剣だと思った。
徐々に視界が開けていく。
目に入ったのはやはり二人の部下だった。
まず青森 豊に目をやった。
そして彼女の胸に目をやった。
すると彼女の胸は小振りだった。
あぁ本当に戻ってきたんだそう思っているところに青森が顔を赤らめているのが分かった。
「山口巡査部長!そんなにじろじろ見ないでください。恥ずかしくなります」
彼女は胸を見られていることに気がついていなかった。
顔を見られていると思っていたようだった。
死後の世界じゃあない。
青森は話せるし、聞こえている。
それに胸を見ても気がついていない。
戻って来た。
完全にそう思った。
次に秋田 剣に目を向けた。
彼は健気にも実の手を握っていた。
彼のこの行動から彼が秋田犬と呼ばれていたことを思い出す。
本当に犬みたいにいいやつだな。実はそう思った。
「ただいま。ここは病院かな?」
実は二人に問うた。
「そうです!巡査部長は2日間も寝ていたんですよ!本当に心配したんですから!」
青森はそう言った。
そうか。二日間、眠っていたんだ。
「本当に心配したんですよ!まさか撃たれるなんて!でも良かった。何とか生きているみたいですね!」
秋田 剣がそう言った。
心配そうな声色を使いながらも調子のよさは変わっていなかった。
実はゆっくりと上体を起こした。
「二人ともちょっと付き合って欲しいんだ。部屋の片づけをしたいんだ」
この発言に二人の部下は驚いた。
「えっ あの大量のラノベを処分しちゃうんですか?」
青森は驚きを通り越して心配の表情を浮かべていた。
「マジですか?あんなに熱を入れて集めてたのに!」
秋田も続けてそう言った。
二人の会話が微笑ましいなと実は思った。
そしてはっきりといった。
「いや、これから俺は生き始めるんだ。もうファンタジーには耽溺しない。それにすべてを処分するってわけじゃないんだ。ファンタジーに逃げるのも時には悪くないからな」
部下の二人は要領をつかめなかった。
しかし、実の表情は以前と比べて明るくなっていることが分かった。
「何かあったんですか?」
秋田がそう尋ねる。
「そうだな。ファンタジー。死後の世界。いや、幻かもしれない。ただ、親友が生きる方法を教えてくれたんだ。折角教わったんだから生きてみたいじゃないか」
この発言も要領を得なかった。
二人には何の事だかまるで理解できなかった。
実は病室の窓から外を見た。
雨は止み、雲ひとつなく晴れていた。
決してその場の雰囲気やサトルの熱弁に惑わされての発言ではなかった。
自ら内省し、熟考した上での決断だった。
一同の視線が集中した。
サトルとミノルにしか理解し得ない会話だったにも関わらず、一同は良く集中して聞いていた。
そしてミノルの発言がこれから彼と会うことは無くなるのだと言う事を感じ取った。
そして一同を集めたサトルが口を開く。
「みんなありがとう。理解できないことも多々あったと思う。でも君達は彼に少なからず影響を与えた。だから聞いて欲しかったんだ。そして、彼の帰りを喜んで欲しい。突然だから難しいかもしれないけれど、それでも今は僕を信じて祝福して欲しいんだ」
サトルの発言に対して反対は無かった。
無粋な質問も無かった。
ただそれを受け入れた。
「さぁここから先、僕達二人だけの世界に入るよ。その前に何か言いたいことはあるかな?」
サトルは一同に向かってそう言った。
一同の誰一人としてここから先の世界など知る由も無かった。
しかし、別れのときだということはハッキリとしていた。
最初に話し出したのはナオミだった。
「あの。ミノルさん。降って来た人はこの世界を良くするだなんて身勝手なことを言ってごめんなさい。その。なんて言ったら良いんでしょう・・・。私には分からないけれどこれからも頑張って下さい!」
彼女の声は勇気を振り絞って告白する女生徒のように思えた。
あるいは本当にそうだったのかもしれなかった。
ミノルはこれを受けて最初にナオミと出会ったときのことを思い出した。
女子高生と恋愛沙汰だなんてスキャンダルだな。なんて思っていたことを懐かしく感じていた。
それほどまでに濃密な2日間だった。
彼女の告白に対してミノルは答えたいと思った。
「ありがとう。ナオミさん。君はまだまだ若い。これからきっと良い事が沢山あるよ。だからこれからも大切に生きていて欲しいな。俺も頑張るから」
女性になれていないミノルの精一杯のメッセージだった。
そして、彼女にも本当の意味で生きるということをして欲しい。
そう言った意味が込められていた。
ナオミの隣に居る彼女の母はただ微笑むだけだった。
その微笑には親友二人の世界への理解があった。
次にケンが話し始めた。
「俺には良くわかんねーッスけど。二人の問題なんですよね。きっと。だったらもう俺がとやかく言えることは無いです!言えることはさっきのフミヤの事件の指揮。鮮やかでした!」
ケンらしく快活に言った。
ミノルは自分の警察官としての職務を全うできたのだと思い嬉しく思った。
職務上の嬉しさがこんな所にあるのだと感じた。
きっと元居た世界でも感じることはあるはずだ。
ケンの快活な別れの言葉でより一層”生”への希望がわいてきた。
