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第二章 まさかのんびり生活からの……地獄!?

え、バトル描写なんて想像しておいてください

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 父さんVS魔族

 これな中々に見物だと思った。

 暗殺部隊の隊長を任されている強そうな魔族に、雷王神という異名を持つ父さん。

 戦いは……一瞬にして終わった。

「がはっ……まさか、ここまでとは」

「はぁ、はぁ……戦いから少し身を引いたとしても、俺を舐めすぎだ」

 息切れを起こしながらも、この五分間のタイマンの勝利は……父さんだった。

 俺は、父さんの強さを少し見誤っていた。

 あのデカい大剣を高速で叩きつけなり振り回したり。

 魔族の方も攻撃を仕掛けていたが、雷魔法による高速移動なさがらの速さで躱され、どんどんと追い詰められていた。

 最終的に、隙を見せた魔族に大剣を振りかざし、横を真っ二つにして戦闘は終わった。

 普通の人ならまずは追いつけないであろうスピード。

 軽く地面を抉り取るパワー。

 そして、即座に周りの情報を理解する判断能力。

 雷のように素早く、そして重い一撃を何度も打てるその強さ。

「……すげぇ」

 思わず声が出る。

 チート能力を持っている俺でも、こうやって身をこなして戦えることはできるが。

 戦闘におけるのは強さもあるが、テクニックとセンスもある。

 テクニックもセンスも無ければ、あんな父さんのような動きはできない。

 戦闘もろくにできない日本人が、もしチート能力を貰わなくても自然界で生存できる可能性は大いに低い。

「そうでしょ、あの人はね……唯一私を惚れさせた男だもの」

 母さんは、嬉しそうに言う。

 惚れさせた男って……戦って勝ったから惚れたみたいなことは言わないでほしい。

 ……可能性があるそうだけど。

「父さま、少しだけ消えた!」

「そうだね、消えちゃったね」

 あれ、ユリみたいな可愛い天使が、こんな光景を見て何も思わないのか?

 あれ、おかしいな、普通なら泣くはずなんだが。

「ユリ、怖くないの?」

「ん~、怖かったけど……父さま、カッコよかったから怖くない!」

 あらやだなにこの子さすがは俺のマイエンジェル。

 俺はその可愛さにやられ、ユリを撫でる。

「やっぱ、ユリは可愛いな~」

「えへへ、兄さまの方が可愛いよ~」

 おやおやユリ、それはちっちゃいから可愛いということを言っているのですかいな?

 さすがの俺でも、それは許したくはないぞ~?

