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第30章 ゆうくんの存在感
しおりを挟む我が家、神戸での暮らしは、僕にとってすっかり当たり前の、そして何よりも安心できる日常になった。朝、ケージの中で目を覚まし、ききさんが持ってきてくれる美味しいごはんを食べる。午前中はケージの中でゆったりと過ごし、午後は部屋んぽでリビングを探検する。夕方、家族みんなが揃ってからまたごはんを食べ、夜はケージの中で静かに眠る。この繰り返されるルーティンは、僕のぴょん生に確かな土台を与えてくれる。
リビングは、僕の部屋んぽの主な舞台だ。広くて、たくさんの家具があって、色々な匂いがする。そして何より、家族の気配が一番濃く漂っている場所だ。ききさんがローテーブルのそばで何か作業をしていたり、ともくんとさのちゃんが絨毯の上で遊んでいたり。彼らの声や、物の音、動き。それらは僕の心を賑やかにしてくれる。
そんな賑やかなリビングの中で、ひときわ大きな存在感を放っているのに、あまり声を出したり、積極的に僕に働きかけてきたりしない人がいる。それが、ゆうくんだ。
ゆうくんは、リビングにいる時、あの大きなソファに座って、紙のようなもの…「新聞」や「本」というらしい…を広げていることが多い。新聞をめくるカサカサという小さな音や、本を持つ手のわずかな動き。それらが、ゆうくんがそこにいるという合図だ。
ゆうくんの気配は、他の家族とは少し違う。ききさんの気配は温かくて優しくて、僕に常に気を配ってくれているような、少しせわしない気配だ。ともくんの気配は元気いっぱいで、少し騒がしいけれど、今は落ち着きも加わってきている気配。さのちゃんの気配は甘くて柔らかくて、無邪気な愛情に満ちている気配。それに対して、ゆうくんの気配は、大きくて、どっしりとしていて、そして何よりも「穏やか」だ。まるで、リビングという森の中に生えている、大きな木みたいな存在感だ。
僕は部屋んぽ中、リビングのあちこちを探検するけれど、気づくと、自然とゆうくんのそばに行っていることが多い。特に、ゆうくんがソファに座って静かに本を読んでいる時。ソファの近くに行くと、ゆうくんの匂いが強く感じられる。それは、彼の大きな体から漂う、穏やかで、安心できる匂いだ。
僕はゆうくんが座っているソファの足元に、そっと体を寄せて座る。ゆうくんの足の近くの絨毯の上に、丸くなるのだ。ゆうくんは、僕がそばに来たのに気づいているだろうけれど、すぐに僕に声をかけたりはしない。ただ、僕がそこにいるのを、知っている、という気配だけが伝わってくる。
ゆうくんのすぐそばにいると、不思議と心が落ち着く。周りの賑やかな音や、僕を刺激する色々な匂いも、ゆうくんの大きな、穏やかな気配の中に包み込まれて、遠く感じられるようになる。まるで、大きな木の根元に隠れているみたいだ。
ゆうくんは、本を読んでいる手を止めずに、時々僕の方を見下ろす。僕がそこで丸くなっているのを見ると、顔をほころばせ、あの低い、穏やかな声で「くろのすけ」と小さく僕の名前を呼ぶ。そして、本を持っていたのとは逆の手を、ゆっくりと、僕の頭の上に伸ばしてくる。
その手は、大きくて、少し硬いかもしれないけれど、僕を驚かせないように、とてもゆっくりと動く。そして、僕の黒い毛並みを、優しく、じっくりと撫でてくれるのだ。指先が、僕の背中を、頭を、そっと撫でる。その感触は、ききさんの手とも、ともくんやさのちゃんの小さな手とも違う。ゆうくんの手のひら全体から伝わる、じんわりとした温かさだ。
ゆうくんが僕を撫でている間、僕は目を閉じて、その手に全身を預ける。体がじんわりと温かくなって、力が抜けていくのを感じる。心臓の鼓動がゆっくりになる。鼻のピクピクも止まって、穏やかな呼吸になる。これ以上ない安心感だ。まるで、ゆうくんの大きな胸元に抱かれているみたいに。
ゆうくんは、僕が気持ちよさそうにしているのを見て、嬉しそうに微笑む。「お、くろのすけ。気持ち良いか?」と、小さく呟く声が聞こえる。僕はゆうくんの手のひらに顔を擦り寄せたり、頭を押し付けたりして応える。気持ち良いよ!ゆうくんの手、大好きだよ!
しばらく僕を撫でてくれた後、ゆうくんはゆっくりと手を引っ込める。そして、また静かに本を読み始める。僕は、ゆうくんの足元で、そのまま丸くなったまま、ウトウトと眠りにつく。
ゆうくんがそばにいると、本当に安心して眠れるんだ。彼の穏やかな気配と、あの安心できる匂いが、僕を優しく包み込んでくれる。シャーペンのカリカリという音とは違う、紙をめくるカサカサという音や、静かな呼吸音。それらが、僕にとって最高の寝かしつけの音になる。
ゆうくんは、あまり僕にごはんをくれたり(ききさんが主に担当)、部屋んぽで一緒に遊んだり(ともくんとさのちゃんが主に担当)しない。僕のいたずらを厳しく叱ることも少ない(ききさんが多い)。僕を抱っこするのも、ききさんほど頻繁ではない。でも、リビングにゆうくんがいるだけで、僕の心は揺るぎない安心感に満たされる。
それは、ゆうくんがこの家の「大黒柱」のような存在だからかもしれない。他の家族を優しく見守り、この家全体を支えている。その大きな、穏やかな存在が、僕という小さなうさぎにも伝わってくるのだ。ゆうくんがリビングのソファに座ってくつろいでいる。その姿を見たり、気配を感じたりするだけで、僕は「大丈夫だ。ここは安全な場所だ」と確信できる。
僕がゆうくんのそばで眠っている時、ゆうくんは本を読む手を止め、そっと僕の寝顔を見ていることがある。その視線を感じるけれど、怖いとは全く思わない。ただ、温かくて、僕を大切に思ってくれている視線だ。
ゆうくんのそばで眠りにつく。それが、僕の「ぴょん生」の中で、最も穏やかで、満たされた時間の一つだ。彼の大きな、安心できる気配に包まれて、僕は安心して眠れる。
今日も、部屋んぽの時間、僕は自然とゆうくんが座っているソファのそばに来ていた。ゆうくんは静かに本を読んでいる。僕は彼の足元に、そっと体を寄せて丸くなる。ゆうくんの匂い。安心する匂い。本をめくるカサカサという音。
ゆうくんは僕が来たのに気づいたらしい。本から顔を上げ、僕を見下ろす。そして、いつものように、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「くろのすけ」
その声を聞きながら、僕は心地よい眠気に誘われた。体が温かくなり、意識が遠のいていく。
ゆうくんの存在感。それは、言葉や行動よりも、もっと深く、僕の心に染み渡る安心感だ。それは、僕のぴょん生を支える、大きな柱のようなもの。
僕は、ゆうくんのそばで、安心して目を閉じた。夢の中でも、きっとゆうくんの穏やかな気配と、優しい手の温もりを感じているだろう。
温かい、大きな安心感の中で、僕は深く眠りについた。
ゆうくん、ありがとう。
僕のぴょん生に、揺るぎない安心感をくれて。
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