そこへきてユタカが手を振っている。
その手には紙が握られていた。
また、何か書いてくれたのだろう。
そう思ってミノルは手に取った。
「私には皆が何を言っているのかよく分からない。でも、もう会えなくなるって事は分かった。サトルの親友で居てくれてありがとう :)」
彼女の文面からはミノルに会えなくなる事よりもサトルと親友で居てくれることに対する感謝が読み取れた。
今日始めてあったのだからそれも当然かとミノルはそう思った。
そして彼女がくれた紙の余白にこう書いた。
「サトルとはずっと親友だよ。これからも」
ユタカは可愛らしく笑顔になった。
ミノルは本当にサトルとは今までもこれからも親友だと思っていた。
そのことを正直に書いた。
それが彼女を笑顔にさせたのだと感じた。
そしてサトルが言葉を発する。
「うん。もういいかな。僕はこれからミノルを送ってくるよ。さぁ解散だ」
そう言うとナオミとその母は無言で自分の部屋へ戻っていった。
彼女達の足取りは少し重いように思えた。
ケンとユタカも帰っていった。
二人は特にこの状況が飲み込めていないだろうとミノルは思った。
しかし、それよりも今からサトルと何をするのかが気になった。
二人には後でサトルが詳細を教えるだろう。そう思っていた。
「僕達もまずは外にでようか」
サトルが提案した。
ミノルは頷き二人で外へ出た。
外は夜ながら晴れていた。
「どこへ行くんだ?どうやって元の世界に戻るんだ?それに確かに俺は死んだ。それを蘇らすだなんていったいどうやって?」
ミノルの疑問は尽きなかった。
「歩きながら話そうよ。まずは僕の家の方へ行こう」
サトルはまたいつもの諭すような笑顔でそう言った。
「ねぇここへ来てから堅苦しい話ばかりしたね。だから歩きながら元居た世界のときみたいにどうでもいいような話をしておこう」
またもサトルから提案した。
「そうだな。じゃあお前とユタカはどういう関係なんだ?」
ミノルは男同士の会話を楽しみたかった。
そして男同士のくだらない会話といえば女性関係だった。
ユタカはやはり、サトルの死後の人生を変えた人物でもある。
そしてわざわざミノルに紹介した。
そうなるとユタカとサトルは男女の仲にあるのではないかという疑問は当然、湧いてきていた。
「ふふっ 聞かれると思った」
サトルもこのくだらない男同士の会話に乗ってきた。
そして続けて答える。
「どうかな。僕は割りと彼女の事が好きなんだけれどね。彼女はどう思ってくれてるのか。あるいはなんとも思っていないのかもしれないしね」
サトルもミノルと同じく元居た世界では女性関係には疎い人物だった。
女性関係に疎い男二人が女性について話す。
くだらないと知りながらも二人はこの会話を楽しんだ。
「ユタカは君の死後の人生を変えてくれたんだろう?それにユタカだって手話を使ってくれるお前が居て助かってるんじゃないかなぁ」
「そうかな?そうだと嬉しいな」
こんな会話を繰り返しているうちに森の前にあるサトルの家の前へたどり着いた。
「なぜ僕がこんな森の入り口に家を構えたと思う?」
ミノルにはさっぱり分からなかった。
分からないという表情を浮かべているとサトルが続けて言葉を発した。
「この森だよ。君のために護っておいたんだ。いつか君がこの世界に来てしまうんじゃないか、そう思ってね」
二人はさらに森へと進んでいった。
二人の眼前に白く荘厳な雰囲気を漂わせている扉が見えた。
「これさ。これを護っていたんだよ。ずっと君のためにね」
ミノルはこの白く荘厳な扉に強く惹かれた。
それは彼の”生”への希望が生んだ感情だった。
白く荘厳な扉は”生”に繋がる。
ミノルはそう直感した。
「この扉に入れば元居た世界に戻れるのか」
その発言に対してサトルはゆっくりと頷いた。
その動作から彼もまた本心ではミノルと別れるのが辛いと思っているいうことを表していた。
「じゃあ。ここでさよならだ。でもファンタジーに溺れるのは必ずしも悪いことじゃない。時には休憩も必要だからね。その時は、僕の事を、僕らの事を思い出して欲しいな」
親友と別れる時、何をどう話したらいいのか二人には良く分からなかった。
「分かったよ。もう俺はファンタジーに耽溺しない。現実にも向き合う。自分で生きる。そうして疲れたときにはファンタジーを上手く使うよ」
ミノルはこれまでサトルに教わったことを思い出しながら言った。
二人の瞳は潤んでいた。
「じゃあ」
二人同時にそう言った。
ミノルは白い扉に手をかけた。
そうしてゆっくりと扉を開けた。
扉の先には階段が見えた。
その階段もまた白すぎるほどに白かった。
ミノルはゆっくりと階段を上っていく。
降って来たときのような不快感は無かった。
むしろ自分が”生”へと向かっているのだとはっきり感じさせた。
心地よかった。
階段を上っていくにつれ意識が遠のいていく。
そうして遂に完全に意識を失った。
山口巡査部長
そう呼ばれた気がした。
実はこの声に聞き覚えがあった。
部下の青森 豊だった。
あぁ話せるんだな。そう思った。
つまり、きっと今自分は、元居た世界に居るんだな。
ぼんやりそう思っていた。
山口巡査部長!