 ……と、俺はユリとじゃれ合いながらも、父さんと魔族の会話を聞く。

「お前さん、なんの為に……?」

「はは、ここで……口を割ると?」

 真っ二つになってよ、まだ生きていることに俺は驚きだ。

「だいたい理由は察する……また始める気か」

「……何のことで?」

「とぼけんじゃねぇよ……あの永遠に続くと思っていた数千年前の……大戦だ」

 千年前の……大戦。

「新たな魔王の命令か?」

「……ハッ!」

 魔族は嘲笑うかのように言う。

「あんな平和ボケした者を、魔王など……私は認めませんよ」

「平和ボケ……?」

「これは私の独断による行動です……五大貴族をまず潰し、秘宝と呼ばれた宝玉を回収したかったのですが……」

「ここまで、のようだな」

「で、すかね……」

 さすがに限界なのか、魔族の声はどんどんと小さくなっていき、やがて……

「あぁ……最後に……世界の終焉を……見たかった……なぁ」

 手を天に伸ばし、そのまま力尽きた。

 最後の言葉……世界の終焉だったか。

 後は、千年前の大戦か。

 俺でも聞いたことがないな。

 後で本でも漁って調べてみようかな。

「みんな、無事か!」

「あぁ、大丈夫だよ、父さん」

 父さんは武器を投げ捨て、俺たちの方へと駆け寄る。

 まず、俺に傷をつけたらあの魔族は消し炭になっているからね。

「そうか、いや、いきなりですまないな。本当に唐突に気づいたからな」

「気配察知を鍛えてなかったら、まず気づけてませんでしたね」

「あぁ」

 父さんたちはそう言うと、少し笑い合っている。

「……あぁ、それで」

「ユトの属性審査ですよ」

 すると、父さんが思い出したかのように言う。

 あ、そういや、まだ属性は測ってなかったか。

 俺でも、まだ雷だけしか知らない。

 魔法に関しては、まだ一度も使ったことがないからな。

「水晶玉は……割れてはないな。ほれ」

 父さんはヒビが入っていないかを確認して、俺の前へと水晶玉を置く。

 確か、血を垂らすんだっけ。

「……いて」

 指を少しだけ噛み、血を水晶玉に垂らす。

 すると、水晶玉は次々に色を出していく。

「……全部だと?」
 
 父さんだろうか、目を点にしながら、こちらを見ていた。

「あ、見て……文字がどんどん……」

 母さんもさすがに驚いている。

「?」

 さすがにユリは分からないらしい。

 首を傾げてるユリも、かわゆい!

「父さん、これは……」

 結果。

 全属性、全特殊属性が使えることが判明。

 ……爺さん、流石にこれはやりすぎだ。

「ユ、ユユユ、ユト……お前は、勇者か?」

「あ、あな、あな、貴方、まずは落ち着いてお水を……」

 父さんは目を回して混乱しながら、俺にそう訪ねてくる。

 あんた自分の子供に何聞いとんねん。

 母さん、母さんが持ってるのは水じゃなくてスプーンだ。

 だが、幸いにもここには使用人達は去った後。

 執事のセバスも仕事に戻った。

「兄さま、母様と父様がおかしい~」

 そんな中、ユリは俺にそう言いながら抱きついてくる。

「父さん、母さん……いい加減落ち着いてください」

 俺がため息混じりにそう言う。

 だが、二人の反応は珍しく一致して……

「「これを見て落ち着いていられる親はいない!」」

 目をカッと見開いて、両親はそう言う。

 いや、そんな大声で言われても……

 ふと、抱きついていたユリを見る。

「ひぐっ……怖いよぉ」

 泣いていた。しかも静かにだ。

 大粒の涙を流し、父母の興奮している姿を見て、恐怖を感じたのだろう。

 だが、俺に親を……屠る理由ができた。

 俺はユリの頭を撫でる。

「ユリ、そんなに泣かないの……ほら」

 俺は微笑みながら、ユリの頬にキスをする。

「ふぇ……?」

「ほら、泣き止んで……目を瞑っとこうね」

 俺は笑顔で優しくユリの目を瞑らせ、一応創造魔法で創った耳栓を付ける。

「え、これ……」

 ユリが動揺している隙に、俺はブツブツと言っている二人の間に立つ。

 この二人は……娘でありながら、俺のマイエンジェルを泣かせてしまった。

 それは、俺のブチ切れメーターも限界突破をするのに相当な理由となる。

「ねぇ……二人とも」

「でも、ここはまだ成長するまで黙っておいた方が……」

「だが、それだと見つかった時になぜ黙っていたのかを聞かれたらどうするのだ!」

「その時はその時よ!」

「だから、そのその時に言う理由を考えなければならんだろう!」

「だから、見つかなければ……」

「おい」

「「っ……え?」」

 俺は、返事もしてくれない鹿に、ドスの効いた声で呼びかける。

「二人とも……何故、僕が怒ってるのか分かる?」

「え、怒って……ゆ、ユト?」

「ど、どうしたんだ……ユト、後ろに般若が……!」

 俺は満面の真っ黒い笑みを浮かべながら、手首をボキボキ動かす。

 まだ五歳の体ということもあるのか、中々骨が鳴る。

「ほら、今は……二人のことをお人形さんと思うね」

「お、お人形……さん?」

「あ、ぁぁぁ……これはいかん!」

 母さんは少し困惑して理解できなかった。

 だが、父さんはその意味を大いに理解したのか、顔を青ざめながら逃げようとする。

「……逃げちゃダメだよ」

 そこからは、もう……二人の姿は……
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