今度は男の声だった。
きっともう1人の部下、秋田 剣だと思った。
徐々に視界が開けていく。
目に入ったのはやはり二人の部下だった。
まず青森 豊に目をやった。
そして彼女の胸に目をやった。
すると彼女の胸は小振りだった。
あぁ本当に戻ってきたんだそう思っているところに青森が顔を赤らめているのが分かった。
「山口巡査部長!そんなにじろじろ見ないでください。恥ずかしくなります」
彼女は胸を見られていることに気がついていなかった。
顔を見られていると思っていたようだった。
死後の世界じゃあない。
青森は話せるし、聞こえている。
それに胸を見ても気がついていない。
戻って来た。
完全にそう思った。
次に秋田 剣に目を向けた。
彼は健気にも実の手を握っていた。
彼のこの行動から彼が秋田犬と呼ばれていたことを思い出す。
本当に犬みたいにいいやつだな。実はそう思った。
「ただいま。ここは病院かな?」
実は二人に問うた。
「そうです!巡査部長は2日間も寝ていたんですよ!本当に心配したんですから!」
青森はそう言った。
そうか。二日間、眠っていたんだ。
「本当に心配したんですよ!まさか撃たれるなんて!でも良かった。何とか生きているみたいですね!」
秋田 剣がそう言った。
心配そうな声色を使いながらも調子のよさは変わっていなかった。
実はゆっくりと上体を起こした。
「二人ともちょっと付き合って欲しいんだ。部屋の片づけをしたいんだ」
この発言に二人の部下は驚いた。
「えっ あの大量のラノベを処分しちゃうんですか?」
青森は驚きを通り越して心配の表情を浮かべていた。
「マジですか?あんなに熱を入れて集めてたのに!」
秋田も続けてそう言った。
二人の会話が微笑ましいなと実は思った。
そしてはっきりといった。
「いや、これから俺は生き始めるんだ。もうファンタジーには耽溺しない。それにすべてを処分するってわけじゃないんだ。ファンタジーに逃げるのも時には悪くないからな」
部下の二人は要領をつかめなかった。
しかし、実の表情は以前と比べて明るくなっていることが分かった。
「何かあったんですか?」
秋田がそう尋ねる。
「そうだな。ファンタジー。死後の世界。いや、幻かもしれない。ただ、親友が生きる方法を教えてくれたんだ。折角教わったんだから生きてみたいじゃないか」
この発言も要領を得なかった。
二人には何の事だかまるで理解できなかった。
実は病室の窓から外を見た。
雨は止み、雲ひとつなく晴れていた。
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「黒曜術師と銀の糸操世界」を書いてる赤トです!Twitterから参りました!
心理描写が複雑なことと、ミステリー風味が強いところが、すごく自分好みで、一話から一気に読みきってしまいました!
ネタバレコメントは控えたいので、詳しくは言いませんが、言葉選びが綺麗でセンスがあるなぁ、と感心しました!
雨は止み、雲ひとつなく晴れていた。
っていう最後の言葉も情景がイメージできて、素敵です!本作は完結されたようですが、別作品の方も頑張ってください!また御縁があれば、読みに参ります!
そう言っていただけるとありがたいです!まだまだエンタメ性の至らなさや更生の拙さなどさまざまありますががんばっていきたいと思います。
なにかこう……主張があるのかと思うのですが非常に分かりにくいですね。
シリアスなのはわかるのですが、トリック系のようにみえてそうでもないし。
ハーレム、チート、魔法なし!が変わっているのではなく
ハーレム、チート、魔法なし!が当たり前の世界から来た人だと
特段大きな声で主張する事でもないような気がします。
まずはご感想ありがとうございます!確かにそのとおりだと思います。しかし、現状、ファンタジー作品と銘打っている作品のほとんどが異世界転生もの、そして、魔法、ハーレム、チート、最近はざまぁ系とでも言うのでしょうか。これらが多く見受けられるように感じたので私の作品はそうではない!と大声で言ってしまったのですね。またそれは宣伝文句でもあります。興味を持っていただくためです。
そしてあえて聞きたいのですが、私の主張はどのようなものだと思いますでしょうか?もちろん返信は任意です。
改めまして、ご感想ありがとうございました。
死というテーマが序盤からしっかりと伝わってきました。
ファンタジーなのに、とても現実性を感じて面白いと思います。
執筆頑張ってください!
感想ありがとうございます!その言葉が励みになります! ファンタジーなのに現実。 現実なのにファンタジーに耽溺する主人公。 これから先、対比が始まるでしょう。ぜひ!お楽しみに。